「女体化するお前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺をヤンデレ聖女が一途に狙っている件   作:羽黒楓

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第2話 君がそれで悦んでくれるなら、私、頑張る

 リョーウの町って、なんか寂れているな……。

 ガルディオス家の領地よりもさらに田舎っぽいぞ?

 俺はそのリョーウの町はずれにある、神聖学院の寮の前にいた。

 学院と寮は隣り合わせの位置にあって、通学は楽そうだ。

 とは言っても、学院も寮も、その建物はけっこうボロっちい。

 聞いたところ、木造築50年だそうだ。

 全寮制の学院、学生数はたったの三十人。

 

 せっかく異世界転生できたというのに、チート能力どころか女の子に変身する能力しかもらえず、その上実家から放り出されてこんなボロボロの学院で寮生活を送るハメになるとは……。

 正直、がっかりだよ。

 だけど、ひとつだけ、俺の気を引く噂話を聞いた。

 

 なんでも、この学院の教師として、今年から国家の認めた聖女が派遣されてくるらしい。

 

 聖女!

 

 聖女といえば、この国の国教でもあるルミエル教の教会から認められた、破格の神聖力を持つ人物のことだ。

 この国には、聖女と認められた人物はたったの7人しかいない。

 ほとんどがおばあさんだって聞くけど、確か若い聖女も二人くらいいたはずだ。

 正直、ワクワクしていた。

 なにしろ、この国における魔法使い――いや、聖職者の場合、魔法じゃなくて聖術というから聖術使い――の中でも最高峰といえる人物なのだ。

 ちなみに魔力のことも聖職者は神聖力と言い換えることになっている。

 

 そんな凄い力をもつ人物がなぜこんな田舎に? とは思うが、ルミエル教には優秀な人物ほど恵まれない土地で活動すべし、という教えもあるので、この寂れたリョーウの町に派遣されるのも理解できないことはない。

 

 どんな人なんだろうな。

 おばあさんだろうけど、でも若い女性だと嬉しい。

 ちょっと年上のお姉さん先生に魔法を習うなんて、なかなか楽しそうじゃないか。

 願わくば規律に厳しい人じゃないといいけど。

 そうは言っても聖女にまでなるような人が規律や戒律に緩いわけないよなあ。

 

 そんなことを考えながら、俺は寮の門をくぐり、建物の中に入る。

 玄関の壁に、

 

『新入生は各居室に荷物を運び、そこで教師の指示を待つこと』

 

 と書いてある。

 そして7人の新入生の名前とその横に部屋番号が書いてあった。

 ふむふむ。

 どうやら、二人部屋らしいな。

 まあ、学校の寮で個室をもらえるとは思っていなかったので、想定内だ。

 

「俺の部屋は二階の22号室か……」

 

 ルームメイトが嫌な奴じゃないことを祈りつつ、きしむ階段を上る。

 二階にはドアが並んでいた。

 全部で10部屋くらいありそうだな。

 22号室の前で立ち止まる。

 中に誰かいる気配がした。

 

 頼むぞ、友達になれそうないい奴であってくれよ!

 

 俺はドアをノックする。

 返事はない。

 もう一度ノック。

 部屋の中からは、何かゴソゴソという音が聞こえてきている。

 さらに強くノックするが、やっぱり返事はない。

 仕方がないので、俺はゆっくりとドアを開けた。

 

 そこで俺が見たのは。

 ベッドをもう一つのベッドにくっつけようとして押している、一人の少女だった。

 

「ん?」

 

 やばい、こっちは女子寮だったか?

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 慌ててドアを閉め、部屋番号を確認する。

 22号室。間違いない。

 じゃあ建物自体を間違えたか?

 なにか見落としたのかもしれない、一度玄関の張り紙を見に戻ろう、と思ったとき。

 ドアが内側から開いて、さっきの少女が顔を見せた。

 

「………………」

 

 彼女は俺の顔をじぃっと見つめている。

 

「あの、すみません、間違えたみたいで。俺、新入生なんですけど、わからなくて」

「……………………」

 

 その子はまだ俺の顔をまっすぐ見ている。

 なんだよ、ものすっごい美人だな。

 年は17歳の俺と同じくらいか?

 腰まである長くて金色に輝く髪の毛。

 メッシュのように赤い髪の毛も混じっている。

 肌は白くて輝きを放っていた。

 形の良い眉、そして大きなクリクリとした目。

 その瞳の色は淡いクリスタルブルーだった。

 彼女は、艶々とした血色のよい唇を動かして、やっと声を発した。

 

「……エゼル君? エゼル・ブロリオス・ガルディオス君ですか?」

 

 俺の名前を知っている?

 え、いったいなんなんだこれは。

 

「確かに、俺はエゼルですけど……。ええと、ここが俺の部屋で間違いないですか?」

 

 俺はそう聞いたが、少女は後半の質問をほとんど聞いてないみたいだった。

 なぜそれがわかるかというと、俺がエゼルだと名乗った瞬間、彼女は急に顔を真っ赤にして、手の平を横にし、自分の顔を隠すようにしたからだ。

 

 あれ、こういうポーズ、どっかで見たことあるぞ。

 あ、あれだ、前世でみかけたエッチなお店のパネルの女の子みたいな隠し方だ。

 本人は恥ずかしがっているのかもしれないけど、逆にエロスを感じさせるぞ。

 きゅっと引き締めたかわいらしい唇だけが見えていて、なんか、うん、いいな。

 いや、そんなことより。

 なんでここに女の子がいて、家具の移動なんかしているんだ?

 

「え、なに? あの、あなたは……? ここ、男子寮ですよね?」

 

 俺がそう聞くと、彼女は手で目元を隠したまま、大きく頷いた。

 ってことは……。

 ま、まさか男の娘展開か!?

 男の娘と同部屋かぁ……。

 そうか、そういうのもあるよな。

 そういうのも、いいよな。

 異世界だしな。

 うむ。

 そうか。

 アリだ。

 よし、納得。

 

「で、君の名前は?」

 

 俺が聞くと、彼女は顔を隠したまま、綺麗な声で答えた。

 

「私は……聖カロミア・ブランシャールです……」

「セーカロミアさん?」

「いいえ! 聖! カロミア・ブランシャールといいます」

 

 聖?

 聖ってなんだ。

 まるで聖女の称号みたいじゃないか。

 聖女?

 え、まさか。

 そういえば、玄関の張り紙には「教師の指示を待つこと」ってあったな。

 ってことは……。

 

「あ、すみません、先生でしたか!?」

 

 そういうことか!

 ってことはこの人が聖女!?

 カロミア先生は、顔を隠している手の平まで真っ赤にして、こう言った。

 

「そうだよ。私はあなたの先生……そしてね、あなたのルームメイトなんだよ?」

 

 口元だけ見せているカロミア先生が、舌を出してペロリと唇をなめた。

 なんだか、なまめかしかった。

 彼女の口角が少しだけ上がっているのが見えた。

 

「ルームメイト……?」

 

 俺はそれだけ言って絶句した。

 え?

 どういうこと?

 だってこの人、女の人だよね?

 男の娘の聖女なんて聞いたことないしさ。

 学校の寮で男女がルームメイトだなんてありえないだろ。

 ってか、そもそもこの人って先生なんだよな?

 

「………………?」

 

 いろんなことが頭の中をぐるぐる回って言葉が出てこない。

 そこでやっとカロミア先生は目元を隠していた手をゆっくりとどけた。

 もともとは白かった肌が、今はびっくりするほど上気して赤くなっている。

 

「エゼル君……」

「ええと、どういうことですか、先生?」

「ふふ、先生だなんて。敬語もやめて。私たち、同い年だよ?」

 

 はあ?

 ってことは17歳?

 17歳で国家に聖女と認められたっての?

 確かに、化粧もしていないのにピカピカの肌をしているし、そう言われればそうとしか見えない。

 

「なんなんですか」

「ほらまた敬語じゃない。あのね、勉学のためには先生と一緒の部屋のほうが都合がいいでしょ? そういうわけで私とエゼル君は同じ部屋になったんだよ」

 

 一瞬、そんなもんかな、と納得しかけてしまいそうになったが、俺の中にある常識というものが正気を取り戻させてくれた。

 

「んなわけあるか! 女教師と生徒なんて一番危険なシチュエーションだろうが!」

「エゼル君……あはは、そういうの、興味あるの?」

「そもそも若い男女を同部屋にする学生寮なんてないよね!?」

「あるんだよ。……たとえば、聖女が権力を使ったりするとそういうことも可能になるの」

「権力使ったのかよ!? なんでそんなことするんだ!? いや待って、頭がおかしくなりそうだぞ。え、聖女ってそもそもそんな権力者なの!? え、君、権力者なんか!?」

 

 待て待て、ツッコミが追い付かないぞ。

 

「ルミエル教の中だったらわりとわがままが効く立場なんだよ」

 

 怖いことを言う。

 ルミエル教はこの国の国教だ。

 その教会の中で発言権が強いってことは、かなりヤバい奴じゃん。

 正直、こいつは実は偽者聖女で、ただハッタリかましてるんかと思った。

 もう一度よく目の前のカロミアを観察してみる。

 すごい美少女だし、身に着けているのは青と白の法衣。

 すごく上等な布だというのは見るだけでわかる。

 本物のように見えるけど。

 いやしかし、俺はこういうの詳しくないし、本物そっくりの偽者って可能性もあるよな。

 数秒間考えて、俺は結論を出した。

 

「これ、ドッキリか……?」

 

 カロミアはプッと吹き出した。

 

「ドッキリじゃないよ。どこにもカメラなんてないでしょ」

 

 それを聞いた途端、俺の全身に鳥肌が立った。

 

「カメラ……カメラ!?」

 

 もちろん、この異世界にそんなものはない。

 

「なんでカメラを知っているんだ!?」

「えへへ。エゼル君。間違いないね。やっぱりそうだった。君だよ。私がずっと探していたのは、君なんだよ……」

 

 この世界に転生してきたのは、俺一人じゃなかったのか。

 ほかにも転生者がいた……!?

 しかも、俺のことを知っているってことは、日本人か……?

 なんか、驚きよりも恐怖が先にたってきたぞ。

 俺が知らない相手が、俺のことを知っているって、ちょっと怖いよな?

 

「君は誰だ?」

「うん、それをゆっくりと話すね。まあ、そこのベッドにでも座ろうよ」

 

 その言葉に従おうとして、俺はすぐに気づいた。

 

「なんでベッドが並んでいるんだよ!?」

 

 そういえばさっき、ベッドを移動させていたよな。

 

「だって、今は秋だもん。これから寒くなるから、くっついた方があったかいよね?」

「あったかいけれども!」

 

 そこでカロミアは、嬉しそうな表情で、瞳を潤ませながらじっと俺の顔を見た。

 

「私だって怖いんだよ……。前世でも今も、そういう経験ないの」

「そういう経験って……」

 

 カロミアは耳まで赤くしてこう言った。

 

「えっとね、男の人と、女の子の、そういう経験……。でも、エゼル君がそれで喜んでくれるなら……私、頑張るから……」

「怖い怖い怖い」

 

 さすがにドン引きするわ!

 っていうか、この人ほんとに聖女か?

 再びペロリと唇をなめるカロミア。

 

「えへへ。緊張で唇が乾いちゃって」

 

 彼女は両手で今度は口を覆った。

 衣擦れの音がして、彼女の法衣からは、ふわっとなんともいえない甘い香りがする。

 頭がクラッとした。

 俺はなんとか声を喉から絞り出す。

 

「前世で……いつ、どこで会った……?」

「覚えてない? ううん、きっと覚えているはずだよ。私はあなたに命を救われたの」

「どこで?」

「あなたが死んでしまう直前。思い出して。あなたがどうして死んでしまったのかを。エゼル君……いいえ、ムラキさん」

 

 

 

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