ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件― 作:哀原正十
「……マジかよ」
「こういうケースもありうると言われていましたが自分たちが当事者になるとは思いもしませんでしたね……」
「フシュルルルルル……!」
……光津キョウと黒桃煉は魔人と相対していた。A級魔人。パワーゴリラの魔人ダース・ドミネイター。パワー溢れる巨体が特徴の正統派の戦い方をするゴリラの魔人だ。光津キョウの額に汗が流れる。
「僕たちでやるしかない。今この場、一番強いのは僕たちだ」
「そのようですね。4マンセルの2人も援護射撃頼みますよ」
「あ、ああ」
「任せろよ。2人だけで戦わせはしねぇ」
激闘が始まる。パワーゴリラが雄叫びを上げて突進する。光津キョウは光の剣を、黒桃煉は闇の剣を構える。そして同時に駆け出した。
「A級魔人が向こうに現れたらしいぞ! 神崎焔代表がいる方向と逆方向だ!」
「あの1年の魔術士がいる方向だ! 2人で持ちこたえているらしいぞ!」
来た。
僕は内心冷や汗をダラダラ流していた。助けに行きたい。だが、それはできない。ここは原作通り2人に任せるべきだし、僕がここを離れたら4マンセルの残り3人の負担が増える。だから、駆けつける訳にはいかないのだ。例え内心どんなに冷や汗をダラダラ流していても。
ダラダラ状態だったとしても。
「なにしてるのよアキラ!」
そんな僕にキサラちゃんが喝を入れるように言う。
「早くあの2人を助けにいきなさいよ! 助けに行きたいって顔に書いてあるわよ!」
「え? で、でも、今この場を離れたらここのみんなに危機が」
「あんたそんなこと考えるキャラじゃなかったでしょ! 急にどうしたのよ」
何気にショックな思われようだった。失礼な。一緒に組んだ相手を慮る気持ちくらいはある。なおもグズる僕にキサラちゃんは更に。
「あなたね」
言う。
「そんな風に本音に蓋をして生きてたらいつか必ず後悔するわよ。今この気持ちに従いなさい!」
「!」
……そうだ。僕は僕の生きる世界で鬱展開なんて真っ平ごめんだ。その可能性がある展開は可能な限り排除しようと神崎焔との戦いで改めて胸に誓ったばかりだ。その僕がこんなピンチを見逃すなんて、例え原作通り上手く行くなら大丈夫だったとしてもそんなことできはしない。
例え原作通り上手く行くなら大丈夫だとしても。
この世界は既に原作から大幅にズレてしまっている。
「分かった。いくよ。ありがとキサラちゃん。あと残りの2人もごめん」
「いいってことよ! 早く行ってこい」
「あーしらも少しは頼りにしていいって所見せてあげる」
「……うん。ありがと。2人とも、行ってくるよ」
そして僕は駆ける。2人が戦っているはずの戦場へと!
「1年の2人がパワーゴリラの魔人ダース・デビルを倒したぞー!」
「大金星だー!」
……そして思いっきし肩透かしを食らった。僕の目の前には光のオーラに身を包んだ……魔力覚醒に目覚めたキョウくん。そしてもう一人。
「……何で君も覚醒してんの」
「えっ。何ですかその言われよう。僕たち死に物狂いで戦ったんですけど」
同じく何故か闇色のオーラに身を纏い魔力覚醒を果たした黒桃煉の姿だった。おかしいな。君の覚醒はもう少し後のはず。うーん、うーん……。
「……まぁ、何にせよ無事でよかった。安心したよ」
「ああ。俺も新たな力に目覚めたし黒桃煉も凄かったんだ。こいつの本気を見せてやりたいよ」
「いえ、やはりキョウ君の奮闘あっての勝利でした。あの新たに得た力で放った一撃の威力といったら」
「いやいや、二人の勝利だよ。うんうん。無事でよかった」
無事でよかった。無事でよかったんだ。
……なのに、何だろこの肩透かし感は。結局僕何もしなくてよかったんじゃん。キサラちゃんに焚きつけられてここに来たけど完全に骨折り損じゃん。
「……無事でよかった!」
まぁ何にせよ上手く行ったならそれでよし。こういうこともある!
「おっと。こんなことしてる場合じゃない。持ち場に戻らないと。キサラちゃんたち大丈夫かな。じゃあ、2人とも。僕は行くよ」
「あ、ああ」
「なんか。肩透かし喰らって調子狂ってる感じですね」
その通りだよ。僕は駆け足でキサラちゃんたちの元まで戻った。
「あ、アキラ! 良かった! 早く敵を掃討して! 他の上級生たちがアキラがいる前提で戦力配分したからこっち今ギリギリなの」
「頑張ったのだが……」
「あーしらじゃやっぱ駄目でした!」
「……締まらないなぁ」
僕は範囲攻撃で視界の範囲に移る魔物たちを殲滅した。とても感謝された。僕は改めて思った。
「……締まらないなぁ」
まぁ、終わりよければ全てよしってことで。うん。
うん。