夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~ 作:妄想めっちゃ代理人
「じゃあ今日はここまでぇ」
真理亜は端末を抱え直し、いつもの調子で笑った。
「報告書は責任を持ってまとめておくわぁ。そのうち本部から返答が来ると思うからぁ」
悠斗は深く頭を下げる。
「ありがとうございました」
「こちらこそぉ」
真理亜は楽しそうに目を細めた。
「久しぶりに研究者冥利に尽きる一日だったわぁ」
そして少しだけ真面目な表情になる。
「それと、無理に能力を試そうとしないことぉ。あなたの力は、まだ私たちにも分からないことだらけぇ……何か試したくなったら、一人でやらずに協会へ相談してぇ……出来れば真っ先に私に言いなさぁい!!」
「……は、はい」
悠斗は素直に頷いた。
「いい返事ねぇ」
真理亜は満足そうに微笑む。
「じゃあまた近いうちに会いましょう。次はもっと面白……じゃなくて」
一度咳払いをして言い直す。
「有意義なデータが取れることを期待してるわぁ」
陽奈が小さく笑う。
「今、『面白い』って言いかけましたよね?」
「気のせいよぉ」
「絶対違います」
そんな軽いやり取りに検査室の空気が和らぐ。
奏たちは真理亜へ一礼すると、検査室を後にした。自動ドアが静かに閉まり、特異現象検査室のプレートが視界から遠ざかっていく。しばらく歩いたところで、奏が振り返った。
「さて」
「まだ時間はあるし、予定通り行こうか」
「予定?」
悠斗が首を傾げる。
「悠斗さんと私達の買い物。装備ショップに行こっか!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
検査室からしばらく歩き、装備ショップへ向かう途中、悠斗は何気なくポケットからガヴフォンを取り出した。機能を確認していると陽奈が興味津々といった様子で覗き込む。
「そのスマホ、ちゃんと使えるの?」
「多分、ある程度は」
悠斗は画面を操作しながら答えた。
「元の世界で売られてたのは子供向けのおもちゃでしたけど、俺の能力で実体化したこれは、劇中に登場した本物のガヴフォンみたいです」
「へぇ」
奏も興味深そうに画面を見る。
ホーム画面には様々なアイコンが並んでいる。
時計
カメラ
メール
音楽
動画
地図
電話
「これ全部使えるの?」
「触ってみた限りでは」
悠斗はカメラアプリを起動するとゴチゾウをフレームに収める。
カシャ、と音がすると綺麗にチョコドンが写った。
「カメラも」
次に音楽アプリ。内蔵されているガヴ本編のBGMが流れ始める。
「音楽も」
続いて地図。現在地を示そうとして読み込みを繰り返すが、やがて『地図データがありません』という表示になった。
「……地図は駄目みたいですね」
苦笑しながら画面を戻す。
「メールや電話も機能自体はあります」
電話アプリを開き、試しに発信してみる。
しかし数秒後。
『通信サービスを利用できません』
という表示だけが現れた。
「やっぱり、通信規格が違うからか」
デンテ・ストマックの作ったコレはショウマ達のいた世界に合わせて作ったのだろう。魔導通信に対応していない筈だし、何より悠斗自身他所の電波にただ乗りして使うのに無意識下の抵抗があったのかオフラインで使える機能しか使えなかった。
奏も納得したように頷く。
「電話機能そのものは生きてるけど繋ぐ先がないって感じだね」
「そういうことだと思います」
悠斗はさらに画面を見る。
「ただ」
画面中央には、大きなガヴのマーク。その右上には、ペロペロキャンディを模したアイコンが並んでいる。
「この辺だけは何をするものか分からないんですよね」
軽くタップしてみるが反応はない。
「劇中では何かに使ってたんですか?」
詩織が尋ねる。
悠斗は首を傾げた。
「俺も全部を把握してるわけじゃないので……少なくとも、今は動きません」
真理亜の話を思い出す。願いを叶える力、そして自分の認識まで反映する力。
(……まだ条件を満たしてないだけなのか)
そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。
「でも」
奏は笑顔で言った。
「生活用としては厳しそうだね」
「……そうですね」
悠斗も素直に頷く。
「電話は繋がらないですし地図も使えません」
「だったら」
奏が軽く手を叩いた。
「装備ショップへ行く前にスマホショップへ寄ろうか」
「スマホですか?」
「うん」
奏は頷く。
「この世界で生活するなら必需品だから。協会からの連絡も来るし、私たちとも連絡先を交換したいしね」
詩織も補足する。
「探索者になればスマートコンタクトも使うことになりますが、普段使いはスマートフォンが中心です。どこかで購入しましょう」
「えっ」
悠斗は少し驚いた表情を見せた。
「結構お金が掛かりそうですね……」
すると奏が安心させるように笑う。
「そこは大丈夫。異邦人保護制度の対象だから、生活に必要な物は後で協会へ補助申請できると思う。もちろん全部通るとは限らないけど、スマホみたいな生活必需品なら認められる可能性は高いはず」
陽奈も元気よく頷く。
「探索者志望なんだし、スマートコンタクトも必要になったら申請すればいいよ! まずは自分で買って、あとで領収書を協会へ送って相談って感じ!」
悠斗は少し恐縮したように頭を下げた。
「……ありがとうございます。また皆さんにお世話になってしまいますね」
奏は苦笑しながら肩をすくめた。
「困った時は、お互い様だよ。それに、制度で受けられる支援はちゃんと使った方がいいよ。遠慮して損する必要はないからね」
協会本部を出た四人は、そのまま駅前へと続く大通りを歩いていた。
平日の昼間ということもあり、通りには買い物客や学生、仕事中と思われる会社員の姿が目立つ。武器や防具は身につけていないが出で立ちと雰囲気から探索者らしき人影も時折見かける。
ごく普通の街並み。ダンジョンが存在する世界とは思えないほど日常の光景が広がっていた。
「ここだよ」
奏が立ち止まった先には、大きな携帯ショップが建っていた。ガラス張りの店内には最新機種がずらりと並び、店先の大型ディスプレイでは新機種の広告映像が流れている。
「思ったより普通ですね」
悠斗は思わず漏らした。
「もっと魔法っぽい感じかと」
陽奈が笑う。
「スマホは自体は前からあったしね。魔導技術が発達しても普段使いは今でもスマホが主流なんだよ」
詩織も頷く。
「通話やSNS、写真撮影、動画視聴など、日常用途はスマートフォンが中心です。探索者はスマートコンタクトも併用しますが、用途が異なります」
「なるほど」
悠斗は店の看板を見上げる。
「じゃあ、本当に俺の知ってるスマホショップと変わらないんですね」
「うん」
奏が自動ドアへ向かう。
「中もそんな感じだから安心して」
四人が店内へ入ると、軽やかな入店音が鳴った。
「いらっしゃいませ」
制服姿の店員が笑顔で近付いてくる。
「本日は機種変更でしょうか。それとも新規契約でしょうか」
奏が一歩前へ出た。
「新規でお願いします。この人の生活用のスマートフォンを用意したくて」
店員は驚いた様子もなく頷く。
「承知いたしました。それでは、契約内容をご案内いたします」
案内されたカウンターへ腰を下ろすと、店員は手際よく数種類の端末を並べ始めた。
「こちらが現在人気のモデルになります」
黒、白、青、赤。色違いの端末が整然と並ぶ。悠斗はその光景を見て、少しだけ肩の力が抜けた。
異世界へ来てから目にするものは何もかも新鮮だったが、異世界の日本でも見慣れた光景だったからだ。
店員が微笑む。
「それでは、お客様のご希望をお伺いしてもよろしいでしょうか」
店員がカタログを広げる。
「現在はこちらのモデルが人気となっております」
薄型モデル、大画面モデル、折りたたみモデル。様々な機種が並ぶ中、一角には『探索者モデル』と書かれたコーナーも設けられていた。
「探索者モデルは耐衝撃性、防水・防塵性能を強化しております。ダンジョン内での使用を想定した設計ですので、一般モデルより頑丈ですね」
店員の説明を聞きながら、悠斗は値札へ目を向ける。
(……結構するな)
異世界とはいえ、価格帯は元の世界とそう変わらない。悠斗は遠慮がちに口を開いた。
「その……俺は一番安い──」
「探索者モデルでお願いします」
言い終わるより早く、奏が店員へ告げた。悠斗は思わず振り向く。
「えっ?」
「駄目」
奏は柔らかく笑いながらも、その口調はきっぱりとしていた。
「悠斗くん、そのうちダンジョンに潜るんでしょ?」
「それは、はい」
「だったら普通のスマホはおすすめしない」
探索者モデルを手に取り、悠斗へ見せる。
「ダンジョンって思った以上に過酷だから落としたり、ぶつけたり、水に濡れたり、魔物との戦闘で吹き飛ばされることだってある。安い機種を買って壊れたら結局買い直しになっちゃう」
陽奈も腕を組んで何度も頷く。
「私も新人の頃、それで一台ダメにしたもん……修理代で泣いたよー」
詩織も静かに頷いた。
「ダンジョンでは予想外の衝撃が日常茶飯事です。連絡手段の一つを失うことはそのまま生存率の低下にも繋がります。耐久性は価格以上に重視すべき性能でしょう」
「だから最初から丈夫なものを選んだ方が、長い目で見れば安く済むよ」
奏はそう言って微笑んだ。
悠斗は少し困ったように笑う。
「でも、高いですよね」
「生活支援の補助申請も後で出せると思うし」
奏は肩をすくめる。
「もちろん絶対に満額通るとは言えないけど……必要な物を無理して我慢する方が良くないよ?」
悠斗は少しだけ考え、やがて観念したように苦笑した。
「……分かりました。皆さんがそこまで言うなら」
そして小さく頭を下げる。
「ありがとうございます。ちゃんと大事に使います」
奏は満足そうに頷いた。
「うん! それが一番だよ」
アルカディアと話をした後、契約と初期設定を終え、新しいスマートフォンが悠斗の手元へ渡される。
「最低限の設定はこちらで済ませてあります」
店員は画面を操作しながら説明した。
「こちらが連絡用アプリです。電話帳、通話、メッセージ機能はこちらへ集約されています。あとはそちらで連絡先をご登録いただければ、すぐにご利用いただけます」
「ありがとうございます」
悠斗は新しいスマートフォンを受け取り、店員へ頭を下げた。
「じゃあ」
奏が自分のスマートフォンを取り出す。
「まずは私たちと連絡先を交換しよう」
「はい」
悠斗もアプリを開く。
まだ何も登録されていない電話帳。空っぽの画面を見て、少しだけ胸が締め付けられた。元の世界で登録されていた家族や友人の名前は、もうどこにもない。
そんな悠斗の様子に気付いたのか、奏は穏やかな声で言った。
「最初の一件目は、私でいいかな?」
悠斗は小さく笑みを浮かべる。
「お願いします」
互いに端末を近づけると、短い電子音が鳴った。
『連絡先を受信しました』
画面に表示された最初の名前。
神埼 奏
「次は私!」
陽奈が勢いよく身を乗り出す。
「はい」
再び電子音が鳴る。
朝霧 陽奈
「では、私も」
詩織も静かに端末を差し出した。
三度目の電子音。
白峰 詩織
三人の名前が並ぶ電話帳。ほんの数分前まで空だった一覧が、少しだけ賑やかになる。
陽奈が嬉しそうに笑った。
「これでいつでも連絡できるね! 迷子になっても安心!」
「迷子前提なんだ……」
悠斗が苦笑すると、奏も笑う。
「念のためだよ。悠斗さん、この街もまだ慣れてないでしょ?」
「確かに」
悠斗は素直に頷いた。
「それじゃあ」
奏はスマートフォンをポケットへしまう。
「買い物の続き、次は装備ショップへ行こうか」
悠斗も新しいスマートフォンを大切そうにしまい、小さく息を吐いた。
異世界で初めて手に入れた、自分だけの連絡先。そこにはもう、独りではない証のように、三人の名前が並んでいた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
スマホショップを後にした四人は、そのまま駅前通りを歩いていく。数分ほど進んだ先で、奏が一軒の大きな建物を指差した。
「次はここ」
建物の外壁には巨大な看板、そこには剣と盾の意匠をあしらったロゴと共に、
『Explorer's Gear PRO』
の文字が掲げられていた。
入口脇には最新装備の広告ポスター。
『新型軽量魔導プレートメイル入荷』
『D級探索者おすすめスターターセット』
『期間限定・ポーションまとめ買いキャンペーン』
どれも現代のスポーツ用品店やアウトドアショップを思わせるデザインだ。
「ここが装備ショップ……」
悠斗は思わず呟いた。自動ドアが開き、店内へ足を踏み入れる。
「おぉ……」
思わず声が漏れた。
広々とした店内には整然と商品棚が並び、照明も明るい。まるで大型スポーツ用品店のような雰囲気だ。
しかし並んでいる商品はどれもが普通ではない。片手剣や槍が壁一面に展示され、その隣には最新モデルの魔導杖。軽量化された金属鎧に魔物素材を編み込んだ防刃ジャケット。棚には回復薬や解毒薬、携帯食、ロープ、ランタン、防水ポーチなど、探索用の道具が所狭しと並んでいる。店内中央では、魔導ドローンが新商品の紹介映像を空中へ投影していた。
現代的な陳列棚。
電子価格表示。
キャッシュレス決済端末。
そのすぐ横に並ぶ剣や盾、魔導具。
現代日本とファンタジー、二つの世界が違和感なく溶け合った光景だった。
「すごい……」
悠斗は店内を見回す。
「ゲームとリアルが混ざっているような感じですね」
陽奈が笑う。
「最初はみんなそう言うんだよ。私は子どもの頃から見慣れてるけど」
奏も微笑んだ。
「ダンジョンがある世界ではこれが普通だよね」
詩織は壁に並ぶ武器を見ながら口を開く。
「一般向けの商品と探索者向けの商品が同じ街で販売されます。この世界では珍しいことではありません」
悠斗は展示された大盾の前で立ち止まった。
黒い鋼鉄製で銀色の縁取りぶ中央には魔法陣が刻まれている。
「盾までこんなに種類が……」
「今日は悠斗くんの装備を見ながら、私の盾も買い替える予定なんだ」
「昨日の盾……ですよね」
「うん。あれだけ頑張ってくれたからね」
奏は悲しそうではなく、どこか労うような笑みを浮かべた。
「長い間お世話になったし、最後までちゃんと役目を果たしてくれたよ」
陽奈がニヤリと笑う。
「奏の盾選び、始まるよー。毎回すっごく悩むんだから」
「陽奈」
奏は少し困ったように笑う。
「盾は命を預ける装備だから簡単には決められないよ」
詩織も静かに頷いた。
「盾役の装備更新は、パーティ全体の生存率にも直結します。慎重になるのは当然でしょう」
「じゃあ」
奏は悠斗へ振り返る。
「まずは悠斗くんの装備から見ようか。変身できない状況も考えないといけないし最低限の防具と探索用の道具は揃えておこう。そのあと私の盾今日はゆっくり見て回ろう」
悠斗は並ぶ装備を見渡しながら、大きく頷いた。
「はい」
剣や鎧だけではない。携帯食、探索用バッグ、医療キット。この世界では、それらすべてが探索者にとっての"命綱"なのだと、店内を歩くだけで伝わってくるのだった。