休日。
待ち合わせ場所の駅前広場は、多くの人で賑わっていた。
僕はスマートフォンに目を落とす。
表示された時刻は、待ち合わせの三十分前。
「……はは、早く来すぎましたね」
思わず苦笑する。
楽しみで家を飛び出してきた結果がこれだ。
もう少し落ち着くべきだったかもしれない。
そう考えていると。
「お待たせー」
聞き慣れた声がした。
振り向けば、花園たえさんがこちらへ歩いてくる。
肩まで伸びた髪が風に揺れる。
穏やかな表情と少し眠たそうな瞳。
それに、いつも通りのマイペースな足取り。
「こんにちは、たえさん」
「うん。こんにちは」
短い挨拶。
それだけなのに自然と頬が緩むくらいに彼女は今日も綺麗だ。
「……あれ?」
「どうしました?」
彼女は視線を腕時計に落として疑問の声を口にした。
「君も早い」
「実は、楽しみすぎて三十分くらい前に着いてしまいました」
「私も」
「え?」
「すごく楽しみで、お散歩してた」
「えぇ!?」
思わず声が裏返る。
たえさんはきょとんとしていた。
「どうして驚くの?」
「いやだって、たえさん僕よりも早く着いてたって事じゃないですか?」
まさか、お互いに同じ行動をしていたとは。
僕はともかく、たえさんが楽しみにしてくれているのは嬉しいし、可愛らしい。
「うん」
「連絡してくださいよ〜」
「どうして?」
「だって、心配するじゃないですか」
こんなに可愛い人が一人でいたらと、彼氏である僕としては気が気ではない。
「でも君もいた」
「それはそうですけど……」
「だから大丈夫」
どうやら大丈夫らしい。
本人がそう言うのなら、そうなのだろう。
「ふふっ」
「あっ、笑った」
「す、すみません」
「いいよ。私も楽しい」
たえさんも少しだけ笑う。
その笑顔を見ると、こっちまで嬉しくなる。
すると、たえさんは何事もないように僕の隣へ並んだ。
ぴたり。
「…………」
近い。
肩が触れそうなくらい近い。
「た、たえさん」
「なに?」
「近くないですか?」
「そう?」
「はい」
「でも恋人だから」
真顔だった。
「普通」
「普通、ですか……」
「うん」
迷いがない。
本人の中では本当に普通なのだ。
「それとも、もっと離れる?」
ほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。
それを見た瞬間、胸が締め付けられた。
「い、いえ!」
慌てて首を振る。
「そのままで大丈夫です!」
「うん、よかった」
ぱっと表情が柔らかくなる。
……反則だ。
花園たえさんは、自分がどれだけ人を振り回しているのか分かっていない。
付き合って数か月。
それだけはよく分かった。