「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。   作:羽黒楓

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第10話 塩気

 さながら、闘技場(コロッセウム)のようだった。

 校庭を囲むようにして生徒や教師が立っている。

 その校庭は、聖女カロミアによる防護魔法でぐるりと囲われていた。

 

 グラウンドの真ん中に立つのはカロミア。

 そしてその隣には剣を持った俺もいる。

 うーん、剣かあ。

 あんまり得意じゃないんだよな。

 できれば徒手格闘の方が得意なんだけど、それは人間相手の話で、さすがに魔物相手に素手で戦うのは無理だろう。

 

 剣ってけっこう重く感じるんだよなー。

 なにしろ筋トレ民は、重量のある物体を持つとき、なるべく筋肉に負荷をかけるようにする習性があるからなのだ。

 ブンブンと剣を振ってみるが、どうしても筋トレの時みたいに重さを意識してしまう。

 そんな俺に、生徒たちの視線が集中していた。

 

「なんでエゼルなんだ?」

「くじ引きで決めたって言ってた」

「そうか、俺じゃなくてよかったぜ。魔物なんて怖いからな」

「くじ引きなら仕方がない」

 

 絶対に仕方がなくないと思う。

 ……根拠はないけど確信があるぞ。

 聖女ほどの魔力……じゃない神聖力があれば、絶対くじ引きにインチキを仕込めるよなあ。

 もはや神聖でもなんでもない力だけどな。

 

「そもそも生徒を魔物と戦わせるなよ!」

 

 隣にいるカロミアに俺は文句を言った。

 

「だって、エゼル君がかっこよく魔物を倒すところ、みんなに見てもらいたいもん。その噂はきっと都まで届くよ」

「いや、別に俺はそんなの望んでないんだけど」

「いいからいいから! じゃあ、魔物をここに呼ぶね!」

「言っておくけど俺は絶対変身とかしないからな」

「わかってるわかってる。私がきちんとバフ聖術でエゼル君をパワーアップさせてあげるからさ。ほんとにピンチだったら私が爆殺するし」

 

 俺は半径5メートルを灰にしたあの聖術を思い出してぞっとした。

 

「いいか、俺を巻き込むんじゃないぞ」

「大丈夫だって! 私は実戦経験も豊富なんだから。勇者マインが王都のはずれにできたダンジョンを攻略したとき、私も同行したんだよ。勇者マインにいっぱい褒められちゃった」

 

 その話が有名なのはベルーガから聞いた。

 なにしろ、俺の実家は情報の伝達が遅い田舎で、しかも一族全員筋トレのことしか頭にないので王都の噂話など誰も興味ないのだ。

 

 カロミアは俺たちを見ている生徒たちに叫ぶ。

 

「みんなー! これから魔物をここに呼び出すよ! 聖術で守られてるから安心してね! 魔物をどう倒すか、これも授業の一環だから、よく見ていてね! んでそれをみんな家族や友だちへ手紙を書いて知らせること! いいね!?」

 

 手紙ってなんだよ!

 それで俺の噂話を広めようって言うのかよ!

 なんか目的と手段が入れ替わっているというか……。

 カロミアはタブレットを手に持ち、画面をタップした。

 

 「じゃあ、呼び出すよ! グンロ・ドバ・ミナエール。さまよえる魔物よ、餌はここにある。さあ我が元へいざなわれてこの地に来い……『餌罠(ベイトトラップ)!!』」

 

 すると、俺たちの前方、10メートルくらいになにか影のようなものが産まれた。

 その影はすぐに実体化する。

 それは、子牛だった。

 本物と見まごうほどのリアルな子牛。

 ってか、本物か?

 

「なんだこれ?」

「聖術で作った幻像だよ。しかも遠くからでも魔物をおびき寄せられるオーラを発しているの。魔物の本能に働きかけるから、めちゃくちゃおいしそうに見えてるんだよ」

 

 なるほど、これで魔物を釣るわけか。

 しばらくすると。

 低音の地響きみたいな音が連続して聞こえてくる。

 

「足音が近づいてくる……来るよ! ダラ・ミラ・ダブリップ! 身体強化(バフダイナミクス)!」

 

 カロミアが俺にむけてバフ聖術を放った。

 俺の身体がまるで電気治療器みたいに一瞬だけビリビリと震動した。

 それが収まると、なんか俺の身体が軽くなっている。

 

「全体的なバフ魔法だよ。あとはそれで戦って!」

「いや、これだけで戦えるのか? カロミアも攻撃してくれよ」

「もちろんだよ。私は後方にいるから、前衛としてかっこよく戦ってて! ほどよいところで爆殺して、エゼル君がタンク(盾役)やってくれたおかげって言いふらすから!」

 

 ……なんだかなあ。

 出来レースじゃん、こんなの。

 まあいい、普段の筋トレの成果をここで見せてやるぜ!

 

 俺は剣を構えて魔物が来るのを待ち構える。

 足音はだんだんと近づいてきて――。

 そして、そいつが現れた。

 

 あまりのスピードの速さに、最初それが何かはわからなかった。

 黒い球体が子牛の幻像に襲い掛かってきたようにしか見えなかった。

 そいつはぶっとい黒い腕で子牛をぶん殴り、それが空を切った。

 実態のない幻像なんだから当たり前だ。

 そこでやっと、そいつがどんな魔物なのかがわかった。

 

「……熊だ! なんだこいつ?」

 

 俺たちを遠巻きに見ている教師の一人が叫んだ。

 

凶爪熊(グラオザーム・ベア)だ! この辺りで人を食い殺しまくってる魔物だぞ!」

 

 なるほど、熊の化け物ってわけか。

 そいつは全長5メートル、真っ黒な体毛に覆われているヒグマみたいな見た目をしているが、その爪は50センチほどもあって赤黒い不吉な輝きを放っている。

 

「グオオオオオオ!」

 

 騙されたことに気づいたのか、怒りの咆哮をあげる凶爪熊(グラオザーム・ベア)

 

「熊か。熊には前世で世話になったからな! やる気が出てきたぜ! ぶっ倒してやる!」

 

 俺は前世、熊に食い殺されたのだ。

 その恨み、ここで晴らさせてもらうぜ! 

 よっしゃ、魔物討伐のモチベーションがビンビンに湧いてきたぜ!

 

「カロミア、俺は突っ込む! いいとこで爆殺してくれよな!」

 

 俺は後ろにいるカロミアを振り向いてそう言った。

 そして剣を振りかぶり、凶爪熊(グラオザーム・ベア)に突っ込もうとして――。

 二度見した。

 何を、ってカロミアをだ。

 カロミアは真っ青な顔をしていた。

 膝がガクガク震えている。

 

「く、熊……熊は……怖い……」

 

 タブレットを操作しようとしているその指も震えていて、うまくタップできないようだった。

 

「熊……やだ……ムラキさんが……食べられちゃって……血が……」

 

 ガタガタ震えながらタップするカロミア、しかしちゃんとタップできていないのだろう、タブレットは変な音声を出す。

 

「確認。料理の塩気を増す聖術を発動します。よろしいですか?」

 

 よろしくねえ! 

 おいおい、これじゃ俺とカロミアが塩気たっぷりでおいしく熊に食べられちゃうぜ!

 

 

 

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