「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
人生で、「まさか自分がこんな目に遭うとは思っていなかった」ことって、結構ある。
今、俺はその最たる状態にいた。
長さ3メートルはある太い丸太が立てられている。
その先に人間が縛られていた。
そして縛られているのは。
……そう、俺だ。
俺はまるで磔にされているかのように丸太に縛り付けられているのだ。
頑丈なロープでぐるぐる巻きにされ、毒の影響で力が入らないのもあって、いくら抜け出そうと思ってもピクリとも動けない。
左の方を見る。
マーシャも同じように縛り付けられている。
くそ、マーシャは女の子だぞ。
こんなひどい目に遭わせるなんて!
そしてそのさらに向こう側には。
もう一人の女の子が丸太に縛られていた。
完全に失神しているようで、ぐったりとしている。
いつから縛られていたのだろうか、手も足も紫色に変色していて、そのスカートには失禁のあとがあった。
――フェリスだ!
こっちが本物か!
くそ、くそ、俺は気づいていたのに!
いつもとフェリスの様子が全然違っていた!
でも俺は、その違和感を放ってしまっていた。
くそ、カロミアがマインと付き合っているかもだなんて思って動揺してしまっていた。
なんだよ、そんなことどうでもいいから、もっとフェリスをきちんと観察して、それをカロミアにでも相談するべきだったんだ!
そんな俺たちの前に立つのはもう一人のフェリスだ。
いや、フェリスに変装した、何者かだった。
「あははははは! いい眺めだねえ。お前たちは人質だよ。一人は聖女を殺しに行く我とともに来てもらう。もう一人はここにいてもらう。もう一人は……どこか聖女に見つからぬ場所に置いておこう。人質は分散しておかぬとな。あははははは! ははは! ハハハハハファアアアー!」
フェリスの顔面が変形していく。
体つきも、手足もどんどん巨大になっていった。
「ガ……ガガ……ガハァ……」
今やフェリスの面影なんてなにもない。
二本の大きく突き出た角、俺たちが縛り付けられているのと同じくらい太い腕と足。
そして刃物のように鋭利なうろこ。
人間型の、ドラゴンだった。
身長3メートルはあろうかという、竜族に属する、魔族に違いなかった。
「てめえ! 卑怯な手を!」
「グハハハ。できる方策をやらずに負けることこそが怠惰なのだ。我は勝つためなら手段をいとわぬ。フン、だが聖女はこの我自身が殺さないとな。それでこそほかの下等な魔族どもも我についてくるというものよ」
もう、どうこう言っているヒマはないと思った。
お菓子に混ぜてあったのだろう毒の影響はまだあった。
全身がジンジンとしびれ、自慢の筋肉たちもプルプル痙攣している。
だけど、このままだと俺が人質になったまま、カロミアがやられちまう!
そして、その次はマーシャとフェリスだ。
俺はともかく、俺に関わる女の子たちを殺させるわけにはいかない!
なにがどうなってもいい、すぐに変身するんだ!
手足は完全に拘束されているが、しかし変身できないってことはないだろう。
俺は叫んだ。
「女神の力を我に与えよ! ミラクル・ゴッデス・トランスフォーム!」
だが。
なにも起こらなかった。
いつもなら、身体の奥からパワーが湧いて出てきて、あっという間に変身できるのに。
「ハハハハ。今の、なんだそれは? なにかの魔法を使おうと思ったのだろう? お前らに仕込んだ毒は魔力封じの毒だ。それが効いている間はお前らにはなにもできんよ」
「そんな……」
マーシャが呟く。
「まさか私がこんな簡単に……。でもね、私の力を解放できればあんたなんて瞬殺だからね!」
マーシャがそう言う。
俺は強がりだと思った。
今日の授業でマーシャは俺の傷を治せなかった。
治癒魔法だけじゃなく、攻撃魔法も使えないらしい。
運動神経だって悪い、ただのおっちょこちょいな感じの女の子だ。
きっと、俺たちを守ろうと考えているのだと思った。
自分の力を大きく見せ、魔族どもの監視の目を自分に集中させようとしているのだと、俺はそう解釈した。
だけど、女の子にそんな役割はさせられない。
「いいや! 俺の方が強いね! いいか、この毒が抜けたら……てめえなんか一瞬で殴り殺してやるからな!」
俺も負けじと叫ぶ。
それを聞いて、フェリスだった竜人、そして
「ふふふ。お前が浅ましく下品に食い漁ったあの毒は、そう簡単には抜けんよ。抜けそうになったらまたその口に毒を突っ込んでやるまでだ」
くそ!
くそ!
くそ!
なんか、なんかいい手はないのか!?
★
その頃。聖女カロミア・ブランシャールは、エゼルの行方を捜していた。
「うーん、どこにもいないなあ。誰に聞いてもわからないっていうし。ベルーガ君に聞いたら筋トレしに校庭へ行ったはずだって言ってたけど、いないよ……」
別に、なにか嫌な予感がしてエゼルの無事を確認したかった、わけじゃない。
カロミアという女性は、いつでもどこでもエゼルの場所を把握しておきたかっただけだった。
「まあしょうがない。神聖力をいっぱい使っちゃうけど……秘法を使うかあ」
そう言って、カロミアは法具を取り出す。
金属製の板に水晶板をとりつけた、タブレットのような形をした法具を手に取り、カロミアは詠唱を始めた。
「――敬愛する女神ルミエル様。我に神の奇跡を与えたまえ。デグ・バルア・トラーレ・クリアーレ。顕現せよ。……尋ね人の場所を示せ……!」
すると、水晶板がまぶしいほど発光し始める。
この辺りの地図が表示され、赤い点が表示された。
そしてほぼ同じ場所に、青い点も。
「あれ? これ……。エゼル君とマーシャ、こんなところで二人きりになってる……!」
カロミアの目に炎が灯った、ように見えた。
ギリッと奥歯をかみしめるカロミア。
「……それはちょっと許されないなあ。私の想い人がモテるのは仕方がないけれど……相手がマーシャで私よりも先って……それはさすがに許されなくない!?」
カロミアは馬小屋に向かって駆け出し、愛馬に跨ると、ムチを思い切り打った。
「ハイヨー! 全力で向かって! 三〇〇秒以内にたどり着いて!」
そしてカロミアは聖女の力を馬に向かって使う。
白馬が発光し、通常では考えられないスピードで駆け出した。