「女体化するお前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺をヤンデレ聖女が一途に狙っている件 作:羽黒楓
「ぬおおおおお!」
俺は駆け出した。
同じ学校に通う生徒の前で変身が解ける――。
つまりそれは、俺のギフトが女の子への変身、というのがバレてしまうことを意味する。
それだけはっ!
それだけは絶対に阻止せねばならーん!
「あ、ミスティレインボー様……」
フェリスの声を置き去りにして俺はダッシュする。
ええと、どこか隠れるところはないか!?
あ、あそこに大きい岩がある!
俺は岩の陰に隠れた。
その瞬間、俺の身体からプシューっとなにかが抜けていくのを感じる。
そして。
戻ってきた!
俺の大胸筋が戻ってきたぞ!
愛すべき二頭筋、麗しき三頭筋、苦楽をともにした大腿四頭筋……全部、俺の元に帰ってきてくれた。
俺は母親のような慈愛の笑みを浮かべて、自分の上腕二頭筋に話しかける。
「ふふふ、おかえり……」
服装も元の状態に戻っている。
そりゃそうだ、あんなピンク色のフリフリ衣装のまま男に戻ったら悲惨なことになるもんな。
俺は何食わぬ顔をして岩から出てくると、カロミアたちがいるところに戻ってくる。
「あ、エゼル君!」
ニコニコ笑顔のカロミア。
一方、フェリスの方はというと、自分の腕や肩、そして自身の血でどす黒く汚れた箇所をなでている。
「すごい……本当に治っている……さすが聖女様です! あれだけのことがあったのに、なんか心のショックみたいなのもないし」
カロミアはニコリとフェリスに笑いかける。
「治癒聖術は身体の傷を治すだけじゃないからね。私レベルになると心の傷も治せるんだよ。と言っても、直前に起こった出来事くらいで、過去のトラウマとかは消せないけどね」
「すごい……」
「あと服も直せない。そこ、はだけてるよ?」
言われて初めてフェリスは自分の穿いていたスカートが破れて太ももが露わになっていることに気づいたみたいだった。
慌てて破れている部分を手で押さえる。
そこでやっと俺に気づいたようだ。
「ん? あんた誰? ミスティレインボー様は? っていうか、あんた、今私の太もも、見た?」
なんかさっきとは声色も変わってるぞ。
一オクターブ下というか。
正直に言うと、戦闘中に太ももどころか中の水色パンツまで見えてた。
ま、命が懸かってる場面だからさすがに気にもしなかったけど。
もちろん見えてなかったことにしとく。
俺だって前世は40代のおっさんだし、そのくらいのデリカシーは持ってるぞ。
「見てないよ。無事でよかった」
「え、マジであんた誰?」
フェリスが
俺が自己紹介しようと思うのより早く、カロミアが答えた。
「ミスティレインボーちゃんはもう帰ったみたいだよ。あ、この人はエゼル・ブロリオス・ガルディオス君! 今年の新入生だよ。フェリスちゃんは二年生だよね? 後輩ってことになるね」
「ふーん。まあよろしくね。……なんでここに?」
するとカロミアが早口でまくしたて始めた。
「決まってるじゃない! フェリスちゃんを私と一緒に助けに来たんだよ?」
「え、でもさっきはいなかったじゃないですか」
「フェリスちゃんが気を失っている間、エゼル君は勇敢に戦っていたんだよ」
「そうなんですか……?」
明らかに疑っている表情のフェリス。ポニーテールがピーンと伸びている。
カロミアが大きく頷いて言う。
「そうなんです! エゼル君も強かったよ! あ、あとフェリスちゃん、敬語はいらないよ。私はまだ17歳だし」
「じゃあ同い年か……。でも聖女様にタメ口はちょっと……」
「いいの、いいの。みんなして聖女様聖女様っていうけど、そういう環境の中じゃなんか自分の中のバランス感覚がおかしくなっちゃって。王都の教会だとみんな聖女様聖女様言うんだけど、実はうんざりしてるの。だから、ここではフランクに話してほしいな」
「そうですか……そうなのね。わかったわ。で、聖女様はわかるけど、なんで新入生まで……?」
「決まってるじゃない。うちの生徒がピンチって聞いて、エゼル君も駆けつけてきてくれたってわけ。エゼル君は人助けのためなら自分の命を賭けるのが惜しくない、すごい生徒なんだよ」
それを聞いて、フェリスが眉を寄せて俺を見る。
こいつ、全然信じてないな。
「魔族相手に? 新入生が命を賭けて? ほんとに? さっきいなかったし」
「だからいたんだってば。あとでドラノール先生に聞いてみなよ。エゼル君、迷うことなく私と一緒に来てくれたよ。そもそも、エゼル君がミスティレインボーちゃんを呼んだんだよ」
おいおい、勝手に設定を作るなよ!
とは言っても、俺自身が女の子に変身したなんて同じ学校の先輩には知られたくない。
そういうことにしておくか?
いや待て、そうだとすると、なにかあるたびに『ミスティレインボー様を呼んで!』とか言われたりするんじゃないか?
やっぱりその設定はなしなし!
「いや、違うんだ、ミスティレインボーは俺の友だちというわけじゃなくて」
そこにカロミアがすかさず言葉を続ける。
「そうなんだよ! 実はエゼル君がその魔法でミスティレインボーちゃんを召喚してるの!」
「あ、おいバカ、そんな設定を盛るな!」
「だからこれから困ったことがあったらエゼル君にミスっちを呼んでくれるように頼むといいよ!」
「勝手に設定つくるな! 嘘だぞ、嘘だからな! 俺にはそんな魔法使えない!」
「またまたあ! 謙遜しちゃってぇ!」
フェリスは俺とカロミアの顔を交互に見る。
「……どう考えても聖女様が嘘をつくわけないわよね……。そっか、あんたがミスティレインボー様を召喚したってわけ……。あんたにもお礼を言わなきゃね。ありがとう。あとミスティレインボー様にもお礼を言いたいわ。もう一度呼んでくれない?」
それは無理だ。
そもそも、女子に変身するのはもともと一日に一回、ってのが俺の『ギフト』だからな。
正直に言っておくか。
「いや、ミスティレインボーを呼ぶのは一日に一回までなんだ」
「そう……じゃあ今度改めてお礼を言うわ。あなたからも言っておいて」
あ、やばい。
俺がミスティレインボーを召喚するってことを自分で肯定しちまったぞ!?
明日からの学院生活どうなってしまうんだ、俺?
★
その噂話は、あっというまに町に広がった。
なぜなら、カロミアが積極的にその噂話を広めていたからである。
「うふふ。この噂は王都にも届いているはずだよ。エゼル君……早く上級貴族になって私と結婚しようね……」