乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してだけでなく私のせいで古生物を解き放ってしまった…。〜責任をとってプレヒストリック・パークを開きます〜 作:龍座
少しして、窓の向こう側の白亜紀の森で、慎重にカタリナの手作りのエンリッチメント(蔓で編んだ給餌籠)を観察していたガリミムスの一頭が、ついにその硬い嘴を籠の隙間へと差し込んだ。
嘴が器用に中の現代野菜を挟み込み、引っ張り出す。シャクッ、と瑞々しい葉を咀嚼する音が静かに響き、それが安全で美味しい食べ物だと理解した途端、他の群れの仲間たちも次々と籠に群がり始めた。
カタ「あ!……食べてくれたわ!」
未知の環境に対する極度の緊張が解け、彼らが『食事』という野生本来の自然な行動を見せてくれたのだ。
これにはカタリナも、固唾を呑んで見守っていた仲間たちも、一斉に顔を綻ばせて静かな歓声を上げた。マリアも両手を胸の前で組み、安堵の笑みを浮かべている。
ソフィ「それにしても、改めてじっくり拝見すると、同じガリミムスでも少しずつ羽の色や模様が違うのですね」
観察窓から群れを観察していたソフィアが、ふとそんな疑問を口にした。
確かに、全身を細やかな羽毛で覆われた彼らをよく見ると、やや明るい色合いの個体と、周囲の土や枯れ葉に溶け込むような地味な色合いの個体が混ざり合っている。
カタ「おそらく、オスとメスの違いね。現世の鳥たちと同じように、恐竜も性別によって羽毛の色や模様が異なる『性的二型』があるのよ。この環境に無事に適応してくれて、もし奇跡が起これば……いつかここで卵を産んで、ヒナの姿が見られるかもしれないわね」
カタリナが園長としての夢を膨らませて誇らしげに語る中、メアリの視線は、ガリミムスの群れから少し離れた別の場所へと向いていた。
カタリナはガリミムス用の野菜籠とは別に朽ち木に虫を仕込んだもう一つのエンリッチメントを密かに設置していたのだが……そこに、見慣れない小さな影がとまっていたのだ。
メア「……あら? カタリナ様、あちらにいるのは……」
メアリの指差す先、朽ち木のエンリッチメントの上で、一羽の『鳥』が小さな頭を素早く動かし、虫をついばんでいた。
カラスほどの大きさで、カササギのように黒と白のコントラストがはっきりとした羽毛を持つその生物。ソルシエ王国の王都周辺ではあまり見かけない、不思議な姿をした鳥だった。
アラ「随分と変わった鳥だなぁ。どこか別の森から、餌の匂いに釣られて迷い込んできたのか?」
アランが目を細めて呟く。カタリナたちも最初は「珍しい現世の鳥が迷い込んだのだろう」と、何事も無いかのように気楽に眺めていた。
カタ(……?)
しかし、前世から恐竜や古生物の図鑑を読み漁ってきたカタリナの目は、その『鳥』が動くたびに生じる、ほんの僅かな「違和感」を見逃さなかった。
カタリナは無意識のうちに、窓ガラスにへばりつくようにして前へと身を乗り出した。
メア「か、カタリナ様……?///」
結果として、身を乗り出したカタリナの顔が、隣にいたメアリの顔のすぐ横、触れ合いそうなほどの至近距離にまで接近してしまった。メアリは突然の急接近に肩をビクッと震わせ、その美しい顔を瞬く間に林檎のように真っ赤に染め上げた。
だが、現在のカタリナの視界にはメアリの可憐な照れ顔など一切入っていない。彼女の目は、朽ち木の上で虫を食べている『カササギのような鳥』の身体的特徴を、恐ろしいほどの集中力でスキャンしていた。
黒と白の羽毛。
しかし、その口元は現世の鳥のような完全な嘴ではない。小さなアゴには、細かく鋭い『歯』が並んでいる。
羽ばたいてバランスを取るために広げられた翼の先には、現世の鳥には存在しないはずの、はっきりとした『三本の鉤爪』がある。
そして何より、虫を追って素早く動くその後ろには、尾羽の根元から伸びる、長い『骨格を伴った尾』が存在していたのだ。
刹那、カタリナは弾かれたように両目を見開いた。
カタ「皆! 急いで準備をして!」
つい先程までの穏やかな園長の顔から一転、カタリナは血相を変えてバッと振り返り、大声で叫んだ。
アラ「と、どうしたんだよカタリナ! 急に大声出して……」
突然のパニック状態に、アランが驚いて身構え、ジオルドやマリアたちも何事かと目を見張る。
カタリナは窓の向こうの小さな黒白の影を指差しながら、震える声で告げた。
カタ「私の予想なら間違い無い! あれは『始祖鳥』よ!!」
始祖鳥―――アーケオプテリクスとも言われているそれは、今から約1億5000万年前の中生代ジュラ紀後期に生息していた、恐竜から鳥類への進化の過程を如実に示す「最も有名な移行化石」として知られる古生物である。
大きさは現代のカラスやカササギと同程度。長年、その羽毛の色は不明とされてきたが、近年の最新の科学技術による色素細胞の構造解析の結果、羽毛は単純な黒一色ではなく、マットな黒色と白色の模様を持つ、まさに「カササギのような体色」であった可能性が高いと判明している。
現世の鳥類との決定的な違いは、その骨格にある。
現代の鳥の尾羽は短い尾骨にまとまって生えているが、始祖鳥は小型の獣脚類と同じように『長い骨の通った尾』を持ち、そこに沿って羽毛が生えている。さらに、翼の先には木登りや獲物を捕らえるための『三本の指と爪』が残っており、嘴ではなく『鋭い歯が並んだ顎』を持っているのだ。
彼らはガリミムスが生きていた白亜紀後期よりも遥か昔、ジュラ紀の空を舞っていた生物である。
カタ「あの子はまだ小さくて警戒心が強いわ! もしこのまま飛んで逃げられたら、生態系にも影響が出るかもしれないし、何よりあの子自身が生きていけないわ! アン、キース! すぐに捕獲用の網と、あの虫の餌箱のスペアを持ってきて!」
カタリナの焦燥に満ちた叫びに、観察ルームの空気は一瞬にして「のどかな動物園見学」から「緊急の捕獲ミッション」へと切り替わったのである。
ーーー
カタリナの言葉を合図に、観察ルームの空気は一変した。
カタリナのただならぬ気迫に押されるように、ジオルド、アラン、キース、ニコルの男性陣も素早く動き出し、捕獲用の丈夫な網や、対象を傷つけずに包み込むための厚手の布を準備し始めた。
網を手にしたアランが、窓の外の小さな影を睨みながら怪訝そうに尋ねる。
アラ「でも、あんな風に羽があるんだろ? 近づいた途端に、空高く飛んで逃げたりしないのか?」
その疑問に対し、カタリナは網の結び目を確認しながら、力強く首を横に振った。
カタ「大丈夫よ。始祖鳥は、飛ぶのはとても下手だから」
アラ「下手、なのか?」
カタ「ええ。現世の鳥たちのように、何時間も空を飛んだり、雲の上まで高く舞い上がるための発達した胸の筋肉や肩の関節を持っていないの。せいぜい、キジのように短い距離をバタバタと直線的に飛ぶか、高いところから滑空することしかできないわ。だから、空の彼方に逃げられる心配はないのよ」
最新の研究によって、始祖鳥は能動的な飛行が可能であったとされているがその飛び方は現代の鳥類とは異なり、短距離を逃げるための瞬間的なものだったと考えられている。カタリナのその知識は、捕獲における最大の勝機であった。
カタ「とはいえ、あの子も怯えればパニックになるわ。まずは、ガリミムスたちを別の区画へ避難させましょう」
もし捕獲の騒ぎでガリミムスたちが暴走すれば、大怪我に繋がりかねない。カタリナたちは新鮮な野菜を入れた木箱を使い、ガリミムスの群れを刺激しないようゆっくりと誘導し、展示場の奥にある隔離用のサブパドックへと彼らを無事に避難させた。
カタ「アン、他にも迷い込んでいる個体がいるかもしれないわ。念のため、展示場の周囲やバックヤードを探索してちょうだい」
「畏まりました、カタリナ様」
優秀なメイドであるアンが周囲の警戒と探索へと向かったのを見届け、いよいよカタリナと男性陣は、始祖鳥が留まっている朽ち木へと密かに足を踏み入れた。
土を踏む音さえ殺し、五人は息を潜めてじりじりと包囲網を狭めていく。
始祖鳥はまだ朽ち木の上で、昆虫の入ったエンリッチメントに夢中になっていた。カタリナがそっと手で合図を送り、アランとキースが左右から、ジオルドとニコルが後方から退路を塞ぐように展開する。
だが、あと数歩まで近づいたその時だった。
アランの足元で、乾いた小枝がパキッと微かな音を立ててしまった。
その瞬間、始祖鳥の頭が弾かれたように上がり、ギョロリとした爬虫類のような瞳がアランを捉えた。
「シァァッ!」
それは美しい小鳥のさえずりなどではなく、威嚇するような爬虫類じみたしわがれた鳴き声だった。
始祖鳥は鋭い歯が並んだ嘴を大きく開けると、強靭な脚力で朽ち木を蹴り上げ、バタバタと激しい羽音を立てて宙へと飛び出した。
アラ「しまった、逃げるぞ!」
アランが網を振り下ろすが、空を切る。
カタリナの言葉通り、始祖鳥は空高く舞い上がることはできなかった。しかし、地面から数メートルの低空を、矢のように素早く直線的に飛ぶそのスピードは、予想を遥かに超えていた。
ジオ「逃がしませんよ!」
ジオルドが優雅な身のこなしで先回りし、待ち構えるように布を広げた。だが、始祖鳥は空中で器用に身を翻すと、近くにあった広葉樹の幹へと飛び移った。
そして驚くべきことに、翼の先にある『三本の鉤爪』を樹皮にガッチリと食い込ませ、長い尾でバランスを取りながら、まるでトカゲかリスのような素早さで幹を駆け上り始めたのだ。
アラ「うわっ!? なんだあれ、木を登ってるぞ!」
ニコ「現世の鳥とは身体の作りが違うんだ! キース、ニコル! 上へ行かせないで!」
カタリナの指示が飛ぶ。ニコルが冷静に木の反対側に回り込み、長い木の枝を使って始祖鳥の進路を遮った。
行く手を阻まれた始祖鳥は再び木からダイブし、今度は滑空しながら茂みの奥へと逃げ込もうとする。
キー「させるか!」
キースが飛び込み、地面すれすれで網を被せようとするが、始祖鳥は長い尾を舵のように使って急旋回し、キースの股下をすり抜けていく。勢い余ったキースは地面に転がり、アランも後を追って茂みに飛び込むが、葉っぱまみれになってむせ返る羽目になった。
アラ「はぁ、はぁ……なんてすばしっこいんだ……っ」
ジオ「カラスほどの大きさですが、動きの予測が全くつきませんね……」
息を切らすアランと、額に汗を滲ませるジオルド。捕獲作戦は思いのほか難航し、すでに三十分近くが経過していた。始祖鳥の短距離飛行と木登りを駆使した立体的な逃げ回りに、男性陣はすっかり翻弄されていた。
カタ「みんな、待って。追いかけっこはもうやめましょう」
カタリナが制止の声を上げた。彼女の視線の先には、度重なる逃走劇で体力を消耗し、低い岩の上で肩で息をしている始祖鳥の姿があった。
飛ぶのが下手ということは、それだけ持久力がないということでもある。始祖鳥自身もすでに限界に近かった。
カタリナは網をジオルドに預け、代わりに最初、始祖鳥が突っついていた『昆虫の入った餌箱』を手に取った。
そして、極限まで姿勢を低くし、ゆっくりと、岩の上の始祖鳥へと近づいていく。
ニコ「カタリナ、危ないですよ……」
カタ「大丈夫。あの子ももう、飛ぶ力は残っていないわ」
カタリナは岩の数メートル手前で立ち止まり、そっと地面に餌箱を置いた。そして、手には厚手の布だけを持ち、じっと動かずに気配を殺した。
周囲に静寂が戻る。
始祖鳥は警戒して「クルル……」と喉を鳴らしていたが、やがて餌箱の中で動く昆虫の音に気づいた。激しい運動の後の空腹に耐えきれなくなったのか、岩からぴょんと飛び降り、警戒しながらも少しずつ餌箱へと近づいてくる。
一歩、また一歩。
始祖鳥が完全に餌箱に顔を突っ込み、カブトムシの幼虫のような虫を嘴で咥え上げた、まさにその瞬間だった。
カタリナはバネのように地面を蹴り、見事な前傾姿勢で飛び込んだ。
バサァッ! という音とともに、カタリナが広げた厚手の布が、始祖鳥の小さな身体をすっぽりと覆い隠す。
「ギャァッ! シァァ!」
布の中で始祖鳥が激しく暴れ、翼の鉤爪で抵抗しようとするが、カタリナは決して力を入れすぎず、しかし絶対に逃げられないよう、優しく、かつしっかりと布の端を押さえ込んだ。
骨格のある長い尾や、傷つきやすい羽の構造を熟知している彼女だからこそできる、完璧な保定姿勢だった。
カタ「……捕まえた! 捕まえたわ、みんな!」
泥だらけになったカタリナが、布の塊を胸に抱き抱えたまま、満面の笑みで振り返る。
アラ「おおっ! やったなカタリナ!」
カタ「怪我はありませんか!? 噛まれたりしていませんか!?」
アランが歓声を上げ、ジオルドやキース、ニコルたちが慌てて駆け寄る。
布の中でモゾモゾと動く古代の命の感触を胸に抱きながら、カタリナは大きく息を吐き出した。
捕獲に手間取り、全員が泥と汗にまみれる結果となったが、こうして彼らは、別時代からの迷い子である始祖鳥を無事に保護することに成功したのである。
ーーー
カタリナが泥だらけになりながらも、一匹目の始祖鳥を無事に布で包み込んで安堵の息を吐いていた、まさにその直後のことである。
アン「お嬢様、皆様。ご無事ですか」
茂みの奥から、凛とした落ち着いた声が響いた。
声の主は、周囲の探索と警戒に向かっていたカタリナの専属メイド・アンである。その後ろからは、観察ルームから合流したらしいメアリ、ソフィア、そしてマリアの三人が、安堵したような笑顔を浮かべて連れ立って歩いてきた。
カタ「アン! メアリたちも! こっちこそ無事よ。苦労したけれど、なんとか一匹保護できたわ」
アランやキースが泥を払いながら胸を張る中、カタリナは大切に抱えた布の塊をそっと掲げて見せた。
だが、カタリナはすぐにアンの様子がおかしいことに気がついた。アンの両腕には、カタリナが持っているのと同じように、厚手の布で作られた『大きなふくらみ』が抱えられていたのだ。しかも、その布の中からは「クルルッ」「シァァッ」という、二つの異なる鳴き声が微かに聞こえてくる。
カタ「……ねえ、アン。あなたが持っているその布の中身って、もしかして……」
アン「はい。お嬢様のご推察の通り、敷地内に迷い込んでいた始祖鳥です。……それも、二匹同時に捕獲いたしました」
「「「「えええええっ!?」」」」
カタリナだけでなく、ジオルドやアランたち男性陣からも、信じられないものを見るような驚愕の声が上がった。
あんなにすばしっこく、木々を駆け回り滑空する古代の鳥を、たった一度の探索で、しかも二匹も捕まえてきたというのだ。自分たちが三十分近くも泥まみれになって追いかけ回した苦労は一体何だったのか。
メア「ふふっ。驚かれるのも無理はありませんわ。実はアンたちも、大変な手柄を立てたのですから!」
得意げに胸を張るメアリが、事の顛末を興奮気味に語り始めた。
アンと合流した令嬢組は、展示場の裏手にある小高い樹木のエリアを探索していた。すると、頭上のかなり高い枝葉の間に、黒と白の羽毛を持つ始祖鳥が一匹、じっと身を潜めているのを発見したのである。
ソフィ「高い木の上にいたので、網を届かせることも、木に登って捕まえることも難しかったのです。ですから、わたくしたちの魔法を使って、安全に木から降ろそうと考えましたの」
メアリとソフィアは、始祖鳥を決して傷つけないよう細心の注意を払った。
ソフィアが風の魔法で周囲の枝を優しく揺らして退路を塞ぎ、メアリが水の魔法で柔らかい水球を作り出し、始祖鳥の足元にポスンッとぶつけたのだ。直接的な攻撃ではなく、あくまで驚かせてバランスを崩させるための、極めて高度で繊細な魔法のコントロールだった。
目論見通り、足場を失った一匹目の始祖鳥は「ギャァッ!」と鳴き声を上げながら、バタバタと不器用に羽ばたいて木から落ちてきた。
メア「そこまでは完璧でしたの。ですが、落ちてくる始祖鳥を見た直後、隣の茂みの中から突然、もう一匹の始祖鳥がパニックを起こして飛び出してきたのです!」
おそらく二匹目の始祖鳥は、魔法の気配や仲間の鳴き声に驚き、逃げ出そうとしたのだろう。
しかし、カタリナが先ほど語った通り、始祖鳥は『飛ぶのが下手』な生物である。現世の鳥のように空中で器用に身を翻したり、急ブレーキをかけたりする高度な飛行能力は持ち合わせていない。
直線的にしか飛べない二匹目の始祖鳥と、木から落下してきた一匹目の始祖鳥。
両者は空中で見事なまでに鉢合わせし、「ゴツンッ!」という鈍い音とともに、二匹諸共もつれ合うようにして地面へと落下していったのだ。
カタ「そ、それで!? 落ちた二匹はどうなったの!?」
カタリナが身を乗り出して尋ねると、メアリは隣に立つアンをキラキラとした尊敬の眼差しで見つめた。
メア「そこからのアンの動きは、まさに神業でしたわ! 落ちてくる二匹を見るや否や、目にも留まらぬ速さで地面を蹴り、スライディングをしながら自らのエプロンを広げ……二匹が地面に叩きつけられる寸前のところで、空中でまとめてキャッチしてのけたのです!」
アン「……お嬢様のお言葉をお借りするなら、あの子たちは『骨格のある尾』を持っているとのことでしたので。地面に落ちて骨折でもしたら大変だと思い、咄嗟に身体が動いただけにございます」
アンは平然とした顔で一礼したが、その身体能力と判断力は、並の騎士を遥かに凌駕していた。
魔法によって木から落とした結果、飛び出してきたもう一匹とぶつかり、メイドが二匹まとめてキャッチする。
あまりにも奇跡的な連鎖が重なったノーダメージ捕獲劇に、泥だらけの男性陣はただただポカンと口を開けて絶句するしかなかった。
カタリナは、アンの腕の中でモゾモゾと動く二匹の始祖鳥を見つめながら、遠い目をしてポツリと一言、呟いた。
カタ「これが本当の「一石二鳥」ね……」
一つの石(魔法)を投げて、二羽の鳥を得る。
これほどまでに、このことわざを体現した奇跡のシチュエーションが他にあるだろうか。
しかし、ここはおとぎ話のような西洋風のファンタジー世界である『ソルシエ王国』。当然ながら、古代中国の故事成語に由来する四字熟語など、この世界の住人が知るはずもない。
「イッセキニチョウ?」と他の面々は首を傾げた。
ジオルドが不思議そうに眉を寄せ、アランやキースたちも「なんだその呪文みたいな言葉は?」と顔を見合わせる。
マリアに至っては「いっせき……新しい魔法の名前でしょうか?」と真剣に考え込んでしまっている。
カタ「あ、あははは! な、なんでもないわ! ほら、これで合計三匹も始祖鳥を保護できたんだし、怪我がないか早くお医者様に診てもらいましょう!」
前世のボロが出たことを誤魔化すように、カタリナは「あははは」と引きつった笑いを浮かべながら、急いで皆の背中を押して歩き出すのであった。