乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してだけでなく私のせいで古生物を解き放ってしまった…。〜責任をとってプレヒストリック・パークを開きます〜   作:龍座

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ー幕間ー本当の始まり

王都から少し離れた、風光明媚な避暑地として知られる穏やかな湖畔。

 

陽の光が水面をキラキラと反射する中、優雅な装いのとあるモブ貴族の夫婦が、小さな手漕ぎボートに乗って優雅な午後のひとときを楽しんでいた。

 

「おお、見てごらん。今日も水鳥たちが美しい羽を休めているよ」

「本当ですわ、あなた。なんて平和で穏やかな日なのでしょう」

 

パラソルを傾け、微笑み合う二人。

 

だが、その平穏は、湖の中心付近で突如として生じた異常な現象によって破られた。

 

ボコッ、ボコボコボコッ……!

 

最初は小さな気泡だった。それが瞬く間に巨大な渦となり、ボートを激しく揺らし始める。

 

「な、なんだ!? 水底から何かが……!」

 

夫がオールを手放してボートの縁にしがみついた、その直後だった。

 

ザバーーーン!!

 

莫大な水柱と共に、湖面が文字通り爆発した。

 

水しぶきの中から空高く突き出されたのは、巨大なワニのように細長く伸びた恐ろしい吻部と、円錐形の鋭い牙がびっしりと並んだ凶悪な顎。そして何よりも二人を絶望させたのは、その巨大な生物の背中にそびえ立つ、帆のような異様に巨大な突起物だった。

 

水かきのついた前肢が空を掻き、太陽の光を遮るほどの巨体が湖面からその全貌を現す。

 

モブ貴族「「わーーー!!?」」

 

悲鳴を上げる夫婦のボートは、その水棲の巨大生物が起こした波に飲まれ、為す術もなくひっくり返された。

 

ーーー

 

一方、王国の穀倉地帯に広がる広大な畑では。

 

黄金色に色づいた小麦の収穫作業に追われていた農夫たちの間に、突如としてけたたましい叫び声が響き渡った。

 

農夫「逃げろー!! ドラゴンの群れだー!!」

 

一人の若い農夫が、農具を放り出して麦畑の向こうから血相を変えて走ってくる。

 

それを見た他の農夫たちは、最初は何かの見間違いか、質の悪いデマだろうと呆れ顔で作業を続けていた。

 

「ドラゴンだぁ? お前、日射病で頭でもやられたんじゃ……」

 

言いかけた古株の農夫の足元が、ズズンッ、ズズンッ、と不気味な地鳴りを立てて揺れ始めた。

 

土煙が舞い上がり、麦畑をなぎ倒しながら『それ』は姿を現した。

 

「ヒッ……!」

 

農夫たちの顔から一瞬にして血の気が引いた。

 

現れたのは、まるで歩く城塞のような、四足歩行の巨大な獣の群れだった。頭部の後方には首を守るための巨大なフリルが扇のように広がり、口先はオウムのようなくちばし状になっている。

 

そして何より恐ろしいのは、その目の上から前方に突き出た、巨大で鋭利な『二本の角』であった。

 

鼻先にあるもう一つの小さな角と共に、絶対的な突撃の威力を誇るその分厚い装甲を持った群れが、地響きを立てて畑を蹂躙していく。

 

巨大な二本の角を生やした沢山のソレを見た瞬間。

デマだと思っていた農夫たちは、悲鳴を上げる暇すら惜しんで、一斉に背を向けて逃げ出した。

 

ーーー

 

さらに別の場所、王都へと続く薄暗い街道の森の中。

 

馬車を引いていた御者の男と護衛の傭兵たちは、突如として足を止めて狂ったようにいななき始めた馬たちに手を焼いていた。

 

「どうした! 落ち着け!」

「おい、森の奥から……何か来るぞ!」

 

護衛の傭兵が剣を引き抜き、草木がガサガサと大きく揺れる茂みへと視線を向ける。

 

そこから、低く、内臓を震わせるような恐ろしい唸り声と共に、一つの影がぬらりと姿を現した。

 

それは、ライオンやトラを遥かに凌駕するほどの筋肉の塊のような身体を持った、巨大なネコ科の猛獣だった。

 

短い尻尾を揺らし、獲物を定めるように金色の瞳が傭兵たちを射抜く。

 

しかし、彼らの目を最も釘付けにし、そして戦意を完全に喪失させたのは、その口元だった。

 

上顎から下顎を遥かに通り越して伸びる短剣のように長く反り返った巨大な『二本の牙』。

 

そのサーベルのような牙には、過去に仕留めた獲物のものと思われる赤黒い血がこびりついていた。

 

「バケモノ……ッ!」

 

巨大な牙を持つその獣が、喉の奥でゴロロロと鳴らしながら、強靭な前脚を大きく踏み出した。

 

ーーー

 

世界各地で、これまで見たこともない異形の獣たちが次々と姿を現し、人々の生活を脅かし始めていた頃。

 

クラエス公爵家の地下室。

 

二頭の巨大な肉食恐竜が地上へ這い出る際に完全に破壊され、瓦礫の山と化したその暗闇の中に、ひっそりと残されたものがあった。

 

カタリナがゲートを開くきっかけとなった、初代クラエス当主が残したあの石板である。

 

恐竜たちが暴れた衝撃で石板は床に落ち、真っ二つに割れていた。

 

しかし、その割れた石板の裏側、あるいは隠された二層目の部分には、これまで誰も読むことのなかった『続きの文章』が刻み込まれていたのだ。

 

誰もいない冷たい地下室で、その古代の文字は静かに真実を告げていた。

 

『我等が子孫よ。私には古代魔道具は起動できなかった。

だが、何れ必ず我等が悲願を叶える存在が現れるであろう。

もし、子孫が龍を連れてくることができたならばこの古代魔道具は真価を発揮する。

そうなれば異界に住まいし獣と龍が我等が住まいしこの世に君臨するであろう。

子孫よ。私の悲願を果たしてくれ』

 

カタリナ・クラエスが、生き延びるためにガリミムスという太古の獣を連れてゲートを潜り抜けたこと。

 

それこそが、この古代魔道具が真に目覚めるための最終条件(トリガー)であったのだ。

 

カタリナが連れ帰ったのは、あのダチョウ恐竜や、それを追ってきた二頭の肉食恐竜だけではない。門が真価を発揮したことで、世界と異界との境界線そのものが決壊し、あらゆる時代の、あらゆる太古の獣たちがこの世界へと解き放たれてしまったのである。

 

クラエス公爵家での惨劇は、ほんの序章に過ぎなかった。

ここからが、本当の試練の始まりだ…。

 

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