「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
「あ、あの……俺はベルーガ・スパイクって言います。エゼルの親友です」
まだ知り合って一か月もたっていないベルーガが、俺の親友ヅラして俺に話しかけてきたのだ。
まあこいつはいい奴だから親友なら親友でいいんだけどな。
そんなことより、俺は早くどこかに隠れたかった。
なにしろ、いつ変身が解けるかわからないからな。
だからこの場を立ち去ろうとしているのだけど、生徒たちが俺に群がってきてしまった。
中でもベルーガは、顔を真っ赤にして俺を見つめ、なんだかポーッとした表情をしている。
「ミスティレインボーさん、あなたは……エゼルが召喚した精霊様ですか?」
聞かれて、俺は答える。
「詳しくは言えないぞ……言えないわ。エゼルに迷惑がかかってしまうもの」
女言葉を使っている自分にゾッとするぜ。
俺は格闘ゲームのロシア出身プロレスラーみたいな男の中の男を目指しているんだ!
こんな言葉遣いしてたらどうにかなっちまいそうだぜ。
ベルーガは呆けたような笑みを浮かべて俺に言う。
「でも……人間とは思えない美しさと強さで……」
「それ以上は聞かないで。あと、エゼルにもそのことは決して尋ねたりしないこと。もし問い詰めることがあるようなら、あなたはエゼルの敵……つまり私の敵だわ」
俺がそう言うと、ベルーガはさすがに動揺したようで、ワタワタしながら言う。
「も、もちろん、聞きません! エゼルは俺の親友ですから!」
頼むぞ、親友。
めんどくさいのは嫌だからな。
と、思ったのに。
ベルーガは何かを思い出したように、「あ!!」と叫んだ。
「あいつの部屋にあった女物の下着! もしかしたらミスティレインボー様の下着ですか!?」
そのセリフに周囲の者がざわついた。
ちょちょちょ大声でそんなことを言うな!
誤解されるだろうが!
「エゼルの部屋にミスティレインボー様の下着が!?」
「え、なに、二人付き合ってるってわけ? 召喚じゃなくてただ彼女を呼んだだけなのか!?」
待て待て待て待て!
違う違う違う違う!
俺は慌てて言った。
「違うわ、あの下着は私のではないのよ。あれはエゼルので……」
「じゃあやっぱりあれはエゼルの女装用!?」
「いやいやいや、それも違くて! そもそもあんな小さなパンツ、エゼルが穿けないでしょ」
「『あんな』ってことはミスティレインボー様もあの下着を見たことあるってことじゃないですか! じゃあやっぱりエゼルとミスティレインボー様が付き合ってるっていうことか」
そこに割り込んできたのはカロミアだった。
「違う違う! エゼル君はミスティレインボーちゃんと付き合ってない! あれは私の下着なんだよ!」
くそ、やっぱりお前か!
犯行を自供しやがって!
カロミアのセリフでさらに周りがざわついた。
ベルーガも驚いた顔で、
「なぜエゼルのタンスにカロミア先生の下着が!?」
そこに、老薬師である教師のドラノールが言った。
「聖女様、寮内での不純異性交遊は教師といえども退学ですぞ!?」
「違います! 私聖女だし、そんなことまだしてません! チャンスもなかったし!」
カロミアが叫んだ。
それを聞いたドラノールがさらに尋ねる。
「『まだ』!? 『チャンス』? どういうことですか、聖女様!?」
…………なんだこりゃ。
どうにかしてこの場を治めなきゃいけない。
どうしよう、どうしよう?
そうだ!
「みんな落ち着いて!……あれは、カロミアの下着なのよ」
俺はなるべく落ち着いた声で言った。
「カロミアが漏らしちゃったからエゼルに洗濯させただけのこと。あれは不幸な事故だったのよ」
そんなことを言われたカロミアは顔を真っ赤にしてなにか抗弁しようとしていたが、これを否定すると退学になりかねないので口をパクパクさせたまま、何も言わない。
「……変だな。謎が深まりました。ブラジャーもですか? おかしいですよね?」
ベルーガが聞いてくるが、
「上下一緒に洗わないと色が違ってしまうでしょう! 男は黙ってなさい!」
俺が叫ぶと、シュンとしてうつむいてしまった。
すまんな、親友。
と、思ったら、ベルーガはめげずにパッと顔を上げて言った。
「そうか、謎は解けた! ミスティレインボー様、胸ぺったんこですもんね。あのブラジャー、馬鹿みたいにカップがでかかったからミスティレインボー様の物ではありえない。男のサイズでもなかった。俺が観察したところ、カロミア先生は着やせしているけどめちゃくちゃ胸がでかいじゃないですか。つまり、あれはカロミア先生のもの……。ということは……エゼルがカロミア先生の下着を盗んだ!?」
「謎が解けてねえ!」
思わず超大声で叫んでしまったぜ。
落ち着け落ち着け。
一度大きな深呼吸をして、コホン、と咳ばらいをした俺は、穏やかな笑みを作って言った。
「そういうわけで、不純異性交遊などありませんでした。エゼルも下着泥棒なんてやってません。漏らしたカロミアが全部悪いのです。カロミアも恥ずかしいでしょう。みなさん、このことは以後、話題にしないように。そんなことをしたら私が女神様と精霊様に言いつけるから死後地獄に行くでしょう」
それを聞いてやっとみんな静かになった。
その時だった。
俺の身体がモゾモゾし始めたのだ。
やばい、変身がとけそうだぞ!
「そろそろ帰らなければならないわ。皆はあの熊の死体を片付けておいて。魔物の死体はよくないものを運んでくるのは皆も知っているでしょう?」
まあ、言うまでもない常識ではあるんだけどな。
「では、私は行くわ。また必要な時がきたら、エゼルが私を呼ぶでしょう」
そう言って、俺は人込みをかき分けるようにしてダッシュした。
そのまま校舎の裏にある物置小屋に入り込み、そこで変身が解けるのを待つことにしたのだ。
「あれ、そういえばエゼルはどこ行った?」
「ミスティレインボー様に夢中で忘れてたわ。トイレかしら?」
「うんこでもしてるんだろ。ほっとこうぜ」
最後のはベルーガの声だ。
おい親友、もう少しなんとかならんか。
★
聖女と、エゼルという少年が呼び出した不思議な少女が魔族と魔物を討伐した、という噂は、生徒たちが故郷に宛てた手紙で、あっという間に国中に伝わった。
娯楽の少ない時代にあって、噂話は国民にとって大きな楽しみだったので、その伝播するスピードもすさまじいものがあった。
そしてついに、王国の君主たる女王の耳にもそれは届くことになったのである。
玉座に座るうら若き女王は、報告書を読んだあと、部下にこう命じた。
「召喚士ということですか……? 今は国を守るための戦力はいくらでも欲しいときです。この者も、勇者候補の名簿に載せておきなさい」
★
それとほぼ同時に。
不死の魔族、魔法使いの亡霊であるレイスが、人間から奪った荷物を確認していた。
実行犯のゴブリンどももそれを見ている。
「ん? これは……」
荷物の中には手紙の束があった。
人間どもの情報収集は重要事項である。
一通一通、丹念に中身をチェックしていく。
その中に、気になるものがあった。
リョーウ神聖学院の生徒から家族に宛てた手紙だった。
「……聖女と正体不明の女が