BanG Dream! 〜もし恋人がいたら〜   作:あきと。

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戸山香澄(3)

 

 

 雑貨店の中は、外から見た以上にキラキラしていた。

 

 色とりどりのガラス細工。

 星や月を模したアクセサリー。

 小さなランプや雑貨たちが並び、まるで宝箱の中みたいな空間になっている。

 

「わぁ……」

 

 香澄は目を輝かせながら店内を見回した。

 

「すごい……!」

 

 まるで初めて遊園地に来た子供のようだ。

 あっちへふらふら。こっちへふらふら。

 

「彼氏くん彼氏くん!」

 

 興味を持ったものを見つけるたびに俺を呼ぶ。

 

「見て見て!」

 

「ん?」

 

「これ可愛くない?」

 

「ああ、可愛いな」

 

「だよね!」

 

 嬉しそうに笑う。

 

「わ!こっちも!」

 

 そしてまた別の商品へと向かう。

 その姿を見ているだけで、不思議と飽きない。

 

 しばらくして。

 

「……あっ」

 

 香澄が立ち止まった。

 

「ん?」

 

 視線の先には、小さな星型のキーホルダー。

 透明なガラスの中に金色のラメが入っていて、光を受けるたびに輝いている。

 

「綺麗だな」

 

「うん」

 

 珍しく静かな声だった。

 香澄はそっと手に取る。

 まるで壊れ物を扱うように。

 

「ねぇ」

 

「なんだ?」

 

「これ、本物の星みたいだよね」

 

「そうだな」

 

「なんか……」

 

 香澄は微笑んだ。

 

「キラキラしてる」

 

 その笑顔はどこか優しかった。

 

 結局。

 香澄はそのキーホルダーを買った。

 プレゼントしようと思ったのだけど、香澄が「これは自分で買う!」と言うので彼女の希望に合わせた。

 

 店を出ると、もう空は夕焼け色に染まり始めていた。

 

「いっぱい見たねー!」

 

 香澄が満足そうに伸びをする。

 

「だなー。良い店だったよな」

 

「うん、楽しかった!」

 

 即答だった。

 本当に楽しそうで。本当に幸せそうで。

 

 だからこそ。

 

 ふと、考えてしまった。

 

「…………」

 

 香澄は誰に対しても優しい。

 誰といても楽しそうだ。

 

 友達も。家族も。

 バンドのみんなも。

 もちろん俺も。

 

 だけど――。

 

 その中で俺はどれくらい特別なんだろう。

 

 自分でも馬鹿らしいと思う。

 けれど、恋人だからこそ、そんなことを考えてしまう時もある。

 

「……?」

 

 香澄がこちらを見上げた。

 

「どうしたの?」

 

「……いや、」

 

「もしかして、何か考え事してる?」

 

「…………」

 

 鋭い。

 こういう時だけ妙に鋭い。

 

「大丈夫だよ」

 

「うそだー」

 

 香澄は楽しそうに笑う。

 

「私には分かるもん」

 

「そ、そうか?」

 

「うん!」

 

 当たり前のように頷いた。

 

「だってずっと彼氏くんの事、見てるもん」

 

「香澄……」

 

 どきりとする。

 

 本人は何気なく言っただけなのだろう。

 だが、その一言は妙に胸に響いた。

 

 少しだけ迷って。俺は口を開いた。

 

「香澄ってさ」

 

「うん」

 

「みんなのこと好きじゃん」

 

「うん!」

 

「友達も、家族も、Poppin’Partyの皆んなも」

 

「うん!」

 

 嬉しそうに頷く。

 

 本当に好きなのだろう。

 だからこそ。

 

「俺も、その中の一人なのかなって」

 

 言った瞬間。

 香澄はきょとんとした。

 

「え?」

 

 数秒沈黙。

 

 そして。

 

「いや、今のは忘れてくれ」

 

「違うよ?」

 

「!」

 

 あまりにもあっさりと香澄はそう言った。

 

「え?」

 

「違うよ!」

 

 もう一度、今度ははっきりと。

 それから香澄は笑った。

 

「もちろん、みんな大好きだよ?」

 

「うん」

 

「Poppin’Partyも大好き!」

 

「うん」

 

「家族も大好き!」

 

「うん」

 

「友達も大好き!」

 

 まっすぐな言葉。

 そうして、香澄は少しだけ照れたように笑った。

 

「でもね」

 

 夕日が彼女の横顔を照らす。

 優しい風が吹く。

 

「彼氏くんの事は、もっと大好き」

 

「!」

 

 心臓が跳ねた。

 

 香澄は真っ直ぐこちらを見ている。

 嘘も誤魔化しも、何一つない。

 ただ純粋な気持ちだけ。

 

「だって恋人だもん」

 

 そう言って笑う。

 当たり前のことみたいに。自然に真っ直ぐに。

 

 それが戸山香澄だった。

 俺は思わず苦笑する。

 

 こんなの、勝てるわけがない。

 

「そっか」

 

「うん!」

 

「ありがとな」

 

「えへへ!」

 

 香澄は嬉しそうに笑った。

 

「俺も大好きだよ」

 

「う、うん」

 

 少し照れたな。

 

 そして。

 不意に何かを見つけたように目を輝かせる。

 

「あっ!」

 

「ん?」

 

「見て見て!」

 

 香澄が指差した先。

 駅前の通りに、新しいカフェが建設中だった。

 

 おしゃれな外観に大きな窓。

 

 まだ開店前らしい。

 それを見た瞬間、香澄は満面の笑みを浮かべた。

 

「絶対あそこキラキラしてる!」

 

「キラキラって、まだ開いてないぞ?」

 

「でも開くよね!」

 

「根拠は?」

 

「勘!」

 

「相変わらずだな」

 

 いつもの香澄だった。

 そして、彼女は俺の手を握る。

 

 柔らかな温もり。

 幸せそうな笑顔。

 

「ねぇねぇ!」

 

「ん?」

 

「今度はあそこに行こうよ!」

 

 夕日に照らされながら。

 香澄は誰よりも楽しそうに笑った。

 

「絶対楽しいから!」

 

 その笑顔を見て俺も自然と笑っていた。

 

「ああ、そうだな」

 

 きっとこれからも。

 

 香澄はたくさんのキラキラとドキドキを見つけるのだろう。

 

「あ! ほら、お店の人出てきたよ!」

 

「まじか。本当に開店したな」

 

「行こう!」

 

 その隣にいられるなら。

 それだけで十分だった。

 

 

 戸山香澄編 〜完〜

 





《あとがき》

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
Poppin’Partyトップバッターは戸山香澄でした。

「もし香澄に恋人がいたら」というテーマで考えた時、最初に浮かんだのは、恋人だけを特別扱いするのではなく、

「みんな大好き! でも君はもっと大好き!」

そんな香澄らしい恋愛でした。

恋人だからといって急に大人っぽくなるのではなく、原作のような天真爛漫さや、キラキラドキドキを全力で追いかける姿はそのままにしています。


【登場人物】

・戸山香澄
本作の香澄は原作同様、とにかく真っ直ぐ。
恋人になってもデート中に気になるものを見つければ走り出し、嬉しいことがあれば全力で笑い、楽しいことはすぐ共有したくなる女の子です。
恋人には自然と一番の笑顔を向けています。

・香澄の彼氏
香澄と同い年の男子高校生。
穏やかで面倒見が良く、香澄の自由奔放な行動にも笑顔で付き合えるタイプです。
ツッコミ役になることも多いですが、香澄の「キラキラドキドキ」に振り回される時間さえも楽しんでいます。
香澄の気持ちを否定せず、「一緒に楽しもう」と寄り添えるからこそ、二人は自然体でいられる関係です。


【香澄と彼氏の出会い】
高校入学後間もないある日、商店街で荷物を落としそうになって困っていた香澄を彼が助けたことがきっかけ。
その後、学校や商店街で顔を合わせるたびに話すようになり、自然と距離を縮めて恋人同士になった。


香澄編は、「恋人になっても戸山香澄は戸山香澄」を一番大切にして執筆しました。
少しでも「こんな香澄もありかも」と感じていただけたら嬉しいです。

次回からは、花園たえ編です。

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