「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
「今日は実地訓練です。みんな、いいね?」
校庭に生徒を集め、カロミアがそう言った。
「やった! 教室で教科書とにらめっこするの、嫌いなのよねえ」
ポニーテールの先っぽをパタパタさせながらフェリスが言った。
まあ、それは俺も同感だ。
小難しい授業を受けるよりも、校庭で身体を動かした方がいい。
俺と少し離れたところで、赤髪のマーシャがニコニコしながら聞いた。
「せんせー! で、なにやるんですかぁ?」
カロミアはオホン、と咳払いをしてから、
「今日は治癒聖術の訓練です! 聖職者や魔法使いを目指す生徒でなくても、多少の治癒聖術は使えた方がいいです」
それを聞いて、俺は教室での授業の方がよかったかもな、と思った。
筋トレするなら大歓迎だけど、聖術やら魔法やらは苦手なのだ。
「あれー? 浮かない顔してるねえ?」
マーシャが俺に近寄ってきてそう言った。
「ああ。苦手なんだよ。才能がないんだ」
「あちゃー。エゼル君ってそっち系はダメなのかー」
この世界の人間は、大なり小なりある程度は魔法の才能を持っている。
そして訓練次第で大爆発を起こしたり、雷を呼んだり、大けがを治したり、そんな魔法を使えるようになるわけだ。
ところが俺の才能は大なり小なりの『小』の方だった。
せっかく異世界転生してきたんだから、世界を救えるような大魔法を使えるようにでもなってればよかったんだな。
ちなみに、貴族の血筋の者であれば、それとは別に『ギフト』とよばれる特殊能力を付与されることがあり、俺の場合はそれが少女に変身する『
「さて」
カロミアが小さなナイフみたいなのを取りだした。
「みんな、適当に二人一組になって」
その適当に、ってやつやめないか。
前世の俺はよく余ってたし。
ま、今回は親友がいるから大丈夫だろう。
と思って辺りを探してみたが、あれ? ベルーガの姿がない。
「あ、ベルーガ君は腹痛でトイレにこもってます」
カロミアがそう言った。
なんだよ、自分だってうんこするんじゃねえかよ!
とかなんとか思ってたら、周りはみんな二人組を作っていた。
カロミアはしてやったり、みたいな顔で、
「あれぇ? エゼル君は相手がいないのかな? しょうがないなあ。じゃあ先生が――」
その時、他の女子の誘いを振り切って、マーシャが俺のとこに駆け寄ってきた。
「エゼル君! 私とペアになろー?」
「あ!」
カロミアがしまった、という顔をする。
「へへん」
マーシャはカロミアに舌をペロリと出して見せた。
まあ、俺は相手がいるなら誰でもいいけどさ。
「くっ……。え、ええとですね、まず、皆さんに配ったこのナイフで相手の腕に傷をつけてください」
「ちょっと待てぇ!」
思わず叫んでしまった。
「これ、授業だよね? 生徒の身体を傷つけさせるなんてありなんか?」
「慌てすぎだよエゼル君。よく見て。これ、ただのペーパーナイフだよ。皮膚なんか切れないから」
「……あ。ほんとだ」
「これでこすると、赤くあとが残ります。それを授業で習った通りに治癒聖術で治癒してあげましょう! うまくいかなくても大丈夫。聖女の私があとかたもなく治しちゃうから! 女子のみなさんには逆にお肌がツルツルスベスベになる聖術もおまけしちゃいます!」
お、女子の目の色が少し変わったぞ。
「あのー、それって腕だけですか?」
「全身でもいいよ? 効果は12時間だけだけど、赤ちゃんよりきめ細かい肌になるよ?」
「聖女の美肌聖術……。一生の思い出になりそう」
そんなわけで、最初はいやがっていた女子たちもかなり乗り気になったようだ。
「で、エゼル君、どっちからいく?」
マーシャがクリクリとした大きな瞳で俺の顔を覗き込んできてそう聞いた。
「まあじゃあ最初に俺にやってくれよ。多少強くしてもいいから」
「さっすが男の子! エゼル君って男気あってかっこいいよね」
「え、そ、そうかぁ?」
こんなことくらいで褒められちゃうと、マジで居心地悪いな。
俺たちの会話を聞いていたカロミアが向こうのほうでムッとした顔をして、
「エゼル君はMだから、もう痛いくらいひっかいちゃってください!」
「違うよ! Mじゃないよ! 大声でそんなこと言うな!」
ほかの生徒たちが俺の方を見る。
「ほー、エゼルはMなのか」
「筋肉を鍛えるって筋肉をいじめることだもんね。自分もいじめてもらいたいのかな」
言っておくが、どっちかというと俺は縛られるより縛りたいほうだぞ。
さて、結論を言うと、マーシャは俺の傷を治すことはできなかった。
「えへへー。実は、私も魔法とか聖術はてんでダメなんだよねー。運動も駄目だしさー」
恥ずかしそうに笑うマーシャ。
そこにカロミアが強引に割り込んできて、
「はいはいはい! マーシャはできなかったのね、じゃあ私が治します! まったくもう! マーシャと会わせなきゃよかったよ!」
とプンスカ怒りながら俺の傷を治癒していた。
「ところで筋肉痛は治せるか?」
「痛みは取り除けるけど、やったげようか?」
「聞いただけだよ。筋肉痛は筋トレ民の喜びなんだ」
「……やっぱり、ロウソクとムチ、買っておくね」
「そういう意味じゃねえ!」
★
魔将軍は、跪いている配下のゴブリンキングに尋ねる。
「聖女の動向はどうか?」
「いつも通りに教師として生徒に聖術を教えているそうです」
「ふむ……」
魔将軍は考え込む。
「聖女は山中の洞窟砦を一撃で破壊したそうだな。さすが世界に7人しかいないと言われる聖女だ。こちらも慎重の上にさらに慎重を重ね、じわりじわりと聖女を追い詰めなければならん。ほかにどんな力を持ってるかもわからんしな」
ゴブリンキングは跪いたまま、頷いた。
「その通りです。それに……正体不明の女の存在も不気味です」
「そこだ。聖女だけが標的ではない。その女も殺さねばならん。しかし、そいつの能力もまだわからんのだ」
「どうします?」
「そこで我は考えた。聖女の友人を人質にするだけでは策としてまったく足らん。まず、情報がなさすぎる。しかし、聖女は魔族のためにも必ず殺さねばならん。それは絶対だ」
「失礼ながら、どのような方策で……」
「ふふふ……我の能力をもってすれば……やつらの情報を集めることなど、たやすいことだ。魔族随一の我が能力……自らの発する魔力を感知できぬほどに低下させ、そして……」
「なんと! 魔将軍様自らがあの能力で!?」
「ほかの魔族どもなどあてにならん。信ずるは我が力のみよ。まあ見ておれ。この方法で我は一度、人間どもの勇者を食い殺したことがあるのだ。最高にうまかったぞ。ふふふ。聖女の肉はどんな味かな……?」