夢想は苦くも甘き鎧 ~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~ 作:妄想めっちゃ代理人
一瞬の静寂。甘い香りだけが洞窟を満たしていた。
「グルルル……」
アーマーベアは目の前に立つミルク色とチョコレートブラウンの戦士を睨み付ける。先ほどまで感じていた得体の知れない気配。その正体は分からない。だが、一つだけ本能が理解した。
──敵だ。
「グルォォォォォッ!!」
咆哮が洞窟を揺らす。同時に巨体が爆発的な勢いで踏み込んだ。
ズドォン!!
踏み締めた岩盤が砕け、瓦礫が跳ね上がる。
「あっ!」
陽奈が思わず声を上げる。
「速い!」
奏も盾を構え守りに入ろうとするが、間に合わない。あの速度では援護も届かない。
コメント欄が一斉に流れ始める。
『来たぁぁ!!』
『突進!!』
『右!!』
『避けろチョコマン!!』
『真正面から来る!!』
『速ぇぇぇえ』
『熊バチギレで草ぁ!!』
『初手でこれかよ!!』
『ヤバいヤバいヤバい!!』
『受けるな!!』
『避けろォ!!』
三メートルを超える巨体が一直線に迫る。その左腕が大きく振り上げられた。人間など容易く押し潰し引き裂く一撃。
「グルォォッ!!」
轟音と共に振り下ろされる、その瞬間。
悠斗は半歩だけ前へ踏み出した。
「……!」
奏が目を見開く。避けない……受けるつもりなのかと驚愕する。
ドゴォォォォォン!!
鈍い衝撃音が洞窟へ響き渡る。土煙が巻き上がり、視界が白く染まる。
コメント欄も騒然となる。
『直撃!?』
『うわぁぁぁ!!』
『終わったわアイツ』
『見えねぇ!!』
『煙で何も分からん!!』
『頼む無事でいて!!』
『映せドローン!!』
魔導ドローンが自動で土煙の中へズームする。ゆっくりと晴れていく砂煙。
「グルルルゥゥ……!?」
そこにはアーマーベアの巨大な腕を、左手一本で受け止める悠斗の姿があった。白とチョコレートブラウンの装甲は微動だにしない。足元の岩盤は砕け、放射状に亀裂が走っている。
それでも。
悠斗自身は一歩たりとも退いていなかった。
「……え?」
奏の口から思わず声が漏れる。
「受け……止めた?」
詩織も信じられないものを見るように目を見開く。陽奈は呆然と大剣を握り締めたまま立ち尽くす。
コメント欄が一瞬静まり返り、そして次の瞬間。
『は??????』
『止めたぞ』
『いや止めたぞコイツ』
『嘘だろwww』
『アーマーベアの一撃だぞ!?』
『片手????』
『腕一本なんだけど』
『バグってる』
『未登録バケモンで草』
『はえーチョコって固いんすねぇ(白目)』
『熊固まってるの草』
『いや草じゃねぇ!!』
『これマジで勝てるかもしれん!!』
アーマーベアの巨腕を受け止めたまま、悠斗は微動だにしない。
「グル……?」
受け止められるはずのない一撃。獲物が潰れていないことに、アーマーベアの瞳へ僅かな動揺が走る。その隙を悠斗は見逃さなかった。
「はあっ!」
左手で巨腕を押さえ込んだまま、右手のヴァレンバスターをアーマーベアの腹部へ突き付ける。銃口が毛皮へ触れるほどの至近距離。
「食らぇっ!」
トリガーを引く。
ズキュンッ!!
銃口から放たれたチョコレート色のエネルギー弾がゼロ距離で炸裂した。
ドォンッ!!
腹部へ衝撃が突き抜ける。
「グルォォォォッ!!」
アーマーベアの巨体が大きく仰け反り、そのまま数歩よろめきながら後退した。
ズシン! ズシン!
岩盤を踏み砕きながら距離を取る。腹部には焦げ跡が刻まれ、白い体毛の一部が黒く焼け焦げていた。
「効いた……!」
陽奈が思わず声を上げる。
「あの硬い毛皮を……」
奏も目を見開く。詩織は焼け焦げた腹部を見つめ、小さく息を呑んだ。
「魔導銃じゃありません……。あの武器、実弾でも魔弾でもない」
甘い香りが漂う硝煙が、ゆっくりと洞窟へ広がる。アーマーベアは焼けた腹部を見下ろし、低く唸った。
「グルルル……」
先ほどまでの余裕は消えている。目の前の相手は、獲物ではない。自分を傷付ける存在……その認識が、魔物の闘争本能をさらに掻き立てた。
コメント欄も一気に沸き立つ。
『うおおおお!!』
『ゼロ距離射撃!!』
『腹撃ちだぁ!!』
『効いてる効いてる!!』
『熊下がった!!』
『ノックバックしたぞ!』
『毛皮焦げてる!!』
『至近距離でぶち込んだwww』
『未登録何者なんだよw』
『これいける!!』
『奏さん達も反撃だ!!』
『押し返せぇぇぇ!!』
「グルォォォッ!!」
腹部を撃ち抜かれた痛みに怒りを滲ませ、アーマーベアが再び咆哮を上げる。しかし、悠斗は後ろへ下がらなかった。
「はぁっ!」
ズキュゥン!
ヴァレンバスターの引き金を引き、チョコレート色のエネルギー弾を放つ。光弾は肩口へ命中し、光を散らす。
その勢いのまま一歩。
「はあっ!」
ズッキュン!
二発目、今度は胸部へ。爆ぜる衝撃にアーマーベアの上半身が僅かに揺らぐ。
「グルルッ!」
魔物は腕を振り上げ迎撃しようとする。だが悠斗は止まらない。
三歩。
四歩。
撃ちながら間合いを詰める。
コメント欄が一気に流れる。
『詰めるの!?』
『いや近付くな近付くな!!』
『普通離れるだろw』
『インファイトだ!!』
『撃ちながら前出んな馬鹿か??』
『圧かけてるぞ!』
『熊が押されてる!?』
「グルォォッ!!」
アーマーベアの右腕が横薙ぎに振るわれる。唸りを上げる剛腕。だが、悠斗は身体を沈めるだけでその一撃を掻い潜った。風圧が頭上を駆け抜ける。
「そこだ!」
右手に握ったヴァレンバスターを大きく振りかぶる。
ガンッ! ズキュン!
銃口がアーマーベアの顎へ叩き込まれたと同時にトリガーを引き銃弾をねじ込む。鈍い衝撃音と甲高い銃撃音が洞窟へ響く。
「グルガァッ!」
巨体の頭が大きく跳ね上がる。間髪入れず、
ガッ! ガスッ! ガンッ!
ヴァレンバスターを警棒のように振るい、肩、胸、脇腹へ連続で打ち据えると同時に拳も振り抜く。重い金属音と肉を打つ鈍い音が交互に鳴り響く。
「グルォォォォッ!!」
アーマーベアは堪らず後退。岩盤を踏み砕きながら数歩下がる。
奏は目を見開いた。
「銃を……打撃武器として……!」
陽奈も思わず息を呑む。
「押してる……!」
詩織は目の前の光景が信じられなかった。
「あの人、一切攻める手を緩めていない……」
コメント欄はさらに勢いを増す。
『銃で殴ったwww』
『ガン=カタじゃねぇか!』
『撃って殴るの強すぎる』
『距離感バグってるw』
『熊が押し返されてる!!』
『アーマーベア相手にラッシュしてるぞ!』
『未登録さんイケイケすぎるw』
『これ見てるだけで気持ちいいなコレ』
『止まるな!!』
『そのまま畳み掛けろぉぉぉ!!』
悠斗はヴァレンバスターを構え直す。一歩、また一歩と踏み込み、逃がさないと言わんばかりにアーマーベアとの距離を詰めていった。
「……っ!」
目の前で繰り広げられる光景に、奏たちは思わず息を呑んでいた。アーマーベアを真正面から押し返す、白とチョコレートブラウンの戦士。銃撃と打撃を織り交ぜ、一方的に攻勢を維持している。
「グルォォッ!」
アーマーベアが剛腕を振るう。悠斗は半歩身を引いて躱し、その隙へヴァレンバスターの銃身を叩き込む。
ガンッ!!
「グガァッ!」
「……」
陽奈は呆然とその背中を見つめていた。
「一人で……押してる……」
「陽奈!」
奏の一喝で、陽奈はハッと我に返る。
「見惚れてる場合じゃない!」
その一言で三人の表情が探索者のものへ戻る。奏は大盾を構え直しながら叫ぶ。
「詩織! 援護術式!」
「了解!」
詩織は魔導書を開き、魔法陣を展開する。
「《迅風》!」
青白い風が悠斗と陽奈の身体へ纏わりつく。
「えっ……!」
身体がふっと軽くなり、悠斗が驚いた表情を浮かべる。
「今のうち!」
陽奈が地面を蹴る。
「うおおおぉぉぉっ!!」
大剣を振りかぶり、アーマーベアの側面へ肉薄。
「はあぁっ!!」
ギィィィン!!
横薙ぎの一撃が脇腹へ叩き込まれ、巨体が大きくよろめく。その瞬間を奏は見逃さない。
「詰める!」
大盾を前面に押し出し、一気に間合いへ飛び込む。
ドォンッ!!
盾がアーマーベアの胸へ激突し、さらに体勢を崩した。
「もらった!」
奏はすぐさま左腕の大盾を引き戻すと、右手に握るメイスを大きく振りかぶる。
「はあっ!」
ゴキィッ!!
重量の乗った一撃がアーマーベアの前脚の関節へ叩き込まれた。
「グルォッ!」
硬い毛皮に守られた肉体でも、鈍器による衝撃までは殺しきれない。巨体が苦痛に顔を歪め、片膝をつく。
「効いてる!」
陽奈が声を上げる。奏は追撃の手を緩めない。
「もう一発!」
メイスを横薙ぎに振るい、今度は顎を狙う。
ガゴンッ!!
鈍い衝撃音と共にアーマーベアの頭が大きく跳ね上がる。
「今です!」
奏の声に悠斗は力強く頷いた。
「はい!」
互いの名も知らない初めて共闘する相手、それでも四人の動きは不思議なほど噛み合っていた。
コメント欄も一気に沸き立つ。
『アルカディア復帰!!』
『よっしゃあああ!!』
『四人で囲め!!』
『奏さん前出た!!』
『メイス良いよぉ!』
『関節狙い上手い!』
『やはり鈍器は正義』
『顎入ったぁ!』
『陽奈ちゃんも合わせた!』
『詩織さん支援ナイス!』
『初見連携とは思えんw』
『あのチョコ人間もすぐ合わせてる!』
『これ倒せるぞ!!』
『畳み掛けろぉぉぉ!!』
四方向から攻め立てられたアーマーベアは苦しげな唸り声を漏らす。戦況は、完全に四人の手へ傾き始めていた。
「グルォォォォッ!!」
四方を囲まれたアーマーベアが怒りの咆哮を上げ、巨腕を振り上げた。
「来ます!」
詩織の声と同時に、巨腕が振り下ろされる。
轟ッ!!
その一撃を正面にいる悠斗は避けない。交差させた腕を前へ突き出し、真正面から受け止めた。
ガギィンッ!!
金属同士が激突したような衝撃音が洞窟へ響く。
「……っ!」
足元の岩盤は砕け散る。それでもヴァレンの装甲には傷一つ付かない。
「グルッ!?」
アーマーベアが目を見開く。その一瞬の驚きを逃さず、悠斗は両腕で巨腕を押し返した。
「今です!」
「任せて!」
陽奈が側面から飛び込む。
「はぁぁぁぁっ!!」
大剣がアーマーベアの傷だらけの肩口へ叩き込まれる。
ギィィンッ!!
「グォッ!」
巨体がぐらりと傾く。だが、そのまま陽奈へ反撃しようと腕を振り上げる。
「させません!」
奏が割って入った。大盾を前面へ構え、突進。
ドォォン!!
腕を振り上げたアーマーベアの懐に体当たりを当て、体勢をさらに崩す。
「陽奈!」
「ありがと!」
陽奈が距離を取る。その入れ替わるように奏は右手のメイスを振り上げた。
「砕けぇっ!」
ゴッ!!
重量の乗った一撃が脇腹へ炸裂する。
「ガハッ! グルァァッ!」
息を詰まらせ身体が大きく沈み込み、アーマーベアはバランスを崩した。
「詩織!」
「はい!」
魔導書のページが一気にめくられる。足元へ赤い魔法陣が展開された。
「《爆炎》!」
轟ッ!!
爆発がアーマーベアの側面を飲み込み、巨体がさらに押し流される。
「今だ!」
奏の声が響く。悠斗は大きく踏み込んだ。
「はぁっ!」
ズキュキュキュキュン!!
ヴァレンバスターを連射しながら一直線に接近。爆煙の中から飛び出す。
「おおおっ!」
ガキンッ!!
銃床がアーマーベアの顎を打ち抜く。
さらに返す刀で、
ガコンッ!
肩へ。
ガッキンッ!
脇腹へ。
連続で叩き込み、そのまま身体ごと押し込む。
「グォォォッ!」
後退したアーマーベアはなおも抵抗しようと右腕を振るう。
しかし。
「通さない!」
奏が盾を差し込み、攻撃を受け止める。
「陽奈!」
「任せて!」
陽奈が渾身の力で大剣を振り抜く。
ギィィィィン!!
一撃が脚部へ深く食い込みアーマーベアの姿勢が完全に崩れ、前のめりに倒れる巨体。
「今です!」
詩織の声が飛ぶ。四人の攻撃が噛み合ったことで、ついにアーマーベアへ決定的な隙が生まれた。
コメント欄は一瞬で埋め尽くされる。
『連携うますぎ!!』
『初共闘だよこれw』
『盾! 剣! 魔法! 銃!』
『あのチョコマン、防御担当までやってる!』
『硬すぎるだろその装甲!』
『奏さんの盾回し上手い!』
『陽奈ちゃんナイス!!』
『詩織さん合わせ完璧!』
『熊止まった!!』
『隙できた!!』
『トドメ決めろぉぉぉぉ!!』
大きく体勢を崩したアーマーベアは、それでもなお立ち上がろうともがく。
「グルォォォォッ!!」
怒りの咆哮が洞窟を震わせた。
「今です!」
奏の声が響く。
「決めてください!」
悠斗は静かに頷く。
「はい!」
ヴァレンバスターを構え、左手でクラックジャッキを開く。
ガコンッ。
銃身から軽快な駆動音が鳴り響く。
「チョコー!」
チョコドンゴチゾウが元気よく鳴き、その声に呼応するようにゴチゾウの頭上へ眩い光が集まり始める。赤色の粒子が渦を巻き、甘い香りを漂わせながら圧縮されていく。銃身から鳴り響く待機音が洞窟中へ響き渡る。
♪ ~♪
銃口の前に集まるエネルギーは次第に形を持ち始める。
丸く、艶やかに。まるで磨き上げられた巨大なチョコレートボールのような球体へと固形化していく。
「……」
悠斗は深く息を吸った。目の前ではアーマーベアが体勢を立て直そうとしている……もう迷いはない。
「これで……終わりだ!」
勢いよくクラックジャッキを閉じる。
ガシャンッ!
巨大なチョコレートボールが眩く輝く。悠斗はそのまま一気に踏み込んだ。
「はあああぁぁぁっ!!」
殴りつけるように腕を振りかぶりながらトリガーを引く。
ズドォン!!
『チョ──コ──ド──ン──!!』
勢いよく撃ち出されたチョコレートボールは砲弾のような勢いで飛び出し、真っ直ぐな軌道でアーマーベアへ激突した。
ドパァァァンッ!!
「グルォッ!?」
衝撃と同時にチョコレートボールは砕け散る。飛び散った大量のチョコレートが爆発的な勢いでアーマーベアの全身へ絡み付き、黒い体毛も巨腕も脚も、瞬く間に濃厚なチョコレートで覆い尽くしていく。
「グ、グル……ッ!?」
暴れようとしても剥がれない。全身が甘いチョコレートに包まれ、巨体はその場へ縫い止められたように動きを失う。
コメント欄が一斉に流れる。
『チョコまみれwww』
『熊フォンデュ状態で草』
『固められた!?』
『もう逃げられないねぇ』
『やったか!?』
『これで決まって!』
次の瞬間。
チョコレートが黄金色の光を放つ。
「グルォォォォォォッ!!」
断末魔と、轟音。
ドォォォォォォンッ!!
洞窟を揺るがす大爆発が巻き起こった。爆風が四人の髪と装備を激しく揺らし、白い煙が視界を覆う。やがて煙が晴れると、そこにはなお立ち尽くすアーマーベアの姿があった。
「……倒した?」
陽奈が息を呑む。
直後。
パキッ。
小さな音が洞窟に響く。アーマーベアの鼻先が、まるで石膏で塗り固められたかのように白く染まっていた。
「……白化現象」
詩織が安堵するように静かに呟く。白はゆっくりと全身へ広がっていく。
顔、首、肩、胴、四肢
黒々とした体毛も、鋭い鉤爪も、そのすべてが生命を失った石像のように純白へ染まり、わずかな動きさえ止まっていく。
「グ……ル……」
最後の唸り声と共に、アーマーベアは完全な白い石像となった。
次の瞬間。
ビシッ。
肩へ一本の亀裂が走る。それを合図にしたかのように全身へ無数のひび割れが広がった。
パキッ、バキバキッガラガラッ──。
白い外殻は砕けながら崩れ落ち、その破片は地面へ触れる前に淡い光の粒子へと変わって宙へ溶けていく。巨大だったアーマーベアは、光の粒となって静かに消滅した。そして、粒子が消え去った地面には二つだけが残される。
拳ほどの大きさを持つ、深い琥珀色の魔石。アーマーベアに内包された魔力が凝縮された証だった。
その傍らには、もう一つ。人の胴体ほどの太さもある、巨大な熊の右前脚。鋭い鉤爪を備えたまま、白化することなく静かに横たわっている。アーマーベアという魔物の力を最も象徴する部位。討伐の証であり、装備や素材へ加工される希少なドロップアイテムだった。
洞窟は静寂に包まれる。甘いチョコレートの香りだけが、戦いの終わりを静かに告げていた。