「女体化するお前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺をヤンデレ聖女が一途に狙っている件 作:羽黒楓
身体が軽い。
いや、軽いを通り越して、身体を動かすことに関して、なんの抵抗も感じない。
俺は
驚愕の表情を見せる
「おらぁぁぁっ!」
ピンク色のヒラヒラスカートをなびかせて、俺は
「グワッ!」
よろめく
追撃してやる!
しかし、俺の目的はあくまで人質の救出だ。
「タァァァ!」
俺は身長6メートルの
「くらえ!」
そしてその頭頂部にかかと落としを決めた。
「グゥ!」
だが
3つの目で俺の動きを見極めようとしている。
血走って殺意のこもった視線だった。
だが俺の動きにはついてこられまい!
「ハァッ!」
今度は
巨大な左手に握られている少女の元へとたどり着く。
そして、毛むくじゃらな
自然に、口から技の名が発せられた。
「ミスティボム!」
ゴキィ! という音とともに、
少女が地面に向かって落ちていく。
「ハァァッ!」
俺は空中を蹴って少女を抱きかかえた。
少女の脱力した身体から、体温が伝わってくる。
ゼハ、ゼハ、という苦し気な呼吸音。
でもよかった、まだ生きている!
そのまま離脱しようとしたとき。
「させるかあ!」
ボキボキボキッ!
何かが折れる音がした。
激痛が全身に走る。
やばい、即死レベルの衝撃力だ。
というか多分、生身だったら即死だっただろう。
変身したことで身体の耐久性も上がっているみたいだ。
そうは言っても、あまりの衝撃で視力すら一瞬だけ失って、コンマ数秒間視界がノイズに覆われた。
背骨がやられている。
内臓も損傷しているかもしれない。
変身していなかったら、少女もろとも二つの死体になり果てていただろう。
いや、変身している今の状態でも、あまりにも身体の損傷がひどい。
これは……死ぬ、かも?
少女を抱く腕から力が抜けていく。
ダメか……!?
そう思ったとき。
後方からカロミアの声が聞こえた。
「ジュリ・ハロミア・カルワトス! 遠位治癒聖術、セット、オン!」
途端に、俺の身体を青い光が包み込んだ。
それと同時に俺の身体から痛みが和らいだ。
怪我まで瞬時に回復とはいかないようだったが、破壊された身体の部位がジワジワと修復されていくのを感じる。
すげえ、これが聖女の力か。
俺は少女を抱えたまま、地面になんとか着地を決めると、そのまま地面を蹴りながら飛び跳ねて距離をとっていく。
軽減されたとはいえ、まだまだ全身に痛みを感じるが、気にしている場合じゃない。
「ぐおおおお!」
痛みに耐えるために叫びながら俺は飛び跳ね続け、その場を離脱する。
よし、これで作戦通りだ!
そう思ったのだが。
人質を奪われたこの巨人は、すぐに目標を切り替えたのだ。
とんでもない判断能力の高さだった。
その巨体で地面を蹴り、俺とは別の方向にいるカロミアへ突進を始めたのだ。
カロミアはすぐにタブレットをタップし始める。
「ダルバ・ケミア・バル! 中距離爆破聖術、セット!」
だがその数秒の間にも
カロミアの爆破聖術は、最低でも半径5メートルを灰にするほどの威力だと言う。
そしてそれは、カロミア自身をも危険にさらす爆発なのだろう。
タブレットをタップしようとするカロミアの指が止まった。
彼女の碧い瞳が、自らを死へと誘う巨大な拳を見ている。
自らの死を悟ったような、無表情だった。
「カロミアァァァ!」
俺は叫んだ。
誰かがピンチになったとき――。
俺はいつでもどこからか力が湧いてくる。
熊から女の子を助けたときも、そして今も。
少女の身体を草むらにけっこう雑に横たえると、俺はグッとしゃがみこんだ。
今はこんなに細い身体なのに。
俺は大腿四頭筋に力がみなぎるのを感じた。
こんな身体になり果てても、筋肉は俺を裏切らないんだな、と思った。
「ハアァァァァァァァァッ!」
俺は絶叫しながら飛び跳ねる。
フワフワヒラヒラのドレスに身をまとった俺の身体は、空気を切り裂きながら飛翔した。
俺からカロミアの位置まで、おおよそ30メートル。
その距離を俺の身体はきりもみしながらわずか0.1秒、まばたきするほどの一瞬で到達した。
俺の身体は
身長6メートルの巨体が、衝撃で吹っ飛んだ。
カロミアの身体を越え、さらに15メートルほど先へ、巨人の身体は垂直方向に無様に回転しながら地面に叩きつけられる。
華麗に着地を決めた俺の足の裏で、ピンク色のヒールブーツ越しに、衝撃で地面が揺れるのを感じた。
「今だ、カロミア!」
俺の声で我に返ったのか、カロミアは慌ててタブレットをタップする。
「う、うん! 中距離爆破聖術、セット!
カロミアが聖術を発動した直後、地面に叩きつけられピクピク痙攣している
耳をつんざくような爆発音。
炎が巻き上がる。
そして俺のいる場所にも衝撃波が襲ってくる。
俺は頭を下げて腰をかがめ、そのショックウェーブに耐える。
その直後、今度は熱風を感じた。
ほっぺたが焼けるように熱く感じる。
なんだよ、半径5メートルどころじゃねえぞこれは!
「グゥアアアッ!」
カロミアの言った通りだった。
あとに残ったのは、立ち上る黒煙、肉の焼けるいやな臭い。
そしてクレーターのような大きな穴だけだった。
「あの子は!?」
俺は再び飛び跳ねて、横たわる少女の元へ行き、その身体を抱き上げた。
「うう……」
俺の腕の中で少女がうめいた。
毛量の多いブラウンのポニーテール。
口元には吐血したあと。
全身が傷だらけで、そこかしこに血が滲んでいる。
腕なんか明らかに折れているのがわかった。
くそ、ひどい状態だ。
でもまだ生きてる。
彼女はかすかに目を開け、俺の顔を見る。
そして、まつげを震わせながら、
「天使様……」
と呟いてそのまままた意識を失った。
「カロミア! この子に治癒聖術を頼む!」
「もちろん!」