「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。   作:羽黒楓

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第11話 カロミアの方がおいしそう

 どうする?

 頼りのカロミアは熊に対するトラウマで立ちすくんでいる。

 いや、大丈夫だ。

 俺には鍛錬を続けた筋肉があり、それはカロミアの聖術でパワーアップされている。

 こんな熊の化け物、俺一人でやっつけてやるぜ!

 

 俺は剣を振りかぶったまま凶爪熊(グラオザーム・ベア)に突っ込んでいく。

 

「グオオオオオン!」

 

 熊が雄叫びを上げ、その長い爪で俺に攻撃を仕掛けてきた。

 格闘ゲームで言うなら1フレームもないほどのスピードだ。

 だがカロミアの聖術で、俺の動体視力もとんでもなくパワーアップしていた。

 その動きを見切り、ギリギリのところでかわす。

 そして空を切った熊の腕に剣を振り下ろした。

 

 よし、取った!

 そう思ったのだが。

 なんと、甲高い金属音とともに、俺の剣ははじき返されてしまった。

 なんという硬さだ。

 こりゃ弱点をつかないとダメかもしれん。

 

 いったん飛び退る。

 っていうかそれだけで2メートルは距離を取れた。

 さすが聖女のバフ聖術だ、身体能力の上がり方がハンパない。

 

「グオオオッ」

 

 今度は熊が頭を俺に向けて、突進してきた。

 見極めろ、ぎりぎりまで引き付けるんだ!

 

「そりゃ!」

 

 俺はまるで闘牛士のようにひらりと体をかわすと、今度は凶爪熊(グラオザーム・ベア)の背中に剣を突き立てる。

 

 ガキィン! とまたもや金属音、全然刃が通らない。

 くそ、やっぱり爆殺してもらうしかないんじゃないか?

 

 カロミアを振り返ると、カロミアは熊に対する恐怖でもう立っていることもできずへたりこんでしまっている。

 

「また……またムラキさんが食べられちゃう……私に逃げろって言って……内臓が飛び出て……」

 

 おいおい、人の死にざまをそんな風に反芻(はんすう)するなよ……。

 っていうか、これちょっとマズいんじゃないか?

 

 俺たちを見ている教師や生徒たちはというと、

 

「おお……さすが聖女様。座り込んで余裕だな」

「聖女様にかかれば座っても魔物を殺せるんだろう」

「エゼルはよくやっているが、苦戦しているんじゃないか?」

「大丈夫だろ、ほんとに危なかったら聖女様が一撃で倒すだろ」

 

 などとのんきなことを言っているようだった。

 違うんだ、マジでけっこうピンチなんだってば!

 

「くそ、来やがれ、テディベア野郎!」

 

 俺はそう言って今度は俺から熊に突進した。

 剣を凶爪熊(グラオザーム・ベア)の眉間に向かって突き刺そうとする。

 それを熊はこともなげに払いのけると、また俺に殴りかかってきた。

 俺はそれをすんでのところでかわす。

 そんな攻防が続いた。

 

 数分間、それを繰り返していると、バフ聖術がかけられているとはいえ、俺の足もガクガクし始めた。

 なにしろ筋トレ民は無酸素運動ばっかりしているから、長期戦には不向きなのだ。

 ボクシングなら3分間ごとにインターバルがあるけれど、実戦じゃ休む暇もないしな。

 それに比べて凶爪熊(グラオザーム・ベア)のスタミナは無尽蔵に思えた。

 いつまでも攻撃してくるスピードは変わらない。

 

「グオオオンッ!」

 

 ついに、凶爪熊(グラオザーム・ベア)の突進を真正面から受けてしまった。

 俺の身体は誇張抜きに5メートルほど吹き飛ばされた。

 砂埃が舞う。

 後頭部を打ってしまい、ほんの一瞬だが意識が飛んだほどだった。

 バフ聖術がなかったら、命を失っていたレベルだぞ。

 

「くそ……!」

 

 なんとか起き上がるが、もう俺に体力は残っていなかった。

 

 戦闘能力を喪失した俺に凶爪熊(グラオザーム・ベア)は興味を失ったらしい。

 こんどはへたり込んでいるカロミアの方にゆっくりと近づいていく。

 

「おい! 俺はこっちだ! かかってこい!」

 

 俺は叫ぶ。

 だが凶爪熊(グラオザーム・ベア)は無視してカロミアに向かって歩いていく。

 

「俺の方がうまいぞ! 俺を食え!」

 

 とはいうものの、それなりに筋トレしている俺はきっとスジばっていて、どっちかというとカロミアの方がおいしそうだよな、などと変なことを考えてしまった。

 そもそも俺の姿は舞い上がった砂埃でよく見えていないようだった。

 

「グルルルルル……」

 

 熊は、いまやカロミアの1メートルほどまで近づいていた。

 駄目だ!

 カロミアが食われちまう!

 

 しょうがない、ほんとは嫌だったが、聖拳少女(トゥインクル・スマッシャー)に変身するしかない!

 全校生徒の前で変身は避けたいところだったけど、カロミアの命が危ないのだ、どちらを選ぶべきか、比較するまでもない!

 

 俺は手の平を上空に向けた。

 

 それと同時に震える指でタブレットをタップするカロミア。

 そのとき、カロミアはファインプレーを見せた。

 怯え切って何も考えられない状態で、しかし、聖術の『使用履歴』をタップすることで、ベストの聖術を発動したのだ。

 

餌罠(ベイトトラップ)!」

 

 その瞬間、カロミアと凶爪熊(グラオザーム・ベア)の間に幻像が生まれた。

 その幻像は。

 ――俺だった。

 カロミアは無意識のうちに、自分を守ってくれる存在として、俺の姿を目の前に生み出したのだ。

 全員の視線が、カロミアの方を向いていた。

 突然現れたエゼル()の姿に、

 

「ん? いつの間に?」

 

 と呆気に取られているようだった。

 

 その隙に俺は叫ぶ。

 

「女神の力を我に与えよ! ミラクル・ゴッデス・トランスフォーム!」

 

 砂埃の中、シュバッ! という光に包まれて、わずか一秒の間に俺の身体が変化していく。

 長いピンク色の髪の毛、ピンクと水色の戦闘ドレス、ヒールの高いブーツ、細い腕、細い足、細い腰、胸には七色に光る宝石。

 

 聖拳少女(トゥインクル・スマッシャー)ミスティレインボーの見参だ。

 カロミア、今俺が助けてやるからな!

 

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