夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~   作:妄想めっちゃ代理人

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深きへ潜る資格と示す実力

 必要な装備を一式揃え、四人は夕方には奏の家へ戻った。

 

 悠斗用の探索服や防具、初心者向けの探索キット。そして奏も、何枚もの大盾を試した末に、自分の身体に最もしっくりくる新しい相棒を見つけることができた。

 

 そして数日間が経った。悠斗は探索へ出ることなく、基礎知識を身につけることを優先した。

 

「ダンジョンでは、先に探索しているパーティーを追い越さない」

「狭い通路では、戦闘中のパーティーには近付かない」

「すれ違った時は挨拶をする」

「魔物の素材を採取するときは、周囲の安全確認を忘れない」

 

 奏は、自身の経験を交えながら一つひとつ丁寧に教えてくれる。

 

 陽奈は実際にあった失敗談を交え、

 

「宝箱を見つけても、すぐ開けちゃダメだからね! 罠だったら大変だし!」

 

 と身振り手振りを交えて説明する。

 

 詩織は探索者協会の規定や統計資料を見せながら、

 

「初心者の事故原因で最も多いのは、戦闘そのものではありません」

「油断やルール違反によるものです」

「基本を守ることが、生還率を大きく左右します」

 

 と、理論的に補足してくれた。

 

 時には装備の手入れを教わり、時には実際のダンジョン映像を見ながら危険な魔物の特徴を学び、生きて帰るための知識を一つずつ積み重ねていった。

 

 そして数日後。朝食を終えた頃、奏のスマートフォンが軽く震えた。

 

「あ」

 

 画面を確認した奏の表情が明るくなる。

 

「協会からだ」

 

 三人も画面を覗き込む。

 

「……来た」

 

 奏は悠斗へ笑顔を向けた。

 

「悠斗さん、探索者登録の手続きが完了したって。それと──」

 

 一度メッセージを読み直し、小さく目を見開く。

 

「特例措置で、身分証の発行ももう終わったみたい」

 

「えっ、もうですか?」

 

 悠斗は思わず声を上げた。本来であれば、登録の保留と本部での審査があるため、もっと時間がかかるものだと思っていた。

 

「中央支部と九条主任がかなり頑張ってくれたんでしょうね」

 

 詩織が納得したように頷く。

 

「特別現象解析室長自ら報告書を提出していますから。本部としても、保護対象である悠斗さんを早く正式な身分にした方が都合が良いと判断したのでしょう」

 

 陽奈も嬉しそうに笑った。

 

「これでやっと正式な探索者だね!」

 

 奏はスマートフォンをしまい、悠斗へ向き直る。

 

「今日は協会に行こう。探索者証を受け取って、本当の意味で探索者デビューだよ」

 

 悠斗はゆっくりと頷いた。この世界へ来てから、助けられ、守られ、学び続けた数日間。ようやく、自分もこの世界の探索者として最初の一歩を踏み出す時が来た。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 探索者協会へ到着すると、受付の職員が悠斗たちを笑顔で迎えた。

 

「お待ちしておりました、相沢様」

 

 職員は端末を操作し、登録情報を確認する。

 

「本部での審査が終了し、特例探索者としての登録が正式に承認されました」

 

 悠斗は思わず表情を明るくした。

 

「本当ですか」

 

「はい」

 

 職員は頷く。

 

「探索者証もすでに発行済みです。ただし、最後に実力査定を受けていただきます」

 

「実力査定……ですか?」

 

「通常の探索者登録では、登録試験の中で実施される内容です。相沢様は特例審査となりましたので、本日の査定をもって探索者登録の全工程が終了となります」

 

 奏が横から説明する。

 

「心配しなくて大丈夫。身体能力を測ったり、武器の扱いを確認したりするくらいだから、探索者としてのデータを登録するための査定だよ」

 

 詩織も続ける。

 

「探索者証には基礎能力や技能認定が記録されます。パーティーを組む際や、協会が依頼内容を判断する際の参考資料にもなります」

 

 職員は資料を閉じる。

 

「それでは訓練場へご案内します」

 

 四人は職員に続いて協会の奥へ向かった。案内されたのは、天井の高い屋内訓練場だった。

 

 広々とした空間には模擬戦用のフィールドや各種測定機器が整然と並び、周囲には観覧席まで設けられている。今日は新人査定や訓練の公開日らしく、多くの探索者や見学者が思い思いに観覧席から様子を眺めていた。

 

 職員に案内される悠斗の姿へ、自然と視線が集まる。

 

「あれ……」

「もしかして異邦人の子じゃない?」

「ニュースでやってたあの……」

「ほら、魔力が観測できないって噂を聞いたぞ」

「俺配信見てたぞ! アルカディアの救世主!」

「あぁ……チョコの鎧を着るって噂の」

「チョコ大好きマンでしょ」

「本当にそんな変身するの?」

「見られるならちょっと得したかも」

 

 ささやき声が少しずつ広がり、観覧席にも人が集まり始める。陽奈が苦笑した。

 

「やっぱり噂になってるね」

 

 奏も困ったように笑う。

 

「協会本部まで巻き込む話になったし、仕方ないかな」

 

 悠斗は頬をかきながら苦笑する。

 

「チョコの人って……間違ってはいませんが……」

 

 詩織が真面目な顔で呟く。

 

「もう少し正式な呼び方が定着してほしいところですね」

 

 そんな四人の様子を見て、職員は小さく微笑んだ。

 

「お気になさらないでください。珍しい事例ですので、皆さん興味を持たれているだけです」

 

 そして測定エリアの中央まで歩くと、振り返って一礼した。

 

「それでは、相沢悠斗様。探索者登録最終査定を開始いたします」

 

 職員が測定端末を操作する。

 

「まずは戦闘能力査定を行います。相沢様には、普段戦闘時に使用される形態で測定を受けていただきます」

 

 悠斗は小さく頷いた。

 

「分かりました」

 

 腰へ手を添える。意思に応えるように、何もなかった手へヴァレンバスターが現れた。

 

「おぉ……」

 

「何もないところから出したぞ!?」

 

 観覧席から小さなどよめきが起こる。悠斗はチョコドンゴチゾウを取り出した。

 

「行くよ」

 

「ウニョワァァァ!」

 

 元気よく鳴いたチョコドンがヴァレンバスターへ飛び込む。

 

『チョコ!』『Set チョコ!』

 

 引き金を引く。熱いチョコレートが溢れ出し、悠斗の全身を包み込んでいく。チョコレートは瞬く間に固まり、板チョコのような装甲へと姿を変える。そして銀色の包み紙が剥がれるように弾け飛び──

 

『チョコドン! パキパキ!』

 

 仮面ライダーヴァレン・チョコドンフォームが姿を現した。

 

 訓練場が一瞬、静まり返る。

 

「……」

「……」

 

 そして次の瞬間。

 

「すげぇ……!」

「本当にチョコだ」

「何だあの変身!?」

「魔術でも魔導具……でもないよな?」

「魔力反応、全然感じなかったぞ」

「でも実体があるな……」

「鎧が板チョコみたいになってる! かわいい!」

「見たことない能力だ」

「ユニークスキルにしてもユニークすぎるだろ!?」

「異邦人って聞いてたけど、本当に別世界の力なんだな……」

 

 あちこちから驚きの声が上がる。魔法でも、一般的な装備でもない未知の力による変身。それを目の当たりにした探索者たちは、興味と驚きを隠せずにいた。

 

 担当職員も感嘆の表情を浮かべながら、端末へ次々と測定結果を入力していく。

 

「……それでは、査定を開始します」

 

 訓練場の空気が引き締まり、探索者たちの視線が一斉にヴァレンへと注がれた。担当職員が端末を操作すると、訓練場中央の床が低い駆動音と共に開いていく。

 

「相沢様はアーマーベア討伐の実績が確認されています。そのため、初級査定用ではなく実績を加味した査定を行います」

 

 悠斗は軽く身構えた。

 

 床下から姿を現したのは、一体の人型魔導ゴーレムだった。全身は鈍色の金属装甲で覆われ、人間とほぼ同じ体格。右腕には刃を潰した訓練用模擬剣。左腕には金属製のカイトシールドが装着されている。目に当たる部分では青白い魔石が静かに輝いていた。

 

「スパーリングゴーレム……」

 

 奏が小さく呟く。詩織が悠斗へ説明する。

 

「探索者の査定や訓練用に開発された魔導機械です。攻撃力は制限されていますが、動作パターンは実戦を想定しています。設定次第で強さも変えられるんです」

 

 陽奈が観覧席から身を乗り出した。

 

「でもあれ……初心者用じゃないよね?」

 

 職員が頷く。

 

「はい。今回はアーマーベア討伐の戦果を考慮し、Dランク相当の設定で起動します」

 

 その言葉に、周囲の探索者たちがざわめいた。

 

「いきなりDランク設定か」

「普通はFランクから始めるだろ」

「アーマーベアを倒したって話、本当だったんだな」

「でもあれはパーティ討伐だろ?」

「新人には荷が重くないか?」

「いや、だからこその査定だ」

 

 職員がゴーレムへ命令を送る。

 

「スパーリングゴーレム、戦闘プログラム・タイプD起動」

 

 ゴーレムの双眼が一段と強く輝く。

 

『──SYSTEM READY』

 

 無機質な音声が訓練場へ響いた。模擬剣を構え、カイトシールドを正面へ。教本通りとも言える無駄のない構えだった。

 

「なお」

 

 職員が続ける。

 

「模擬剣には安全術式が施されています。重大な負傷は防止されますが、痛みは実戦に近い形で伝達されます。降参、または戦闘不能と判定された時点で査定は終了です」

 

 悠斗はヴァレンバスターを握り直し、静かにゴーレムを見据えた。人間のように感情はない。だからこそ、一切の迷いなく最適な攻撃を繰り出してくる相手。

 

 職員が片手を高く掲げる。

 

「それでは──」

 

 一瞬の静寂。

 

「始め!」

 

 開始の合図と同時に、スパーリングゴーレムは地面を蹴り、盾を前面に構えながら悠斗へ一直線に踏み込んだ。

 

 無駄のない踏み込みに合わせ右手の模擬剣が鋭い軌跡を描き、袈裟斬りに振り下ろされた。

 

「速っ……!」

 

 悠斗は反射的に横へ飛び込み、そのまま床を転がる。模擬剣は紙一重でヴァレンの肩先をかすめ、床へ叩きつけられ鈍い衝撃音が訓練場に響く。

 

「今のを避けた!」

「反応はいいぞ!」

「いい剣筋だな」

「さすがにDランク設定だといい動きするな」

 

 観覧席から感嘆の声が上がる。

 

 悠斗は転がる勢いのままヴァレンバスターを構えた。

 

「はぁっ!」

 

 引き金を連続で引く。

 

 ダキュンッ! ズキュキュン! 

 

 チョコエネルギー弾が立て続けに放たれる。しかしゴーレムは慌てる様子もない。左腕のカイトシールドをわずかに傾けるだけで射線を合わせる。

 

 ガキキキンッ! 

 

 弾丸は金属製の盾へ次々と命中し、火花を散らした。数発は肩や胴体をかすめたものの、決定打にはならない。ゴーレムは一歩も慌てず、盾を前に据えたまま再び距離を詰めてくる。訓練用とは思えないほど堅実な剣盾術。隙らしい隙は見当たらなかった。

 

 悠斗は小さく息を吐く。

 

「やっぱり……アーマーベアとは全然違う……!」

 

 魔物のような力任せではない。相手は技術で攻め、技術で守ってくる。その事実を、悠斗は一合交えただけで痛感していた。

 

 ゴーレムは攻撃の手を緩めない。袈裟斬りから流れるように剣を引き戻し、今度は鋭い突きを繰り出す。

 

「っ!」

 

 悠斗は身体をひねり、紙一重で穂先をかわす。

 

 続けざまに振り下ろし、斬り上げ、どの一撃も教本通りと言えるほど正確で、無駄がない。悠斗はヴァレンへ変身したことで強化された五感を頼りに、そのすべてを必死に見切っていく。

 

「避けてる……!」

「初見であの連撃を!」

「反応速度だけならかなり高いぞ!」

 

 探索者たちから驚きの声が漏れる。だが、悠斗の表情に余裕はなかった。

 

(速い……! 見えてるのに、身体が追いつかない!)

 

 これまで戦った相手はアーマーベアだった。巨大な体躯から繰り出される力任せの攻撃。対して目の前の相手は、人と同じ体格で、人と同じように剣を扱う。その"武器を持った相手"という状況に、悠斗の意識はわずかに呑まれていた。

 

 ゴーレムが踏み込むと腰をひねり、剣を大きく引く。

 

(横薙ぎ──!)

 

 分かっていたが、一瞬だけ反応が遅れた。

 

「しまっ──!」

 

 回避は間に合わない。悠斗は咄嗟に左腕を掲げた。

 

 ガギィィンッ!! 

 

 金属同士が激突したような甲高い音が訓練場へ響く。横薙ぎの一撃は、ヴァレンの左腕へ叩き込まれた。

 

「ぐっ……!」

 

 鈍い衝撃が腕から肩へ突き抜ける。痛みも確かにあった、しかし──剣は、それ以上一歩も食い込まない。

 

 ヴァレンの左腕を覆うチョコドングラブバーが、模擬剣を真正面から受け止めていた。板チョコを思わせる装甲には浅い擦り傷が付いただけで、大きな損傷は見られない。

 

「防いだ!?」

「腕で受け止めたぞ!」

「今の直撃だろ!?」

「チョコの装甲、思った以上に硬い!」

「鎧で受け止めるとか勇気あるなぁ……」

 

 観覧席が再びざわめく。悠斗自身も驚いたように左腕を見る。

 

(止まった……痛いけど、折れてない!)

 

 模擬剣を受けた腕は痺れるように痛む。それでも、チョコドンフォームの腕部装甲はしっかりと衝撃を受け止め、悠斗の腕を守り抜いていた。その一瞬の攻防を見ていた奏は、小さく安堵の息をつく。

 

「よかった……やっぱり平気そう」

 

 詩織も静かに分析する。

 

「防御力は予想以上ですね。ヴァレンのあの装甲そのものが、防御具として十分な性能を有しているようです」

 

 陽奈は心配する素振りもなく見る。

 

「アーマーベアの攻撃を普通に受け止めてたしアレぐらい余裕だって!」

 

 ゴーレムは剣を引き戻し再び盾を構え直すと、間髪入れず次の攻撃態勢へ移行し再び盾を前へ押し出しながら踏み込む。

 

 悠斗は深く息を吸った。

 

(正面から撃っても、あの盾に防がれる……だったら──)

 

 自分から飛び込む。

 

「うおぉぉっ!」

 

 ヴァレンバスターを握った右腕を大きく振り抜いた。狙ったのは本体ではなく、模擬剣だった。

 

 ガンッ!! 

 

 勢いよく横から叩かれた模擬剣がわずかに弾かれ、ゴーレムの姿勢が一瞬だけ崩れる。

 

「今だ!」

 

 悠斗はそのまま身体を沈め、ヴァレンバスターを脚部へ向けた。

 

 ズキュキュキュゥン!! 

 

 連続して放たれたチョコエネルギー弾が膝や脛へ命中する。装甲を貫く威力ではないが、衝撃を与えるには十分だった。

 

 ゴーレムの重心が揺らぎ盾がわずかに身体から離れた。

 

「押した!」

「隙ができたぞ!」

 

 観覧席がどよめく。

 

 悠斗はその一瞬を逃さなかった。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 盾を持つ左腕へ思い切り踏み込み、そのまま肩からぶつかる。さらに空いた右腕で盾の縁を掴み身体をひねった。

 

「うおおおおっ!!」

 

 プロレス技のような豪快な体重移動。ゴーレムの腕を強引に引き上げながら腰を入れ、全身の力で投げ飛ばす。

 

 ゴォン!! 

 

 巨体が宙を舞い訓練場の床へ激しく叩きつけられた。投げられる瞬間、カイトシールドが腕から外れ床を滑って転がる。

 

 ガラン、ガラン──。

 

 一瞬、訓練場が静まり返った。

 

「……投げた」

「盾ごと持っていったぞ!」

「なんつー怪力だよ!?」

「ゴーレム相手に組み技とかマジかアイツ!」

「なんだ今の豪快な戦い方!」

 

 探索者たちから驚きと笑いが入り混じった声が上がる。陽奈は思わず立ち上がる。

 

「やったぁ!」

 

 奏も目を丸くしたあと、思わず笑みをこぼした。

 

「力任せだけど……ちゃんと考えてる」

 

 詩織は感心したように呟く。

 

「盾を正面から突破できないと判断し、武器と足を狙って体勢を崩したうえで組み技へ移行。経験は浅いですが、状況への対応力は高いようですね」

 

 床へ叩きつけられたゴーレムは、すぐさま起き上がろうと駆動音を響かせる。しかし、その左腕にはもう盾はなく、防御の要を失っていた。悠斗はヴァレンバスターを構え直し、荒い息を吐きながら盾を失ったゴーレムを真っ直ぐ見据えた。

 

 脚部へ連続して受けた衝撃により、立ち上がろうとするゴーレムの姿勢がわずかに乱れる。その隙を、悠斗は見逃さなかった。

 

「はぁっ!」

 

 床を滑っていたカイトシールドへ駆け寄ると、勢いよく蹴り上げる。

 

 ガンッ!! 

 

 弾き飛ばされた盾は回転しながら一直線に飛び──

 

 ゴッ!! 

 

 ちょうど姿勢を立て直そうとしていたゴーレムの頭部へ命中した。頭部が大きく揺れ、動きが止まる。

 

「今だ!」

 

 悠斗はヴァレンバスターを両手で構え、前部のジャッキを大きく開く。

 

 待機音が鳴り響くとバスターの前方へ、眩いエネルギーが渦を巻き始める。光は次第に凝縮され、濃密な球体となっていく。

 

「必殺技だ!」

「来るぞ!」

 

 観覧席から思わず声が上がる。悠斗は狙いを定めると、一気にジャッキを閉じた。

 

 ガシャンッ!! 

 

 その瞬間、凝縮されたエネルギーは巨大なチョコボールへと変化する。

 

「行けぇぇぇっ!!」

 

 悠斗は殴るようにヴァレンバスターを振り抜く。

 

『チョ──コ──ド──ン──!!』

 

 巨大なチョコボールが轟音と共に射出された。

 

 一直線、回避する間もなく、ゴーレムの胴体へ直撃する。

 

 ドォォォン!! 

 

 濃厚なチョコエネルギーが一気に炸裂し、訓練場に爆発音が響き渡った。

 

 爆風が収まると、煙の向こうから姿を現したゴーレムは、全身の装甲に無数の焦げ跡と亀裂を刻まれながらも、辛うじて原形を保っていた。しかし、その身体はゆっくりと揺れ──

 

 ガシャン……。

 

 膝をつく。続いて前のめりに倒れ込み、完全に動きを停止した。

 

 青白く輝いていた魔石の光も静かに消えていく。

 

『──TARGET SILENCED』

『──戦闘終了』

 

 機械音声が訓練場へ響いた。

 

「……撃破確認」

 

 担当職員が端末を確認し、静かに宣言する。

 

「スパーリングゴーレム、機能停止。戦闘能力査定、合格です」

 

 一瞬の静寂の後──観覧席から大きなどよめきと拍手が湧き上がった。

 

「勝った!」

「Dランク設定を倒したぞ!」

「最後の技、すごかったな!」

「チョコの球を殴って飛ばしたぞ!?」

「なんだあれ!」

「異邦人の力、本当に規格外だ……」

 

 悠斗は大きく息を吐きながら、ゆっくりとヴァレンバスターを下ろした。初めて自分一人で勝ち取った勝利。その実感が、静かに胸へ込み上げていた。

 

 ゴーレムの機能停止を確認した担当職員は、端末を操作しながら悠斗の前へ歩み寄った。

 

「お疲れ様でした。これで戦闘能力査定は終了です」

 

 悠斗は変身を解除すると、小さく息を吐いた。

 

「ありがとうございました」

 

 担当職員はタブレット端末を悠斗へ向ける。

 

「最後に、技能認定についてご説明します」

 

「技能認定……ですか?」

 

「はい。探索者には等級とは別に、各技能の習熟度を示す『技能認定』制度があります。剣術や盾術、魔術、治療技術、索敵術など、それぞれの技能を個別に評価し探索者証へ記録します」

 

 画面には五つの区分が表示される。

 

「認定は五段階です」

 

「基礎認定。基本的な運用が可能と判断された段階」

「実用認定。探索現場で安定して使用できる段階」

「熟練認定。高度な応用が可能で、パーティーの主力として認められる段階」

「専門認定。その技能を専門とする探索者として認められる段階。協会講師や後進の育成も担える水準です」

「そして達人認定はトップ探索者クラス。世界中でも認められているものは極僅かとなります」

 

 悠斗は感心したように頷いた。

 

「技能ごとに評価されるんですね」

 

「はい。探索者等級だけでは、その方が何を得意としているかは分かりません。技能認定は、パーティー編成や依頼内容の選定、昇格審査などの参考資料として活用されています」

 

 職員は査定結果を表示する。

 

「それでは、相沢悠斗様の査定結果をご説明します」

 

 悠斗は思わず姿勢を正した。

 

「まずは武器術(銃撃)──基礎認定です」

 

「射撃精度は良好、移動しながらの射撃も確認できました。一方で、射線管理や連携を前提とした射撃技術については、今後の訓練による向上が期待されます」

 

 悠斗は素直に頷く。

 

「確かに、まだほとんど感覚で撃ってます」

 

「続いて、近接格闘──基礎認定です」

 

「組み技や体当たりなど、実戦での咄嗟の対応力は確認できました。しかし、体系立てられた格闘技術は未習得と判断しています」

 

「はい、格闘技は習ったことがありません」

 

 担当職員も頷いた。

 

「査定内容とも一致しております」

 

「続いて、防御術──こちらは基礎認定です」

 

 悠斗は少し首を傾げた。

 

「防御術もあるんですね」

 

「はい」

 

 担当職員は頷く。

 

「戦闘中、相沢様は回避が間に合わないと判断した際、左腕の装甲で斬撃を受け止めました。防御行動として適切な判断であり、装備の性能を活かした受け方も確認できました。一方で、防御技術そのものはまだ経験不足です。盾や受け流しなど防御技術全般については今後の訓練による成長を期待します」

 

「なるほど……」

 

 悠斗は納得したように頷く。

 

「確かに、あの時は咄嗟でした」

 

「ですが、その咄嗟の判断ができたこと自体は評価に値します」

 

 担当職員は穏やかに微笑んだ。

 

「次に、回避技術──こちらは実用認定となります」

 

 悠斗が少し目を見開く。

 

「実用ですか?」

 

「はい。Dランク相当のスパーリングゴーレムによる連続攻撃に対し、高い回避能力を確認しました。初見の近接戦闘にも対応できており、危険察知能力も優秀です」

 

 観覧席からも「確かに」と納得する声が聞こえた。

 

「続いて、戦術判断──こちらも実用認定です」

 

 今度は奏たちも少し驚いた表情を見せる。

 

「戦術判断では、相手の防御を正面から突破できないと判断した後、武器への妨害、脚部への集中攻撃、盾の排除、さらには盾を利用して隙を作るなど、状況に応じて柔軟に戦法を変更した点を高く評価しています。経験不足による粗さは見られますが、発想力と応用力は十分実戦レベルと判断しました」

 

「……ありがとうございます」

 

 悠斗は少し照れくさそうに頭を下げた。

 

「最後に索敵技術──基礎認定です」

 

「戦闘中の周囲への注意力は確認できました。ただし、ダンジョン探索における索敵技能については、今後の実績を踏まえて継続評価となります」

 

 担当職員は査定票を閉じると、穏やかに微笑んだ。

 

「総評です。未知の変身能力による高い戦闘能力に加え、状況へ適応する柔軟な発想力を確認しました。一方で、各武器の運用技術はまだ基礎段階です。体系的な訓練を積むことで更なる成長が期待されます」

 

「以上が、相沢悠斗様の技能認定結果となります」

 

 悠斗は査定票を受け取り、改めて内容へ目を通した。

 

 まだ基礎認定ばかり。それでも、二つの技能で実用認定を得られたことは、自分の戦い方が間違っていなかった証でもあった。

 

 奏は嬉しそうに笑う。

 

「初めての査定で実用認定が二つなら十分だよ」

 

 陽奈も親指を立てる。

 

「これからいっぱい伸びるってことだね!」

 

 詩織も静かに頷いた。

 

「技能認定は積み重ねです。焦らず経験を重ねれば、自然と評価も上がっていくでしょう」

 

 担当職員は査定結果を端末へ入力すると、内容を確認して小さく頷いた。

 

「以上の査定結果を総合し、本部承認済みの登録内容と合わせて最終判定を行います」

 

 数秒後、端末から認定書が印刷される。職員はそれを受け取り、悠斗へ向き直った。

 

「相沢悠斗様。探索者等級は──」

 

 一拍置いて、はっきりと告げる。

 

「E級探索者 特例登録」

 

 悠斗は静かに息を呑んだ。

 

「本日付をもちまして、正式な探索者として認定いたします」

 

 その言葉と同時に、探索者証が差し出される。黒を基調としたカードには探索者協会の紋章が刻まれ、顔写真と氏名が印字されている。

 

 ────────────────

 探索者証

 

 氏名:相沢 悠斗

 探索者等級:E級(特例登録)

 

【技能認定】

 武器術(銃撃)  【基礎認定】

 近接格闘     【基礎認定】

 回避技術     【実用認定】

 防御術      【基礎認定】

 戦術判断     【実用認定】

 索敵       【基礎認定】

 

 備考:特殊能力保有者(本部特別管理対象)

 ────────────────

 

 悠斗は両手で探索者証を受け取った。

 

 カード一枚。それだけの重さしかないはずなのに、不思議とずっしりとした重みを感じる。

 

 異世界へ来てから、自分には何もなかった。自分が何者なのかを証明するものは何一つ存在しなかった。その自分が今、周りの助けを得られながらも自分で自分の立ち位置を手に入れたのだった。

 

「……ありがとうございます」

 

 自然と頭が下がる。担当職員は穏やかに微笑んだ。

 

「改めまして探索者協会一同、相沢様を歓迎いたします」

 

 その言葉に、奏が嬉しそうに笑う。

 

「おめでとう、悠斗さん。これで正式に仲間だね」

 

 陽奈は満面の笑みで拍手した。

 

「探索者デビュー、おめでとう! これからよろしくね!」

 

 詩織も静かに微笑む。

 

「改めて、おめでとうございます。まだ覚えることは多いですが、一歩ずつ経験を積んでいきましょう」

 

 悠斗は探索者証を胸の前で握りしめ、大きく頷いた。

 

「はい」

 

 この世界で生きていくための資格。探索者としての第一歩が今、確かに刻まれた。

 

 




思いつきで入れた設定をぶち込んでいるので今後使ったり使わなかったりするかもしれません。なんかステータスみたいなものだと思っててください……
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