香澄に手を引かれながら歩いているうちに、気付けば商店街までやって来ていた。
放課後の時間帯ということもあり、人通りは多い。
買い物帰りの親子連れ。楽しそうに話す学生たち。
そんな賑やかな通りを、香澄はきょろきょろと見回していた。
「わぁ……!」
その目が輝く。
何かを見つけたらしい。
「どうした?」
「彼氏くんあれ見て!」
香澄が指差した先には、色とりどりの風船が飾られた新しい店があった。
どうやら最近オープンしたクレープ屋らしい。
「新しいお店みたいだよ!」
「本当だ。この前来たときにはなかったよな」
「行こう行こう!」
案の定だった。
香澄は再び俺の手を掴むと、そのまま店へ向かって走り出す。
「転ぶなよ」
「大丈夫だよー!」
元気な返事が返ってくる。
全然説得力はない。
店の前に着くと、香澄はメニューを見ながら目を輝かせた。
「すごーい!種類がいっぱいある!」
「香澄はどれにするんだ?」
「うーん……」
真剣な顔で悩み始める。
だが三十秒後。
「決めた!」
「早いな」
「いちごチョコ生クリーム!」
「王道だな」
「だって美味しそうなんだもん!」
そう言って笑う。
「すみません。カスタードホイップひとつといちごチョコ生クリームをひとつ」
結局、俺も注文と支払いを済ませる。
「あっ! まってお金……」
「大丈夫だよ。奢るから」
「でも……」
「いいよ。俺は香澄の彼氏なんだから。いつもありがとな」
「彼氏くん……。ありがとう!」
そうして、二人でクレープを受け取った。
「わー! 美味しそう!」
近くのベンチに腰掛ける。
「いっただきまーす!」
「いただきます」
「はむ!」
香澄は一口食べるなり。
「んー!!おいしいー!」
と満面の笑みを浮かべた。
本当に幸せそうな顔だ。
「そんなにか」
「うん!」
香澄は何度も頷く。
「りみりんも絶対好きだと思う!」
「ああ、牛込さん甘い物好きだって言ってたな」
「うんうん! おたえだったらねー、三つくらい食べそう!」
「三つで済むか?」
「あっ、確かに!」
二人で笑う。
「有咲はねー」
「うん」
「絶対『別に普通だし』とか言いながらほっぺたにクリームつけながら食べるよきっと!」
「イメージ湧くなー。それで気付いたら完食してるんだろ」
「そうそう!」
香澄は楽しそうに笑った。
本当にバンドのみんなのことが好きなんだな。
Poppin’Partyの話になると、いつもこうだ。
ライブに招待されたときに何度か会ったことはあるけど、香澄から話をよく聞くからかメンバーのことはよく知っている。
それに、誰かの話をしている時の香澄は、本当に嬉しそうだからな。
「あとね!」
香澄が身を乗り出す。
「さーやだったらお店の人とも仲良くなってそう!」
「それはありそうだな」
「だよね!」
「また山吹さん家のパン食べたいな」
「今度また一緒に行こう!」
「だな」
ころころと表情を変えながら話す香澄を見ていると、こちらまで楽しくなる。
すると。
ふと香澄が立ち上がった。
「ん?」
「ねぇ、見て!」
「今度はなんだ?」
指差した先には、小さな雑貨店があった。
店先には星の形をしたガラス細工が並べられている。
太陽の光を受けて、キラキラと輝いていた。
その瞬間。
香澄の目がさらに輝いた。
「あれ絶対キラキラドキドキだよ!」
やっぱり来た。
「当然行くのか?」
「もちろん!」
香澄は迷いなく答える。
そして、当たり前のように俺の手を握った。
「ほら!」
「はいはい」
「早く早く!」
嬉しそうな笑顔。
まるで宝物を見つけた子供みたいだ。
そんな香澄に引っ張られながら、俺も立ち上がる。
商店街の喧騒の中。
キラキラと輝くガラス細工へ向かって。
香澄は今日一番の笑顔を浮かべていた。