夢想は苦くも甘き鎧 ~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~   作:妄想めっちゃ代理人

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夢のような現実と、現実になった夢

 給料日だった。社会人になって初めての給料ではない。それでも今日は特別な日になった。残業を終えた帰り道、悠斗は駅前の大型玩具店の紙袋を胸に抱え、何度も口元が緩むのを抑えきれずにいた。袋の中には、ようやく手に入った大きな玩具。

 

 【DX変身ベルトガヴ】【DXヴァレンバスター】、それと各種ゴチゾウ等。

 

 放送当時、近所じゃ品薄でどこへ行っても売り切れだった仮面ライダーガヴ達の変身アイテム。なんだかんだでずっとタイミングが悪く買い逃がしたり不運が重なったりして中々手に入れられず非常に悔しい思いをしたものだ。

 

 そして今日。給料の使い道を考えながら仕事帰りにふらりと寄った店で、ショーケースの奥に並ぶそれらを見つけた瞬間、心臓が跳ねた。迷う理由なんて一つもない。レジへ向かう足は、自分でも笑ってしまうくらい軽かった。

 

「……やっと、買えた。」

 

 街灯の下で紙袋を少しだけ開ける。箱のパッケージを覗き込み、小さく笑う。子供の頃、こんなことはできなかった。両親が非常に厳しく、娯楽の一切が禁じられていた。しかし日曜朝の仮面ライダーだけはガス抜きの為かわからないが、毎週欠かさず見せてもらえた。……けれど玩具だけは絶対に買ってもらえなかった。

 

 「そんな高いものに金を使わせるな」

 

 「我慢を覚えろ」

 

 「どうせすぐに遊ばなくなる」

 

 そんな言葉を何度聞いただろう。テレビの中で変身するヒーローを見ながら、変身ベルトのCMが流れるたびに、胸の奥だけがじくりと痛んだ。

 

 友達が公園で変身ごっこをしている輪には入れず、教室でクリスマスや誕生日プレゼントに買って貰ったと聞いて非常に羨ましい思いをしたものだ。

 

 仮面ライダーは心の支えだ。

 

 どんなに辛くても。

 

 どんなに怒鳴られても。

 

 日曜の朝だけは、テレビの中のヒーローが「大丈夫だ」と言ってくれている気がした。

 

 だから社会人になり、親元を離れた日。最初に決めたことは一つだけだった。

 

 ――初任給で、仮面ライダーの変身アイテムを好きなだけ買う!

 

 誰にも止められない。誰にも否定されない。自分のお金で。自分の意志で。子供の頃の自分へ贈る、一番遅い誕生日プレゼント。そんな思いを抱いて買い漁った変身アイテムは部屋の中にいっぱい溢れている。

 

「……やっと、手に入った」

 

 胸の奥が少し熱くなり、慌てて紙袋を閉じる。泣く歳じゃない。それでも何故だか少し前のことを思い出し感極まってしまった。

 

 駅前の人通りを歩いていると、不意に耳障りな怒鳴り声が響いた。

 

「ふざけんなぁぁぁッ!!」

 

 反射的に顔を上げる。交差点の中央付近。一人の男が、何かに向かって怒鳴り散らしていた。

 

 髪は伸び放題。服は泥と埃で汚れ、靴も片方は底が剥がれている。酒臭いのか風呂に入っていないのか、すえた匂いが離れていても漂ってくる。足取りはふらつき、意味の分からない言葉を叫び続けている。周囲には自然と人だかりができていた。

 

「やばくない?」「動画撮っとこうぜ」「ねーなんか変な人いるんですけどぉ、あははっ」「通報しといたが良くない……?」

 

 スマートフォンを構える人。遠巻きに笑う人。距離を取りながら様子を見る人。誰も近付こうとはしない。

 

 悠斗も、その内の一人だった。

 

 だが。

 

「……何だろ。」

 

 胸の奥がざわつく。説明できない。ただ、苦さを伴った嫌な予感だけがゆっくりと広がっていく。

 

 その瞬間だった。男が懐へ手を突っ込む。次に見えたのは、街灯を反射する銀色。

 

「――包丁だ!!」

 

 誰かが叫んだ。一拍遅れて悲鳴が街へ弾ける。

 

「ちょっマジでやばいって!」「逃げろ!!」

 

 群衆が蜘蛛の子を散らすように走り出す。パニックの連鎖が広がり、押し合い、転び、叫びながら逃げ惑う。

 

 男は狂ったように笑いながら凶刃を振り回す。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!! みんな!! みんな死ねぇええええ!!」

 

 その視線がふいに止まる。一人の女子学生。逃げようとして足をもつれさせ、その場へ尻もちをついてしまっていた。

 

「あっ……ひっ……!」

 

 立てない。恐怖で身体が動かない。顔は強張り涙が滲む

 

 男は格好の獲物を見つけた獣のように笑いながら駆け出した。

 

「ぁ……。」

 

 少女の喉から、声にならない息が漏れる。

 

 考えるより先だった。悠斗の身体は走っていた。

 

「逃げろッ!!」

 

 少女を覆うように庇った次の瞬間だった。

 

 激痛。

 

 背中側から熱した鉄棒を押し込まれたような痛み。包丁が深々と身体へ突き刺さっていた。

 

「ッ……!!」

 

 息ができない。

 

 それでも。

 

「う、おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 拳を握る。テレビの中で何度も見た。仮面ライダーは最後まで諦めなかった。誰かを守るためなら、立ち向かった。

 

 だったら。

 

 今だけは。

 

 今だけは、俺も。

 

「うああああああッ!!」

 

「うげぇぁ!?」

 

 渾身の拳が男の顎を捉える。ミシリと骨が軋む感触。咄嗟に振った拳は男の顎を捉えた。男は白目を剥き、そのまま地面へ倒れ伏した。

 

 静寂。

 

 誰かが警察を呼んでいる。誰かが救急車を叫んでいる。少女が泣いている。

 

 全部、遠い。

 

「……よかった。」

 

 その一言だけが零れた。視界が滲む。滲む視界の端におもちゃ屋の紙袋が映る。

 

 身体から力が抜けていく。

 

 地面へ倒れる――そう思った。

 

 だが違う。

 

 落ちている。どこまでも。どこまでも。身体ごと、深い何かへ吸い込まれていく。

 

 上下もない。重力もない。ただ、暗闇を漂う浮遊感。だが、不思議と恐怖はなかった。暗闇の中へ、一筋の光が灯る。それは映像だった。

 

 幼い日の記憶。テレビの前で目を輝かせた朝。

 

 初めて見た変身。心に刻まれた正義のヒーロー達

 

 『たとえ弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても、それは何もやらないことの言い訳にならない。』

 

 『手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ』

 

 『さあ、ここからがハイライトだ』

 

 歴代の仮面ライダーたちが紡いできた言葉。

 

 笑顔。

 

 別れ。

 

 戦い。

 

 勝利。

 

 敗北。

 

 積み重ねてきた物語が走馬灯のように流れていく。

 

 その中心で誰かが、暖かな光を差し出していた。

 

 それは炎のようで、命のようで意志そのものの結晶だった。

 

 自然と手が伸びる。

 

 触れた瞬間感じる、熱い。けれど苦しくない。全身へ優しく力が満ちていく。鼓動が一つ大きく鳴った。

 

 ――――――――――――――――

 

 ――目を開ける。眩しい。

 

 天井一面に淡く輝く鉱石が埋め込まれた洞窟。青白い光が幻想的に辺りを照らしていた。

 

「……ここ、は……?」

 

 身体を起こす。腹や背中に触れる。刺されたはずの傷はどこにもない。服だけが裂けている。

 

 血も痛みも何一つ残っていなかった。代わりに右手へ、ずしりとした重量が伝わる。

 

 視線を落とす。

 

 握られていたのは、さっきまで箱に入っていたはずのヴァレンバスター。その横に落ちている変身ベルトガヴ。

 

 だが、それは知っている玩具ではなかった。表面の金属は冷たく、グリップは掌へ吸い付くように馴染む。

 

 細部の装飾にしたって飾りとかでは無く、パーツを組み込んだ結果そういう形になったと思わせる実在感があった。プラスチックの軽さも、玩具特有のチープさも、一切ない。

 

 まるで、最初から世界に存在していた本物の武装のように。

 

 悠斗は息を呑み、無意識にその質感を確かめるように握り直した。

 

 

 




妄想を吐き出させて貰っているのでぼちぼち更新出来たら良いなと思ってます
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