心が壊れた救済RTA走者のセカンドライフ   作:ササキ=サン

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魔法の修行回。個人的には、修行回はけっこう好きです。主人公が順調に強くなっていくの、見ていて面白いですよね。


第3話 食事と魔法修業

 

 モグモグモグ。モグモグモグ。

 

 異世界の食事、美味すぎる……!美食に慣れていないせいか、なんかこう、舌が馬鹿になっている感じがある。うめぇ、涙が出てしまいそうだ……!

 

「おいおい、宝希。急いで食べすぎじゃないか……?」

 

 フランさんが、心配そうにこちらを見てきた。

 

「だって、フランさん、こんな美味しいもの、初めて食べたので……!」

 

 そういうことにしておこう。実際そうだし。

 

(オーラ)で顎を強化して食事……一昔前の戦争中みたいだ。ウケるね」

 

 ライさんは珍獣を見るような目でこちらを見ている。こっちは大丈夫そう。奇行をしても、面白がることはあっても、心配させることはなさそうだ。

 

「よし、ごちそうさまでした!」

 

 栄養補給完了!前世に比べれば美味しいし、栄養もあるし、早く食べることができたしで、最高の食事でした。

 

「……早すぎないか?」

 

 訝しむフランさんの表情。この人の前であんまり奇行に走ると、心配をかけてしまいそうだけど、ちょっと引っかかりもあった。この人はある程度僕を高評価してくれている。先ほど食堂で再会した時も、あそこまで根気強く剣を振り続けられるのはすごいじゃないかと、褒めてくれた。その声音からは、朝の授業前よりも高い好意を感じた。なら。

 

「実は、まだまだ未熟なので、ちょっとでもトレーニングの時間を取りたくて……」

 

 てへへ。と照れたように言ってみる。フランさんは驚いたように目を開いて、感心したような表情を見せた。当たりだ。

 

「ほう……そこまでやるか、流石だな。宝希」

 

「はい!フランさんやライさんとももうちょっとゆっくりおしゃべりしたいんですけど、早くみんなに追いつきたいので……頑張りますね!」

 

「そうか、そうか。うん、頑張れよ、宝希」

 

 やったぜ。これで今後も奇行を続けても大丈夫そうだ。それにしても、やっぱり名前を呼んでくれるの、いいな。胸がぽかぽかするぜ。

 

「はい、それではまた明日です、フランさん、ライさん!」

 

 手を振って、僕は走り出す。僕は基本、走って移動する。現実世界だと変な人だけど、ゲームの世界の主人公なら当たり前だから、そんなにおかしくはないよね……!時短とトレーニングをかねた非常に効率的な選択だよ。走者の基本だね。

 

 

 

 

 

「十字くん、ああやって常に走って移動しているの、面白いよね」

 

「まあ、研鑽のため時間確保という観点なら、合理的な選択だな。食事もそうだけど、熱心な子だよ。本当に」

 

「高評価だね」

 

「当たり前だ。貴種とは、強くなるために努力できる人が最も評価される。あの様子なら、神血(イコル)の儀にも、かなり長時間耐えられるのではないか」

 

「そうだね。貴種の初代とかは、あんな感じの人だったのかなーって思うよ。でも……彼の代で貴種に到達するのは難しいんだろうね」

 

「……そうだな。貴種は何世代にもかけて到達するものだ。あそこまでまっさらな神血(イコル)に馴染みのない肉体が貴種に到達するまでには、まだ数百年の時間が必要だろう」

 

 常識でいえば、それが真っ当だろう。それでもあの黒い瞳の彼なら、何か予想外のことをしてくれるのではないかと、期待してしまう自分がいる。今日初めて会った人物に期待しすぎじゃないかと、少し不思議な気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮の部屋に戻ってきました!個室です。無料の寮がある上に個室が完備されて、さらに個室にトイレと浴室が備わっているなんて、なんて太っ腹な学園なんだ……。でもまあ、試験結果が悪いと速攻で退学になるんですけどね。引っ越し会社が儲かりそうな仕組みだ。

 

 さて、それじゃあさっそく魔法の訓練に入ろう。

 

【ミラージュ】

 

 詠唱省略。ちょっと演算で頭がこげそうだけど、実戦でいちいち詠唱をしていたらデメリットが多すぎる。せっかく恵まれた〈演算LV3〉のスキルがあるんだから、これを活かさない手はない。

 

 自分の体に、自分そっくりの虚像をまとわせる。実体のない影分身、いわゆるデコイというやつだ。戦闘の際にこれを纏い色々と操作することで、攻撃防御にあらゆるフェイント、騙しをいれることができる。

 

 この状態で戦っていると、はたから見ると残像がたくさん残って超達人みたいな動きに見えるから、なんかこう、すごい格好いい感じがするよね……!でもまあ、実際のところ、ミラージュの制御でかなり演算のリソースが持っていかれて、頭が焦げそうになっているんですけどね……。

 

「よし、じゃあやるか」

 

 次の訓練は少し気合がいる。

 

 お風呂に行き、服装を整え、短剣を抜いて、ブスッと自分の腕に差す。もぅマヂ無理。リスカしよ。というやつだ。違うけど。

 

【ヒール】

 

 詠唱省略!全力で腕を直す!頭が焦げそう!といっても、ウルフィンさんは普通に詠唱なしの光魔法で治してくれたし、これくらい普通なのだろう。常人の脳が貧弱すぎるのだ。ちょっと鼻血出てきたぞ。やっぱミラージュとの併用は頭への負担がでかいっすね……。

 

【ヒール】

 

 でもそんなあなたに朗報です。ヒールでさらに脳を治療して、いつでも新鮮な脳をお届けというやつです。これが呪術廻戦というやつですか。

 

 実際のところ、戦い方としては近接戦闘の最中でケガをしても、速攻で治療しながら戦闘を続行できる方が良い。光魔法の治療はトレーニング、戦闘と戦力強化には非常に役に立つので、ガンガン習熟していきたい。

 

 ただまあ、ぶっ刺して吹き出た血はすごいことになるので、後処理のことを考えて、ちゃんと服装と場所を選ばなければいけないんですけどね。お風呂場での怪しいトレーニング……。エロではないけど、かなりのグロだね!サスペンスだよ。

 

 あとは魔力の限り、光魔法を維持し続ける。ミラージュとヒール。目下の集中強化プログラムの魔法である。次にお師匠に会う時までに、めっちゃ強化して驚かせてやりますよ……!

 

 魔力の使い方、魔法の概念。それに集中して、効率化を図る。同じ魔法でも、習熟には魔法使いごとに大きな差がある。少しでも早く習熟できるように、とにかく魔力の運用に集中する。

 

 集中。

 

 流れる魔力。

 

 光の概念。

 

 修復される細胞。神経。血管。

 

 揺れ動く虚像。光の軌跡。

 

 集中。

 

 魔力の根源。

 

 精神、心の力。

 

「あ」

 

 ゴンッッ

 

 気づけば全身の力が抜けていて、思いっきり浴室の壁に頭をぶつけた。魔力が3割を切った証拠だ。魔力は精神、心を媒介とした力なので、使いすぎれば色々と不調をきたす。精神と肉体は密接に結びついているので、油断した状態で魔力が減りすぎると、こういうことが起きる。

 

【ヒール】

 

 頭の治療をする。治りは先ほどまでより遅い。これは僕の特徴だ。僕は基本、魔法の適性が光と闇しかない。そして、魔力が減るほど、光の適性が下がり、闇の適性が上がる。逆もまたしかりだから、こういう時は闇魔法の修行に切り替える。

 

【シャドウダイブ】

 

 魔法を発動して、自分の足を軽く影に沈める。魔力で形成した影に潜り、移動する魔法。

 

【グラビディ】

 

 引力を発生させる魔法を使い、短剣を自分の右の手のひらに強く固定する。解除。

 

【グラビディ】

 

 次は左手に固定。交互に行い、まずは早く短剣を操作する。それを何セットかやったら次はあえてゆっくり。ただし力強く引き寄せる。

 

 同時に右足と左足でシャドウダイブをばしゃばしゃ繰り返し発動する。

 

 鼻血。脳への負荷が増している。(オーラ)で補強。

 

【ヒール】

 

 適性の低下と三重の魔法の発動で、治療の効率は悪いが、脳の損傷を抑えるという点では十分。

 

 引き続き、魔法の制御、鍛錬に集中する。

 

 グシャッ。車に轢かれて死んだ夫婦の姿を幻視した。

 

 魔力が一割を切った。ここら辺からは、過去の救えなかった命を何度もフラッシュバックする。

 

 関係ない。魔法の鍛錬を続行する。

 

 深呼吸をする。ネグレクトで餓死した子供の死体が横たわっていた。幻覚である。

 

 呼吸と共に、魔力を取り込む。魔力が空っぽに近いほど、魔力の回復速度は速くなる。この状態の方が、効率的に魔法の鍛錬を行える。

 

 パンッ。銃声が響いた。銃を撃った反動が手に伝わった。幻覚だ。ただの昔の記憶。

 

 僕は家で帰りを待つ家族がいる男を殺した。理由は単純、その人が将来的に戦争を引き起こす独裁者になり得たからだ。家族は路頭に迷い、不幸を呪いながら死んだ。そういう国だった。

 

 今は関係ない。魔法の鍛錬を続行する。

 

『何で生きてんの?死ねよ』

 

 死なない。それを選んだところで助かる命は増えない。減るだけだ。

 

『これだけたくさんの命を奪っておいて、お前は友達を作ってのうのうと笑って生きるのか?』

 

 ……。

 

『今日は嬉しかったな。初めて予定調和にならない友人ができて、会話の一つ一つが楽しかったんだろう?今までにない未知の友人で、未知の好意だ。ずっと眺めるだけで、手に入れることができなかったものがようやく手に入ったんだから』

 

 ……そうだね。

 

『何やってんの?お前』

 

『じっさまはお前に、周りの人を笑顔にするためには、まずはお前が笑顔になれるようになれ、って言ったけど、別にお前が幸せになれってわけじゃないよな』

 

『ふざけんなって。何様だよ、お前』

 

 ……。

 

『鏡見ろよ。なんだそのツラ。自分は世界一不幸です、っとでも言ってんのか?』

 

 鏡には、無表情で涙を流しながら、死んだ目をした自分が写っていた。

 

『笑えよ。同情を誘うな。理解されようとするな。お前はずっと笑ってろ』

 

 そうだね。

 

 僕は鏡に向かって笑顔を浮かべた。

 

 ぶっさいくだな!

 

<演技LV3を習得しました>

 

 やったぜ。魔法の鍛錬でなぜかスキルのレベルが上がってしまった……!僕は天才かもしれない。貴種とのスペック差……?まあ、今日はいい天気だね。

 

 とりあえず、魔力がほぼ0になったので今日の魔法修業は終了。お疲れさまでした。じゃあ、このお風呂場の血液の後片付けをしようか……。すっからかんの魔力のせいで、体がほとんど動かないので、全力の(オーラ)で肉体を補強して、気合を入れて体を動かす。

 

 うーむ。それにしても、なんという事件現場。シャワーで浴室を流しながら、事件性がある物件の証拠を隠滅する。ついでに、しっかり深呼吸をして魔力の回復に努める。お師匠も、魔力は少なければ少ないほど、回復が早くなるし、空っぽの状態ほど、(そら)の魔力を取り込む術を身に着けやすいとも言っていた。

 

『魔力が三割を切るような修業は止めてくださいね?心が弱って、精神に異常をきたしやすくなります。不幸が重なると、自殺してしまうような人もいますから』

 

 あー!何も思い出さなかったなぁ……!お師匠、今頃元気かな……!元気だといいなー!

 




魔法適性はだいたい人格に依存します。光と闇しか使えないって、つまりそういうことです。
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