「女体化するお前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺をヤンデレ聖女が一途に狙っている件 作:羽黒楓
少し離れた場所の、草原。
少女が安らかに寝息を立てている。
着ている服はボロボロだが、身体の方はカロミアの聖術によって完全回復していた。
「ふう、良かったぜ……」
俺は安心して少女の前にあぐらをかいて座り込んでいた。
そんな俺に、カロミアが飛びかかるようにして抱き着いてきた。
「エゼル君! エゼル君!」
「お、おい、やめろよ……」
ちなみに変身後だと俺の身体はカロミアよりちっちゃくなっている。
凄い力で俺を抱きしめてくるカロミア。
俺の小さな顔がカロミアの胸にうずまる。
うわ、こいつ着やせするタイプか!
ゆったりとした法衣の上からじゃわからなかったが、とんでもなく胸がでっかい!
なんだこの柔らかさ!
俺の顔にまるで吸い付いてくるようだ!
カロミアの体温が俺の肌に感じられる。
あったかいを通り越して熱いくらいだ。
女子のとても柔らかな肉に挟まれて俺は……。
「息! 息ができん! 死ぬ!」
俺はカロミアをなんとか引き離した。
危ないところだった、まじで窒息する直前だったぜ。
「ハッ!? 私、なんてはしたないことを……。でも、エゼル君の顔がここに……。うふふ、エゼル君の感触がまだ残ってる……」
などと言いながら自分の胸に手を当てるカロミア。
なんというか、ヤバいやつだ。
カロミアは改めて顔を上げ、碧い瞳をウルウルさせて俺を見つめる。
目の端には大きな涙の粒があふれていた。
薄いピンク色の唇も、わなわなと震えている。
「私ね、さっき死んだと思った! 死んだと思ったんだよ! エゼル君が助けてくれた! ありがとー!」
「でもあいつを爆殺したのはお前の聖術だろ……」
「ううん! エゼル君がいなかったらそんなこともできなかったよ! あの
カロミアが涙をぬぐいながらそう言った。
「やめろ! かわいいとか言うな! くそ、俺の筋肉が……」
「すごかった、
「戦士……戦士か……」
そう言われると悪い気はしないな、と思ったのだが。
「私、よく見てたよ! 前世で5歳くらいのとき、日曜日の朝8時半からやってたあの女児向けアニメ! エゼル君、ニチアサの伝説の戦士だったんだね!」
戦士ってそっちかよ!
「違う! 俺が目指しているのは屈強な男だ! こんなのは……違う!」
「でもほんとにすごかった! これは女神様直々のギフトだよ!? エゼル君、自分のギフトがどんなギフトかわかる?」
カロミアは潤んだ瞳のまま、俺の目をまっすぐ見てそう尋ねる。
「『
「いや、それはそうなんだけど、正確じゃないよ。『
なんだよ
「スマッシャーだけ残してトゥインクルはないことにならないか?」
「ならない」
即答するカロミア。
がっかりだよ、聖拳男子だったら俺は大喜びするのにな。
「いいじゃない、すっごくかわいいし! この能力で出世街道を
「この姿で結婚式はしないよ! なんで俺がウェディングドレスを着るんだよ!」
「かわいいから!」
「嬉しくねえ! いいか、俺がこんな姿に変身するなんて、絶対誰にも秘密だからな! お前はもうしょうがないけど、他の人にばれたらもう恥ずかしすぎて死ぬしかない」
「えー、なんでー? 最っ高に素敵なのに!」
「だからだよっ! 俺はかっこいい筋肉モリモリのファイターになりたいんだよ! いいか、絶対秘密だからな! 俺はこの姿をもう誰にも見せない!」
そのとき、気を失っていた少女がパッと跳ね起きた。
「天使様! ……あれ、ここは……?」
そしてまだ少女姿の俺を見て、目を見開いた。
「天使様!」
くそ、もう見られてるし!
嫌なんだよ、こんな
「私、死んでない……助かった……? 天使様、天使様が私を救ってくださったのですね! 天使様、ありがとうございます!」
そう言う彼女のポニーテールが犬のしっぽみたいにパタパタ揺れていた。
ポニーっていうより、ゴールデンレトリバーのしっぽみたいだな、と思った。
色もそっくりだし。
しかし風に揺られてるんじゃない、ほんとに動いているぞ。
なんかの魔法か?
「いや、違うぞ、俺は天使様じゃない」
「え、でも天使様ですよね? さっき私を助けてくれたじゃないですか!?」
「い、いや、ええとだな……。とにかく俺は天使とかじゃない」
「でも……。あの三つ目の巨人、私知っています。以前、一体で城を急襲して1000人の兵士を皆殺しにしたって……」
有名な話だから、この子も知っていたみたいだ。
我ながらよくそんな魔族と対等に渡り合えたな。
カロミアも、補足するように言う。
「そうなんだよ! あいつ、かなりの厄介者でさ。私も一人だったらどうしたらいいかわかんなかったよ。人質までとられて手も足も出なかったと思うよ!」
「でも一撃喰らったけどな」
「それはその子が人質に取られていたからだよ? じゃなかったら、多分私の出番なかったと思う……。力は感じ取っていたけど、ほんとにすごい。バフ聖術が必要なかったんだもん。私の予想以上に強かったよ」
そうなのか?
聖女が言うならそうなのかもしれないが……。
ポニーテール少女も、相変わらず髪の毛をしっぽのように振りながら、
「本当にそうです。天使様の腕に抱かれたとき、私、私……。どんなに安心したことか……。天使様!」
「だから天使じゃないって!」
「天使様……じゃないんですか……?」
ちょっとがっかりした様子の少女。
ポニーテールの先っぽもシュンとする。
「とにかく、助けてくださってありがとうございます! あと、そちらにいらっしゃる方にもお礼を! ええと……?」
カロミアの方を見る少女。
「私は、聖カロミア・ブランシャール。あなた、リョーウ神聖学院の生徒さんでしょ? 私、今年から新しくあなたたちの教師になったの。先日赴任したばかりだよ。よろしくね」
「あなたが噂の聖女様!?」
今度はポニテの毛先がピョコーンと跳ね上がった。
こいつの髪の毛、おもしろいな。
「そうだよ。身体の調子はどう? 治癒聖術をかけてあげたんだけど」
言われて初めて気づいたようで、彼女は自分の身体をペタペタと触った。
「ほんとだ! どこも痛くない……。聖女様ってすごいんですね……。まさに女神様の奇跡です」
カロミアは胸を張って誇らしげに言う。
「私ほどの聖術使いはそうそういないもんね!」
「ありがとうございます! ほんとに死んじゃったかと思いました。……で、こちらの方、天使様じゃないとするとどなた様ですか……?」
少女はまた俺の方を見る。
カロミアが答えた。
「かわいいでしょ? この人はね、エゼ――」
「ストップ! ストップストップ!」
俺の名前を言おうとするカロミアをあわてて制止する。
学院では筋トレに
なのに、華奢な女の子に変身するなんてバレたら俺が理想とする学院生活は崩壊だ。
「えーとだな、俺の、俺の名前は……」
そのとき、俺の頭になぜかパッとある名前が思い浮かんだ。
「そう、俺……いや私は女神の戦士、『ミスティレインボー』だ」
俺がそう言った途端、カロミアは笑い始めた。
「あはははは! かっこいー! ……でも、私もそっちのほうがいいかな。……男の人に命を救われると、女の子ってさ、その人に惚れちゃうかもしれないから。知らない方がいいよ、私にとっても」
そして一瞬だけ瞳をギラリと輝かせた。
「ライバルは少ない方がいいもんね。ってかゼロであってほしいよ」
カロミアはそう言うが、ポニーテール少女が俺を見つめる瞳はキラキラしていて、
「素敵……ミスティレインボー様……」
などと言っているのだった。
「あの、ミスティレインボー様、聖女様。自己紹介してもいいですか? 私、神聖学院二年生、フェリス・フォーリアスって言います!」
フェリスが自己紹介を始めたそのとき。
俺の身体に異変が起こり始めた。
全身のあちこちがモゾモゾしてきてる。
ヤバい、変身が解ける前兆だ!