「お前の能力は一族の恥だから出て行け!」と筋肉を愛する実家から追放された俺が前世で助けたヤンデレ聖女につきまとわれている件。なお、俺はキラキラフリフリ衣装の近接格闘聖拳少女に変身して戦う。 作:羽黒楓
その夜。
学生寮の、22号室。
そこで俺は椅子を使ってリバースプッシュアップを行っていた。
上腕三頭筋を鍛える筋トレ種目である。
俺は父さんや弟のデリンダルみたいな、「
だが。
そういうギフトを持たない一般人でも、極限まで鍛えればいつかあんな風な筋肉男になれるはずだ。
鍛錬は決して怠らない。
ちょうどよいことに、俺の部屋は結局俺一人で使っている。
カロミアが俺と同室になりたがっていたが、聖女の権力をもってしても結局許されなかったようだ。
というのも、学院の理事長も聖職者なのだが、どうやらカロミアの師匠の親友らしく、カロミアのわがままを野放しに許すというわけでもないようだった。
よかった。
あいつが聖女の権力を思いのままに使ったら、俺の筋トレ人生にも悪い影響を与えそうだったからな。
……あんな美少女、そりゃお付き合いできるならしたい気もするけどなー。
でもなー。
魔王とか魔将軍とかと闘わされるのは嫌だ。
勇者の称号を持っていた英雄が何人も奴らの餌食になっているのだ。
そんなことより俺は自分の筋肉を育てたいんだ。
「はあ、ふう、ふう……」
一通りセットが終わって、俺はベッドに倒れこむ。
うん、心地いい疲れだ。
そのとき、誰かが俺の部屋のドアをノックした。
どうせ男子寮だから男しかいない。
「開いてるぞ」
俺が言うと、入ってきたのは隣の部屋のベルーガだった。
俺と同時に入学してきた、同い年の17歳。
話しやすい奴だから、けっこう仲良くしている。
「お、今日も筋トレにはげんでるな」
ベルーガ自身は魔法使い志望だから、筋トレには興味がない。
身長は同じくらいだが、全然筋肉がなくて俺から見ればヒョロく見える。
なんというか、調子のいい優男って感じだ。
俺の理想とする男性像とは程遠いベルーガだが、いつも俺の筋トレを応援してくれているのだ。
ベルーガはノートを持ってきていた。
「今日の宿題でわかんないところがあってさ」
「俺はもう終わらせたぞ、そこの机にノートが置いてある」
「さすがエゼルだな。写させてくれ」
「いいぞ、勝手に見てくれ」
ベルーガが俺の机に近寄り、……そして、
「ん、ないぞ。引き出しの中か? 開けるぞ。え、なんだこれ?」
と言った。
その手に持っているのは、女物の化粧品……ファンデーションと口紅だった。
「なんだこれ!? エゼル、これ、お前のものか? まさか、お前……」
待てぇぇぇい!
知らんぞ、そんなもの!
え、なんで? なんでそんなものが俺の引き出しの中に入ってるんだ!?
ベルーガはハッとした顔をして、
「ま、まさか……!?」
そう言って俺の衣類が入っているタンスの引き出しも勝手に開けた。
いや別に中に入っているのは俺の下着だけ……。
「エ、エゼル……!!」
ベルーガが、乱雑に詰め込んである俺のパンツの中から、一切れの布を取り出した。
それは。
ピンク色の、女物の下着だった。
さらには、同じ色の……ブラジャー!?
しかもかなりどでかいブラジャーだ。
この布が覆うおっぱいってどんだけ大きいんだよ!?
ベルーガはしばらく硬直していた。
ちなみに言うと、俺も身体が硬直していた。
え、なんだこれ、なにが起こっている!?
「エゼル……お前……そうか……筋トレだけじゃなくて、女装趣味まで……!」
「ち、違う! 違うぞ!」
「いいや、なにも言うな。俺には分かってる。大丈夫だ。俺はエゼルがどんな趣味を持っていても、友だちでいるからな。でも一つ聞きたいことがある。お前が女装趣味なのは全然いいとして……」
「いやよくない! 俺にはそんな趣味はないぞ!」
「お前、あれか、こないだ胸の大きい女の子が好きとか言ってたが。あの言葉には偽りはないのか? ほんとはお前が好きなのは女の子じゃなくて……」
「違う! 俺は男だ! だから女の子が好きだ! それは間違いない!」
「そうか、女装が好きってだけなんだな。理解した」
「理解すな! 違う、違うんだ……」
「大丈夫だ、俺は誰にも話さない。心配するな。俺はいつまでもお前の友だちだぞ」
泣きそうになってきてしまった。
筋肉男になりたい俺が、女装願望のある男と勘違いされてしまった……。
そもそも、なんで女性ものの化粧品だの、下着だのが俺の引き出しに入っていたんだよ……?
「エゼル、一応知らせておく。お前がいろんな
「あいつ……! あいつかぁ……!」
くそ。
俺が授業を受けている間に、きっとカロミアが忍び込んで女性ものの下着をタンスの中に入れたんだな。
いったい、なんのために……!?
★
その頃。
学生寮とは学院の建物を挟んで反対側にある教師用の宿舎。
聖カロミア・ブランシャールは、そこで一人、紅茶を飲みながらほくそ笑んでいた。
「ふふ……。エゼル君……。君はかっこよすぎる。ほどよく鍛えた筋肉とか、最高。このままじゃ、他の女子にも好意をもたれちゃうよ。ふふふ。ほんとはエゼル君が凄くかっこいいって、他の女子にいっぱい知られてほしい気持ちはあるんだけど、でもそれじゃ困るんだよね。ライバルは減らさなきゃ……。エゼル君の部屋に女物の下着や化粧品があるって噂が立てば……どう転んでもライバルが減るよね……。そうそう、あともっと戦功を立ててもらわなきゃね」
その時だった。
カロミアの傍らにあったタブレット型のアイテムが、ブルブルっと震えた。
「ん? どうしたかな? ……あ。魔物が近くにさまよってきてるなあ」
そう呟いて、カロミアはタブレット型のアイテムをタップする。
魔物の位置が表示された。
「うーん、この辺りは人が住んでいるからなあ。危ないよね。すぐに討伐しないと」
この世界では、人間の住む地域のまわりに、魔物がうろつくことがある。
討伐しなければ危険だが、魔物は神出鬼没で、討伐隊が現場に間に合わないこともある。
だから、逆に魔物を任意の場所に呼び出して討伐することがあるのだ。
そして、その時に使う聖術があるのだった。
「そうだ! 校庭に呼び出そう! そして全校生徒が見守る中、エゼル君が魔物を倒したら、その噂は絶対都にも届くよね!」
魔族でなく、知能の低い魔物程度なら、あっさり倒せるだろう。
近隣の平和のため、そしてもちろんエゼルに戦功を上げさせるため。
「よし、とりあえずエゼル君を校庭に呼び出そうっと!」