BanG Dream! 〜もし恋人がいたら〜   作:あきと。

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花園たえ(2)

 

 

 猫カフェの扉を開けると、優しいコーヒーの香りと、のんびりした空気が二人を迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 

 店員さんに案内され、奥のソファ席へ座る。

 

 店内では思い思いに猫たちが過ごしていた。

 窓際で昼寝をする猫。

 キャットタワーの上で伸びをする猫。

 お客さんの膝の上で丸くなる猫。

 

「……」

 

 隣を見る。

 たえさんの目が、きらきらと輝いていた。

 

「どの子もかわいい」

 

「そうですね」

 

 その一言に、全部詰まっていた。

 

「ふふっ。本当に好きなんですね」

 

「うん」

 

 短く返事をすると、近くにいた白猫がたえさんの足元へ近寄ってきた。

 

「こんにちは」

 

 しゃがみ込んで優しく撫でる。

 

「にゃー」

 

 猫も安心したように目を細め、喉を鳴らしていた。

 

「もう懐かれてますね」

 

「うん。友達になれた」

 

「そんなに早くですか?」

 

「うん」

 

 本当にそう思っているらしい。

 

 思わず笑ってしまう。

 

 すると今度は茶トラが膝の上へ飛び乗ってきた。

 

「あ……」

 

「人気者ですね」

 

「猫、あったかい」

 

 嬉しそうに猫を抱き上げるたえさん。

 その笑顔は、さっき駅で会った時よりも柔らかかった。

 

 猫が好きなんだな、と改めて思う。

 

 しばらくすると店員さんが猫用のおやつを持ってきてくれた。

 初来店のサービスなのだそうだ。

 

 袋を開けた瞬間。

 

「うわっ!」

 

 店中の猫たちが一斉に集まってくる。

 

「すごいですね……」

 

「君も人気者になった」

 

「僕じゃなくて、おやつが人気なんですよ」

 

「そうか」

 

 納得したように頷く。

 おやつ頼みというのも我ながら少しだけ残念だけど。

 

「たえさんもあげてみますか?」

 

「うん」

 

 おやつをあげながら、たえさんはぽつりと呟く。

 

「猫は正直だから好き」

 

「正直?」

 

「好きなものにまっすぐ」

 

「……たえさんもそうですよね」

 

「そう?」

 

「はい」

 

 思ったことをそのまま口にする。

 それが花園たえという人だ。

 

「そうかも」

 

 本人はあまり自覚がないらしい。

 

 

 

 一通り猫たちと戯れて遊んだあと、二人でソファへ腰を下ろした。

 

 たえさんの膝には、さっきの白猫が丸くなって眠っている。

 

 完全に気を許していた。

 

「寝ちゃいましたね」

 

「うん。可愛い」

 

 優しく撫でる。

 その表情はどこまでも穏やかだった。

 

 すると。

 

 視線を感じた。

 

「……?」

 

 顔を上げる。

 たえさんがこちらを見ていた。

 

「えっ」

 

 じーっと。

 

「どうかしましたか?」

 

 本当にじーっと。

 

「た、たえさん?」

 

「なに?」

 

「見てますよね」

 

「うん。見てる」

 

 即答だった。

 

「どうしてですか?」

 

「なんとなく」

 

 またその答えだった。

 

「恥ずかしいんですが……」

 

「そう?」

 

「はい」

 

「でも見たい」

 

 理由になっていない。

 けれど、たえさんはどこか真剣だった。

 

 猫を撫でながら、それでも僕から目を離さない。

 

「その……。もしかして、顔に何か付いてます?」

 

「ううん、付いてないよ」

 

「じゃあどうして……」

 

「君が笑うと、安心する」

 

「え?」

 

 予想もしなかった答えだった。

 

「安心、ですか?」

 

「うん」

 

 たえさんは小さく頷く。

 

「笑ってる君、好き」

 

「…………」

 

 思考が止まる。

 

 本人は何でもないことのように言った。

 言ったあとで、また猫を撫で始める。

 まるで今日の天気を話すくらい自然だった。

 

「た、たえさん……」

 

「なに?」

 

「そういうこと、急に言わないでくださいよ……」

 

 嬉しいのと同時に、心臓がきゅんとしてしまう。

 

「だめ?」

 

 少しだけ首を傾げる。

 その仕草まで反則だった。

 

「だめじゃ……ありませんけど」

 

「なら、よかった」

 

 安心したように微笑む。

 その瞬間だった。

 

「顔赤い」

 

「……誰のせいだと思ってるんですか」

 

「私?」

 

「はい。そうですよ」

 

「何かした?」

 

「それはもう、かなりしました」

 

「覚えてない」

 

 やっぱりだった。

 天然とは、本当に恐ろしい。

 

 

 気付けば、あっという間に時間は過ぎていた。

 

「そろそろ時間ですね」

 

「うん。残念」

 

 たえさんは膝の上で眠る猫を優しく抱き上げる。

 

「またね」

 

 猫は名残惜しそうに鳴いた。

 

「また来よう」

 

 その言葉に、僕は思わず笑う。

 

「はい。また来ましょうね」

 

「今度はうさぎも」

 

「うさぎカフェですね」

 

「うん」

 

 満足そうに頷くたえさん。

 

「たえさんの家にもいるんですよね。うさぎ」

 

「うん。オッちゃん、くーちゃん、みーちゃん。みんな可愛い。二十羽いる」

 

「にじゅ……!? 多いですね」

 

「うん。ぜひ遊びに来てほしい」

 

「えっ……。たえさんのお家にですか?」

 

「うん」

 

「そ、そうですね。そのうちに……」

 

 正直、心臓が持つのかは不明だが。

 

「ありがとうございました」

 

 そして店を出た瞬間。

 また当たり前のように僕の手を握った。

 

 もう驚かない。

 

 ……少しだけ、慣れてきた気がする。

 

 もっとも。心臓だけは、まだ全然慣れてくれそうになかった。

 

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