「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
そして、俺たちは洞窟まで1.5キロというところまできた。
あまりに危険なので、付近の人間は絶対に近寄らないような場所である。
そこはゴツゴツしている大小さまざまな石が落ちていて、足場が悪い。
足を引っかけないように気を付けないとな。
目を凝らして洞窟の方を見ると、その入り口付近には、汚い深緑色をしたゴブリンが見張りで立っていた。
こちらに気づいて、俺たちを指さしている。
「しょうがない。この辺なら誰にも見られないだろうし、変身して戦うか」
「うん。そのために来てもらったんだもん。あの洞窟を破壊するほどの聖術は、詠唱に数分かかる……その間、私は完全に無防備になっちゃうんだよ。通常の破壊聖術でも20秒はかかる」
「そうかその間俺が守ってやらないといけないんだな」
「そうなの! それに、この先、私たちは魔物だけじゃなくてもっと強い魔族とも戦わなきゃいけないでしょ? 魔物程度ならともかく、魔族の物理攻撃をブロックするだけの聖術も私は使えない。絶対にエゼル君の護衛が必要なの」
なるほどな。
それならやってやるか。
俺は手の平を空に向かって差し出し、叫んだ。
「女神の力を我に与えよ! ミラクル・ゴッデス・トランスフォーム!」
いつものように俺は華奢な
ふん、筋肉のない少女になるなんて、まったく不本意な能力だぜ。
パシャ。
何かの音が聞こえた。
見ると、カロミアはタブレットを俺に向けている。
「おい、お前……もしかして、今写真撮った?」
「便利でしょ、これ。ふふふ……女の子姿のエゼル君も……すごく素敵……」
おいおいおい!
今、敵前にいるんだぞ!
いくらなんでも余裕ぶっこきすぎである。
そう思っている間にも。
パシャパシャパシャ!
連続でシャッター音が鳴る。
「おいおい、いい加減にしてくれよ」
「ふふ。私のあの下着……エゼル君にも似合いそう……」
「やめてくれ」
「その服の下、どうなってるの?」
「俺にもわからん。別に興味もないしな」
もしボディビルダーみたいな身体に変身したのなら、ウッキウキで身体の筋肉をすみずみまで堪能するだろうけどさ。
こんな、おっぱいのちっちゃい女の子じゃあなあ。
せめてグラマラスボディだったら少しは探求心が湧いたかもしれんが。
しかし、カロミアの俺を見る目は好奇心で爛々と輝いていた。
「そっか、そうだよね……こっちも、エゼル君なんだよね……」
「何の話だ?」
「結婚したらきっと、……『あなた、昨日は私が抱かれたから、今日は私が抱く番ね』なーーんて言っちゃって! キャハッ! いいかも!」
「おい待て? もしかして俺がお前になんかされる話になってるか!?」
人生でそんなこと想像したこともねえぞ、恐ろしい。
っていうか何匹ものゴブリンが洞窟から出てきた。
こんな話しているヒマがあるか?
魔物と言っても徒歩ならここにたどり着くまで15分はかかるか。
「大丈夫! 私にはエゼル君の中に入れるものがついていないから、痛いことはきっとないよ! すっごく気持ちよくしてあげる!」
「怖い怖い! やめてくれ!」
「やった! 私、お嫁さんになるだけじゃなくて、エッチなお嫁さんをもらえるんだ!」
ぞわぞわっと全身に鳥肌がたった。
「勝手に俺をエッチな若妻にするんじゃない!」
「エゼル君最高! 二度おいしい!」
「俺をそんな目で見るなあ!」
などと言っている間にも、今度は洞窟から何羽もの魔物が飛び出てきた。
翼がある魔物だ。
恐竜のプテラノドンみたいな見た目をしていて、洞窟の前に十羽ほど整列している。
そいつらに指示しているのだろうか、ゴブリンが俺たちを指さしてなにか叫んでいた。
カロミアはタブレットを取り出した。
「
そして、画面をタップし始める。
何度も確認のウインドウが出ているようだった。
「よし、じゃあ行くよ」
それからカロミアは一つ咳払いをして、背筋を伸ばした。
途端に、オーラのようなものがカロミアを覆う。
ものすごい魔力……いや、神聖力を感じる。
「おお、すげえな……こんな力を感じるのは初めてだぜ。さすが聖女……」
「ふふ。聖女ってこの国に7人しかいないの。その中でも私はもっとも爆破聖術に長けた聖女なんだよ」
いや、『もっとも爆破聖術に長けた』とかいうけどさ、ほかに爆破聖術なんて物騒なもんを使える聖女、いないと思うんだけどなあ。
ふつうなら浄化の力とかだろ……。
そう思っている間にも、カロミアを覆うオーラは濃くなっていく。
なにか感じるものがあったのか、遠くのゴブリンもこちらを見ているようだった。
そして、カロミアが詠唱を始める。
「ザーベル・ドーロ・ガラバリス。グムノーア・ドズシャイン・キーリパラス」
オーラがどんどんどす黒くなり、禍々しいうずを巻き始めた。
いや待って、聖女が出していいオーラじゃないぞこれ。
「女神ルミエル様。愚鈍で愚かなる人間を見守りくださり、感謝の念に堪えません――。時には人間に怒りを覚えることもあるでしょう。お怒りの心は私がお預かりいたします。その怒りの力を我に与えたまえ――」
俺は前方を警戒したまま、横から聞こえてくる詠唱に一瞬気を取られてしまった。
え、ルミエル様って人間に怒ることあるの?
一応俺もこの国の住民だから、ルミエル教の信徒ってことになってるけど、もっとやさしい女神様って印象だったぞ。
「さあ、その怒りを私にくださいまし。私はそれを滅すべき悪に撃ち込みます――ドーベラ・ブロート・デル・グローシュアス」
空気が震動している。
自然の物じゃない、とすぐにわかるほど神聖力を感じる、大きな風が吹いてきた。
飛ばされないように思わず足を踏ん張ったほどの強い風だった。
俺の横で、カロミアの金髪と長いスカートがその風で巻きあがる。
聖女の碧い瞳はいまや眩しいほどに輝き、星のまたたきのようにも見えた。
本能的に、これはヤバいことが起こる、と感じた。
聖女。
王国に7人しかいない、最高の神聖力使い。
今まで言葉として聞き流していたが、その本気の力を俺は今初めて見ていた。
ちょうど洞窟の真上に黒雲が出来上がっていた。
「エゼル君、詠唱はまだ続くよ! 今から数分はかかる! その間お願いね!」
「よし、任された!」
そうこう言っているうちにも、プテラノドンの魔物――