「おはようございます!ウルフィンさん!」
朝、食堂でばったり会ったので、あいさつをする。頭についたオオカミっぽい耳がピクピクと動いた。おお、ファンタジーって感じがするな。
「……」
チラッとだけウルフィンさんはこちらを見て、そのまま食事を続けた。無視である。どうやらまだまだ好感度が足りないようだ。
「いただきます」
まあ、仕方ない。切り替えて僕は食事に移る。顎、消化器官を
【グラビディ】
口の中でえぐりまわすように引力を発生させ、食べ物の租借を加速する。夜間のトレーニングの甲斐もあってか、昨日より早く食べられる気がするぞ!
「ぐふっ」
いだいっ!制御ミスった。舌が半分くらい抉れた。狭い口の中で魔法を使うには、思った以上に緻密にコントロールし続けなければいけない。と、とりあえず【ヒール】。
「……」
なにやってんだこいつ……?みたいな目でウルフィンさんがこちらを見ていた。すんません、ちょっとタイムを短縮できると思ったけど、ミスっちゃいまして……。でもまあ、何はともあれ結果オーライ。光魔法で傷は治るし、食事時間はけっこう短縮できた。
「ごちそうさま!」
いいタイムだ!早速朝のトレーニングに向かおう。
走り出す。今日のランニングは、【グラビディ】の引力を使って、自身の体を引っ張り上げることでさらにスピードを上げているのだ。結果、移動スピードは体感5割増し。着地をミスって何回か足首をくじいたりしたけど、光魔法があれば問題なし。むしろ、咄嗟に負ったケガを素早く回復して走り続ける良いトレーニング機会になった。
いいぞいいぞ。順調に実力が高まっているじゃないか。この調子で頑張ろう。
二日目の授業、一時間目。対魔物訓練の時間。召喚士の技能をもったジョン教官が召喚した魔物と戦う。他のクラスメイトはランクBの魔物とばちばちに激しくやりあっている。相変わらず彼らが何をやっているか分からないけど、時々現れる負傷者の傷のえぐさからして、多分とんでもないスパルタ訓練を行っているのではないだろうか。
ついでに、魔物含めて人類への敵対生物にはランクがある。
ランクEは
ランクDは凡人でも、専門の職業訓練を積んだら対処できるレベル。
ランクCは、専門訓練を積んでいない貴種でも対処できるレベル。凡人にはムリゲーである。
ランクBは、専門訓練を積んだ貴種で対処できるレベル。
ランクAは、一握りの上澄みである貴種が何とか対処できるレベル。もはや災害級である。
ランクS以降は、神話とか、世界大戦、大災害レベルの歴史に名が残るレベルのやばいやつだ。
さて、僕は昨日と同じように、クラスメイトとは別メニューの訓練である。流石にあのレベルの戦闘に混じったら命がいくつあっても足りない。手間をかけさせて、誠に申し訳ないっす。
「よし、じゃあ始めるよ」
ジョン教官は魔物を召喚した。スケルトン。ランクDの魔物である。ランクDの魔物と戦うのは初めてだな……。ちょっと離れた場所で、ミツルギ先生が待機しているのが見えた。セーフティーネットはばっちりだな!とりあえず全力でいくぞ!
【ミラージュ】
魔法を発動して、剣を構える。
カタカタと骨の体が揺らいだ。くる。
ズバッ
一瞬で、ミラージュの体が切られた。上手く位置をずらしていなかったら、これは胴体を両断されていたな。冷や汗。
【グラビディ】
相手の足を引力で地面に縫い付ける。
【ホーリーブラスト】
光の弾をぶっぱなす。光の概念的な攻撃。死霊系には特にダメージが大きいはず。
直撃。右半身がぶっとんで、かなりダメージが与えられているっぽい。今がチャンス。追撃。もう一発ホーリーブラストを撃って、とどめを刺す。
あ。
「っぶな」
スケルトンが持っている剣をぶん投げてきた。咄嗟に首をひねってかわす。反応が間に合わなかったら、顔面串刺しになっていた。
【ホーリーブラスト】
魔法を放って、スケルトンを消し飛ばした。まずいな、Dランク。基礎的な能力はあっちの方が断然上だった。おっかなくて、容易に近接攻撃を仕掛けられない。光属性の有利がなかったら、普通に死んでたな。剣がかすった頬からけっこう血が流れているけど、これくらいなら治す必要はないかな。というか頬よりも鼻血がやべぇ。三重に魔法を発動させているから、けっこう脳への負担がやばい。
「よっし、何はともあれ大勝利!」
「おー、じゃあ次は5体いくよー」
「え゛」
なお、この後右腕をぶっ飛ばされて、左わき腹を抉られたけど、何とか5体は倒した。その後、10体になって、何とか10体も倒したけど、20体にしやがった。うそでしょ……?という気持ちはおいておいて、これが多分冒険者科の普通だと思うので、なくなくトライ。15体くらい倒したところで、ミツルギ先生ストップが入った。すんません、普通に10回以上死にかけて、両手と片足がないんですが、もうちょっと早く助けてもらえませんでしたかね……?
ジョンから見て、その戦いぶりは異常だった。
(ふむ。スペックの割には上手く戦っている。とても器用だ)
あの程度の
(目で追うというよりは、スケルトンの動きを予測している。だから、時間が経つごとに安定感が出ている)
剣で捌き、ミラージュで攪乱し、シャドウダイブで囲まれないように不規則に動き回る。それに、グラビディの使い方が特に上手い。ほんのわずかな引力で相手の攻撃の軌道をずらしたり、逆に自身の攻撃の軌道を変化させたりして、攻撃にも防御にも非常に上手く活用している。
(魔法の多重発動に関しては、そこらの貴種よりも上手に扱えている)
これがこの子がこの幼さで冒険者科に乗り込んできた所以なのだろうか。このクラスで最も魔法が得意な生徒でも、ミラージュを発動させながらグラビディも発動して、ついでにヒールを使いながらホーリーブラストの発動はできない。彼は頭の回転がものすごく早いのだろう。スケルトンの動きの読みや魔法の多重発動からして、おそらく高度な演算スキルの持ち主。
(それに痛みに強い。貴種ではないのに、ここまで痛みに強いのは珍しい)
片腕を両断され、腹を抉られたというのに、一切ひるまず戦い続けている。それに、頬を掠めるようなスレスレの回避にも、怯えた様子を見せない。
というか見ているこっちの方が怖い。あと1センチ攻撃が横だった、今ので即死だったぞ。流石のミツルギもさっきよりだいぶ近い位置で、いつでも介入できるように待機している。
(……流石に20体はやりすぎたか)
救助するのは簡単とはいえ、スケルトン20体の相手は今の彼には荷が重かったようだ。囲まれ、どんどん逃げ場をなくされ、ついにもう片方の腕も切られた。
「まだだ」
ホーリーブラストが炸裂した。ほう。片腕を捨てて、退路を作った。中々思い切りのいいことをする。でも、その先も結局囲まれるぞ。それに、もう魔力が尽き始めている。
――失敗したら、死ぬだけだ。
一発逆転に繋がり得る、知識だけのまだ未習得の魔法への挑戦。彼の目には覚悟が浮かんでいた。
「陽光 死を退ける 聖者の輝き」
この戦闘が始まって初めて、彼は魔法の詠唱をしていた。
(すごいな、やるじゃないか……!)
彼は囲まれて、四方八方から攻撃が迫りくる状態を、ミラージュ、グラビディ、シャドウダイブ、ヒールを駆使しながら相手の猛攻をしのいでいた。さらなる魔法の詠唱をしながら。
「死者を弔い 光の理を示せ」
ドスッ
ついに詠唱が完成すると思った瞬間、遠距離から飛んできたスケルトンの矢が彼の喉を貫いた。
ザシュッ
矢を受け一瞬硬直した隙に、スケルトンの刃が彼の右足を叩き切った。さらに他のスケルトンが彼にとどめを刺そうと、心臓に向けて突きを放つ。ミツルギが動き出した、その刹那。
【グラビディ】
彼の体は空に舞い上がった。そして突き刺さった矢もそのままに、彼は無理矢理喉を駆動させる。
「【ホーリ゛ーバースト】!!」
聖なる光が炸裂し、彼の近辺にいたスケルトンたちが消し飛ばされた。
だがしかし、遠距離主体のスケルトンはまだ残っている。宙を舞う無力な少年に止めをさすために、スケルトンは矢をつがえる。
「もう終わりだ」
ミツルギがストップをかけた。一瞬の出来事。気づけばスケルトンの首が宙を舞っていた。
「相変わらず、無茶をする」
「す゛み゛ま゛せ゛……」
「しゃべるな」
いや、本当そうだよ。矢が喉に刺さった状態でよく話そうとするな。死ぬよ?