「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
夜の帳が下り、夜空に二つの月が輝く時間。
校庭にある鉄棒で、俺は一人懸垂をしていた。
「フンッ! フンッ! フンッ!」
懸垂は最高だ。
広背筋をまんべんなく鍛えることができる。
肩幅より広く握ったり、肩幅と同じか少し狭くにぎったり、順手でやったり逆手でやったり。
やり方を工夫すれば上腕二頭筋のトレーニングにもなるのだ。
ほんと、懸垂は最高だ。
10セットをやりきり、俺が鉄棒の支柱にもたれかかって休憩をしていた、そのときだった。
「ヤッホー。今日もやってるわね」
声をかけてきた人物がいた。
長めの茶色いポニーテールが特徴的な少女。
フェリスだった。
「俺は毎日やってるぜ。っていうか、フェリスはこんな時間になにやってるんだ?」
「ただの散歩よ。こういう月の綺麗な夜に、この辺りをブラブラすると気持ちがいいから」
「危ないぞ。魔物とか出たらどうすんだよ」
「それはエゼルだって同じでしょ。……いや、あんたはミスティレインボー様を呼べるから大丈夫なのかしら」
「まあ、そういうことだな」
それ、ほんとは俺自身なんだけどな。
フェリスは俺が
俺が召喚魔法でミスティレインボーを召喚すると思い込んでいるのだ。
「そっか。そうね。で、ミスティレインボー様のことなんだけど。私、もっといっぱい知りたいな」
「ん? またそれか。なにも教えられないって言ってるだろ」
そう言ったのに、フェリスはグイグイ来る。
「ね、ミスティレインボー様って、やっぱり精霊様なんじゃない? それで魔族とか魔物をやっつけられるのよね」
「ま、やっつけるのはほとんどカロミアだよ。なにしろ聖女様だからな。あの爆破聖術の威力はすさまじいぜ」
「カロミア先生とミスティレインボー様って、戦ったらどっちが強いのかしら?」
「うーん、どうだろうな」
俺は魔物が巣くうあの洞窟を一撃で破壊したカロミアの聖術を思い出す。
「やっぱり、カロミアの方が強いんじゃないか。しょせん、いち学生の俺が呼び出すミスティレインボーより、国と教会が認めた聖女の方が強いだろ」
フェリスは、鉄棒にもたれかかる俺の周りをテクテクと歩きながら、さらに聞いてくる。
「でも、戦い方次第でしょ? どうしてもカロミア先生とミスティレインボー様が戦わなきゃいけなくなったら……どう戦ったらミスティレインボー様が勝てる?」
「そうだなあ……」
カロミアの聖術は詠唱が長い。
そのあいだ、完全な無防備状態となる。
だからこそ、近接格闘戦が得意なミスティレインボーの出番となるわけだ。
「作戦はなくはないな」
俺がそういうと、フェリスは月光で瞳を輝かせながら、
「ね、それどういう作戦? 教えてよ」
こうしてみると、フェリスってやっぱ美少女だよな。
月の光に照らされているというシチュエーションがそう思わせるのだろうか?
「ねえ、エゼル。すっごい興味あるわ。教えて」
でもさ。
これって、ある意味カロミアの弱点を教えるってことでもあるよな。
そう思って、俺は逡巡した。
「エゼル。教えてよ……」
フェリスが俺に近寄ってきた。
そして、俺の手を取る。
まっすぐ、俺を見つめてきた。
「ね、どういう作戦?」
「おいおい、近いぞ。なんかちょっといつもと雰囲気違うんじゃねえか」
「えへ。実はね、話の内容はどうでもいいのよ。私はエゼルとお話できればそれでいいの」
え? え? え?
それってどういう……?
「ほかの同級生がいる前じゃ、こんなこと言えないんだけど……」
ほんのり頬を染めているように見えた。
え、マジかよ。
いつもは感情に合わせてパタパタ動くフェリスの髪の毛は、今に限って静かに月の光を受けているだけだった。
フェリスは俺の腕を握る。
「へへ。エゼル、やっぱり鍛えてるよね。男の子だもんね。素敵だと思うわよ」
「………………」
俺は前世から今に至るまで女慣れしていないので、こういう時どう反応したらいいかわからない。
「ねえ、お話、続けよ? ミスティレインボーだったらカロミア先生とどう戦うの?」
俺は熱に浮かされているような気持になって、考えていることがそのまま口から出てきてしまった。
「そうだな……。まず、パターンが二つあるんだ。近距離の場合と、遠距離の場合」
「じゃあまずは近距離の時は?」
「それはだな……」
待てよ、待て待て。
やっぱりこれは話しちゃまずい内容じゃないか?
俺が口を一瞬閉ざすと、フェリスはさらに俺にくっついてきた。
そのときだった。
俺の目の端に、ちらりと人影が歩いてくるのが見えた。
今日は月明かりで明るいから、着ている服までわかる。
青と白の法衣。
あれは、カロミアだ。
そしてもう一人いた。
並んで一緒に歩いているのは……。
赤い髪の、長身の男。
勇者マインだった。
「待て。こんな夜中に二人で歩いている……?」
俺が呟くと、フェリスも二人に気づいたのだろう、
「あ、あっちも気になるのよね……。うーん、どっちを先に……」
とかなんとか言っている。
カロミアの声が聞こえてくる。
「ふふ、月夜のデートだね」
デート……デート!?
こちらに歩いてくる二人。
俺はフェリスの腕をつかんでひっぱり、植え込みの陰に隠れた。