「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
次の日の放課後。
フェリスが俺の手を引っ張ってマーシャのそばに行く。
「ん? なに?」
キョトンした表情で聞くマーシャ。
フェリスは声を潜めて言う。
「あのね、めったに手に入らない最強においしいお菓子が手に入ったんだけど、一緒にどう? 少ししかないからみんなには分けられないし、特別にマーシャとエゼルだけにあげようと思って」
「え、ほんとに?」
マーシャが両手を合わせて嬉しそうに返事をした。
「うん。みんなには内緒だよ! えっとね、こっちこっち。こっちで食べようよ! 一緒に来てよ!」
★
結論から言うと、そのお菓子はマジでおいしかった。
学院からちょっと離れた森の中にある広場。
木でつくられたベンチがあって、俺たちはそこに座ってお菓子を口にする。
それは、なんだろう、地球で言うところのチョコレートとクッキーを組み合わせたようなお菓子だったんだけれど、甘味と苦みのバランスが最高で、しかもサクサクとした歯ごたえがたまらない。
「うまいな、これ」
「でしょ、都の有名なお菓子屋さんでしか手に入らないんだよ。それも予約で一年先まで埋まってて、なかなか手に入らないの。私の親が送ってくれたんだよ」
「へー。これはほんとにうまい」
正直、この世界に転生してから口にしたお菓子で一番うまいとすら思ったぜ。
マーシャも夢中になってお菓子を食べている。
そのマーシャに、フェリスが話しかけた。
「ねえマーシャ。ちょっと大事な話があるんだけど……」
「え?」
それまで真剣な表情でお菓子を口にしていたマーシャだったが、少し疑うような目になってフェリスを見た。
それから、フェリスの隣にいる俺の顔をちらりと見る。
フェリスのやつ、いったい何を考えているのやら。
今日もフェリスのポニーテールは静かで、そこから感情を読み取ることはできなかった。
「どんな話?」
マーシャが首をかしげると、マーシャのさらさらの赤髪も揺れる。
「えっとね……恋バナ!」
「ええ!?」
「私とぉ、あとそれと、カロミア先生の恋バナ、ちょっとしたいなって。ね、マーシャってあの男の人……名前、なんだっけ」
「えっとね」
マーシャは少し考えてから、
「マイン様っていうの」
フェリスはちょっと考え込んで、
「それってどっかで聞いたことある……あれ、勇者マインっていなかったっけ」
「いるけど、それとは同名の別人だよ。たまに間違えられて困ってるの」
「ふーん……」
フェリスは何事かを考えているようだった。
「まあ、そうよね。まさかね。でも聖女カロミア先生の友だちよね」
「あはは、マイン様、筋肉もそんなになくてスラッとしているでしょ。あんな人が勇者なわけないよ。カロミア様は勇者の方のマイン様も知っているそうだけど、全然違うって言ってたよ」
「それは……そうよね……そうなのかなあ。ま、いいか。で、カロミア先生と、そのマイン様ってちょっと……いや、すっごく怪しいと思うんだけど!」
「あー。そうだね……」
言葉を濁すマーシャ。
「でさ、その辺のとこ聞きたいわけよ! ……あの二人って、デキてるの?」
それを聞いて、俺の心臓がドクンッ! と鳴った。
俺はマーシャの顔を見つめて答えを待つ。
いや、なんで俺は今こんな感情になっているんだ……。
マーシャは静かに言う。
「まあ……とても仲がいいのはそうだけど……」
「付き合ってるのかしら?」
「うーん、わかんないけど、そうじゃないとは思う……」
「ってか、マーシャってそのマイン様のお付きよね? あなたは?」
「ん? どういうこと?」
「だから! あなたは……その……マイン様と……そういう関係だったりするの?」
それを聞いてマーシャはあはは、と笑った。
「まさか! 私はただのお供だよ。まあ、カロミアとは友だちだけど」
「ふーん……あなたも、カロミアのお友達……」
「そうだね。都にいたときからお友達をしていたよ」
「そう……そうなのね……。じゃあ、ちょうどよかったわ。カロミアの友だちなら、あなたにも価値がありそうね……」
フェリスはそう言って少し考え込む。
ブーツを履いた足でトントンと地面をたたいている。
こいつ、貧乏ゆすりするタイプか。
しかもなんか変なビートを刻んでるぞ。
ってか、なんとなくモールス信号っぽいリズムもあるような……。
っていうかすごい貧乏ゆすりだな、地面が揺れてるように感じるぞ。
いや、揺れてる!
なんだこれ?
地面の奥深くから、なにか低音の鈍い音で響く、震動が伝わってきている。
マーシャもそれに気づいたようで、少し腰を浮かせた。
その時だった。
突然、広場の地面がボコンッという音とともに崩れ去った。
それも、何か所もだ。
前世で、地面が陥没するという事故のニュースを見たことがある。
あんな感じで、地面が直径1・5メートルほどの円形に陥没していくのだ。
そして、そこからうろこに覆われた何者かが這い出てきた。
は!? なんだこれ、夢か!?
青黒いうろこでおおわれた身体、頑強そうな装甲。
その頭部はまさにドラゴンで、夕闇にその瞳が鋭く光っている。
手足の爪はそれぞれが鋭く尖っていて、恐ろしく殺傷能力が高そうだ。
「魔物!」
俺は叫んだ。
くそ、油断していたぜ。
こんなところに魔物が出現するなんてな。
「いえ、魔族だよ!
マーシャはそう叫ぶとベンチから立ち上がり、腰を落として視線を巡らせ、状況を見ている。
「はい?」
それとは対照的に、フェリスは薄ら笑いを浮かべていた。
突然の魔物来襲に、感情がどうかしちゃったのかもしれない。
ポケーッと次々と現れる
人間、恐怖の極限に立つとこうなるもんなのか?
俺の頭の中では瞬間的にいろんな考えがグルグルと駆けまわる。
人の命をいとも簡単に奪う魔族を目の前にしているのだ。
さすがに恥ずかしいとかいっていられない。
ここで
いや、相手の数が多い。十体ほどいるぞ。
ここで戦うと、フェリスとマーシャを巻き込んでしまうかもしれない。
俺は叫んだ。
「二人とも! 逃げるぞ!」
だが。
全然、遅かった。
フェリスのいたすぐそばでも、ボコン! と地面に穴が開き、そこからひときわ大きい
そして、フェリスを羽交い絞めにしたのだ。
「へ? アハハハ! これなに?」
狂気じみた笑顔で笑うフェリス、そして
フェリスの首から少量の血が流れた。
「ギ……ギ……動くな……両手を頭の後ろで組め……さもないと……こいつを殺す……」
フェリスはようやく事態を飲み込んだのか、ガタガタと震え始めて、
「お願い……死にたくない……死にたくない……」
くそ、どうする? どうする!?
その時だった。
俺の膝から力が抜け、俺はその場にカクンと崩れ落ちた。
「な……!?」
見ると、マーシャも片膝をついている。
「やられた……毒ね!」
あのお菓子か!?
いつのまに!?
くそ、マジでやられたぜ。
人質を取られた上、毒でこっちの動きも封じられた。
これでは……。
フェリスを羽交い絞めしている大きな
「そのままおとなしくしてろ……妙な動きをするんじゃないぞ……。よし、お前らこの二人も縛り付けろ」
ロープで縛られている間、俺はある人物を驚きとともに見ていた。
フェリスだ。
フェリスが、けたたましく笑い始めたのだ。
「聖女の友人というから! 入念に準備したが! あははははは、本当にただの一般人だったようだな!」
フェリスを羽交い絞めしていた
やられた!
やられたぞ!
彼女らしくない色仕掛け、動かないポニーテール。
……こいつ、……偽物だ!!
変身を……!
だが、俺の身体は毒でしびれて言うことを聞いてくれなかった。