乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してだけでなく私のせいで古生物を解き放ってしまった…。〜責任をとってプレヒストリック・パークを開きます〜 作:龍座
クラエス公爵家の広々とした一室。
柔らかな日差しが差し込む中、カタリナはふかふかのクッションをいくつも重ねた長椅子に身を預けていた。
ヴェロキラプトルに抉られた左脚には未だに分厚い包帯が巻かれており、動かすたびに鈍い痛みが走る。怪我はまだ完治には程遠く、自由に歩き回ることは許されていなかった。
しかし、その瞳にはすでに絶望の陰りはなく、かつての力強い光が宿っていた。
カタリナの周囲にはジオルド、アラン、キース、ニコル、そしてメアリとソフィアが円を描くように集まり、彼女の言葉に真剣な面持ちで耳を傾けていた。
彼らが現在話し合っているのは先日総力を挙げて捕獲に成功したあのダチョウのような恐竜、ガリミムスたちの今後の処遇についてである。
カタ「というわけで、あの子たち……ガリミムスは、見た目は少し怖いかもしれないけれど、基本的には植物や木の実、時々小さな虫なんかを食べる大人しい生き物なの。それに、歯がないから、食べたものを胃の中で擦り潰すために『小石』を飲み込む習性があるわ」
ソフィ「小石を、ですか……? 不思議な生き物ですのね」
メア「では、お食事は私たちが普段口にしているお野菜や果物でも大丈夫なのですわね?」
カタ「ええ。餌については、まずはうちの畑で採れた野菜を与えてみて、経過観察をしようと思っているわ。問題は、あの子たちの『飼育方法』よ」
カタリナが真剣な顔でそう切り出すと、腕を組んで聞いていたアランが不思議そうに首を傾げた。
アラ「飼育方法って、普通に頑丈な鉄の檻に入れるんじゃ駄目なのか? 逃げ出さないように、それなりに広い檻を作ってやればいいだろう」
その言葉を聞いた瞬間、長椅子に寝そべっていたカタリナが、痛む左脚を庇いながらも勢いよく身を乗り出した。
カタ「ソレだけは絶対に駄目!」
アラ「うおっ!? な、なんだよ急に」
カタ「恐竜だって、私たちと同じ生き物よ! 元々は果てしなく広い大自然の中を自由に走り回っていたの。冷たい鉄の格子に囲まれた狭い檻に閉じ込めたりしたら、ストレスが溜まって身体を壊してしまうわ! 最悪の場合、餌も食べなくなって死んでしまうかもしれないのよ!」
カタリナの強い剣幕に、アランはたじろいで「わ、わかったよ……悪かった」と頭を掻いた。
カタリナは小さく息を吐いて長椅子に背中を戻す。痛む足を擦りながら、彼女自身もどうすればいいのか明確な答えを出せずにいた。
鉄の檻が駄目だということはわかる。だが、巨大な生物を逃がさずに、かつストレスなく飼育するための施設などこのソルシエ王国には存在しないのだから。
ジオ「確かに、カタリナの言う通りですね。彼らは未知の生き物です。強いストレスを与えれば、どんな予期せぬ行動に出るかわかりません」
キー「でも義姉さん、檻に入れないとなると、どうやって彼らを管理するのさ。放し飼いにするわけにもいかないだろう?」
カタリナがうーんと唸りながら考え込んでいると、これまで静かに皆のやり取りを聞いていたニコルが、ふと伏せていた魔性の瞳を上げて、ぽつりと呟いた。
ニコ「……鉄の格子という『壁』が見えるから、閉じ込められていると感じるのではないか」
カタ「え?」
ニコ「彼らが元いた森をそのまま用意し、彼らからは『壁』が見えないように工夫すれば……彼らは自分たちが捕らえられていることにも気づかないかもしれない」
ニコルのその何気ない一言が、カタリナの脳内に強烈な雷のような閃きをもたらした。
カタ「……それよ! ニコル、あなた天才だわ!!」
ニコ「え……?」
突然の大絶賛に、ニコルは珍しく目を丸くして戸惑った。
カタリナの頭の中には、前世であるオタク女子高生時代の記憶が鮮明に蘇っていた。現代日本、そして世界中の進んだ動物園で取り入れられていた画期的な飼育展示のシステム。
カタ「ニコルの言う通りよ! 檻や鉄格子で囲うのはやめましょう。私たちが作る施設は『無柵式展示』……つまり、柵の無い環境にするの!」
ジオ「柵の無い環境……? カタリナ、それは一体どういうことですか?」
興味を惹かれたジオルドが身を乗り出す。カタリナは興奮を抑えきれない様子で身振り手振りを交えて説明を始めた。
カタ「極力、あの子たちが住んでいた環境そっくりの森や草原を敷地内に作るの。そして、人間との境界線には鉄の柵の代わりに深くて幅の広い『堀』を作るのよ。堀には水を張ってもいいわ。ガリミムスは足は速いけれど、高くジャンプしたり、崖を登ったりはできないから、堀があればこちら側には絶対に来られない」
キー「なるほど……! 堀を境界線にすれば、動物たちの目線からは遮る壁が何もないように見える。彼らは自分たちが自然の中にいると錯覚するわけだね!」
カタ「その通りよ、キース! これならストレスも最小限に抑えられるわ!」
これは前世の記憶において、カール・ハーゲンベックという人物が考案したパノラマ展示の手法であった。
さらにカタリナの熱弁は止まらない。彼女の記憶は、かつて友人と訪れた「よこはま動物園ズーラシア」という最先端の動物園の光景へと飛んでいた。
カタ「それにね、もう一つ大切なコンセプトがあるの。
私たちが作るのは『生き物を見せる動物園』じゃなくて、『生き物を探す動物園』よ」
メア「生き物を探す、ですか……?」
カタ「ええ。ただ生き物を綺麗に並べて人間が見下ろすんじゃなくて、人間があの子たちの住む世界にお邪魔するの。
環境をそっくりに再現するから木陰に隠れていたり、遠くで草を食べていたりして、すぐには姿が見えないかもしれない。でも、自然の中で生き生きと過ごしている姿を探して観察することこそが、彼らへの最大の敬意になるわ」
生息環境を完全に再現し、動物の本来の生態を引き出す「
それは、単なる見世物ではなく、命を預かり、保護し、共に生きていくための最善の形だった。
怪我の痛みなどすっかり忘れたかのように、目を輝かせて壮大な計画を語るカタリナ。
そんな彼女の姿を見て、幼い子供たちであるジオルドやアランたちは、圧倒されると同時に、胸の奥からワクワクとした熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
アラ「生き物を探す動物園……なんか、探検みたいですげぇな! 堀を作るなら、俺も土を掘るのを手伝うぜ!」
ジオ「ふふっ、カタリナの頭の中には、本当に私たちの想像も及ばない素晴らしい知識が詰まっているのですね。ええ、私も全力で協力しましょう」
キー「僕の土魔法なら、堀作りも環境作りも得意分野だよ。任せてよ、義姉さん」
メア「私は、その動物園を彩る植物の選定をお手伝いいたしますわ!」
ソフィ「わ、私も……カタリナ様のために、できることを精一杯やります!」
ニコ「……ああ。俺も力を貸そう」
カタリナの斬新で温かいアイディアは、仲間たちの心を一つに結びつけた。
幼き彼らはまだ魔法学園に通う年齢にも満たない子供たちだったが、その瞳には大人顔負けの強い意志が宿っていた。
カタ「みんな……本当にありがとう!」
窓から差し込む陽光に照らされ、カタリナの顔に満面の笑みが咲き誇る。
中生代の環境を再現し、柵の無い広大な森を作る。恐竜たちが穏やかに暮らせる、世界で初めての「恐竜保護施設」。
それは、カタリナの贖罪から始まった計画でありながら、いつしか彼ら全員の大きな夢と希望へと変わろうとしていた。
ーーー
仲間たちとの話し合いから数日後。
カタリナの左脚の怪我は未だ完治しておらず、歩く際には特注の杖が必要な状態であったが、彼女の顔には活力が満ち溢れていた。
この日、クラエス公爵家にはカタリナの両親であるルイジとミリディアナをはじめ、ジオルドやアランたちの王室関係者、さらには実務を担うための専門の建築業者たちが集められていた。
まだ幼い子供であるカタリナたちだけでは、広大な土地を開拓して巨大な施設を建設することなど到底不可能である。そこで、彼女たちは親たちに頭を下げ、大人たちの力を全面的に借りることにしたのだ。
応接室の巨大なテーブルの上に広げられたのは、カタリナの前世の記憶の知識を元に、ジオルドやキースたちが協力して描き上げた恐竜保護施設の緻密な設計図であった。
カタ「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。私たちが計画している施設は、大きく分けて三つの展示方針をメインに掲げています」
杖をつきながら立ち上がったカタリナは、図面を指し示しながら大人たちに向けて堂々とプレゼンテーションを始めた。
カタ「一つ目は『生態展示・生息環境展示』です。彼らが元いた時代の、豊かで湿潤な河川敷や森林の環境を極力そのまま再現します。
二つ目は『行動展示』。ガリミムスは非常に足が速く、群れで生活する生き物です。彼らが本来持つ『走る』『地面をつついて餌を探す』といった自然な行動を引き出せるような、広大なスペースと土の地面を用意します。
そして三つ目が『混合展示』です」
そこでカタリナは、隣に座るジオルドへと視線を送った。ジオルドは優雅に微笑み、大人たちへ向けて補足の説明を引き継いだ。
ジオ「この混合展示については、私が提案させていただきました。
現在はガリミムスという種のみを保護していますが、新しい情報から考察するにあの時、門を通ってこの世界に迷い込んだ生物が他にもいる可能性があります。今後、もし彼らと争わずに共生できる温和な種を保護した際、後から施設を拡張するのは困難です。最初から、複数の種が共に暮らせるほどの『広大な面積』を確保して建設すべきだと考えたのです」
これぞ備えあれば憂いなしだ。
大人たちは、幼いながらも理路整然と語る王女の婚約者と王子たちの姿に、感嘆の息を漏らした。
もちろん、未知の化け物を飼うなどという計画に最初は王族や他の貴族たちから強い反発や懸念の声が上がっていた。
しかし、カタリナたちは決して焦らなかった。ジオルドやアランの王族としての立場も活用し反対派の貴族たちに向けて何度も何度も丁寧な説明会を開き、施設の安全性と保護の意義を説き続けた。慎重に、少しづつ味方を増やしながら準備を進めてきたのだ。
ルイジ「素晴らしい計画だ。だが、カタリナ。動物と人間を隔てる『堀』についてだが……直角的な深い溝にしてしまうと、彼らが足を滑らせて落ちた時、這い上がれずに骨折などの大怪我をしてしまうのではないか?」
図面を見ていた父ルイジの鋭い指摘に、カタリナはハッと目を見開いた。
カタ「お、お父様のおっしゃる通りですわ……! 逃げ出さないことばかり考えて、落ちた時のことを考慮していませんでした」
ミリディアナ「では、堀の深さは確保しつつ、展示場側の内側の壁だけは緩やかな坂にしましょう。そうすれば、万が一落ちても自力で登り直すことができるはずです」
親たちからの実用的なアドバイスも次々と組み込まれ、図面はより完璧なものへと仕上がっていった。
施設の環境づくりについても、重要な決定が下された。
ガリミムスが生息していた白亜紀後期の環境には、現代とは異なる古代の植物(特定のシダ類や裸子植物など)が群生していたはずだ。しかし、このソルシエ王国にそんな古代植物は存在しない。
そこで、敢えて現在の世界にある広葉樹や下草、シダ植物を用いて生息地に近い森を作ることにしたのだ。
これは単なる妥協ではない。カタリナからすれば、ガリミムスが『現在の植物を食べても消化不良を起こさず、平気で生きていけるか』を調べるための、重要な観察(テスト)を兼ねていた。
そして、この前代未聞の巨大プロジェクトを進めるにあたり、最も大きな壁となるはずだった『莫大な建設費用』についてだが……。
アラ「そういえば、この莫大な予算、よく親父上や財務の大臣たちがすんなり通してくれたな?」
会議の合間の休憩中、アランが不思議そうに尋ねると、ジオルドはどこか遠い目をして、ひきつったような笑みを浮かべた。
ジオ「……ええ。実は、ジェフリー兄上が個人的な資産と王家の予算から、ほぼ全額を出資してくださったのです。この計画の設計図をお見せしたところ、『可愛い弟たちが情熱を注ぐ事業ならば、兄として協力しないわけにはいかないだろう!』と、それはもう……大変な熱量で」
カタ「ジェフリー様が!? まぁ、なんてお優しくて素晴らしいお兄様なのかしら!」
カタリナは無邪気に両手を合わせて感動していたが、ジオルドとアランの顔には複雑な疲労感が漂っていた。
第一王子であるジェフリー・スティアート。表向きは軟派で独特な雰囲気を持つ彼だが、その本性は、弟たちを異常なまでに溺愛する『アルティメットブラコン兄貴』である。弟たちが懸命に汗を流して何かを作り上げようとする姿を想像しただけで、おそらく執務室で身悶えしながら即座に大金を用意したに違いない。(ジオルドやアランからすれば少し鬱陶しいほどの愛情なのだが、今回ばかりはその狂信的なまでの資金力に助けられる形となった。)
ーーー
それから少し時が流れ。
潤沢な資金と、キースの高度な土魔法による地形操作のサポートもあり、王都郊外の広大な敷地に、見事な恐竜保護施設が完成した。
境界線には、恐竜側が緩やかな坂になった広くて深い堀が巡らされている。
展示場の見学スペースは、木材や土を被せて森の風景に溶け込むようにカモフラージュされており、人間の姿や声が恐竜たちに極力届かないよう、窓の大きさや視界が厳格に制限されていた。
そしてメインの展示場の裏手には、獣舎と直結した『サブパドック』が設けられていた。コンクリートや石畳ではなく、彼らの脚を痛めないようにふかふかの土が敷き詰められた、比較的狭く管理のしやすいエリアである。
現在、捕獲されたガリミムスたちは、獣舎の中で落ち着きを取り戻しつつあった。
羽毛に覆われた身体と、歯のない嘴、そしてダチョウのように強靭で長い脚を持つ最新の研究に基づいた本来の姿をした彼らは、運ばれてきた現代の野菜を恐る恐るつついている。
施設の完成を視察に来ていたカタリナたちは、獣舎の監視窓からその様子を静かに見守っていた。
カタ「……うん。怪我もないみたいだし、少しずつこちらの環境にも適応してきているわね。後はサブパドックで慣らしてから、メインの展示場に放つだけね」
カタリナが満足げに頷くと、隣で見ていたアランが不思議そうに首を傾げた。
アラ「直ぐに放すんじゃないのか? あんなに広くて綺麗な森を作ったんだぜ。早くあそこを走り回らせてやった方が、あいつらも喜ぶだろ?」
アランの疑問に、カタリナは静かに首を横に振った。
カタ「行き成りは駄目よ」
アラ「どうしてだ?」
カタ「あの子たちは今、見たこともない世界に連れてこられて、極度の緊張状態にあるわ。いきなり広大で知らない
カタリナは、手元の分厚い観察ノートに羽ペンでメモを取りながら真剣な顔で続けた。
カタ「それに、彼らが現代の植物を食べてお腹を壊さないか、未知の病気を持っていないか、まずはこの管理された『サブパドック』の土の上で、フンや行動をしっかり観察しなきゃいけないの。ここで外の空気や日差し、この世界の環境に少しずつ『慣らし』を行って、絶対に安全だと確認できてから、初めてあの展示場の扉を開けるのよ。それが、命を預かる責任というものだわ」
前世の動物園の飼育員たちがどれほどの苦労と慎重さをもって命を繋いでいたか。その知識を受け継いだカタリナの言葉には、確かな重みと愛情が込められていた。
アランは目を見張り、やがて感心したように深く頷いた。
彼らの『生き物を探す動物園』は、ようやくその第一歩を踏み出したのである。
ーーー
サブパドックでの慎重な環境適応期間を経て、とうとうガリミムスたちをメインの広大な展示場へと放す日がやってきた。
視界を制限し、人間の気配を極力消すように設計された土壁と擬木の観察小屋。その薄暗い空間に設けられた横長の覗き窓の前に、カタリナたちは息を潜めて並んでいた。
キー「義姉さん…顔色悪いよ…」
隣から覗き込んでいたキースが、カタリナの横顔を見てひどく不安げな声で囁いた。
無理もない。カタリナの額にはじっとりと脂汗が浮かび、唇は白く乾燥している。杖をつく手は微かに震え、立っているだけでも辛そうであった。
カタ「心配しなくても平気よキース。それよりもちゃんと見届けなきゃ……」ハァ…ハァ…
荒く浅い息を吐きながらも、カタリナは頑なに観察窓から視線を外そうとしなかった。
やがて、遠くで待機していた作業員に合図が送られ、サブパドックと展示場を隔てる分厚い木製のゲートが、ギギギ……と鈍い音を立ててゆっくりと開かれていく。
開かれたゲートの向こうには、現代の植物を巧みに配置し、彼らが元いた白亜紀の森を極限まで再現した、広大で豊かな緑の世界が広がっていた。
だが、ゲートが完全に開かれきっても、ガリミムスの群れはすぐには外へ出ようとしなかった。
ダチョウのように長く強靭な脚と、全身を覆う細やかな羽毛を持つ彼らは、安全なサブパドックの奥で身を寄せ合い、警戒するように長い首をピンと高く持ち上げている。頭の横に位置する大きな目で周囲をギョロギョロと見回し、歯のない硬い嘴の奥から、鳥の警戒音のような「クルル……」「ククッ」という低く短い鳴き声を交わし合っていた。
未知の広い空間に対する、野生生物としての本能的な恐怖。彼らがゲートの前で足踏みをして動かない時間が、ひどく長く、張り詰めたものに感じられた。
暫くして。
群れの中から一回り体の大きな一頭が、ゆっくりと、警戒を解かないままゲートの境界線へと近づいてきた。
三本の指を持つ後脚が持ち上がり、展示場の柔らかい土と下草の上に、そっと一歩を踏み出す。そのままゆっくりと外へ出てきたその一頭は、首をカクカクと動かしながら周囲の匂いを嗅ぎ、木々のざわめきに耳を澄ませた。
そして、ここに危険な肉食恐竜が潜んでいないこと、踏みしめた土と緑が豊かなものであることを確認すると、喉を鳴らしてさらに奥へと歩みを進めた。
それを合図にしたかのように、後ろで固まっていた他の群れも、次々とゲートを抜けてゆっくりと展示場へ出てきた。
長い首を下げて土を突き始める者、慎重にシダの葉を嘴でついばむ者。彼らの自然な行動が、新しい環境で少しずつ引き出されていく。
結果として、第一段階は見事に成功であった。
新しい環境への順応や、現代植物の消化状況の確認など、これからクリアすべき段階はいくつも残されている。だが、まずはこの広大な生息環境展示へ彼らを無事に送り出せたことだけでも、カタリナたちにとっては飛び上がるほど嬉しく、誇らしい成果だった。
よかった。みんな、無事に外へ出てくれた。
カタリナの胸の内に、大きな安堵と喜びが広がった…。
まさにその束の間だった。
ドサッ!
突如として、カタリナの身体が糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、観察小屋の土の床に倒れ込んだ。
ミリ「カタリナ!?」
キー「義姉さん!!」
張り詰めていた空気を裂くような悲鳴に近い声が上がり、周囲で見守っていたジオルドやキース、仲間たちが一斉にカタリナへ駆け寄る。
倒れ込んだカタリナは、かつて化け物に深く抉られた左脚を両手で強く押さえ込んでいた。その顔からは完全に血の気が引き、恐ろしいほどに青ざめていた。