心が壊れた救済RTA走者のセカンドライフ   作:ササキ=サン

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第8話 おでかけ

 

 おでかけ、おでかけ、楽しいな!フランさんとの初めてのおでかけ。マーケット調査と友情を両立する素晴らしい行動だ。この世界は個の戦闘力が高すぎるので、現在は強くなることを優先しているが、経済もおざなりにしてはいけない。結局のところ、この世界でだって金で人の命を救うことはできるのだから。

 

「楽しそうだな、宝希」

 

「えへへ、フランさんと初めてのおでかけですからね!」

 

 初めての友達とのおでかけは最高だぜ!心がワクワクするよ!

 

 あ。魔導自動車が走っている。道路のインフラ整備は異世界も共通。この量が走っているということは、当然大量生産の技術は確立しているのだろう。ナンバープレートが存在するということは、地球と同様にこういった危険な乗り物を管理する行政が機能しているということ。人々が歩く道に舗装されたアスファルトがあるということは、前の世界と同様に、石油のような安価で豊富な素晴らしい建材がこの世界にも存在しているということ。自動で光が灯る電灯は、地下に引かれたエネルギーインフラ網があるということだし、地下を流れる水の音は管理された上下水道のインフラがあるということ。道路、街頭、上下水道等の公共財の存在は、税を集め、分配する機能が国家に備わっているという証明だ。やはり、事前の知識通り、この国の治世はかなり安定しているように思える。

 

「きょろきょろしてどうした?街の景色が珍しいか?」

 

「はい!田舎ボーイだったので、ハイテクな街並みには圧倒されるものがありますよ!都会はすごいな……!」

 

 見える景色の数々から、その背景に関する考察を張り巡らせる。インフラ、商業施設、街行く人々の服装。会話の内容。それらの全ての情報を取り込み、この世界の情報をアップデートしていく。

 

 あ゛。やばい。考えすぎてちょっと脳の血管が切れそう。相変わらず演算LV3のスキルに対して脳の耐久性が貧弱すぎる……!いつものように脳ヒールをしたいが、流石にこんなところで魔法を使っているとフランさんに怪しまれるので、少し演算の速度を落とす。

 

 おや。

 

 ひそひそ。ひそひそ。あれって、冒険者科の制服。すごい濃厚な神血の香り。あれが上位の貴種か。すごいな。ひそひそ。

 

 ほうほう。

 

「注目を浴びていますね、フランさん」

 

「まあ、私の家系はそういう家系だからな」

 

「うぉ、泰然自若……!これがスターの対応か……」

 

「いや、そんな大げさなものでもないぞ。人々の注目を浴びるのは貴種にとって珍しいことではない。この程度で一々騒ぐ必要はないということだ」

 

「かっけぇっす!憧れますね!」

 

「いずれ君もそうなるさ」

 

「そうですね!たくさん神血(イコル)の儀をやって、僕もいずれ貴種になってみせますよ」

 

「ふむ。凡人から一代で貴種に至る……普通は鼻で笑ってしまう夢物語だが、君ならできそうだというのが、末恐ろしいな」

 

「えへへへ」

 

 雑踏の人々の話の中から、配信者やSNSに関連する言葉が聞こえた。事前情報は知っていたが、やっぱり異世界にもこういったネット文化があるのは違和感があるね。

 

 うんうん。聞こえてくる話的にも、やはり異世界でも人々の悩みはあまり変わらないみたいだ。人間の悩みの9割はだいたい人間関係に起因する。この理屈は異世界にいってもあまり変わらないようだ。

 

 であるなら、配信者として大成を目指すのも、僕が目指す道の一つの手立てかもしれない。直接命を救う以外の、誰かにささやかな幸せをもたらすことにだって、大きな意義があるはずなのだから。

 

 街頭のスクリーンの広告でゲームの広告が流れていた。携帯のゲームなのだろうか。やっぱりハイテクな技術があり、街行く人々にも電子端末が普及しているような社会だから、当然こういったものもあるのだろう。

 

「そういえば、僕はあまりやったことがないんですけど、ああいうゲームも面白そうですね!フランさんはやったことがありますか?」

 

 聞いてみると、フランさんの顔が少し険しくなった。悪印象。どうやらゲームにはあまり良い感情は持っていないようだ。やっぱり、人一倍努力家な分、こういう娯楽に現を抜かすことはよく思っていないのかもしれない。

 

「私はやったことがないな……宝希、君はやってみたいと思うか?」

 

 嫌いだが、それを表に出すリスクを取るつもりはない。ただ、どう思っているのかは知りたいから、探りは入れているといったところ。

 

「うーん……」

 

否定するのは簡単。楽に共感を得られるだろう。でも、そういった立場で関わったらフランさんの視野が狭くなる気がした。今日校舎を出て分かったが、冒険者科という空間は隔離されている。一般課程の学生が通う場所から冒険者科の校舎、寮、訓練施設は大きく離れ、売店等も含めて、ある程度必要な施設が独立している。それこそ、今日のおでかけは僕が街に行きたいと言わなければ冒険者科の施設の外に出る必要はない程度に、あそこは何もかもが充実していた。

 

 交わる気がないのか、それとも交わらせる気がないのか。どちらが発端かは分からないが、貴種と凡人の間にある隔たりは大きい。

 

「それを楽しいという人が傍にいるなら、その人の気持ちを理解するためにやるかもしれないっすね」

 

「そうか……君は優しいな」

 

 うーん。なんかもにゃってる様子。優しい。悪くはない。でもなんか嫌。そんな感じだろうか。これはちょっと気持ちを吐き出させた方がいいかな。

 

「他の冒険者科のみなさんはゲームとかしているんですか?」

 

「していないな。そんなものをやっている暇があるなら、休憩をとるか鍛錬に励むか、実戦に出るかの3択だ。冒険者になるような人で、娯楽にかまけているような人はほとんどいないよ」

 

 そんなもの……ね。出たな、このナチュラルに凡人を見下す貴種面ちゃんめ……。相変わらず人種差別的思想がチラチラ漏れ出てやがる……!でもまあ、ぶっちゃけるとそうなるのも仕方ないかとは思う。毎日のように死にかけながら訓練して、常人なら一か月は寝込むような神血(イコル)の儀を欠かすことなくやり続けているのが貴種であり、フランさんだ。そういう生態をしているのなら、日々SNSであーだこーだやったり、ゲームで遊びながらぎゃーぎゃーしていたりする人たちを見ると、もっとまじめに自分を鍛えろよと言いたくもなるのだろう。

 

 うーん、根深い問題だ!解決できる気がしないし、したらしたでそれは別の問題を生むから面倒くせぇ!僕とフランさんだけの対話の中では、この意識の解消は無理そうだぞ!もっと光属性のいい感じのゲーム好きな人とかと交流を取って、ちょっとずつ見直すとかの展開を踏まないと、娯楽への嫌悪感は取れなさそうだな。貴種のみなさんはストイックすぎて困っちゃうぜ。

 

 急ぐ必要はないか。それでフランさんが困ることはないだろうし。ただ、もし僕が誰かを助けるという回り道に勤しむところをフランさんが見ることになったら、この差別意識が起因して、ひと悶着あるかもしれないなと感じた。

 

「それに、君も自分が楽しむためにゲームのような娯楽をやる気は欠片もないだろう」

 

 おや?フランさんの青色の瞳と目が合った。いやまあ、目は頻繁に合っているんだけど……。ちょっと雰囲気が変わった。攻守が入れ替わったような嫌な感覚。

 

「ふふ、私も少しずつ君のことを理解できてきた気がするよ」

 

 ああ、そうだ、と。フランさんは嬉しそうに言った。

 

「君の瞳の奥の黒が、そんな生ぬるいものを許すはずがない」

 

 バサッ。フランさんは白い翼を展開した。普段は邪魔だから出していないが、本気を出す戦闘時に展開する、彼女の家系が貴種になるにつれて身につけた天使のような翼。

 

 気づけば、僕は見知らぬビルの屋上に運ばれていた。犯人は間違いなくフランさん。意図はおそらく、人目のつかない場所に来たかったことだろうか。そして人目のつかない場所に来たということは、人目のつかない場所でやりたいことができたということ。

 

「なあ、宝希」

 

 花のような甘い香りが鼻孔をついた。強制的に安心感を抱かせるような、種として人に好かれることをデザインされたような、上位種(フランさん)の香り。

 

 視界いっぱいにフランさんの顔が広がる。僕はフランさんにお姫様抱っこをされ、顔を覗き込まれている。きゃっ、顔がいい……!惚れちゃいそうだよ……!

 

「私は初めて君と会った時に、君の瞳の奥の黒に一目ぼれしたんだ」

 

 やだ、急な告白……!?ちょっと困っちゃいますよ!?

 

 それにしてもこの展開は予想外だ。僕の心理や行動の予測は、あくまで前世に関わった地球の人間がベース。根本的に似ているところは多くても、魔力(マナ)(オーラ)神血(イコル)があるこの世界の人間の行動は予測しきれないことが多々ある。ちょっと、冷や汗が流れた。

 

「君は自分自身に対して間違いなく良い思いを抱いていないのだろうが」

 

 フランさんは微笑んだ。

 

「私は君の黒い心を好ましく思うよ」

 

 ……。

 

「まあ、演技が上手くなったせいで、あの黒が見れなくなったのは少し悲しいんだけどな」

 

 ……。

 

 ……。

 

「趣味が悪いですね!フランさん!」

 

「はあ……そういうところだぞ、宝希」

 

「なんのことかよく分かりませんね?」

 

「まったく、分厚い仮面だ」

 

「えへへ!これでも笑顔には定評がありますから、ぺかー!」

 

「鬱陶しいくらい眩しいよ。少し曇れ」

 

「友人にいう言葉ですか……?それとも特殊性癖?受け止めるのはちょっとしんどいんですけど……」

 

「ほう、私に性癖の話をするか。ローゼンベルクの性癖はけっこうやばいぞ。伴侶に尽くした過ぎて、伴侶を積極的に無能にして、閉じ込める性癖だ。そして伴侶のために二倍神血(イコル)の儀に耐える。聞く限り、母と祖母と曾祖母というか……代々ローゼンベルクの女性はそんな感じだった」

 

「急にやばい話を暴露するの止めませんか?リアクションに困るんですけど」

 

「許せ。困惑で君の仮面が少し剥がれるのは……見ていて楽しい」

 

「これもまたリアクションに困りますね!」

 

「母親はよくこんな感じで、父様を翼で包んで、自分だけを見れるように、自分の香りだけで満ちるように」

 

「脈絡もなく意味不明な話を実演しないでいただけますか?」

 

 

 

 一応、この後僕は美味しいご飯を食べることができました!フランさんと親交を深め、人々の営みの情報を取るという二つの目標は大いに達成できたと思うけど、なんか一つ目がちょっとよく分からない方向に転んでいる感もある。

 

 フランさんが喜んでくれているならいいけど、同時に背筋に走る嫌な予感も、決して無視してはいけないものだと感じる。今後のフランさんとのコミュニケーションは、より慎重に、計算を尽くして接していく必要があると感じた。

 

 そんな日の夜。僕はいつも通り自主トレーニングをしていると。

 

 ぐにゃりと、空間を曲げる魔力。

 

 これはお師匠の魔力?

 

 気づけば僕は見知らぬ部屋に立っていた。外からわずかに聞こえる喧噪。人々の営みの音だ。ここは少なくとも、以前のお師匠の住居ではない。

 

「久しいですね、馬鹿弟子。ひとまず五体満足の生を送っているようで、安心しました」

 

 目の前には以前と変わらないお師匠の姿。まじ……?ガチで予想外。

 

「お……」

 

「?」

 

「お師匠が引きこもりから脱却した……!?」

 

 ズドン。僕は魔力の塊をぶち当てられ、ぶっ飛ばされた。ケガはない。お師匠のツンデレ風味の照れ隠しである。つまり、子弟間のいつものコミュニケーションだ。

 

「失礼ですね、ぶっ飛ばしますよ」

 

「もうぶっ飛ばしています。お師匠」

 

 あらそうですか。お師匠はすっとぼけた。わざらしいすっとぼけ。あ。この流れはまずい。

 

「あなたに私のいう言葉を聞く耳があることに驚きました」

 

 厭味ったらしい言葉。それは多分伏線だ。やばい。これはバレている。

 

「さて、正直に言ったら許してあげますよ。あなたは何個、私がやるなといったことをやったのですか?」

 

「……えへへ」

 

 ど、どうしようかなこれー!

 




おでかけと言いながら、あんまりおでかけをしていないバグ。
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