アレクサンドル王立高等学園冒険者科の授業は、非常に単純なカリキュラムをしている。すなわち、ジャンルでいえば武術訓練、魔法訓練、総合戦闘訓練、座学の4つに分けられる。一日6コマあるうちのだいたい4分の3が実技訓練になるので、かなり実践的でハードなカリキュラムをしているらしい。
そして学園の初授業は、総合戦闘訓練。
「十字、お前には特別訓練を課す」
戦闘訓練の教官、兼担任の先生であるミツルギ先生が僕に指示を出した。
「腱が切れて、物理的に腕が動かなくなるまで剣を振り続けろ」
「え」
ま、まじすか……。スパルタとは聞いていたけど、そこまでやっちゃう……?
「お前のレベルでは、他の生徒と共に戦闘訓練をすることはできない。そして冒険者科では、毎日最後の授業で5秒の
教官がポイっと剣を軽く投げた。ズトンっと、僕の目の前で異様な音を立てて地面にささった。これ、めっちゃ重そうですね……。
「始めろ」
何人か、知り合いになった人がこちらを見ていた。もしかして心配をかけているだろうか。よく分からないけど、それだった申し訳ない。前世の全てを知っているコミュニケーションと違って、他の人が自分に対してどう思っているのかも知ることができないから、僕は彼らの心情を推測でしか測るができない。
「よっし、やったるでー!」
とりあえず、心配ないよと印象付けるために、元気よく声を挙げて、勢いよく剣を引き抜く。
「おもっ」
ぶん、ぶんと素振りを続ける。他のクラスメイトの戦闘訓練が始まった。やば。動きが見えない。
これが
何はともあれ、今は目の前の素振りに集中しよう。剣を振ることも、武術の修練に繋がる。そして鍛え上げた力は、誰かの命を救うことに通じる。この世界では強さの上限が狂っている。100万人の凡人をたった1人の貴種が蹂躙できるパワーバランスの世界だ。この世界で誰かを救いたいというのなら、強くなることは避けて通れない。
だから、今は集中しろ。流れる剣の軌跡を、体をめぐる
集中。集中。
それから僕は、ひたすらに素振りを続けた。
全力で降り続けて、まずは筋肉の一部が千切れた。でも大丈夫。一部の筋が切れても、他の部分はしっかり動く。
切れた筋、毛細血管から血が流れたのか、血の汗が出てきた。衣服を汚すが、ここはそういう汚れをしっかり落としてくれる便利な洗濯機があるから、後始末はそんなに手間はかからない。大丈夫。
手のひらの皮が裂けた。むき出しの肉が剣の柄に触れ、痛みをもたらすが大丈夫。このグリップはいいものを使っているのか、血で濡れても全然滑らない。驚きの技術だ。これならまだまだ剣を振える。
腕の筋がかなり切れてきたのか、腕がそもそも動かなくなってきた。でも、
ブチッ。ついに腱が切れた感じがする。腕がぷらーんとなって、どれだけ力を込めても肩が上がらない。これで終わりか。教官は特に止めなかった。
ふむ。つまり、これってまだいけるってことじゃね。肩が上がらないなら、腕を振り回せばいけるやろ。肩をあげるんじゃなくて、横なぎに、ぷらぷらしている腕を振り回すように。握力はまだ生きているし、腰は捻れるし、胴体のインナーマッスルはまだいける。内臓はちょっとぐしゃってなっていて、さっきから口から血がドバドバだが、異世界の脅威の魔法治療を思えば、おそらくこの程度は許容範囲内なはず。
ぶるん、ぶるんと剣を振る。不格好でも一応攻撃の体はなしている。なしているか……?まあ、草くらいは刈れそう。今の僕は人間草刈り機である。
「もういい、やめろ」
ようやく教官のストップがかかった。待ってました……!長くない……?人間の限界を2段くらい超えた気がするんだけど……。これくらいやってようやく合格って、異世界のスパルタ教育はガチで怖いなぁ。
「ごぷっ」
承知いたしました。長い間、見ていてくれてありがとうございます。言いたいことは色々とあったが、吐き出され続ける血のせいで中々言葉にできない。
「頭がおかしいな、お前」
え。ミツルギ先生、自分でやれと言っておいて、それはなくないすか……?
というか授業時間、とっくの前に過ぎている。そろそろ夕ご飯の時間だ。お腹すいたな。
ぽうっと、ミツルギ先生の光魔法の治療が発動された。き、きくぅ……!すごい勢いで体の組織が直されているのを実感する。
「ありが……げぽぉッ」
体が直ってきたからか、吐き出しきれずに内部にたまっていた血を盛大にリバースした。お昼ご飯を食べていなかったせいか、血しかでない。比較的清潔な吐しゃ物ではないだろうか。というか視界が戻ってきたから分かるが、一面真っ赤だな。なんじゃこりゃ。殺人現場よりひでぇ。
「焦るな。ゆっくりでいい」
ありがてぇ、ありがてぇ。よく分からんけど、たぶんミツルギ先生はだいぶ残業して僕の謎訓練に付き合ってくれた。もう夕方だし。気配しか分からなかったが、ずっと僕の素振りを見守ってくれていた気がする。他のクラスメイトに比べればクソザコ極まりない僕にこれだけの労力を割いていただけるのは、本当に申し訳ない。ありがたい。
「最後までぇ、ガひゅっ、みでっ、くれで……あ、り」
がんばれ!僕の喉、がとうございます!あと8文字!
「もういい。休め」
げふっ。僕は気絶させられた。
「……」
ミツルギは気絶させた十字を優しく抱きかかえた。彼の血が彼女の服を汚すが、ミツルギはためらう素振りを見せなかった。
「もっと早く止めるべきだった。すまない」
ミツルギは珍しく、表情を歪めた。
「いや、だい、じょぶっすよ」
ビクッ。予想外の返答にミツルギはつい抱えた十字を放り投げてしまった。
「ヴェアアアアア」
慌ててミツルギは空中で十字をキャッチした。
「すまない。すまない」
本当に珍しく、ミツルギはガチ謝りをした。
後に、ミツルギに対して十字はこう語った。
「いや、僕の方こそすいません。気絶に抵抗があって、中々気絶することができない性分なんですよ……。ミツルギ先生は善意でやってくれたのであって、全然悪くないっすよ」
気絶したらめっちゃ人が死んだトラウマがあるので、絶対に気絶しない主人公であった。