「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
俺がこの学院に入学して、一か月が経った。
そこそこ友だちもできて、それなりに充実した学生生活を送っている。
まあ、俺には様々な疑惑(女装だとか、下着ドロだとかМだとか)があるけれど、魔物の巣を壊滅させたことでその噂に持ちきりになり、ひとまず悪い噂は消え去ったようだ。
そんなある日の放課後。
俺は校庭で背中にベルーガを乗せて腕立て伏せをしていた。
密室でやるから誤解されるのであって、こうやって堂々とやればさすがに変な疑いをかけられることもない。
そのとき、カロミアが何かを台車に乗せて引きずってきた。
その顔はすごくニヤニヤしていて、なんか嫌な予感がするな。
「なんだよ。悪だくみか?」
俺は警戒しながら聞く。
カロミアは赤色の混じった金髪をファサッ! とかきあげると、フフン、と笑った。
「へっへっへー。エゼル君に、プレゼントがあるんだ」
「プレゼント? なんだ突然」
「ふふふふー。私の重い愛だよ!」
「いや、そういうのはいらないから」
「そう言わないで。前から町の鍛冶屋さんに頼んでいたんだよね。大金はたいて急いでもらったんだけど、ふふふ、できあがったんだよ。これ、見てみてよ!」
「……下着とかじゃないだろうな……」
「そんな変なものじゃないよ! いいからいいから!」
言われるままに、台車の上にある荷物の梱包を解く。
出てきたのは……。
ダンベルだった!
しかも、ダンベルのバーとプレートが別々になっている、可変式のダンベルだ!
「………………!!」
あまりのことに、俺は言葉を発することもできなかった。
ダンベル!
しかもこれ、見たところ片手50キロくらいまでセットできそうだぞ!
「へへへへー。『重い』愛でしょ?」
カロミアが勝ち誇ったように言う。
意識したわけでもないのに、俺の身体がピョコンと跳びあがった。
そのままその場でジャンプを続ける。
「…………ほぉぉぉぉーーーーーーーー!!」
自然と口から喜びの声が沸き上がってくる。
ダンベル!
これがあれば、かなりの筋トレがこなせるぞ!
ダンベルベンチプレスにダンベルフライ、サイドレイズにアームカールとハンマーカール、それにフレンチプレスにローイング!
片足でやるブルガリアンスクワットで足の鍛錬もばっちりだっ!
「ぃやっっっっほーーーーー!」
思わず叫んでいた。
自分が満面の笑みを浮かべていることがわかる。
「カロミアぁ!」
いつも通りの美人だけど、今日のカロミアは通常の三倍輝いて見えた。
青と白の法衣も神々しく見える。
後光が差しているのかと見まごうほどだ。
ああ、こいつ、もしかして聖女じゃなくて天使なんじゃないのか?
「カロミア、カロミア、カロミアぁぁぁ!」
「はいぃぃ!」
嬉しそうに返事をするカロミア。
そして両手を広げて、
「お礼の言葉はいらないよ! さあお礼のハグをっ!」
「カロミアぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ありがとーーーーーー!!!!」
俺は浮かれまくってカロミアに抱き着いた。
見ていた生徒たちはびっくりしていたようだが、俺の筋トレバカっぷりはみんなが知っていたので、あとでプレゼントの中身を聞いて納得していたそうだ。
「くぅぅぅ! ほしかったんだぁ! ありがとう!」
「もっと強く! 強く抱きしめてぇっ」
カロミアからはすごくいい匂いがした。
ダンベルの鉄の匂いには劣るが、それでもとても心地いい香りだ。
っていうか。
カロミアってまじで着やせしているな。
もう、なんというか、「え? 嘘?」っていうくらいでかかった。
なにがとは言わないが、まじですごかった。
なるほど、鉄の固さの魅力とは別に、こういう人体の柔らかさもいいよな。
ほっぺたを俺になすりつけてくるカロミア、だが俺はすぐにカロミアを押し離し、今度はダンベルに抱き着く。
そして鉄のプレートに頬ずりをした。
「え、ちょっと待って、私より鉄がいいの?」
「よし、さっそくあそこのベンチを使ってダンベルベンチプレスをやろう! ベルーガ、補助を頼む!」
「ちょっと待ってよどうだった? わざと押し付けたんだけどどうだった?」
「俺がもう上がらなくなったら『頼む』と言うから、そしたらダンベルを少し持ち上げるように力を貸してくれ。これはフォースドレップトレーニングっていう最高に効くトレーニングなんだ!」
「香水も高いのつけてきたんだけど!?」
「よっしゃやるぞ!」
別にカロミアを無視しようとして無視したわけじゃない。
ただ、とにかくダンベルベンチができることが嬉しくて嬉しくて……。
俺はもう、感動で泣きそうだよ。
「せめて補助は私がやるー!」
そんなわけで、俺は久々にしっかりしたウエイトトレーニングを楽しんだのであった。
★
トレーニング後、ベンチに座って休息をとる俺。
できればプロテインを飲みたいけど、この世界にはそんなもんないしなあ。
肉は高いが、俺も一応中級貴族の息子だから、鶏肉を買うくらいの金はある。
一羽まるごとさばいてもらって、脂肪の少ない胸肉を中心によく食べているのである。
まあ、プロテインがないのなら胸肉を食って水を飲むしかないな。
前世で、生のささみ肉をミキサーにかけて飲むボディビルダーの動画を見たことがあるが、実際は非常に危険でヤバい行為なのでマネできないしな。
「はい、エゼル君! お水を持ってきたよ!」
カロミアが木製の大きなコップ……というかジョッキで水を持ってきてくれる。
その水をゴクゴク飲む俺。
うん、やっぱり筋トレ後の水はうまいぜ!
身体に染みる!
「お前……よく先生を使いっぱしりにできるな」
呆れたような顔でベルーガが言うが、今は筋トレ後の充実感でそれどころじゃない。
「エゼル君、もう一杯いる?」
カロミアが聞いてくるが、ベルーガがそれに割って入った。
「先生、水くらい自分で持ってこさせればいいんですよ」
「エゼル君は筋トレ後で疲れてるんだよ! じゃあベルーガ君が持ってきてよ」
「なんで俺が……」
「持ってきてくれたら機嫌がよくなって明日の小テストの問題口走っちゃうかも」
「行ってきます!」
ベルーガがコップを持って井戸の方へと走っていく。
その後ろ姿を見ながらカロミアが言った。
「あ、あとね、今度、ここに勇者マインがやってくるから」
「勇者? なんで?」
「ふふふ。私、友だちなの。私に会いに来るのと、あと最近名を上げてきたエゼル君を見に来るんだよ?」