夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~   作:妄想めっちゃ代理人

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ストリーミングデビュー・ヴァレン in ダンジョンワールド

 洞窟を満たしていた轟音が消える。アーマーベアが白化現象を起こし、石像のように全身を白く染め上げる。やがて全身へ亀裂が走り、砕け散った破片は光の粒となって宙へ溶けていった。残されたのは、拳ほどもある琥珀色の魔石と、巨大な右前脚だけ。

 

 静寂が訪れる。

 

「……終わった」

 

 陽奈がその場へ座り込み、大きく息を吐いた。

 

「はぁ……生きてる……」

 

 奏も大盾を地面へ立て掛け、その場へ膝をつく。張り詰めていた緊張が一気に抜けていく。詩織は魔導書を閉じながら、安堵したように微笑んだ。

 

「本当に……助かりました」

 

 悠斗もヴァレンバスターをゆっくり下ろし、アーマーベアが消えた場所を見つめる。

 

(……勝った)

 

 初めての戦い。

 初めての変身。

 初めて魔物を倒した。

 

 まだ現実感はなかった。

 

「……」

 

 奏は立ち上がると、悠斗へ歩み寄る。大盾を背中へ戻し、メイスを腰へ掛け直す。

 

「助けていただき、本当にありがとうございました」

 

 深々と頭を下げる。

 

「あなたが来てくれなければ、私たちは全滅していました」

 

 陽奈も慌てて立ち上がる。

 

「ありがとう! 本当にありがとう! あのままだったら絶対やられてた!」

 

 詩織も一礼する。

 

「命の恩人です」

 

 突然三人から頭を下げられ、悠斗は慌てて両手を振った。

 

「い、いや、そんな……困ってる人がいたから……その」

 

 照れ臭そうに頭を掻く。

 

「俺一人じゃ勝てませんでしたし皆さんがいてくれたから倒せたんです」

 

 その言葉に奏は少し目を丸くした。あれほどの力を持ちながら、自分だけの手柄にしない。自然と仲間として数えてくれている、そんな印象を受けた。

 

「……ありがとうございます」

 

 奏は改めて微笑み、頷くと悠斗へ向き直った。

 

「申し遅れました。私は【アルカディア】のリーダー、神崎奏です」

 

「私は前衛の朝霧陽奈!」よろしく!」

 

「後衛担当の白峰詩織です」

 

 三人が順番に名乗る。悠斗も軽く会釈を返した。

 

「相沢悠斗です」

 

 名乗った直後、張り詰めていた緊張が少し緩む。だが、周囲を見回すほどに胸の中の疑問は大きくなる一方だった。見覚えのない洞窟、見たこともない化け物。目の前の三人が使っていた不思議な魔法やフィクションの中でしか見ないような装備の数々。

 

 そして、自分自身の変身。

 

「あっと、ええと……」

 

 言葉を探しながら口を開く。

 

「ここは一体……」

 

 少し迷った末に、一番気になっていたことを尋ねた。

 

「日本……なんですか?」

 

「……え?」

 

 三人が揃って目を瞬かせる。その反応に悠斗自身も「あれ、変なことを聞いただろうか」と戸惑う。

 

 その時だった。

 

「……あ」

 

 ふと視線の先に、小さな球状の機械が浮かんでいることに気付く。ゆっくりと自分の周囲を旋回し、一定の距離を保ちながらこちらを向いている。レンズのようなものがこちらをじっと捉えていた。

 

「えっ……」

 

 悠斗は思わず一歩後ずさる。

 

「な、何ですか、あれ……?」

 

 陽奈が「あっ」と声を上げる。

 

「あー、そうだ! ずっと配信したままだった!」

 

「えっ? は、配信?」

 

 悠斗は思わず聞き返す。奏は苦笑しながら頭を下げた。

 

「申し訳ありません。あれは探索配信用の魔導ドローンです。私たちのダンジョン探索をリアルタイムで配信していて……さっきの戦闘も、全部映っています」

 

「…………え」

 

 悠斗の思考が一瞬止まる。

 

「ぜ、全部……ですか?」

 

「はい……」

 

 奏は少し申し訳なさそうに頷いた。悠斗はゆっくりと魔導ドローンへ顔を向ける。レンズは相変わらず、じっと自分を映し続けていた。

 

 真球に近い白銀の機体。プロペラらしきものは一切見当たらないにもかかわらず、音もなく空中へ静止している。

 

「…………」

 

(浮いてる……?)

 

 思わず目を凝らす。だが、どこにも推進装置らしきものはない。モーター音も、風を切る音も聞こえない。まるで重力そのものを無視しているかのように、悠然と宙へ浮かんでいた。

 

(いや、こんなドローン見たことないぞ……)

 

 テレビで見た最新技術とも違う。SF映画に出てくるような未来の機械。それが当たり前のように目の前を飛んでいる。

 

「えっ……」

 

 混乱している悠斗へ追い打ちをかけるように、ドローンの側面から淡い青白い光が広がり空中へ一枚の半透明な画面が投影される。

 

「……ホログラム?」

 

 映画やアニメの中でしか見たことがない光景だった。画面には文字が高速で流れている。

 

『チョコの人困惑してて草』

『反応が完全に一般人www』

『全部配信されてます』

『今さら気付くなw』

『かわいい』

『おーい聞こえてるぞー』

『無茶苦茶助かった! ありがとう!』

『アルカディア救ってくれてありがとう』

『命の恩人です』

『チョコの人って呼ばれてるぞwww』

『チョコの人wwwww』

『チョコの人みってる~?』

『コメント見てる!? やっほー!』

 

「…………」

 

 悠斗は画面とドローンを交互に見比べる。そして奏たちを見る。さらにもう一度ドローンを見る。

 

「え……えぇ?」

 

 思考が追い付かない。

 

「プロペラもないのに飛んでるし……ホログラム出てるし……リアルタイム配信……?」

 

 一つ理解しかけるたびに、新しい未知が増えていく。

 

(何なんだ、この世界……)

 

 ダンジョン

 魔物

 魔法

 そして、プロペラもなく飛行する球状の機械と、空中へ投影されるホログラム。

 

 悠斗が知る日本の科学技術とは、比較にもならない。

 

「……」

 

 額に手を当てる。

 

「情報量が、多すぎる……」

 

 陽奈は苦笑しながら奏へ小声で囁いた。

 

「なんか、本当に何も知らない人っぽいね」

 

「そうだね……」

 

 奏も小さく頷く。

 

「演技には……見えません」

 

 詩織も悠斗とホログラムを見比べ、静かに呟く。

 

「少なくとも、魔導ドローンやスマートコンタクトをご存じないのは本当のようですね」

 

 その間にもホログラムのコメントは勢いを増して流れ続ける。

 

『なんか世界観違いすぎてフリーズしてるw』

『俺でも初見ならそうなるかも』

『まずチョコの人って何者なんだよ』

『協会早く保護しろ』

『事情聴取不可避』

『でもその前に休ませてやれw』

『チョコの人、今日はゆっくり寝てくれ』

 

 悠斗は流れ続けるコメントを見つめながら、乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

「……俺、家に帰れるのかな……?」

 

 乾いた笑みを浮かべた、その時だった。

 

 ガチャッガチャガチャッ。

 

 洞窟の奥から金属同士が擦れ合う音が響く。

 

「こちら救援班!」

 

「アルカディアの皆さん! 応答してください!」

 

 魔導灯の白い光が暗い洞窟を照らし、重装備の探索者たちが駆け込んでくる。全員が探索者協会の紋章を刻んだ装備を身に着け、周囲を素早く警戒しながら状況を確認する。

 

「奏さん! ご無事ですか!」

 

 先頭の男性が駆け寄った。

 

「はい。私たちは全員無事です」

 

「よかった……!」

 

 安堵したように息を吐きながら周囲を見回す。そして、地面へ残された巨大な熊の前脚と魔石を見た瞬間、表情が固まった。

 

「……アーマーベア?」

 

 思わず漏れた声に、後続の隊員たちも足を止める。

 

「討伐したのか……?」

 

「第三層で……?」

 

「いや、それより……」

 

 隊員の一人が悠斗へ視線を向けた。

 

 白とチョコレートブラウンの装甲。手には見たこともない銃。各部位には板チョコを思わせる意匠。

 

 その姿を見て、隊員たちは一斉に顔を見合わせた。

 

「あの装備……」

 

「協会製じゃないな」

 

「データベースにも登録がないぞ」

 

 一人が慌ててスマートコンタクトを操作する。視界へ小さなウィンドウが表示される。

 

 検索。

 照合。

 探索者登録。

 装備データ。

 ユニークスキル。

 

 結果。

 

《該当データなし》

 

「……該当なし?」

 

 隊員は思わず声を漏らした。奏が一歩前へ出る。

 

「この方が私たちを助けてくださいました。アーマーベア討伐の立役者です」

 

「そうか……」

 

 隊長らしき男性は悠斗へ向き直る。その目には警戒と感謝が入り混じっていた。

 

「まずは礼を言わせてください」我々が到着するまで持ちこたえていただき、ありがとうございました」

 

 悠斗は慌てて首を振る。

 

「い、いえ! そんな! 皆さんがいたから勝てたので……」

 

 その謙虚な返答に、隊員たちは一瞬だけ意外そうな表情を浮かべる。勇気と優しさのある人物だ。命懸けで見知らぬ探索者を救い、それでいて自分の功績を誇ろうとしない。

 

 隊長は静かに頷いた。

 

「話は協会で詳しく伺います。もちろん、事情聴取という意味だけではありません。あなたには確認したいことが山ほどあります」

 

 そこで隊長は苦笑を浮かべる。

 

「……それと、全国で今、一番話題の人物になってしまったこともお伝えしておいた方がいいでしょう」

 

「……え?」

 

 悠斗は間の抜けた声を漏らす。隊長は悠斗の頭上で静かに待機する魔導ドローンを指差した。

 

「あの配信は、私がさっき確認しただけでも同時接続十万人を超えていました。そして今も、あなたの映像は全国へ配信されています」

 

「…………」

 

 悠斗はゆっくりとドローンを見上げる。

 

 ホログラムには、なおもコメントが滝のように流れ続けていた。

 

『チョコの人フリーズwww』

『現実を受け止めきれてないw』

『今さら十万人って聞かされるの酷すぎる』

『頑張れチョコの人w』

『逃げてももう遅いぞw』

『全国デビューおめでとう!』

『トレンド一位もおめでとう!』

 

 悠斗の顔から、さっと血の気が引いていく。

 

「…………十万人」

 

 数秒の沈黙。

 

 そして。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 洞窟中へ悠斗の悲鳴が響き渡る。そのあまりにも素直な反応に、張り詰めていた空気が一瞬だけ緩んだ。

 

「ぷっ……」

 

 陽奈が思わず吹き出す。

 

「十万人に見られてるっていきなり言われたらそうなるよね!」

 

「笑っちゃダメですよ」

 

 そう言いながらも詩織の口元もわずかに緩んでいた。

 

 奏は苦笑しつつ悠斗へ声を掛ける。

 

「その……配信文化をご存じないんですか?」

 

「知らないっていうか……」

 

 悠斗は頭を抱えたまま答える。

 

「動画配信くらいなら……聞いたことだけは……いやでも十万人って、芸能人とか有名人の話じゃないですか? な、なんで俺が……」「ワニャ?」

 

『一般人の反応で草』

『親近感しかない』

『チョコの人かわいい、食べちゃいたい』

『俺でもそうなる』

『安心しろ、もう遅い』

『全国デビュー済みです』

『切り抜きも量産されてるぞ』

 

「切り抜き……? 何ですか、それぇ……」

 

「……説明は後ほどにしましょう」

 

 隊長が苦笑しながら話を戻す。

 

「まずは地上へ向かいます。いつまた魔物が寄ってくるか分かりません。それと、討伐証拠品は我々で回収します」

 

 隊員たちは慣れた手つきで巨大な熊の前脚と魔石を専用ケースへ収容していく。一人の隊員がスマートコンタクトを操作すると、ホログラムへ記録が表示された。

 

 《討伐対象:アーマーベア》

 《討伐証拠品回収完了》

 《現場保存処理開始》

 

 隊員たちはアーマーベアが残した魔石と巨大な右前脚を確認すると、一人が奏へ向き直った。

 

「神崎さん、今回のドロップ品ですが異常発生個体のため協会で一時預かりさせていただきます」

 

 奏はすぐに頷く。

 

「はい、原因調査ですね」

 

「ご理解いただきありがとうございます」

 

 隊員は端末へ記録を入力しながら説明を続ける。

 

「通常であれば、魔石やドロップ素材は討伐者の所有物です。皆さんに持ち帰っていただき、売却や加工など自由に扱っていただけます」

 

 悠斗は思わず声を漏らした。

 

「そう、なんですか?」

 

「はい」

 

 隊長が悠斗へ向き直る。

 

「探索者の主な収入源の一つですから。ですが今回は、本来第三層には出現しないアーマーベアです。上層から移動してきた個体なのか、それとも何らかの原因で自然発生した個体なのかを調査する必要があります」

 

 隊員が魔石と熊の前脚を専用の封印ケースへ収める。ケースの蓋が閉じると、ロックのかかる機械音と共に淡い魔法陣が浮かび上がり封印が施された。

 

「調査終了後、素材は正式な査定を経て換金されます。代金は討伐実績に応じて皆さんへ分配されますので、ご安心ください」

 

「分かりました」

 

 奏が代表して返答する。陽奈は熊の前脚を少し名残惜しそうに見つめる。

 

「結構いい素材だったんだけどなぁ」

 

 詩織は苦笑した。

 

「原因調査の方が優先です。また討伐すればいいですよ」

 

「……そうだね」

 

 そのやり取りを聞いていた悠斗は、小さく頷く。

 

(つまり、この世界の人達は魔物を倒して素材を持ち帰って、それを売って生活してるんだ)

 

 隊長は周囲を一通り確認すると、小さく頷いた。

 

「安全確認完了、それでは帰還します。アルカディアの皆さんも同行してください」

 

「はい」

 

 奏が返事をすると、陽奈は大きく伸びをした。

 

「やっと帰れるぅ……今日は本当に死ぬかと思った」

 

「陽奈」

 

 奏が苦笑する。

 

「帰るまでが探索だよ」

 

「分かってるよ~」

 

 そんな二人のやり取りを見て、悠斗は少しだけ肩の力が抜けた。さっきまで命懸けの戦いをしていたとは思えないほど、自然な空気だった。

 

「相沢さん……でしたか」

 

 隊長が悠斗へ向き直る。

 

「恐らく、ご質問は山ほどあるでしょう。ですが、一つずつ順番にご説明します。まずは安心してください。探索者協会は、あなたを犯罪者として扱うつもりはありません」

 

 その言葉に、悠斗はほっと胸を撫で下ろした。

 

「……ありがとうございます」

 

「では行きましょう」

 

 先頭を歩く救援班に続き、アルカディア、そして悠斗も歩き出す。

 

 未知の世界へ迷い込んでから初めて、人の後ろ姿を追って歩く。

 

 洞窟の出口へ続く道は、先ほどまで感じていた不安よりも、ほんの少しだけ心強く思えた。

 

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