夢想は苦くも甘き鎧 ~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~   作:妄想めっちゃ代理人

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不自然なとことかあれば容赦なく言ってください


洞窟での目覚めと小さな相棒

「……夢?」

 

 乾いた声が洞窟へ吸い込まれていく。返事はない。耳を澄ませば、どこか遠くで水滴が落ちる音と唸り声のような不気味な音が響いている。

 

 悠斗はゆっくりと立ち上がった。

 

 壁一面には青白く発光する鉱石が脈打つように輝き、人工物とも自然物とも判別のつかない洞窟を照らしている。

 

 夢にしては、あまりにも現実だった。空気は少し湿っていて、ひんやりと肺へ流れ込む。岩肌へ触れれば冷たさが掌へ伝わる。

 

 鼻には現代社会では嗅ぎ慣れない土と鉱物、それと生っぽい薄い匂いがする。

 

 どこを切り取っても、五感が「ここは現実だ」と告げていた。

 

「……刺された、よな」

 

 裂けたスーツを見下ろす。腹部には大きくナイフで裂かれた跡がある。しかし皮膚は綺麗なまま。血痕だけが服へこびりつき、さっきまでの出来事が幻ではないと主張している。

 

「そうだ、警察は……? いや、遭難した時は違うのか?」

 

 混乱しつつポケットへ手を入れる。スマートフォンを見るが圏外。

 

「クソっ……どこなんだここ……?」

 

 思わず悪態をつく。周りを見渡し有るものを確認する。通勤用のカバン、ボロボロのスーツ、それと……。

 

「……ガヴと、ヴァレンバスター」

 

 右手へ握られたものと傍らに落ちているものを見つめる。つい数十分前まで玩具屋の袋へ入っていたはずの変身アイテム、のはず。

 

 重い。冷たい。金属の質感は本物そのもの。トリガーへ指を掛ければ精密機械のような抵抗が返ってくる。装飾へ触れれば、プラスチックではなく精密機械のような感触まである。

 

「何なんだよ、これ……」

 

 恐る恐る両手でヴァレンバスター持ち上げる。その瞬間だった。

 

 ──コト。

 

 小さな音がした。

 

「……え?」

 

 ヴァレンバスターのスロット部。

 

 本来なら装填されているはずの小さなマスコット。

 

 チョコドンゴチゾウ。

 

 玩具ではプラスチック製だったそれが、ゆっくりと瞬きをした。

 

「…………」

 

 悠斗の思考が止まる。見間違いだ。そう思った。

 

 だが。

 

 チョコドンゴチゾウは、ぱちり、と目を瞬かせる。ホームベース状に切り取られた穴ではない。潤みを帯び、生き物のような光を宿していた。

 

「……え」

 

 もう一度瞬きをする。

 

 小さな身体がもごもごと動く。

 

「チョワッ」

 

「…………」

 

「チョッコ!」

 

 元気よく鳴いた。

 

 悠斗は硬直した。

 

 数秒。

 

 いや十秒ほど完全に時間が止まる。

 

「………………は?」

 

 チョコドンゴチゾウはもう一度鳴いた。

 

「チョワニョ!」

 

 全面部が上下に開き、大きく開いた口を動かし小さな両腕をぶんぶん振る。

 

 そして。

 

 ぴょんとヴァレンバスターから飛び降りた。

 

「ええぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 思わず悲鳴が漏れる。

 

 手のひらほどしかない身体で器用に着地すると、チョコドンゴチゾウは悠斗を見上げた。

 

「チョワ」

 

 まるで「どうしたの?」とでも言いたげに身体を傾ける。

 

「いやいやいやいやいや!」

 

 悠斗は思わず後ずさる。

 

「動いた! 動いたぞ!?」

 

「チョ?」

 

「喋った!」

 

「チョワニャ!」

 

「可愛い声で返事するな!」

 

 チョコドンゴチゾウは何が面白いのか、くるりと一回転すると、とてとてと悠斗の足元まで歩いてくる。

 

 逃げる気配もないし敵意もない。ただ、まるで迷子の子犬のように悠斗を見つめている。その瞳はどこか期待に満ちていた。

 

「…………」

 

 悠斗はゆっくりしゃがみ込む。

 

「お前……生きてるのか?」

 

「チョッコ!」

 

 即答だった。

 

「いや、返事すんなよ……」

 

 思わず頭を抱える。会社帰りだったはずだ……。

 

 変質者を止めて。

 

 刺されて。

 

 落ちるような感覚。

 

 目を覚ましたら知らない洞窟。

 

 玩具が本物になっていて。

 

 さらにその付属マスコットが元気よく動いている。

 

「情報量が多すぎる……」

 

 現実逃避したくなる。しかしチョコドンゴチゾウは悠斗の膝へ小さな身体を乗せると、安心させるようにもう一度鳴いた。

 

「……チョコ」

 

 その声は、不思議と温かかった。まるで「大丈夫」と言わんとしてるように。

 

 ──────────────────────────────

 

 洞窟は静かだった。いや、静かすぎた。

 

 風の音もない。虫の羽音もない。鳥の囀りなど、もちろん聞こえない。

 

 ただ、悠斗の革靴が岩肌を踏む音だけが、一定の間隔で洞窟へ反響していた。

 

 コツ。コツ。コツ。

 

「……どこなんだよ」

 

 独り言が自然と漏れるが返事はない。当然だ。ここが普通の場所でないことくらいは、薄々理解している。だが、それ以上は何も分からない。

 

 スマートフォンは繋がらないし地図もない。場所も方角もわからないし助けを呼ぶ相手もいない。

 

 最初に目覚めた場所から変身ベルトガヴをカバンに突っ込みんだ後、歩くしかなかった。

 

「チョコ」

 

 胸ポケットから小さな声。チョコドンゴチゾウが悠斗の懐に収まっている。

 

 画面越しに見慣れた愛嬌のある姿。それなのに、実際に目の前で動く様子はまるで小さな生き物だった。一生懸命喋ろうとして鳴き、身体をよじるその仕草の一つひとつが妙に自然で、見ているうちに少しだけ頬が緩んだ。

 

「……お前、本当に生きてるんだな」

 

「チョッコ!」

 

 元気よく返事をする。言葉はそれだけ。だが、不思議と感情は伝わる。ゴチゾウの可愛さの前に悠斗は苦笑する。

 

「返事だけは一人前だな」

 

 ゴチゾウは胸を張るようにぴこんと身体を揺らした。思わず笑ってしまう。こんな状況なのに。さっきまで刺されて死にかけていたはずなのに。小さな相棒がいるだけで、少しだけ恐怖が薄れていた。

 

「……ありがとう」

 

 何気なく呟く。するとゴチゾウはきょとんと悠斗を見上げると、

 

「チョコ」

 

 と、柔らかく鳴いた。それだけで十分だった。

 

 歩き始めてどれほど経っただろう。十分か、三十分か。時間の感覚は曖昧だった。洞窟は緩やかに下り坂となり、壁には青白い結晶だけでなく、ところどころ琥珀色の鉱石も混じるようになる。空気も少し温かい。奥へ進むほど、どこか生き物の気配が濃くなっていく。

 

「……気のせい、じゃないよな」

 

 悠斗は立ち止まった。耳を澄ます。

 

 聞こえる。

 

 カリ……カリ……

 

 岩を引っ掻くような、小さな音。一定の間隔で響いてくる。無意識にヴァレンバスターを握る手へ力が入る。

 

「チョワ!」

 

 それまで呑気に歩いていたゴチゾウも、声の調子を変えた。白い瞳が音のする暗がりをじっと見つめている。その様子は、先ほどまでの愛らしい仕草とは違う。

 

 警戒している。悠斗の胸がどくりと鳴る。

 

 洞窟の奥。光の届かない裂け目のような通路。そこから、何かがゆっくりと這い出ようとしていた。

 

 悠斗は思わず呼吸を止めた。

 

 暗闇の奥で何かが動く。

 

 青白い結晶の光が、その輪郭をゆっくりと照らし始めた。

 

「……っ」

 

 小柄だった。子どもほどの背丈。しかし、人間ではない。全身を薄汚れた緑色の皮膚に覆われ、節くれ立った腕は異様に長い。耳は鋭く尖り、鼻先は潰れ、口元からは黄色く変色した牙が何本も飛び出している。濁った黄色い眼球が、ぎょろりと悠斗を捉えた。

 

「ギ……」

 

 低く濁った声。生臭い息が洞窟の空気を汚す。その手には、どこで拾ったのか錆び付いた鉈のような刃物が握られていた。

 

 悠斗の全身から、一気に血の気が引く。

 

「……ゴブリン」

 

 口から漏れたのは、無意識の言葉だった。ゲーム、漫画、ライトノベル、何度も見たことがある。

 

 ファンタジーフィクションでは最弱の代名詞。物語で最初に出てくる雑魚の代名詞。

 

 ──そんなはずだった。

 

 だが、目の前のそれは違う。

 

 腐臭。

 荒い呼吸。

 皮膚の質感。

 眼球の動き。

 指先の震え。

 

 どれも映像ではない、現実だった。紛れもなく、生きている。

 

「ギィ……」

 

 ゴブリンが一歩踏み出す。ぐちゃり、と湿った足音。その音だけで、悠斗の身体が強張る。頭では逃げろと叫んでいるが、動けない。足はまるで地面へ縫い付けられたように動かなかった。

 

(無理だ)(あんなの勝てるわけがない)(人じゃない)(死ぬ)

 

 怯えの思考が一瞬で頭の中を走っていく。喉が乾き心臓の鼓動だけが耳の奥で暴れている。

 

 ゴブリンは口角を歪めた。獲物が怯えている、そう理解したような笑みだった。ゆっくりと鉈を持ち上げる。その刃先が青白い光を反射した。

 

 悠斗は息を呑む。まただ。あの夜と同じだ。

 

 刃物、血、痛み──死

 

 身体が震えて脚がすくむ──その時。

 

「チョコォ!!」

 

 鋭い鳴き声が響いた。

 

 悠斗の胸元。チョコドンゴチゾウが両手を広げるように立ち、必死に悠斗を見上げていた。

 

「チョコ! チョワ!」

 

 その声には、先ほどまでの愛嬌はない。焦り。心配。励まし。小さな身体いっぱいで何かを伝えようとしている。

 

 悠斗ははっとする。視線が自然と右手へ落ちた。握られているヴァレンバスター。冷たい金属の感触。それは玩具ではない……確かな重みを持った、本物の武装。そして胸元には、自分を信じるように見上げる小さな相棒。

 

 さっきまで混乱しかなかった頭へ、一つの記憶がよぎる。テレビの前で、何度も見た光景。

 

「……ヒーローは、怖くないから戦うんじゃない」

 

 怖くても。震えていても。誰かを守りたいと思うから立ち向かう。幼い頃、画面の向こうのヒーローから学んだことだった。

 

「……そう、だ」

 

 悠斗は小さく息を吐く。震えていた手を、ゆっくりと握り直す。ヴァレンバスターのグリップが、不思議なほど掌へ馴染んだ。

 

「俺は……」

 

 逃げたい、怖い、帰りたい。そんな本音は変わらない。

 

 それでも。

 

 目の前の化け物から目だけは逸らさなかった。

 

「……生きて帰るために」

 

 ヴァレンバスターを構える。ゴブリンが低く唸り声を上げ、地を蹴った。悠斗はその姿を真正面から見据えた。

 

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