夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~ 作:妄想めっちゃ代理人
身支度を整えた悠斗たちは、アルカディアの拠点を後にした。
朝の街はすでに活気に満ちている。通りには通勤や通学をする人々が行き交い、その合間を探索者と思われる人々が歩いていた。
腰のホルダーにはカードケースほどの大きさのギアケース。ベルトに装着している者もいれば、ジャケットの内ポケットへ収めている者もいる。
一見すれば普通の会社員や学生と変わらない服装だが、その小さなギアケースこそが探索者である証だった。探索者にとってギアケースは、財布やスマートフォンと並ぶ必需品なのである。
悠斗はその様子を興味深そうに眺めた。
「みんな、あれを持ち歩いてるんですね」
「うん」
奏が頷く。
「あの中に武具を登録しておけば持ち運びが楽だからね」
「街中で武器を持ち歩くわけにはいきませんからね」
詩織が続ける。
「ギアケースは探索者には欠かせない装備です」
「へぇ……」
悠斗は感心しながら、自分の胸元を見る。胸元のパーカーのポケットでは、ドーマルゴチゾウが気持ちよさそうに眠っている。
「……ドマ」
小さな寝息だけが聞こえてくる。対照的に、肩の上のチョコドンは街並みに興味津々だった。
「チョコ!」
「ははっ、そんなに身を乗り出したら落ちるぞ」
「チョコ!」
悠斗の言葉に返事をするように鳴き、チョコドンは肩の上へちょこんと座り直す。
「ほんと仲良しだね」
陽奈が笑いながら言った。そんな他愛もない会話を交わしながら歩くこと十数分。やがて一行の前に、大きな建物が姿を現した。
白を基調とした堂々たる外観。正面には大きく、
探索者協会 中央支部
と刻まれた銘板が掲げられている。
「ここが探索者協会……」
悠斗は思わず見上げた。
「探索者登録はもちろん、依頼の受注や報酬の受け取り、素材の買い取りなんかもここで行うの」
奏が説明する。
「探索者にとっては、一番利用する施設ですね」
詩織も頷いた。一行が中へ入ると、広いロビーには朝から多くの探索者が集まっていた。受付で依頼を受ける者。素材の査定を待つ者。大型モニターに表示された依頼一覧を眺める者。
朝の協会は活気に満ちていた。
「おはようございます、奏さん」
受付にいた女性職員が笑顔で一礼する。
「今日は新規登録ですね」
「うん」
奏は悠斗を紹介した。
「昨日保護した、相沢悠斗さん」
「お待ちしておりました」
職員は端末を操作し、仮身分証の情報を確認する。
「仮身分証の発行、およびアルカディア様による保護登録は確認できました」
柔らかな笑みを浮かべながら続ける。
「それでは、探索者登録の手続きを進めさせていただきます」
「よろしくお願いします」
悠斗が頭を下げると、職員も一礼を返す。端末を操作しながら、職員は確認するように口を開いた。
「相沢悠斗様につきましては、昨日、救援部隊より『魔力反応を確認できず、後日詳しい検査を実施予定』との引き継ぎを受けております」
その言葉に悠斗は昨日の出来事を思い出す。探索者協会へ保護された際、救援部隊の隊長がこう言っていた。
──『協会でも、後日改めて詳しい検査をお願いすることになります。ご協力いただけますか?』
あの時は異世界へ来たばかりで、それどころではなかった。だが、その言葉は確かに耳に残っていた。
「はい。聞いています」
「ありがとうございます」
職員は頷いた。
「探索者登録そのものは、仮身分証およびアルカディア様による保護登録がございますので問題ございません」
「ですが──」
少し表情を改める。
「魔力波形が確認できない方は、協会にも前例がございません」
「そのため、正式登録の前に本部研究員による精密検査をお願いしております」
「検査、ですか」
「はい」
職員は安心させるように微笑む。
「身体へ負担の掛かるものではございません」
「魔力波形が確認できない原因を調査するための検査になります」
「分かりました」
悠斗が頷くと、奏も隣で頷いた。
「私たちも同行して大丈夫?」
「もちろんです」
職員はすぐに答える。
「アルカディア様は保護責任者として登録されておりますので、ご一緒にお願いいたします」
「それでは、ご案内いたします」
職員の先導で、一行は受付ロビーの奥へと歩き始めた。一般利用者が立ち入る区域を抜け、職員専用の通路へ入る。職員の探索証を認証して自動扉を通過すると、先ほどまでの賑わいが嘘のように静まり返っていた。
白を基調とした廊下。等間隔に並ぶ扉。壁には研究部門や医療部門を示す案内板が掲げられている。
「協会の奥って初めて来た」
陽奈が物珍しそうに辺りを見回す。
「一般の探索者は滅多に入ることはありませんから」
詩織が答えた。やがて職員は一つの扉の前で足を止める。
プレートには、
特異現象検査室
と記されていた。
コンコン。
「失礼します」
職員が扉を開ける。
「相沢悠斗様をお連れしました」
「お、来たか」
聞き覚えのある声だった。
部屋の奥から歩み寄ってきたのは、昨日悠斗達と一緒に地上まで送ってもらった救援部隊の隊長だった。救援用の装備姿ではなく、協会の制服を身に纏っている。
「昨日ぶりだな」
「昨日はありがとうございました」
悠斗が頭を下げると、隊長は軽く手を振った。
「気にするな。体調は問題なさそうで安心した」
「はい、おかげさまで」
「昨日も話したが、詳しい検査をお願いすることになると思う、と伝えただろ?」
「はい。覚えています」
「まさか魔力反応が一切確認できないとは思わなかったからな」
隊長は苦笑しながら肩をすくめる。
「協会でも前例がなくてな。本部へ報告したら、向こうから『ぜひ調べさせてほしい』って返事が来た」
その時だった。
「来たのねぇぇぇぇぇぇっ!!」
突然、部屋の奥から甲高い女性の声が響いた。
悠斗が思わず振り向く。
そこには、研究機材や測定器が所狭しと並ぶ一角があった。大型モニターには魔力波形らしきグラフ。壁一面のホワイトボードには数式、魔法陣、古代文字、ダンジョン構造図が隙間なく書き込まれている。
その中心に立っていたのは、一人の女性だった。白衣を羽織り、腰まで届く銀髪を無造作に後ろでまとめている。白衣のポケットからはペンやメモ帳、小型測定器が何本も顔を覗かせていた。眠たげにも見える半目の金色の瞳。だが、その瞳だけは獲物を見つけた猛獣のように爛々と輝いている。
「あなたがぁぁぁ!」
ビシィッ、と悠斗を指差す。
「魔力が観測できない人ぉぉぉ!?」
「え、あ……はい」
返事をした瞬間だった。
「きゃ────っ!」
白衣を翻しながら一直線に駆け寄ってくる。
「ちょっ……!」
勢いそのままに悠斗の目の前まで来ると、ぐっと顔を近づけた。
「へぇぇぇぇ……」
金色の瞳が興味津々に悠斗を見つめる。
「魔力ゼロなのにぃ、ダンジョンで戦えてぇ、未知の装備を使ってぇ、生還してるのねぇぇぇ……!」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、悠斗の周りをぐるぐる歩き始める。
「面白いわねぇ……最高じゃなぁい……」
ぶつぶつと呟きながら悠斗の周囲を一周。さらにもう一周。後ろ姿までじっくり眺めると、今度は正面へ戻ってきて腕を組んだ。
「魔力は観測できなぁい……でもダンジョンで戦ってぇ……魔物を倒してぇ生還してるぅ……理論が綺麗に壊れてるじゃなぁい♪」
完全に自分の世界へ入り込んでいる。
悠斗は助けを求めるように奏たちへ視線を送った。しかし奏も陽奈も、何が起きているのか分からないという表情だった。
「えっと……」
陽奈が小声で奏へ尋ねる。
「知り合い?」
「ううん」
奏も首を横に振る。
「初めて会う」
その時。
「もしかして……」
詩織が目を見開いた。白衣の女性を見つめたまま、小さく呟く。
「九条……真理亜主任、ですか?」
女性の動きがぴたりと止まる。
「ん?」
ゆっくりと詩織へ振り返る。
「私を知ってるのぉ?」
「はい」
詩織は一歩前へ出て頭を下げた。
「探索者協会本部、ダンジョン総合研究局・特異現象解析室主任研究員、九条真理亜様。ダンジョンにおける魔力循環理論や、異常魔物発生機構の研究論文を拝読しております。特に『観測不能領域における魔力仮説』は、とても興味深く読ませていただきました」
一瞬の沈黙。
そして。
「まぁぁぁぁぁっ!!」
九条の顔がぱっと輝いた。
「読んでくれたのぉ!?」
「はい」
「嬉しいわぁぁぁ!」
勢いよく詩織の両手を握る。
「難しかったでしょう?!」
「いえ、とても勉強になりました」
「そう言ってくれる人、少ないのよぉ!」
九条は感激したように何度も頷く。その様子を見ていた隊長が苦笑する。
「相変わらずだな」
「だってぇ!」
九条は隊長へ振り返る。
「論文読んでくれる人なんて貴重なのよぉ! いつも『難しくて分からん』って言われるんだからぁ!」
陽奈が小声で奏へ耳打ちする。
「……なんか思ってたより親しみやすい人?」
奏も苦笑する。
「ちょっと変わってるけど、悪い人じゃなさそうだね」
その言葉を聞いた九条は、再び悠斗へ勢いよく向き直る。
「さぁてぇ!」
パン、と手を叩く。
「お勉強の時間はここまでぇ♪」
にやり、と口元を吊り上げる。
「それじゃあ、あなたのことを隅から隅まで調べさせてもらうわよぉ!」