「女体化するお前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺をヤンデレ聖女が一途に狙っている件 作:羽黒楓
俺の背中にゾクゾクッと震えが走った。
間違いない。
俺の前世の名前も知っている。
疑う余地もなく、この人も転生者だ。
「死ぬ直前って……確か俺は足を骨折して入院していた……そして病院に侵入してきた熊に食い殺された」
「ただ熊に襲われただけじゃないでしょ? 思い出して。あの時、ムラキさんは、私をかばってくれたんだよ」
「…………? あのとき俺がかばったのは……小学生の女の子だぞ……」
「そうなんだよ。異世界転生って面白いね。死んじゃったのはムラキさんが先なのに、あとから死んだ私と同じ年に産まれてくるなんて。おかげで探し出すのがすこし遅れちゃった。ごめんね」
そうだ。
思い出した。
独立行政法人飛島総合病院。
俺は足の骨折で入院中だった。
夕食後、7時くらいだっただろうか。
レストルームで、別の階に心臓病で入院していた小学生の女の子と会話していた。
向こうもヒマそうだったし、俺も子供好き(変な意味じゃないぞ)だから、毎日のようにそうやって話していたんだった。
そしてあの時、熊が救急外来口から侵入してきて……。
女の子に襲い掛かろうとする熊。
俺はその熊に痛む足も無視して突進して……。
そして……。
死んだのだった。
「……君もあのとき、亡くなったのか?」
「いいえ。ムラキさんの……エゼル君のおかげで助かって、そのあと二年くらいは生きられたよ。結局心臓病で死んじゃったけど」
「そうか……それは残念だったな」
「うん。でも、よかった。こうしてまた会えた。約束……覚えている?」
「約束?」
「そう、君、あの時、私と結婚してくれるって言ってたよね? 私がお願いしたらそう言ったもん」
正直、覚えていない。
当時すでに40歳を超えていた独身の俺が、小学生に求婚されてどう答えただろうか?
「あの頃、私の人生は真っ暗だったの。いつ死ぬかおびえながら、産まれてきた楽しみもなく死んじゃうんだって思ったら暗闇の中で生活しているような気分だったよ。その時、あなたが現れた。子供相手でもまっすぐ向き合ってくれた。私の入院生活に光が差したのはそのときから。そしてあなたは子供だった私を守って死んじゃった。私がどう思ったかわかる? あなたの存在は私のたった十年間の人生で、眩しいほど輝く太陽みたいだったの。……ね。今こそ、約束を果たすときがきたんだよ……?」
そう言って手を伸ばし、俺の手をとるカロミア。
その手は柔らかくて温かった。
碧い目が潤んでいる。
「ね、ムラキさん……いえ、エゼル君、言ってたよね? かわいいお嫁さんがほしかったって」
そんなこと、小学生相手に言ったかなあ? 言ったかもしれんけど、覚えてないぞ。
「私、どうかな? 私、頑張れると思う。エゼル君の好みになんでも合わせるよ。どんなことでもなんでもしてあげる。私、かわいいお嫁さんになるよ」
「待ってくれ、ちょっと頭が混乱していて……え、今なんでもって言った?」
「うん。でもごめんね。すぐに結婚するのは無理なの。聖女は、もっと高位の立場の人とじゃないと結婚できない。君のガルディオス家だと、身分が足りない。だから、さ」
「……だから?」
「一緒に魔族や魔物を討伐して出世しよう? 私のために頑張ってくれるよね?」
もう、怒涛の展開で頭がグルグル回って返答などできようはずもない。
なんだこれ、なんでこうなっているんだ?
カロミアはさらに言う。
「あ、でも魔族や魔物だけじゃ駄目かも。魔将軍とか、魔王とかを討伐しよう?」
いやいや魔王とか魔将軍とか、今まで何人もの勇者が挑んで敗北してきた相手だぞ!?
いくらなんでも無茶すぎるだろ!
俺は女の子に変身できるだけの、筋トレが好きな一般人に過ぎないんだぞ!?
「いやそれはさすがに無理だ!」
俺がそう答えると、カロミアの瞳の奥がキラリと光った。
「大丈夫だよ。聖女の私がついているんだから。聖女と言ったって、浄化の聖術とか治癒聖術しか使えないってことないんだよ。私の一番得意な聖術、知ってる?」
「いや、知るわけないだろ」
そこで、カロミアは青い瞳を今度はギラギラと輝かせると、自信に満ちた笑みを見せた。
「あのね、私が一番得意なのは……究極爆破聖術なんだ」
「おかしいだろ! それじゃ聖女じゃなくて魔女じゃん!」
「教会でも私の扱いに困ってるみたい。とりあえず20歳になるまでは自由にしていいって言われてるんだよ。その後は軍務につかなきゃいけないから。でも、おかげでエゼル君の出世を手伝えるよ? エゼル君が上級貴族になれれば私と結婚できるんだよ。身分という大きな障害だけど……愛で乗り越えようよ」
正直に言おう。
こんな美少女と結婚……。
悪くないな、と少しだけ思ったのだ。
でも、そのために魔将軍や魔王を討伐だなんて、到底不可能な気がする。
っていうか、国の英雄と呼ばれた人間たちが何人もやつらの餌食になっているのだ。
「……悪いけどさ、あのな、……」
断ろうと思ったその時だった。
部屋の外から、男の大きな声が聞こえてきた。
「聖女様! どこにいるんじゃ!? うちの生徒が魔族に襲われているそうじゃ! どうすべきか教えてくだされ!」
それを聞いて、カロミアはパッと顔を明るくした。
「超ラッキー!! さっそく出世のチャンスが向こうからやってきてくれたよ!」