ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件。せっかくなので鬱フラグをへし折って殺されるはずだった女の子たちを助けます― 作:哀原正十
「ふぅん! ビームライフル!」
本郷タケシがビームライフルでデカい蟻のような昆虫型魔物を撃ち抜く。そして、
「うっわ、キモ。ビームスプレッド」
夢川アユムが広範囲に放射するビーム・スプレッドで蜂型の魔物の群れを屠る。戦いは順調だった。
「やっぱり遠距離武器は強いよなぁ」
「その分威力に限度がね。強力な個体程魔力がまといやすい近距離武器の方が有効だわ」
「なるほどなぁ」
そんな会話を交わしながら戦いを繰り返していく。
ある時、遠くの戦場で悲鳴が上がった。
その悲鳴はどんどん近づいていく。
程なくして、悲鳴の原因が判明した。
そいつはこちらに近づいてきていた。
「魔人……」
「おおっほう。俺様好みの美人はっけ~ん。剥いて犯しちゃうから覚悟しとけ?」
「っ!」
そいつは他の魔物とは明らかに異質だった。人の顔と体を持ち、しかしその全長は5メートル近くあり、全身真っ黒で、黒い円盤のような大翼を持ち、醜悪な表情でこちらを見下ろしていた。
本郷タケシが即座に反応する。
「うおおお! ビームライフル!」
パキュン。軽い音が魔人の表皮を撫でた。無傷。アユムのビームスプレッドも同様。強力な魔力によって覆われた体は桁違いの防御力を誇る。その魔人がキサラに腕を伸ばす。
「! プラズマ・グラヴィティ!」
「お、おおう?」
ビリビリビリ!
紫電が魔人の表皮を走り痺れさす。魔人が僅かによろめく。が、それだけ。ポリポリと頬を掻きながら腕を再度伸ばす。
「いっでぇなぁ。可愛いバラには棘があるってかあ。お、今俺上手いこと言った? 言っちゃった? 言ったよなぁ。言ったって言えよ。でないとお前、八つ裂きにして死刑な」
「ッ!」
「冗談冗談。君みたいな可愛い子はたっぷり可愛がって殺してあげるよ。八つ裂きになんてしないから安心してっ」
「あっ、あっ……」
キサラの警棒を持つ手が震える。魔人の薄気味悪い言動と自らの攻撃が通じないという絶望によって。これから何が起こるのか、猿でも分かる。そして俺はこの魔人の名前すら知っている。
魔人コークピッチ。
物語の最初に登場し、吉祥院キサラを犯し殺し、光津キョウに異世界の厳しさを叩き込む役目を帯びた魔人だ。光津キョウの命を懸けた突進を軽くあしらい殺しかけるものも、最後はその場に駆け付けた生徒会長によってあっさり処断される。物語冒頭に登場するだけの魔人でありながらそのインパクトは絶大であり、数ある魔人の中でもその印象は鮮烈だ。
この後コークピッチはキサラを犯し殺すのだろう。それが正史であり、順当なハッピーエンドを目指すならば光津キョウの成長のために放置しておくのが最善なのだろう。
そんな最善糞喰らえだと思う。
だから僕は行動に移した。
「おい」
「ん? なんだオスガキ。可愛い顔しやがって。おで、おまえ、興味ない。歯向かってくるなら」
魔人コークピッチが全長5メートルを超える巨体から腕を振り下ろす。それは必殺の威力を伴った一撃だった。
「殺しちゃうよん」
キン。
と、音がした。
それと同期して、コークピッチの腕が地面に滑り落ちた。コークピッチは首を傾げた。
「あれ、なんでオデの腕、地面に落ちて……」
「魔法展開」
刃に魔力を籠める。刀身の数倍の長さに伸長した魔法の刃を僕は振り抜いた。
「ボイド・ブレード」
「“おっ」
それが魔人コークピッチの最後の言葉だった。
魔人コークピッチの体が斜めに滑り落ちる。両断された断面から黒い血飛沫が噴き上がる。
「大丈夫ですか」
「あ、あな、あなた……」
コークピッチの死体を背に話しかける僕をキサラは未だ震えが収まらぬ指を向ける。
「ま、魔術士、だったの。それもあんな強力な」
「はい。虚無の魔術士です。黙っててすみません」