夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~ 作:妄想めっちゃ代理人
今日一日の予定も決まり、四人はそれぞれ出発の準備を始める。
「じゃあ私、着替えてくるね!」
陽奈は元気よく立ち上がると、そのまま二階へ駆け上がっていった。
「私も少し準備をしてきます」
詩織も静かに席を立つ。奏は食器をシンクへ運びながら振り返った。
「悠斗さんもゆっくり準備してきて。出発まではまだ時間あるから」
「分かりました」
悠斗も自室へ戻る。部屋に入り、クローゼットを開けると昨日奏たちが用意してくれた私服が掛けられていた。
「サイズもぴったりだな……」
淡いグレーのパーカーに黒のカーゴパンツ。動きやすさを重視した、ごく普通の服装だ。探索者として活動することを考えれば、スーツよりもずっと実用的だろう。
着替えを終えると、悠斗はベッドの上へ、自分が昨日まで身に着けていたスーツを広げた。背中には、大きく裂けた穴。ワイシャツも同じ場所が鋭く切り裂かれ、布地には洗っても落ちなかった血の跡が薄く残っている。
それはダンジョンで負った傷ではない。元の世界で、通り魔に襲われそうになった女子高生を庇った時にできた傷だった。あの時は必死で、痛みを感じる余裕すらなかった。まさかその直後に自分が異世界へ飛ばされることになるなど、夢にも思っていなかった。
「……本当に、色んなことがあったな」
苦笑しながらスーツへ手を添える。もう着ることはないのかもしれない。それでも……、
「お疲れ様」
誰に言うでもなく小さく呟くと、穴の開いたスーツとワイシャツを丁寧に畳み収納の奥へそっと仕舞った。簡単には捨てられなかった。それは元の世界と自分を繋ぐ、数少ない思い出の一つだったからだ。
続いて、床へリュックを下ろす。
「こっちも整理しておくか」
異世界へ来てからというもの、必要な物だけを取り出していただけで、中身まではほとんど確認していなかった。
財布。
スマートフォン。
モバイルバッテリー。
食べかけのお菓子。
そして、ヴァレンバスターとガヴ。
必要な物を一つずつ確認しながら、リュックの中を整理していく。
「……他に何か入ってたかな」
普段はまず使うことのない、内側の小さなファスナーポケットへ手を伸ばす。
チャッ。
ファスナーを開けた瞬間、悠斗の手が止まった。
「……あれ?」
ポケットの奥に見えたのは、小さな水色の箱のようなもの。硬い外殻に包まれた、お菓子のパッケージのような姿。その見覚えのあるシルエットに、悠斗は目を見開く。
「まさか……ゴチゾウ?」
恐る恐る取り出す。掌に収まる小さな身体は箱のように硬く、正面の顔はぴたりと閉じられたまま微動だにしない。
「……」
チョコドンとは色も形も違う。だが、この姿は知っている。
「ドーマル……ゴチゾウ?」
DXヴァレンバスターに付属していたゴチゾウ。劇中でも何度か見たことのある姿だった。
「でも、なんでここに……」
異世界へ来た後、一緒にリュックに入れた覚えはない。
いや──。
ヴァレンバスターごと、この世界に来ていた……?
「もしかして、一緒に……」
そんな考えが頭をよぎった、その時。
「……ドマ」
小さな寝言が聞こえた。
「…………」
悠斗の動きが止まる。
「……え?」
聞き間違いかと思い、そっと指先で外殻をつつく。
コツ。
「……ドマァ」
今度ははっきり聞こえた。
「えぇっ!?」
その瞬間。
ぱかっ。
閉じられていた顔の部分がゆっくりと左右へ開く。眠たげな丸い瞳が現れ、小さく欠伸をしながら悠斗を見上げた。
「……ドマ?」
こてん、と首を傾げる。
「ほ、本当にドーマルゴチゾウだ……!?」
「奏さん! ちょっと来てもらえますか!」
悠斗の慌てた声が部屋中に響く。
その直後。
「どうしたの?」
廊下から奏の落ち着いた声が聞こえ、ほどなくして部屋のドアが開いた。
「何かあっ──」
言葉の途中で、奏の視線が悠斗の手元へ向く。掌の上。小さな水色のゴチゾウは、まだ眠そうにふらふらと身体を揺らしていた。
「……ドマ」
小さく欠伸をすると、そのまま悠斗の掌へぺたんと座り込む。その姿を見た奏は、少しだけ目を丸くする。
「……ゴチゾウ?」
「そうなんですよ!」
悠斗も思わず身を乗り出す。
「リュックの中を整理していたら、急に見つかって……。最初は玩具だと思ったんですけど、寝言を言い出して」
実態化していたのは変身アイテムにチョコドンだけだと思っていたから、悠斗は驚きを隠せないでいた。
「寝言……」
奏がくすりと笑う。
「確かに寝てたみたいだね」
その時。
「何々!? 何かあった!?」
廊下から勢いよく飛び込んできたのは陽奈だった。その後ろから詩織も静かに姿を見せる。
「大きな声が聞こえましたが──」
二人も悠斗の掌を見る。
「……」
一瞬、部屋が静まり返った。
「かわいぃぃぃぃっ!!」
真っ先に反応したのは陽奈だった。
「何この子! めちゃくちゃかわいいんだけど!」
瞳を輝かせながら、悠斗のすぐそばまで駆け寄る。
「……ドマ?」
ドーマルゴチゾウは眠たげな目で陽奈を見上げる。しかし次の瞬間。
「……モフ」
ふいっと顔を背けると、悠斗の手の中へ身体を寄せるように丸くなった。
「あっ、目そらされたぁ!」
陽奈が少しだけショックを受けたような声を上げる。
奏はその様子を見て小さく笑う。
「まだ目が覚めきってないのかもしれないね」
「それに、初対面ですから」
詩織も穏やかに微笑む。
「警戒しているのでしょう」
その時だった。
「チョコ!」
どこからともなくチョコドンが元気よく飛んできた。一直線にドーマルゴチゾウの前へ降り立つ。
「チョコ!」
「……ドマフ」
ドーマルゴチゾウは眠そうなまま、小さく顔をあげる。
まるで、
『おはよう』
そう言っているようだった。
「知り合いだったのかな?」
悠斗が首を傾げる。チョコドンは嬉しそうに何度も跳ね回る。
「チョコ! チョワ!」
対するドーマルゴチゾウは、
「……モッフ」
小さく鳴くだけ。相変わらず眠そうではあるが、その表情はどこか安心したようにも見えた。その光景を見つめながら、悠斗はようやく一つの答えへ辿り着く。
「……そうか」
三人が悠斗を見る。
「この子も、チョコドンと同じなんですね」
悠斗はドーマルゴチゾウを優しく見つめた。
「ヴァレンバスターの付属ゴチゾウだから……俺が異世界へ来た時、一緒に実体化して来たんだ」
奏は納得したように頷く。
「十分あり得る話だね」
「でも、どうして今まで気付かなかったんですか?」
詩織が尋ねる。
悠斗は苦笑する。
「このポケット、普段ほとんど使わない場所なんです」
リュックの内側に付いた小さなファスナーポケット。財布やスマートフォンを取り出すだけなら開ける必要もない。
「それに……」
悠斗は掌の上を見下ろす。ドーマルゴチゾウは再び目を閉じ、
「……ドマ」
すぅ……すぅ……。
気持ち良さそうな寝息を立て始めていた。
「ずっと寝てたみたいです」
一拍置いて。
「あはははっ!」
陽奈が堪えきれず吹き出した。
「こんな大事な場面なのに寝ちゃうなんて、マイペースすぎるよぉ!」
部屋には自然と笑い声が広がり、その中心では新しい仲間が、何事もなかったかのように心地よさそうな寝息を立て続けていた。
「それじゃあ、この子も一緒に行こうか」
奏が穏やかに微笑む。
「えっ、いいんですか?」
「もちろん」
奏は迷いなく頷いた。
「チョコドンと同じなら、悠斗さんの大切な相棒なんでしょ?」
「そうですね」
悠斗は掌の上で眠るドーマルゴチゾウへ視線を落とす。小さな寝息を立てながら、すっかり安心しきった様子だ。
「……ドマ」
寝返りを打つようにもぞりと身体を丸める。
「ふふっ」
奏が思わず笑みを零す。
「まだ眠いみたい」
「朝ですもんね」
悠斗も苦笑しながら、パーカーの胸ポケットへそっとドーマルゴチゾウを入れてあげる。すっぽりと入ると、ドーマルゴチゾウは居心地が良かったのか、
「……ドモッチュ」
とポケットの中から小さく鳴いて、そのまま再び寝息を立て始めた。
「そこが気に入ったんだ」
陽奈が覗き込みながら笑う。
「なんかカンガルーの赤ちゃんみたい!」
「チョコ♪」
チョコドンも嬉しそうに悠斗の肩へ飛び乗る。
肩にはチョコドン。胸元のポケットにはドーマルゴチゾウ。
二匹揃った姿に、悠斗は自然と笑みを浮かべた。
「賑やかになりましたね」
「うん」
奏も優しく頷く。
「それじゃあ改めて、出発しよう」
こうして、新たな仲間を迎えた悠斗たちは、探索者協会へ向けてアルカディアの拠点を後にした。