「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
翌日、聖術の授業。
広い教室の中で教鞭をとるのは、もちろん聖女であるカロミアだ。
「従いまして、治癒聖術というものは女神様のお力によって、肉体を本来あるべき姿に再生するものです。そこで問題になるのがどこまで治癒できるかということです。術者の力量、そして被術者の状態も条件になります。例えば子供のころに失った腕を大人になってから再生するなどということは、通常は不可能となっています。私にも無理です。ところが、きわめて少ない成功例ですが、高レベルの術者が複数人同時に種類の違う治癒聖術を使用することによって……」
カロミアの語り口は同い年とは思えないほど流暢で、とても耳に入りやすいものだったけれど、俺は別に聖職者になりたいわけでも治癒魔法師になりたいわけでもないので適当に聞き流していた。
そんなことより、どうしても気になることがあった。
「みなさん、わかりましたか?」
カロミアが生徒たちに聞く。
「…………」
生徒は誰も何も答えない。
なぜなら、その異様さにみんな気づいていたからだった。
「ん? どうしたの?」
首をかしげるカロミア。
そこに、ついに声を上げる生徒が現れた。
フェリスだった。
尻尾のようなポニーテールがなんだか変な揺れ方をしている。
本人も動揺しているのだろう。
「あのお、先生……」
「なにかな?」
「そのケモノ耳、なんですか?」
今日のカロミアは、なぜか犬みたいな耳の飾りを頭に着けていたのだ。
それだけじゃない。
スカートからは尻尾が生えている。
よく見ると、犬そっくりなヒゲまでほっぺたにくっつけていたのだ。
「んー? ただのおしゃれだよ?」
「いや、そんなおしゃれ、見たことも聞いたこともない……」
カロミアは俺の席までツカツカと歩いてくると、スカートから伸びる尻尾(近くで見ると作り物だとわかる)を俺の机の上にぽふっと置いた。
「ね、エゼル君。……いいでしょ?」
なに言ってんだこの子。
頭は大丈夫か?
「ふふふ、エゼル君、エゼル君ならわたしのしっぽ、さわってもいいんだよ?」
「あの、意味がわからないんですけど……」
「いいのいいの。私は犬にもなれるって、エゼル君はそれだけわかってくれたらいいんだよ」
教室内の空気がとんでもなく変なことになってるぞ。
正直、犬のコスプレにしてもあまり出来がよくない。
でも、俺たちの成績はこのカロミアが握っているからなあ。
それなりの成績がないと軍隊にも入れない。
そしたら実家からの仕送りもなくなって餓死する未来しかない。
「………………はい、わかりましたよ先生」
俺が言うと、カロミアは満足そうにうなずいた。
「私の言葉はちゃんと聞いてね。いつでも、どんなときでもだよ」
「せんせー、なんか私思うんですけど、ちょっとエゼル君をひいきしすぎじゃないですかー」
フェリスが棒読みで声をあげた。
「いいえ、ひいきではありません。目をかけてるのは確かです。でもそれはエゼル君の能力を正当に評価したまでです。そうだね、みんなにもその証拠を見せてあげるよ。エゼル君がどんなにすごいか。エゼル君、放課後、私と一緒にきてね。これは教師としての命令だから」
★
放課後、俺とカロミアは学院から馬に乗って山の方へと向かっていた。
金色に赤いメッシュの入った長い髪の毛が風に舞っている。
うん、カロミアは髪の毛がきれいだから、馬上でそれをなびかせると絵になるよなあ。
スカートから伸びるつくりものの尻尾も気になるけど。
ちなみに耳はさっき風に乗って飛んで行ってしまっていた。
まあ馬に乗ればなあ。そうなるよなあ。
俺は前を行くカロミアに話しかける。
「おい、どこに行くんだよ、早く帰って筋トレしたいんだけど」
「筋トレどころじゃないよ、私は怒ってるんだよ」
カロミアは振り向かずに言う。
「はい?」
「こないだ、私が漏らしたってことにしたでしょ?」
「あ、そっち? 意味不明な犬コスプレの話じゃないんか」
「それも怒ってる! せっかく一夜漬けで素敵な耳と尻尾をつけたのに、なんで喜ばないの!?」
「なんで俺がそれで喜ぶんだよ!」
「あと、漏らしたってなんなの! せっかく王都から派遣されてきた素晴らしい能力の聖女、ってみんなに思われてたのに、膀胱がガバガバな女だって思われちゃってるよ!」
「悪かったよ、ほんとに。でもしょうがないだろ、俺とカロミア二人とも退学になるとこだったんだぞ! そもそもおしっことは限ってないだろ」
「うんちってこと!? 私、もしかしてうんち漏らしたって思われてる!? 尊厳! 私の尊厳の危険がピンチだよ! 私、膀胱もお尻もガバガバじゃないし! むしろきついよ、キツキツだよ! なんなら便秘気味だよ!」
なに言ってんだこの聖女。
っていうか小学生じゃないんだからうんちだのおしっこだのとよくもまあ……。
だんだんこいつの性格もわかってきたぞ。
「今日帰ったら、私が漏らしたのはおしっこだってみんなにちゃんと言っておいて!」
「いいのかそれで」
そんなバカな会話をしながらも、馬は山の中腹まで来た。
山は広葉樹に覆われていたが、その場所は伐採されたのか開けていて、遠くまでよく見えた。
俺たちは馬にまたがったまま会話する。
「で、なにするんだよ」
「エゼル君、あれ見て」
カロミアが隣の山を指さす。
距離は数キロ先だろうか。
「なんか、洞窟の入り口みたいなのがあるな」
「うん、あそこは低級な魔物の巣になっているんだって。ゴブリンとかコボルドとかがいるらしいよ。で、街の人々を襲おうとするもんだから、この辺は護衛なしじゃ歩けないんだって」
「そういや、フェリスもこの山で襲われていたな。あいつ、東の出身だからこの辺に詳しくなかったんだろうな」
「
「ヤな予感がするな。なんだよ?」
「あの巣、壊滅させましょう」
「はあ!?」
「そうすればまた武功ポイントがたまるし。あのね、はっきり言うけど」
「なんだよ」
「うんち漏らしたって思われてる私は、もうエゼル君しかお嫁にもらってくれないんだから。早く出世しないと!」
「うんちじゃなくておしっこだってみんなに言っとくからそんな危ないことやめようぜ」
「いいからいいから! 行くよ!」
カロミアは馬にムチを打ってさらに進む。
仕方がない、ついていくか。
なにしろ俺たちは魔族である
ゴブリンだのコボルドだの程度なら余裕だろう。
……熊さえいなければな。