「女体化するお前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺をヤンデレ聖女が一途に狙っている件   作:羽黒楓

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第8話 獣臭いのがかっこいい

「ぐおっ! ぐおっ! ぐううう! むうううん!」

 

 入学式もおわり、通常の授業の後。

 放課後だ。

 俺は学院の校庭で腕立て伏せをしていた。

 腕立て伏せと言って馬鹿にしてはいけない。

 たしかに、筋肉を強く太くするには重りを使ったウエイトトレーニングが最適だ。

 しかし、この学院には、俺の実家であるガルディオス家みたいなトレーニングルームはない。

 

 だがそれであきらめてはいけない。

 腕立てのような軽い負荷でも、限界ギリギリの回数まで繰り返すのを何セットも積み重ねれば、それなりの筋トレになるのだ。

 

「フンッ! フンッ! フンッ! 79! 80! 81!」

 

 俺の腕立ては続く。

 うむ、大胸筋がピリピリ来ているのがわかるぞ。

 喜んでいる。

 喜んでいるぞ、我が大胸筋! あとついでに上腕三頭筋と三角筋前部もすこしだけ喜んでいる!

 と、その時、女性の声が聞こえてきた。

 

「ねーねーエゼルー」

 

 フェリスだ。

 腕立て伏せをしている俺の横にしゃがみこんで話しかけてきたのだ。

 ポニーテールをゆらゆらと揺らして、俺の顔を覗き込んできている。

 

「ちょ、今は待って……98! 99! 100! ……ふー、このくらいにしてやるか。くぅ、効いたなあ」

 

 俺はそのまま地べたに這いつくばる。

 大胸筋がプルプル震えて心地よい。

 明日は良い筋肉痛が来てくれるだろう。

 

「で、フェリス、なんの用だよ」

 

 俺はぶっきらぼうに言う。

 一応、フェリスは俺よりも学年が一つ上なのだが、年齢は遅れて入学した俺と同じ17歳だ。

 この国の学生文化では、学年の違いで敬語とかを使う慣習がない。

 なにしろ、こういう神聖学院では年齢や出自がバラバラなものが集まるし、飛び級もあるので、15歳の三年生と30歳の一年生、ってことも普通にあるからな。

 

「ミスティレインボー様のことなんだけど」

 

 フェリスが聞いてくる。

 

「またそれかよ」

 

 俺はうんざりしてまたぶっきらぼうに答える。

 この学院、全校生徒が30人しかいないから別の学年の生徒とも一緒に授業を受けるのだが、フェリスはその授業中も俺の隣に座ってきてはいろいろとミスティレインボーのことについて聞いてくるのだ。

 

「あんたが召喚するんでしょ? 召喚するってことは、人間じゃないってこと?」

「そうだなー。うーん。まあなあ。俺の能力やギフトに関することだから、あまり教えたくないな」

「なによ、軍隊の特別作戦隊みたいなことを言って」

「だからさ。俺は将来軍隊を目指しているんだ。父親にそう言われてこの学院に入学したんだからな。将来のことを考えて、能力については話したくない」

 

 戦闘職が自分の能力を秘匿するのは、この世界では普通のことだ。

 能力を知られることイコール対策を打たれることだからな。

 特に、軍に所属する人間はなるべく自分の能力を他人に知られないようにするのが常識なのだ。

 

「なによ、ケチね。とにかく、あんたがミスティレインボー様を呼びだすんだよね? どういうときに呼び出せるの?」

「だから秘密だって」

「んー、もう!」

 

 唇を尖らせ、髪の毛と同じく明るいブラウンの瞳で俺を睨みつけるフェリス。

 

 その時、俺たちのところへ、青と白の法衣を着た、聖女がやってきた。

 今日は長い金髪をサイドテールにまとめている。

 どうやら、先生としての仕事中はサイドテール、プライベートでは髪の毛をおろしているみたいだ。

 

「エゼル君、フェリスちゃん、何を話していたの?」

 

 どうでもいいが、俺が女子生徒と少し話しただけで、カロミアはどこからともなく現れて何を話していたかいちいち聞いてくるんだが。

 まさか俺を監視してるのかこいつ。

 フェリスはカロミアを見るとパッと立ち上がって答えた。

 

「あ、カロミア先生。今、ミスティレインボー様についてエゼルにいろいろ聞いてたのよ。でも、エゼルはなにも答えてくれなくて」

「エゼル君は軍志望だし、教えないのは当然だよ。うわ、エゼル君、汗びっしょり。拭いてあげるね」

 

 法衣の懐からハンカチを取り出すと、上体を起こした俺の額の汗を優しく拭くカロミア。

 拭いてから、そのハンカチを鼻に当ててクンクンと嗅ぐと、また懐に戻した。

 

「え、なに今の……」

 

 フェリスはちょっと引いている。

 カロミアはすました顔で、

 

「え、なにが?」

「あのお……カロミア先生って、もしかして……エゼル君のこと、好きだったりします?」

「まさかあ。エゼル君はただの私の生徒だよ? あ、また汗が」

 

 今度は自分の法衣の袖で俺の汗を拭く。

 俺はその手を払いのけながら、

 

「いや、そういうのやめてくれないかな」

 

 と言うのだが、カロミアはにっこり笑いながら袖の匂いをスゥーッと嗅ぐと、

 

「え? なにが?」

 

 などととぼけている。

 

「ええ……?」

 

 フェリスは完全にドン引きしていた。

 

「ふふ……エゼル君と手が触れちゃった……ふふふ」

 

 ほっぺたを赤く染めながら妖艶な笑みを浮かべるカロミアに、

 

「ええええ……」

 

 さらにドン引きしているフェリス。

 

「フェリスちゃん、もしエゼル君に近づく女の子がいたら……私に教えてね。不純異性交遊は許されないもんね」

「いや、カロミア先生の行動がすごく不純に見えるわよ……」

 

「ちなみにフェリスちゃんの成績……私が握っているから」

「うん、こいつに近づく女がいたら教えるわ。……ちょっと男の趣味が悪い気もするけど。こんな筋トレバカ、どこがいいのかしら……。私なら、もっとこう、華奢な、女の子みたいな……」

 

 いやいや、男たるもの、やはり筋肉隆々の、獣臭いのがかっこいいだろ!

 俺は男らしい男になるんだ!

 今日は寮に帰ってからも、筋トレを続けるぞ。

 俺は、油断していた。

 学生の寮の俺の部屋。

 そこにはいろいろなトラップがしかけられていたのだ。

 

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