ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件― 作:哀原正十
それから数日後。
「闇蔵アキラ。私との模擬戦を所望しますわ」
「……」
そんな気はしてたよ。
結局応じた。神崎焔が引かない性格の持ち主であることは知っていたので、変に問答を長引かせるよりもスパッと戦って終わらせることを選んだのだ。
「では行きましょうか。特別模擬戦闘訓練室に」
「はいはい……」
特別模擬戦闘訓練室とはその名の通り特別な模擬戦闘訓練室だ。通常より頑丈だぞ。
「さぁ、早速やり合いましょうか」
「さいですね」
僕と神崎焔は向かい合っていた。神崎焔が詠唱する。
「武装覚醒――
神崎焔の右手に燃えるような意匠の特徴的な扇が現れる。神崎焔のメインウェポンだ。神崎焔がふふんと笑う。
「さぁ、そちらも」
「はいはい。出でよ。武装覚醒――虚無の剣」
僕の手に闇色の剣が現れる。僕のメインウェポンだ。こいつを召喚しないことには始まらない。と言っても一撃必殺の虚無に誘う攻撃は使えないからシンプルに魔法媒体兼武器としての召喚だが。早速戦いが開始する。
「まずは小手調べから。邪焔遮扇よ。炎を産み出せ。ブレイジング・ウェポン!」
神崎焔が扇を振るうと夥しい炎の群れが現れ僕へと殺到する。通常の魔術士ならそれだけで詰みそうな魔法の質と量。僕は闇の剣を前方に向けて振り払いながら言った。
「打ち消せ」
虚無の波動が吹き抜け、炎の群れを纏めて掻き消した。神崎焔が「なっ!」と驚く。
「なっ! 何をしましたの!?」
「あなたの魔法をなかったことにした。それだけの話です」
「虚無の魔法。聞いてた通り、いえ、それ以上のチートですわね。では、更に火力を上げていきますわ。魔力覚醒――ブレイジング・オーラ!」
神崎焔の体が赤いオーラに覆われる。僕も負けじと展開する。
「魔力覚醒――ボイド・オーラ」
僕の体が虚無のオーラに覆われる。神崎焔が面白そうに笑いながら扇を振るう。
「さぁ、これはどうでしょうか! ガン・ブレイズ・ウエスト!」
神崎焔の後方に魔法の銃が現れ、さっきより密度高い炎の魔力弾が群れをなして僕に襲いくる。僕はそれに抵抗しない。
ドォオオオオオン!
次々と僕に炎の弾丸が着弾する。果たして、僕の体には一発たりとも魔力弾が届くことはなく、魔力のオーラに阻まれた。神崎焔が驚く。
「魔力のオーラだけでこの攻撃を防ぎ切りますの!?」
「虚無へと還元する魔力のオーラで攻撃を無に返しました。そう簡単には突破できませんよ」
「……ならば、魔境――」
「付き合ってあげてもいいですけど」
僕は神崎焔に忠告した。
「さっきと同じことを起こすだけですよ。全力で来てくださいよ」
「全力?」
「はい。神淵覚醒ですよ。どれほどのものか……僕は見てみたい」
「……いいでしょう。そこまでやる気はありませんでしたが、ここまでされては仕方ない。お見せしましょう。やれやれ。こちらの生徒会長さまに続いて神淵覚醒を切らされるなんて、ヴァルハラ学園の将来は有望ですわね。いきますわよ」
神崎焔が表情を変える。常の自信ありげな表情を引っ込め、静謐で、真剣な表情。それだけ、制御に気を遣わなければいけない魔法なのだろう。
「いきますわよ。神淵覚醒――」
神崎焔の全身から神聖な色の炎が噴き上がる。そして神崎焔は詠唱した。
「ゴッド・ブレイズ・マナ」
……僕は焼き尽くされていく虚無の魔力をただただ見ていた。最大限抵抗はした。しかし、その抵抗も虚しく、全ての攻撃が燃やし尽くされ無力化された。反則だと思った。虚無と言う概念ごと燃やし尽くす魔法だなんて。どうやって抵抗すればいいというのだろうか?
それこそ魔人ガルティアのように魔法を魔力で打ち消すような魔法を使えば抵抗できるのかもしれないけど、僕の模倣技では神崎焔の炎に燃やし尽くされるだけだった。本当に、反則染みた魔法だった。
魔法の頂。その一片に触れられたことは僕にとって非常に有益なことだった。目指すべき頂の高さ、それを意識できたことは大きな収穫だった。だから僕は地面に五体を投げ出した姿勢のまま、神崎焔に礼を言った。
「……ありがとうございました」
「それはこちらの台詞ですわ。全力を出してくれて、また全力を出させてくれてありがとうございました」
神崎焔が優雅に一礼をする。元がお嬢様なだけあり、この炎熱姫さまは押しは強けれど基本礼儀正しい。その礼節に小気味いいものを感じながら僕は身を起こした。
「いや、僕も強いつもりだったけど世の中上には上がいるものだな。勉強になりました」
「あら。1年でそれだけやれれば十分ですわ。15~20歳の成長期の魔術師なら私の年齢に達する頃には私を当然の如く超えていますわ。十分誇っていいですわよ」
「いやぁ」
20歳になる頃に越えてたら遅いんだよなぁ、とは口にしない。魔王が完全復活を遂げるまでに僕も、キョウくんも神淵覚醒に至らなければ、やはり抵抗は難しいかもしれない。もちろん魔法には相性もあるから、現段階でもワンチャンあるかもしれないけど、この世界はそれほど甘い世界ではない。やはり魔法の頂を目指さなければ魔王打倒には及ばないと考えるべきだろう。
本当、きつい状況だよ。どうやってそこまで強くなればいいのやら。
「先輩はどうやってそこまで強くなったんですか?」
気づけば僕はそう尋ねていた。純粋に気になったからだ。果たして神崎焔は難しそうな顔をして答えた。
「……おぞましい程の仲間の危機。そして手遅れな事態。それに何度も晒されて、ひたすら強さを求めて、気づいたらこの頂にまで駆け上がっていました。できれば……真似して欲しくはない道程ですわね」
「……なる、ほど」
鬱展開を重ねてそれを乗り越えて強くなったということらしい。僕は当然そんな鬱展開を許容する気はない。だが、もしその道が強さに繋がらなかったとしたら。
その時は僕はどうすべきなのだろう。
「……道は一つではありませんわ」
神崎焔はそんな僕の躊躇いを否定するように言った。
「私みたいな道を辿らなくても強くなる道はある。私はそう信じていますわ」
「……なる、ほど」
地獄のような経験を経て尚、そう言い切れる。それはどれだけの精神力だろうか。完敗だ。僕は実力だけじゃなく心の強さでもこの人に負けている。だが、不思議と悔しさはない。むしろ清々した、清々しい気持ちで一杯だった。
「……改めて、僕と戦っていただいてありがとうございます」
「あら、私から申し込んだ戦いですわ。それはこっちの台詞です」
「そうでしたね……予期せずして得るもののあった戦いでした。僕は僕の道を貫いて強くなります」
「よろしい。それで、よいのですよ」
神崎焔。この清々しい性格の女性を僕は気づけばすっかり好きになっていた。もちろん友愛的な意味でだ。戦えてよかった。心底そう思った。
「僕は必ず神淵覚醒に辿り着きます。全てが手遅れになる前に」
「……? まぁ、早いに越したことはありませんね。魔王が復活しているようですし、いつ完全体とぶつかるか分かりませんものね……その前に魔王の居城に進行してぶっちめたい所ですわね。実は今人類側でもその作戦を協議中ですの」
「そう、ですね。……それが最善だと思います」
その作戦は失敗する。七賢魔随一のトリックスター。あの忌々しき魔人の手によって。深淵覚醒に至った、至ったからこそやられた、神崎焔を含めた2人の魔術師の犠牲を伴って。
僕はその犠牲も当然許容しない。あの魔人も倒すつもりだ。だが……現在有効打が思いついていない。
だって、どうやって対抗しろというんだあんなもの。ものまねの魔人ジークフリート。あいつに対抗するには、
(自分自身に打ち勝つしかない。原作のキョウくんんみたいに。とにかく)
僕は一つ息をついて、気持ちを新たにして虚空に手を伸ばし、そして握り込んだ。
「もっと強くならないと。魔術士としても、一人の人間としても、だ」