夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~ 作:妄想めっちゃ代理人
すみません……許して…許して…
「それでは帰還します」
救援隊長の号令と共に、一行は地上へ向けて歩き始めた。
先頭を救援班。その後ろをアルカディア、そして悠斗が続く。
道中、隊員たちは慣れた様子で周囲を警戒している。スマートコンタクトへ映る簡易地図を確認しながら、危険箇所を避けるように進路を選んでいく。
「よくわからないですけど、もう安全なんですか?」
悠斗が小声で尋ねる。
「絶対はありません」
奏が歩調を合わせながら答えた。
「ただ、救援班は索敵技能を持った方もいますし、何より人数が多いので襲われることは滅多にありません」
「なるほど……」
悠斗は周囲を見回した。さっきまで死闘を繰り広げていた洞窟とは思えないほど静かだった。時折、遠くから魔物の鳴き声らしきものが聞こえるだけだ。
「そういえば」
陽奈が悠斗を覗き込む。
「悠斗さんって、ダンジョン初めてなんだよね?」
「え、あ……はい」
「じゃあ第三層まで歩いて来たの!?」
「た、多分……」
「多分?」
「気付いたら洞窟にいて、出口を探して歩いてたら……皆さんが戦っていて」
「……」
陽奈は言葉を失う。
「え、それで魔物は?」
「一回遭遇しました……多分、ゴブリンなのかな……? こっちが一発撃ったらお互いビビって逃げちゃって……」
「よく生きてましたね……」
詩織が本気で感心したように呟く。
「運が良かったんだと思います」
悠斗は苦笑するしかなかった。
『チョコの人、豪運説』
『初ダンジョンで第三層は草』
『普通死ぬ』
『いや本当に生きてるの奇跡だぞ』
『結果的にアルカディアまで救ってるの意味分からん』
『運命力高すぎる』
ホログラムには相変わらずコメントが流れ続けている。
「まだ配信続いてるんですね……」
「救助完了までは基本的に続きます」
奏が説明する。
「救援活動の透明性確保も目的なので」
「そういう理由なんですね」
悠斗は感心しながら頷いた。
しばらく歩くと、洞窟の雰囲気が少しずつ変わり始める。岩肌の隙間から柔らかな光が差し込み、空気もどこか軽くなっていく。
「見えてきました」
隊長が前方を指差す。洞窟の先に、大きな光の円が見える。
出口だ。
悠斗は思わず歩みを速めた。光が近づく。眩しさに目を細めながら、一歩、また一歩と進む。
そして──。
「……」
洞窟を抜けた悠斗は、思わず足を止めた。
目の前には、巨大な広場が広がっていた。何本もの太い柱が天井を支え、その広大な空間には無数の探索者たちが行き交っている。
武器や防具を身に着けた探索者。
荷物を運ぶ職員。
魔石や素材を運搬する台車。
受付には長い列ができ、巨大な電子掲示板──いや、魔導掲示板には依頼情報や探索状況が次々と表示されていた。
天井付近では球状の魔導ドローンが何機も飛び交い、案内表示のホログラムが各所へ浮かんでいる。
「すごい……」
悠斗は言葉を失う。
一つの街……いや、一つの巨大な駅のようでもあり、空港のようでもある。それでいて目の前を歩く人々は剣や槍、大盾に杖らしきものを携え、ごく当たり前のように談笑していた。
ここが、この世界の日常。ダンジョンと共に生きる人々の拠点なのだ。
「ここが……」
悠斗は呆然と呟く。
「ダンジョンロビーです」
奏が少し誇らしげに微笑む。
「探索者たちの出発点であり、帰ってくる場所。私たちにとって、もう一つの日常です」
その瞬間だった。
「あれ……」
「おい、あの白い人じゃないか?」
「配信の!」
「チョコの人だ!」
一人が気付く。その声が周囲へ伝わる。
「本物だ!」
「さっき配信で見た!」
「あのアーマーベア倒した人!」
「未登録探索者ってマジ?」
「あの装備、近くで見るとすげぇ……」
気付けば、ロビー中の視線が悠斗へ集まり始めていた。
「…………」
悠斗は固まる。
「あ、あの……なんか、みんな見てませんか……?」
陽奈は苦笑しながら肩をすくめた。
「うん、めちゃくちゃ見られてるねー」
詩織も小さく息を吐く。
「同時接続十万人の配信で、未知の装備を纏った救援者として全国へ顔を──いえ、姿を知られましたから」
奏は申し訳なさそうに笑う。
「悠斗さん。しばらくは、注目を浴びることになると思います」
悠斗は周囲から向けられる無数の視線を受けながら、小さく呟いた。
「……本当に、とんでもない世界に来ちゃったんだな」
周囲から向けられる無数の視線。ようやく悠斗は一つ、大事なことを思い出した。
「……あっ」
ヴァレン。
まだ変身したままだ。
「す、すみません」
悠斗は慌てて右手のヴァレンバスターへ目を落とした。
(そうだ、解除しないと)
左手をクラックジャッキへ伸ばす。その瞬間、
(待って……)
動きが止まった。脳裏に浮かぶのは、元の世界で見たガヴの記憶。変身に使われたゴチゾウは、その役目を終えると消えてしまう。
「……」
悠斗は静かにヴァレンバスターを見つめた。チョコドンゴチゾウは、自分を助けてくれたし一緒に戦ってくれた。元はただのおもちゃだったはずなのに、今ではちゃんと意思があるように思える。
(もし抜いたら……消えちゃうのか)
その考えが頭をよぎると、どうしても手を動かせなかった。
「悠斗さん?」
奏が不思議そうに声を掛ける。
「解除しないんですか?」
「いや、その……」
何と説明すればいいのか分からない。言葉を探していると、
「チョコ」
小さな声が聞こえた。
ヴァレンバスターへ視線を向ける。チョコドンゴチゾウが、こちらを見上げていた。
「……」
「チョコ!」
まるで「大丈夫」と言うように元気よく鳴いた次の瞬間。
ぴょん。
チョコドンゴチゾウは自らヴァレンバスターから飛び出した。
「あっ!」
悠斗が思わず手を伸ばす。しかし、それより早く。
シュゥゥゥ……
白とチョコレートブラウンの装甲が淡い光となって身体から離れていく。
胸部。
両腕。
脚部。
全身を覆っていた装甲は粒子となって溶けるように消え、数秒後には見慣れた私服姿の悠斗がそこに立っていた。
「解除……された」
悠斗は慌てて周囲を見回す。そして、一番気になっていた存在を探した。
「チョコドン!」
「チョコ!」
元気な返事。見れば、小さなチョコドンゴチゾウは悠斗の肩へぴょんと飛び乗り、得意げに胸を張っていた。
「……え?」
悠斗は目を丸くする。消えていない? 本来なら役目を終えれば姿を消すはずなのに。
「なんで……」
チョコドンゴチゾウは「チョコ♪」と嬉しそうに鳴き、悠斗の頬へ小さく身体を擦り寄せた。その愛らしい仕草に、悠斗は思わず笑みを浮かべる。
「……よかった」
心の底から漏れた安堵の一言だった。
一方、その様子を見ていたアルカディアの三人は目を瞬かせる。
「……その子」
陽奈が興味津々に身を乗り出す。
「やっぱり生き物なんだ!」
思わず一歩近付く。
「触っても……」
「チョコ!」
チョコドンゴチゾウは悠斗の肩へぴょんと隠れ、陽奈をじっと見つめる。
「あっ、ごめんごめん」
陽奈は慌てて両手を引っ込めた。
「怖がらせちゃった?」
「いや、多分警戒してるだけだと思います」
悠斗は苦笑しながらチョコドンゴチゾウを撫でる。
「この子も、初めて会う人ばかりでしょうし」
「チョコ」
悠斗の指へ身体を擦り寄せるチョコドンゴチゾウを見て、奏も自然と表情を緩めた。
「本当に懐いてるんですね」
「はい、何でなのかは、俺にもよく分からないんですけど」
その時だった。
詩織が目を淡く光らせながら小さく眉をひそめる。
「……やっぱり」
「どうしたの?」
陽奈が尋ねる。詩織は悠斗とチョコドンゴチゾウを交互に見つめながら静かに答えた。
「魔力反応がありません」
「え?」
「相沢さんも、その子も、どちらも魔力を検知できません」
陽奈は目を丸くする。
「え、そんなことあるの?」
「ありません」
詩織は即答した。
「人間も魔物も、魔導具でさえ魔力を帯びています。魔力量に差はあっても、『存在しない』ということはありません」
少し考えるように俯きながら詩織は続ける。
「でも……相沢さんからも、その子からも、一切検知できません」
奏も思わず悠斗を見る。
「勘違いとか……ではないの?」
詩織は首を横へ振った。
「周囲の皆さんは正常に感知されています。救援班の方も、私達もちゃんと魔力を感じます。だけど……彼だけが空虚にさえ感じる」
「……」
隊長もその報告を聞き、真剣な表情になる。
「本当か」
「はい、複数回確認しました。しかし結果は変わりません」
隊長は数秒だけ考え込む。そして悠斗へ向き直った。
「相沢さん」
「はい?」
「協会でも、後日改めて詳しい検査をお願いすることになります。ご協力いただけますか?」
悠斗は事情も分からないまま頷く。
「もちろんです。俺も、何が起きてるのか知りたいので」
その返答に隊長は安堵したように息を吐いた。
「ありがとうございます。では改めて、探索者協会までご案内します」
悠斗は肩のチョコドンゴチゾウへ目を向ける。
「一緒に来るか?」
「チョコ!」
元気よく返事をすると、チョコドンゴチゾウは肩の上で嬉しそうに跳ねた。
その愛らしい姿に、陽奈は思わず口元を押さえる。
「もう……反則なくらい可愛い」