夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~   作:妄想めっちゃ代理人

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熱い夢と甘味を身に纏う

 アーマーベアがゆっくりと悠斗へ向き直る。赤黒い双眸が、新たな獲物を捉える。

 

 その瞬間。

 

 奏のスマートコンタクトの視界には、新たな人物を検知したことを示す簡易ウィンドウが表示された。

 

《未登録探索者を検知》

 

《協会データベース照合中……失敗》

 

「……え?」

 

 思わず声が漏れた。該当データなし、そんな表示は初めて見る。ダンジョンへ立ち入るには探索者登録が必須。協会で身元確認を行い、探索者IDを発行して初めて入場が許可される。

 

 つまり──。

 

「登録されていない人……?」

 

 あり得ない。未登録者が第三層にいること自体、この世界では考えられない事態だった。

 

 その一方で、上空を旋回する魔導ドローンは悠斗の姿を捉え、配信映像を自動でズームする。視聴者にも、突然現れた青年の姿が鮮明に映し出された。メント欄が一気に流れ始める。

 

『誰!? 誰なのぉ!?』

『新しい人映った!!』

『ドローン寄った!』

『未登録探索者ってまじ?』

『そんなことある?』

『スマートコンタクト反応してないのか』

『協会のデータにいない!?』

『あの銃見たことないぞ』

『魔導銃じゃないだろあれ』

『探索者装備でもなさそうなんだけど??』

『一般人!?』

『なんで第三層に!?』

『遭難者か!?』

『でも今助けたぞ!』

『詩織さん助かったあああああああ! ありがとう本当にありがとう』

『ナイスぅ! (建前)ナイスゥ! (本音)』

『いや逃げろや!!』

『アーマーベア向いたぞおい!!』

『逃げろ逃げろ!!』

『映像で見ても迫力やばい』

『ドローン視点でもこえぇ……』

『奏さん視点に切り替えた』

『いやドローン視点の方が状況分かる』

『両視点ありがたい』

 

 同時接続が急増し、応援コメントだけで画面が埋まり始めていた。

 

『奏さん!!』

『逃げて!!』

『お願い生きて!!』

『頑張れ!!』

 

 必要な情報が埋もれる。

 

「コメント、情報優先表示」

 

 奏が音声操作と共に、スマートコンタクトが自動でフィルタリングを開始させた。

 

 応援コメントが消え、

 

『救援部隊到着予測 十二分』

『後方魔物反応なし』

『さっきの炎槍で肩の動き鈍ってるな』

『こいつ左前足の振りは速いけど絶対振りかぶるぞ』

『こちら救援部隊、今第三層に入りました。なるべく持ちこたえてください』

 

 AIがフィルタリングした公式アカウントやベテランと思われる人の有益なコメントだけが残る。視聴者には申し訳ないが必要な情報だけ拾いたい。

 

 そして、その横には依然として表示されたままの文字。

 

《未登録探索者》

 

 青年──悠斗はヴァレンバスターを構えたまま、目の前の巨獣を真っ直ぐ見据えていた。

 

「グルルル……」

 

 赤黒い瞳が悠斗の右手を見据える。そこに握られているのは、見たこともない奇妙な銃。

 

 ヴァレンバスター。

 

 銃口から漂う甘い香り、チョコレート。魔物であるアーマーベアにその正体は理解できない。だが、本能が警鐘を鳴らしていた。先ほど頬を撃ち抜かれた一撃の傷は浅い。それでも、これまで相対した探索者の魔導銃とはまるで異なる気配を感じ取っていた。

 

「グルルル……」

 

 低く唸りながら距離を測る。不用意に飛び込むべきではない。獣の勘がそう告げていた。

 

 その様子に奏が僅かに眉をひそめる。

 

「……攻めてこない?」

 

「警戒してる……?」

 

 未登録者の謎の男。その青年が握る武器も、協会の装備データには存在しない。

 

(本当に……何者なんでしょう)

 

 その数秒の静寂。

 

 悠斗の胸ポケットからチョコドンゴチゾウの声がする。

 

「チョコ」

 

 小さな鳴き声。チョコドンゴチゾウがぴょこんと顔を出した。その小さな身体を掌へ乗せる。

 

「……怖いよな」

 

 震えているのはゴチゾウではない、自分の手だ。目の前にいるのは、本物の魔物。さっき放った銃弾だって致命傷には程遠かった。今から飛び込めば死ぬかもしれない。いや、きっと普通なら逃げる。

 

 それが正しい。

 

 それでも。

 

 悠斗の視線は三人へ向く。傷だらけになりながら盾を構える少女。肩で息をしながら大剣を握る少女。ふらふらになりながらでも魔導書を手放さない少女。

 

 誰一人、諦めていない。

 

「……俺は」

 

 この世界のことは何も知らない。どうしてここへ来たのかも分からない。

 

 けれど一つだけ、はっきりしていることがあった。

 

 目の前で誰かが命を落とそうとしている。それを見ているだけなんて、できるはずがない。悠斗は小さく息を吸い込む。

 

「力を貸してくれ」

 

「チョコ!」

 

 チョコドンゴチゾウが元気よく鳴き、悠斗の手の中で一度跳ねた。その姿に、自然と肩の力が抜ける。

 

「……行こう」

 

 悠斗は迷いなくクラックジャッキを開き、チョコドンゴチゾウをヴァレンバスターへセットした。

 

 カチッ。

 

『チョコ!』

『Set チョコ』『Set チョコ』

 

 銃身から機械音声が鳴り響く。悠斗は一切構わずレバーを閉じた。

 

「ミョワアアア!」

 ~♪ 

『Wow! WowWow!』『Wow! WowWow!』

 

 洞窟に反響するようにチョコドンゴチゾウの雄叫びと待機音楽が鳴り響く。

 

「……何、あれ」

 

 陽奈が思わず呟く。

 

 探索者の使う魔術スキルでも、魔導具の起動音でもない。探索者の使う装備では決して鳴らない、特徴的で耳に残る音声と戦場とは思えないほど明るい旋律が流れる。

 

「……音楽?」

 

 奏が目を見開く。軽快な待機音楽が洞窟中へ響き渡る。戦場とは思えないほど明るい旋律。それなのに、誰も目を離せなかった。

 

 奏は大盾を構えたまま、その青年を見つめる。

 

「……あの武器、一体……」

 

 詩織もスマートコンタクトへ視線を走らせる。

 

《探索者ID照合中……》

《該当データなし》

 

 表示は変わらない。青年も、その武器も、協会の管理するデータには存在していなかった。

 

 上空では魔導ドローンが自動的に青年へカメラを向け、映像を配信し続けている。

 

 コメント欄が勢いよく流れた。

 

『何の音!?』

『BGM流れ始めた!?』

『待って待って待って』

『銃から音楽鳴ってるんだけど!?』

『こんな魔導具ある!?』

『協会製じゃないよな?』

『見たことない』

『海外製でも知らないぞ』

『今の小さい生き物なんだ!?』

『鳴いた!?』

『かわいい』

『いや可愛いとか言ってる場合じゃない!』

『アーマーベア止まってる』

『熊まで様子見してるぞ』

『警戒してる……?』

『何が起きるんだ』

『初めて見る』

『頼む、救援部隊今のうちに間に合ってくれ!』

『誰か知らないけど奏さん達を助けて!』

『いけぇぇぇ!!』

 

 待機音楽だけが変わらず洞窟へ響き続ける。誰も知らない武器。誰も見たことのない起動音。アーマーベアでさえ飛び掛かることを躊躇い、その場で低く唸りながら青年の一挙手一投足を見据えていた。

 

 悠斗は大きく振りかぶり銃口を地面に向けてトリガーを押して、叫んだ。

 

「変身!!」

 

 ズキュゥゥゥゥン! 

 

「ワワニョォォ」

 

 ゴチゾウの鳴き声と銃声が洞窟へ響く。次の瞬間、銃口から溢れ出したのは光弾ではなかった。

 

 どろり、と粘り気のある濃厚なチョコレート。

 

「……え?」

 

 陽奈が目を丸くする。チョコレートは地面へ落ちると勢いよく広がり、悠斗の足元一帯を瞬く間に飲み込んでいく。まるで黒褐色の湖が生まれたかのようだった。

 

「チョコ……?」

 

 奏も思わず呟く。

 

 甘い香りが洞窟中へ広がる。戦場とは思えないほど濃厚なカカオの香り。コメント欄も騒然となる。

 

『チョコ!?』

『何これ!?』

『地面がチョコ塗れになった!?』

『魔法じゃないのこれ?』

『こんな魔法あるかよ!』

『甘い匂いしそう』

『いや何が始まるんだ』

『熊も止まってるぞ』

『こんなの初めて見た』

 

 アーマーベアも一歩踏み出しかけ、その足を止める。

 

「グルル……」

 

 本能が理解を拒んでいた。目の前で起きている現象が、自らの知る魔法とも魔導具とも一致しない。

 

 その一瞬の躊躇。

 

 チョコレートの沼が波打つ。

 

 ザバァッ──!! 

 

 悠斗の足元から意思を持つ生き物のように全身へ絡み付いていく。

 

 脚を包み、

 腰を覆い、

 胴を駆け上がり、

 両腕を飲み込み、

 頭の先まで褐色のチョコレートが覆い尽くしていく。

 

「うそ……」

 

 詩織が目を見開く。

 

 誰一人として声を上げられない。

 

 悠斗が完全にチョコレートの中へ沈んだ、その時だった。

 

 ズズッ──。

 

 チョコレートの沼から二枚の巨大な板チョコがせり上がる。市販のものより遥かに巨大な分厚い板チョコ。空中へ浮かび上がった直後。包装紙が剥がされたかと思うと──。

 

 パキィィン!! 

 

 軽快な音と共に美しく割れた。割れた無数の銀紙に包まれた板チョコが宙を舞い、それぞれが悠斗の身体へ吸い寄せられていく。欠片一枚一枚が重なり合い、分厚い追加装甲となって固定されていく。

 

 悠斗はゆっくりと左手を持ち上げると、指先で身体のチョコ装甲を覆う銀紙を摘まむ。

 

 ビリッ──。

 

 勢いよく剥がされた銀紙は光の粒となって舞い散り、その下から純白とチョコレートブラウンの装甲が姿を現す。白とチョコレート色を基調としたツートンカラーのボディ。

 

 胸部とマスクにはミルクチョコレートとホワイトチョコレートを模したブロック状の装甲が交互に並び、一目で分かる大きな「V」の字を描いている。腹部にも板チョコを思わせる整然と区切られた意匠が刻まれ、全身から甘いチョコレートの香りがほのかに漂う。額や両肩には板チョコレートの包装紙を思わせる鮮やかな赤い装飾が施され、その上には金色の文字で「Chocolate」と刻まれている。額の赤い包装意匠にも同じく金色の「Chocolate」の文字が輝き、まるで高級チョコレートのパッケージをそのまま装甲へ落とし込んだかのような遊び心を感じさせる。

 

 ホワイトチョコレートを思わせる純白の複眼と額中央の緑色のOシグナルが静かに輝き、暗い洞窟の中でも強い存在感を解き放っていた。

 

 右手にはヴァレンバスターを持ち、純白とチョコレートブラウンの戦士は静かに一歩踏み出した。その姿を目にした奏たちは思わず息を呑む。

 

「……綺麗」

 

 陽奈が思わず漏らした一言に、誰も否定できなかった。無骨な鎧でも、禍々しい装備でもない。甘い菓子を思わせる意匠を全身へ散りばめながら、それでいて戦士としての力強さを失わない、不思議な存在感を放っている。

 

 魔導ドローンもその姿を大きく映し出し、配信画面のコメント欄は一気に流れ始めた。

 

『めちゃくちゃチョコレートだ!』

『眼までホワイトチョコじゃん!』

『板チョコが鎧になってるうううううう』

『肩見ろwwwChocolateって書いてあるw』

『額にも書いてあるじゃねーか!』

『デザイン凝りすぎだろ!』

『意味わからんwww』

『いやカッコいいな……』

『広告背負って戦う男』

『企業案件かな?』

『協会「知らない子ですね」』

『データベース君仕事して』

『未登録でこれは反則だろ』

『魔導具じゃねぇのかこれ』

『このデザイン好きだわ』

『熊もガン見で草』

『熊「情報が多い」』

『処理落ちしてるw』

『頼むから勝ってくれ!!』

『アルカディア助けてくれ!!』

『いけぇぇぇぇぇ!!』

 

 洞窟に漂う甘い香り。

 

『チョコドン! パキパキ!』

 

 純白とチョコレートブラウンの戦士──仮面ライダーヴァレンはヴァレンバスターを静かに構え、眼前のアーマーベアを真っ直ぐ見据えた。

 




なんで初変身ヴァレンなんだよってのはね、ヴァレンが好きだからです
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