心が壊れた救済RTA走者のセカンドライフ   作:ササキ=サン

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第1話 超絶スパルタかつ超エリート学科「冒険者科」へようこそ

 現代日本の学校と変わらないくらい近代的で、きちんと整備された校舎を走る。材質は魔導科学の成果によって発明され、魔導工場によって量産された魔導セメントによってできている。

 

 ここは中世ファンタジーというよりは、なんかすごいハイテクな魔導文明の異世界である。

 

 そもそも、なぜ異世界と疑問に思う人がいるかもしれないが、ものすごく端的に僕のストーリーを語るなら、地球で生きてきて、死んで、異世界に転生した。神様による説明は特にない。この第二の生が事象なのか、何者かの意図なのかもよく分からないが、何はともあれ僕は第二の生を生きている。

 

 ここの学園に来るまでに、一悶着も二悶着もあったが、そこら辺はおいおい語るとしよう。今日重要なのは、超絶スパルタかつ超エリートのアレクサンドル王立高等学園冒険者科に僕は入学して、今、一発目の顔見世に突入しようとすること。

 

 なお、入学式はない。途中で退学(リタイア)する人が多いから、いちいち式典はしないらしいし、年に何回か行われる入学試験さえ合格したなら、いつ入学してもよいらしい。なんかこう、闇を感じる仕組みだよね。超絶スパルタという片鱗が入学試験の仕組みの段階で見え隠れしていた。噂によると、入学は比較的簡単らしい。筆記試験と実技試験を合格すればいい。実際、僕は合格できた。まあ、試験官さんはもって一か月かな……とも呟いていたんですけどね……。

 

 

 

<ステータス>

十字(じゅうじ) 宝希(ほうき) 男性 13歳

 

スキル

・武術 LV1

・魔術 LV1

・演算 LV3

・演技 LV2

・《忘却刑縛(パラダイス・ロスト)

・《諠ウ蠢オ縺ョ荳咲「コ螳壹??鬆伜沺》

 

 

 

この異世界、定番のステータスがある。僕は珍しいと言われるユニークスキルを2個もっていて、チート主人公の風味はあるんだけど、僕が持っているユニークスキルは戦闘に役に立つかというと、少し微妙だ。

 

 

 

忘却刑縛(パラダイス・ロスト)

救えなかった数多の罪から逃げることは赦されない。

・忘却を禁ずる。

・狂うことを禁ずる。

 

《諠ウ蠢オ縺ョ荳咲「コ螳壹??鬆伜沺》

荳贋ス崎???諠ウ螳壹r雜?∴繧九??隱ー繧りヲ矩?壹○縺ャ縲?鮟偵>諠ウ蠢オ縺ョ貂ヲ

 

 

 

 《忘却刑縛(パラダイス・ロスト)》は便利で、これのおかげで僕は異世界に来てから短い間で、高等学園の筆記試験を通過できるくらいの教養を身に着けることはできたけど、この世界で何よりも大切な戦闘力を高めることはできていないので、この世界の実力者に太刀打ちができるかというと、現状ではかなり厳しい。

 

 もう一個のユニークスキルは効果がよく分からないので、なんかこう、ピンチに陥ったら覚醒することを期待したいな……。

 

 さて、教室についた。走るのを止めて、コソっと中を伺う。先生と目が合った。入ってこいと手招きをされたので、おそるおそる中に入る。

 

 ぶわっと、凄まじい(オーラ)で威圧された。

 

 一瞬、色々考えた。ビビるか、平気な顔をするか、威圧し返すか。考えた末に、僕は表情をなんでもないように取り繕って、教室に入っていった。

 

 冷や汗が出る。この教室は、貴種の巣窟だ。感じる(オーラ)の質、魔力(マナ)の質からして、この世界の一般的な人間とはとてつもなくかけ離れた性能をしているのがよく分かる。表に出されているだけで、僕とどれだけ性能が違うのかよく分かる。もし戦闘になったら、反応することすらできずに殺されてしまうだろう。というか気の威圧のせいで、死ぬほど体が動かしづらい。まるで大嵐の中にいるようだ。手足が震えて、心臓がばくばくと嫌な音を立てる。鳥肌が立って、生存本能が逃げろとガンガン警鐘を鳴らしている。

 

「自己紹介をしてみろ」

 

 先生は言った。いや、この威圧を止めて欲しいんですけど。鬼畜ですか。それとも既にスパルタ教育が始まっているのでしょうか。ちょっと厳しすぎやしませんか。ちびりそうなんですけど。

 

 でもまあ、上等だ。僕は遊びでこの学科を選んだわけじゃない。

 

「みなさん初めまして!僕は十字(じゅうじ) 宝希(ほうき)といいます!これから卒業まで、よろしくお願いします!」

 

 強くなるために、僕はこの道を選んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は新しい入学者が来た。おやっと思った。不思議なことに、その子は廊下を走ってきた。廊下を走るなといった校則は特にないが、別に遅刻なわけでもないのに、どうしてその子は走っているのだろうか。

 

 入ってきた入学者は、思ったより幼かった。あれはまだ中等部くらいではないだろうか。冒険者科には年齢制限はないので、時々己の才覚を勘違いした幼子から、神童まで幅広く入学してくることはあるが、あの子の(オーラ)魔力(マナ)も、貴種にはほど遠い。これはすぐに辞めてしまうだろう。

 

 ウルフィンが、威圧をした。いじわるなことをするが、案外優しいやつだ。可能性がないやつに、毎回ああやってわざわざ現実を突きつけてあげている。そんなことをしなくても、辞める時期が少し伸びるか伸びないかの違いだろうに。

 

「ほう」

 

 今回の入学者は、思ったより骨があった。貴種であるウルフィンの威圧を受けたら、あの程度の(オーラ)しか持っていなかったら、まともに動くのは相当苦しいだろうに。

 

 脂汗をかきながらも、笑顔を浮かべている。

 

「みなさん初めまして!僕は十字(じゅうじ) 宝希(ほうき)といいます!これから卒業まで、よろしくお願いします!」

 

 卒業までと言い切るか。中々やるじゃないか。

 

 言い切って、ほんの少しの沈黙。十字は威圧の中でも下を向くのではなく、この教室の一人一人の顔を順番に見渡していた。だから、私とも目が合った。

 

 ゾクっときた。闇を抱えた、壊れた人間の瞳だ。顔は取り繕っているが、どうやら瞳は取り繕えていないようだ。視界の端ではエリーゼがえづいていた。精神への感応性が高い彼女は、あの瞳から何を感じ取ってしまったのだろうか。

 

「……よし。では、あそこの席につけ十字」

 

 教官はウルフィンの隣の開いている席を示した。あいつの隣のやつはすぐに辞めるから、いつも空席だ。他にも開いている席はあるだろうに、わざわざそこにするか。

 

「はい!」

 

 十字は元気な返事をして、早歩きで移動して席に座った。それから笑顔を浮かべて、隣の席のウルフィンに手を差し出した。

 

「これからよろしくお願いしますね!」

 

「……はっ」

 

 ウルフィンは鼻で笑って、その手を握り返した。ボギッという骨が折れる音がした。

 

「おっとすまねぇ。凡人(ノービス)は脆くて、力加減を間違えた」

 

 は?あいつは何をやっているんだ?

 

 思わず立ち上がりかけるが、驚いたことに十字は平然としていた。

 

「いやぁ、脆くて申し訳ないですね。これって直してもらえるやつですか?」

 

 十字は折られた手をアピールするようにひらひらと振った。「いてぇ!」と小声で叫んでいる。いや、君も何をしているんだ。患部をそんなに軽率に動かすな。

 

「ちっ」

 

 ウルフィンは魔法を使用した。ああ見えて、光属性が得意なやつだ。治療は数秒で終わった。

 

「ありがとうございます!優しいんですね!」

 

 十字はぺかーっという擬音がつきそうな晴れやかな笑顔で礼をいった。その後、小声で「いやこれマッチポンプか?」とセルフツッコミを入れている。そうだよ。間違いなく礼をいう必要はないと思うぞ。

 

「うるせぇ」

 

 ウルフィンはそっぽを向いた。

 

「……では、まずは今日の連絡をする」

 

 朝のホームルームが始まる。十字は表情を切り替えて、前を向いた。数分経って、ホームルームが終わった。次の授業の間のわずかな休憩時間。十字はウルフィン以外の周りの人に声をかけて、コミュニケーションをとっていた。十字はまた握手をしようと手を差しだすが、その手はややおっかなびっくりな様子だった。

 

「へぇ、僕とも握手をしてくれるのかい?」

 

 反対側の隣の席にいたライはにやつきながら言った。おい、あんまりその子にいじわるをするな。

 

「実は僕、光魔法はけっこう得意ですよ!」

 

 そういう問題じゃないと思うぞ。

 

「……安心してくれ、握手で骨を折るのは流石にウルフィンくらいだよ」

 

 ライはそう言って優しく十字の手を握った。

 

「……ぁ」

 

 十字は握られた手を見つめて、少し固まっていた。

 

「これからよろしくお願いしますね、ライさん!」

 

 それから、十字は今日一番輝かしい笑顔を浮かべた。

 

「あ、あぁ、よろしく頼むよ、十字くん」

 

 おいずるいぞライ。そこをどけ。

 

「やあ、入学初日から人間関係づくりに精が出ているね」

 

 十字の黒い瞳と私の目が合った。ああ、やっぱりいいな。この瞳。これは壊れながらも、全てを黒く塗りつぶすような漆黒の意思を抱いて、前に進む者の瞳だ。

 

「私とも友達になってくれないか、十字くん」

 

 その漆黒の瞳が、ぱちぱちと驚くように瞬いた。その瞳に、ほんの少し光が灯った気がした。

 

「いいんですか!?」

 

 嬉しそうな声だ。私も嬉しくなる。

 

「いいとも。私の名前はフランチェスカ・ローゼンベルク。親しみをこめて、フランと呼んでくれ。私も君を宝希と呼ぼう」

 

「……はい。ありがとうございます、フランさん。ぜひ、宝希と呼んでください」

 

 目を伏せ、噛みしめるように宝希は言った。ぜひ、宝希と呼んでくださいという言葉には強い心がのっているように感じた。名前に何か愛着があるのかもしれない。

 

「ああ、これからよろしく頼むよ、宝希」

 

 そう言って、私は宝希と握手を交わした。ほう。やはりというか、感心した。彼の手は擦り切れていた。摩耗している、努力をし続けている者の手だ。

 

 手を握る彼は笑顔を浮かべていた。演技めいていて作っている笑顔だ。でも、その笑顔の中に薄っすらと、仮面とは違った嬉しさが滲んでいる。ふむ……。どうやら私は結構、彼からの好意を稼げているようだ。ライにもそうだったが、宝希は根本的に人懐っこい人間なのかもしれないな。

 

 




多くの人にとって、好きな人は、自分のことを好きな人だと思う。つまり、全人類を愛している主人公は、割と多くの人から好意的にみられやすいということではないだろうか。多分。
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