夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~   作:妄想めっちゃ代理人

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すみません、少し日常パート続くと思います。妄想を吐き出してるから自分の見たい部分が多くなってしまうので……。


生きる術、歩む道、歩いてきた道

 悠斗は俯いたまま、しばらく言葉を失っていた。

 

(なんで……)

 

 今日初めて出会った人たちだ、それなのに……自分の居場所まで用意しようとしてくれている。誰一人として厄介者扱いせず、どうすれば安心して暮らせるかを考えてくれている。

 

 胸の奥が熱くなる。気付けば視界が滲んでいた。

 

「……悠斗さん?」

 

 奏が心配そうに声を掛ける。悠斗は慌てて目元を拭い、小さく笑った。

 

「すみません……ちょっと、安心しちゃって」

 

 ゆっくりと立ち上がる。そして、アルカディアの三人と隊長たち協会職員へ深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございます、本当に……ありがとうございます。右も左も分からない俺に、ここまでしていただいて……皆さんには、ご迷惑ばかり掛けると思います」

「でも」

 

 もう一度頭を下げる。

 

「どうか、よろしくお願いします」

 

 部屋は静かだった。その礼には打算も取り繕いもない。ただ純粋な感謝だけが込められていた。

 

「……顔を上げて」

 

 奏が少し照れくさそうに笑う。

 

「あの時、悠斗さんは私たちのことを何も知らなかったですよね。知らないところに来て、不安だったのにも関わらずそれでも助けてくれました。今度は私たちの番です。だからそこまでかしこまらなくていいんです」

 

「うんうん」

 

 陽奈も笑顔で頷く。

 

「これからよろしくね、悠斗さん!」

 

 詩織も穏やかに微笑む。

 

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 隊長も満足そうに頷いた。

 

「それでは、異邦人特別保護制度の適用手続きを正式に開始します」

 

 男性職員は書類を一枚取り出す。

 

「なお、生活基盤の確保についてですが……相沢さんには、協会提携企業を中心とした職業紹介制度もご利用いただけます」

 

「仕事も……ですか?」

 

 悠斗は驚いたように顔を上げる。

 

「はい。保護制度は一時的な生活支援だけではありません。この世界で自立した生活を送っていただくことが最終的な目的です。そのため、ご希望や適性を踏まえた職業紹介も行っています。ただし」

 

 男性職員は一枚の資料を悠斗へ向ける。

 

「いくつか制限があります」

 

「制限?」

 

「まず、公務員への就職はできません。戸籍制度上の都合によるものです」

 

 悠斗は静かに頷く。

 

「それから、海外渡航を伴う職種や国家機密に関わる職種も対象外となります。国際的な身分照会が必要になるためです」

 

「なるほど……」

 

「逆に言えば、それ以外の一般企業であれば就職可能です。生活が落ち着くまでは協会側でも支援を継続しますので、ご安心ください」

 

「ありがとうございます」

 

 悠斗は再び頭を下げた。

 

 社会人として働いていた自分にとって、「仕事がある」という言葉は何よりも安心できるものだった。隊長はそんな悠斗を見て、小さく笑みを浮かべる。

 

「もっとも……その前に、相沢さんには探索者としての適性についても確認させていただく予定です。未知の能力をお持ちですからね。場合によっては、探索者として活動する道も選択肢になるでしょう」

 

 悠斗は思わず肩のチョコドンゴチゾウへ視線を向ける。

 

「チョワ」

 

 嬉しそうに鳴くその姿を見て、小さく苦笑した。

 

「……まだ、何も分からないことばかりですけど、少しずつこの世界のことを覚えていきたいと思います」

 

 その言葉に、奏は優しく微笑んだ。

 

「うん! その時は、私たちも手伝うから」

 

 和やかな空気が部屋を包む。張り詰めていた緊張は、ようやく少しだけ解けていた。

 

 隊長は時計へ視線を向ける。

 

「それでは、本日の手続きは以上となります。正式な身分証の発行には数日掛かりますが、それまではこちらの仮身分証をお持ちください」

 

 男性職員が一枚のカードを悠斗へ差し出す。白銀色のカードには探索者協会の紋章が刻まれ、中央には《異邦人特別保護対象》の文字が印字されていた。

 

「こちらを提示していただければ、協会施設や提携店舗などで身分証の提示が必要な時にご利用いただけます」

 

「ありがとうございます」

 

 悠斗は両手で受け取る。異世界へ来てから初めて、自分という存在を証明するものだった。

 

「それと」

 

 女性職員が微笑みながら言葉を続ける。

 

「お財布の中に入っていた現金ですが、この世界ではご利用いただけません」

 

「あ……」

 

 悠斗は苦笑する。

 

「やっぱりそうですよね」

 

「ですが、当面の生活費として保護支援金が支給されます。住居や食費についても保護期間中はご安心ください」

 

「何から何まで……」

 

 悠斗は恐縮しきりだった。

 

「本当にありがとうございます」

 

「いえ」

 

 男性職員は穏やかに首を横へ振る。

 

「これは制度です。ダンジョンによって困っている方を支えることも、探索者協会の役割ですから」

 

 隊長は立ち上がると、奏たちへ向き直る。

 

「神崎さん。正式な依頼書です」

 

 隊長が二本の指でジェスチャーを取ると、一枚の電子書類が奏のスマートコンタクトへ送信される。

 

 奏は内容を確認し、小さく頷いた。

 

「確認しました」

 

【保護監督任務】

 

【対象:相沢悠斗】

【期間:仮身分証発行から三か月】

【内容:生活支援、安全確認、協会への定期報告】

【報酬:家賃補助増額、管理費免除、技能認定講習費補助、その他各種支援】

 

「受諾します」

 

 奏がそう告げると、書類へ受諾の電子署名が記録された。

 

「ありがとうございます」

 

 隊長は満足そうに頷く。

 

「これで正式に任務成立です」

 

 陽奈は共有された文面を見ながら笑う。

 

「なんか本当に依頼になっちゃったね」

 

「そうだね」

 

 奏も少しだけ苦笑する。

 

「責任重大だけど」

 

 詩織は静かに資料へ目を通していた。

 

「定期報告は月一回、緊急時は随時連絡。そこまで負担は大きくなさそうです」

 

 隊長は悠斗へ視線を向ける。

 

「相沢さん。神崎さんたちも、本日探索を終えたばかりです。今日はまず、ゆっくり休んでください」

 

「はい」

 

 悠斗が返事をすると、陽奈が勢いよく立ち上がった。

 

「じゃあ帰ろ帰ろ! お腹ペコペコ!」

 

「陽奈」

 

 奏が呆れたように笑う。

 

「まずは買い物だよ。冷蔵庫、昨日でほとんど空だったでしょ」

 

「あ」

 

 陽奈の動きが止まる。

 

「そうだった……」

 

「このまま帰っても何も食べる物ないじゃん」

 

 詩織が淡々と追い打ちをかける。

 

「昨日、陽奈がお菓子を食べ尽くしたので」

 

「そ、それは関係ないじゃん!」

 

「あります」

 

「ありませーん!」

 

「あります」

 

 二人がいつものやりとりのように言い合いを始める。その様子を見ていた悠斗は、思わず吹き出した。

 

「ふふっ」

 

 三人の視線が一斉に悠斗へ向く。

 

「あっ……」

 

 悠斗は慌てて口元を押さえる。

 

「すみません、なんだか……」

 

 少し照れくさそうに笑う。

 

「皆さん、本当に仲がいいんですね」

 

 その一言に。

 

 奏は少しだけ照れたように笑い、

 

「高校の頃から、ずっと一緒だからね」

 

 と答えた。

 

 陽奈は胸を張る。

 

「アルカディア結成して一年!」

 

「腐れ縁です」

 

 詩織が静かに補足する。

 

 そのやり取りを眺めながら、悠斗は胸の奥に温かなものが灯るのを感じていた。今日まで、自分とは何の接点もなかった三人。それなのに、不思議とその輪の中にいてもいいのだと、少しだけ思えた。

 

 奏はそんな悠斗へ振り返る。

 

「悠斗さん」

 

「はい?」

 

「スーパー寄って帰るけど何か食べたい物ある?」

 

 突然の問い掛けだった。

 

 悠斗は一瞬きょとんとした後、小さく笑う。

 

「……皆さんと同じ物で」

 

 その返事に、奏も自然と笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、今日は歓迎会も兼ねて少し豪華にしようか」

 

 ────────────────────────

 

 探索者協会を後にした一行は、自動ドアを抜けて街へ出る。

 

 その瞬間。

 

「……」

 

 悠斗は思わず足を止めた。目の前に広がる光景へ、息を呑む。

 

 夕暮れに染まる街並み。

 整然と並ぶビル群。

 行き交う人々。

 

 一見すれば、日本の都市と何ら変わらない。

 

 だが。

 

「……すごい」

 

 悠斗の知る日本とは、明らかに違っていた。

 

 ブゥン──。

 

 頭上を、箱型のドローンが何機も飛び交っていく。

 

「配信ドローン……じゃない」

 

 悠斗が呟くと、奏が空を見上げる。

 

「あれは配達用の魔導ドローンだよ。通販の商品とか、飲食店の配達なんかもやってくれるの」

 

「配達まで……」

 

 思わず感心して見送る。

 

 プロペラは見当たらない。それでも何事もないように滑らかに飛行し、交差点の上空を行き交っていく。視線を移せば、高層ビルの壁面一杯へ巨大なホログラム広告が映し出されていた。

 

『新発売! Aegis社製大盾《ガルディアン・マークⅣ》! 従来比二〇%軽量化! 防御性能そのまま、長時間探索をサポート!』

 

 巨大な盾を構えた探索者が映像の中で魔物の攻撃を受け止め、笑顔で盾を掲げるCMが流れている。その横には

 

『探索者協会認定』

『技能認定取得者限定販売』

 

「防具の広告……」

 

「探索者向けは結構多いかな」

 

 奏が笑う。

 

「帰宅時間は探索者も多いから」

 

 少し歩けば、家電量販店の店頭では人だかりができていた。店員が元気よく声を張り上げている。

 

「さあご覧ください! 最新型・魔石式洗濯機! 家庭用低出力魔石一個で水の補充いらずで一週間稼働! 従来モデルより三〇%省エネです!」

 

 横では実演販売が始まっている。洗濯機の側面へ手のひらサイズの真四角な魔石らしきものを取り付けると、軽い駆動音と共に動き始めた。

 

「魔石で家電まで動くのか……」

 

 悠斗は思わず立ち止まる。その隣には

 

『生活魔法体験教室』

『初心者歓迎!』

『火起こし・浄水・乾燥魔法、一日で覚えられます!』

 

 そんな看板まで立っていた。

 

「魔法を習う教室……」

 

「生活系スキルは一般の人にも人気だからね」

 

 詩織が説明する。

 

「探索者じゃなくても取得する人は多いですよ」

 

 歩道では。

 

 カラン。

 

 誰かが飲み終えた空き缶を落としてしまう。すると近くで待機していた円筒型の機械が静かに近付いた。機械の上部へ魔法陣が淡く浮かび上がる。

 

 次の瞬間。

 

 空き缶がふわりと宙へ浮いた。まるで誰かが見えない手で持ち上げたように動き、そのまま上部の投入口へ吸い込まれていく。

 

『ご利用ありがとうございました』

 

 機械音声が優しく響く。

 

「……」

 

 悠斗は瞬きを忘れて見入っていた。

 

「ゴミ箱まで魔法使うんだ……」

 

「念動系の生活魔法を組み込んでるんだって」

 

 陽奈が何でもないことのように答える。

 

「最近増えてきたよ」

 

 少し先では制服姿の女子高生たちが笑い合っている。

 

「はい、撮るよー!」

 

 一人が指を鳴らして宙に浮いてるスマートフォンを操作する。空中へ淡い光が広がり、花びらや星を模したホログラムエフェクトが周囲へ浮かび上がる。

 

「かわいー!」

 

「盛れてる盛れてる!」

 

 パシャッ。

 

 写真が撮影されると、エフェクトは光となって消えていった。

 

「すご……」

 

 悠斗は感嘆の声しか出ない。

 

「ARじゃない……本当に空中へ映ってる」

 

 陽奈が笑う。

 

「今流行ってる撮影エフェクト! 期間限定のやつ!」

 

「期間限定なんだ……」

 

 そんなところまで、悠斗の知る日本と変わらない。

 

 街を歩く人々の服装も。

 コンビニも。

 カフェも。

 ファストフード店も。

 何もかも見覚えがある。

 

 なのに。

 

 生活のあらゆる場所へ、魔法が当たり前のように溶け込んでいる。現代文明とその延長線上で発展した魔法文明。

 

 どちらか一方ではない。二つが違和感なく融合した世界。

 

「……日本、なんだよな」

 

 悠斗は誰にともなく呟く。奏が隣で穏やかに微笑む。

 

「うん」

 

「私たちにとっては、これが当たり前の景色。でも悠斗さんには、全部新鮮なんだよね」

 

 悠斗は街を見渡したまま、小さく笑った。

 

「はい……同じ日本なのに、何もかも違う。でも」

 

 信号待ちをする人々。

 学校帰りの学生。

 買い物帰りの家族。

 笑いながら歩く恋人たち。

 

 その光景は、確かに自分の知る日本と変わらなかった。

 

「平和なんですね」

 

 その一言に、奏は静かに頷く。

 

「うん。だから大丈夫。悠斗さんも、そのうち慣れるよ」

 

 その優しい言葉に導かれるように、悠斗は再び歩き始めた。

 

 異世界の街並みを、一歩ずつ噛みしめるように見つめながら。

 

 ────────────────────────

 

 十分ほど歩いたところで、奏が足を止めた。

 

「着いたよ」

 

 見上げると、そこには大型スーパーマーケットが建っていた。

 

『Fresh Mart イーストタウン店』

 

 外観だけなら、悠斗の知るスーパーとほとんど変わらない。

 

 買い物帰りの家族連れ。

 仕事帰りの会社員。

 制服姿の高校生。

 

 夕飯時ということもあり、多くの人で賑わっていた。

 

「普通のスーパー……」

 

 悠斗は思わず安堵したように呟く。

 

「そうだよ?」

 

 陽奈が不思議そうに首を傾げる。

 

「スーパーだけど?」

 

「いや、もっとこう……魔法専門店みたいなの想像してた」

 

「ふふっ」

 

 奏が小さく笑う。

 

「そんなお店ばっかりだったら私たちも困っちゃうよ」

 

 自動ドアが開く。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 店員の挨拶と聞き慣れた店内放送。

 買い物かご。

 整然と並ぶ商品棚。

 

 どこか安心する光景だった。

 

「……あれ?」

 

 だが、一歩踏み込むと違和感が現れる。最初に目へ飛び込んできたのは精肉コーナーだった。

 

『ホーンラビット肉 特売!』

『ロックボア切り落とし』

『ワイバーン手羽先』

『コカトリスもも肉』

 

 見覚えのある牛肉や豚肉、鶏肉も並んでいる。その隣へ、ごく自然に魔物の名前が並んでいた。

 

「……ワイバーン食べるんだ」

 

 悠斗が思わず呟く。

 

「美味しいよ?」

 

 陽奈が即答する。

 

「手羽先は脂乗ってるし!」

 

「今日は予算オーバーだから買わないけど」

 

 奏が苦笑する。

 

「ちょっと高いんだ」

 

「アーマーベアなんて超高級食材ですよ」

 

 詩織が補足する。

 

「ほとんど市場へ流通しません」

 

「今日みたいな特殊な事態でもなければ、第三層で討伐できる探索者自体が少ないですから」

 

 悠斗は思わず今日の戦いを思い出す。

 

(あれ……食べられるんだ)

 

 何とも言えない気持ちになった。

 

 次は青果コーナー。

 

 キャベツ。

 レタス。

 ニンジン。

 トマトにジャガイモ。

 

 ほとんど見慣れた野菜ばかりだ。

 

「これは同じなんだ」

 

 安心しかけた、その時。

 

『マギハーブ』

『ルミナスリーフ』

『ホットオニオン』

『アイスキャベツ』

 

 見たことのない野菜や香草が当たり前のように並んでいた。

 

「アイスキャベツ?」

 

 悠斗が札を見る。

 

『加熱すると冷たくなる不思議な食感! 夏の人気商品!』

 

「……どういうこと?」

 

「名前の通りだよ」

 

 奏が笑う。

 

「火を通してもひんやりしてるの。美味しいよ」

 

「料理の概念がおかしくなりそう……」

 

 悠斗は苦笑した。

 

 生活用品売り場へ移る。そこにも違いがあった。

 

 乾電池が並ぶ棚……かと思えば。

 

『家庭用魔石セル』

 

 先ほど路上の実演販売でも見かけた加工された立方体の魔石がブリスターパックへ収められている。

 

『長寿命タイプ』

『高出力モデル』

『魔導家電対応』

 

「これ……」

 

「家庭用魔石」

 

 詩織が説明する。

 

「家電によって規格は違いますけど、一番普及しているサイズですね」

 

「電池感覚なんだ……」

 

 その隣には。

 

『ダンジョン産ミネラル配合』

『頑固な魔性カビも徹底除去!』

『魔導バスター カビジェル』

 

「魔性カビ?」

 

 悠斗が思わず読み上げる。

 

「ダンジョン由来の菌類です。普通の洗剤だと落ちないので」

 

「普通じゃないカビまであるのか……」

 

 思わず遠い目になる。

 

「あるよー」

 

 陽奈が笑う。

 

「お風呂掃除サボると生える!」

 

「ひーなー?」

 

 奏がじっと見る。

 

「この前も言ったよね? ちゃんと毎週掃除して!」

 

「……はい」

 

 しゅんと肩を落とす陽奈に、悠斗は思わず笑ってしまう。最後に立ち寄ったのは、お菓子売り場だった。

 

 色とりどりのパッケージ。

 

 グミ。

 ポテチ。

 マシュマロ。

 チョコ。

 キャンディ。

 

 馴染みのある商品も多い。

 

「これは……」

 

 悠斗は思わず足を止める。

 

「普通のお菓子だ」

 

 どこか安心する。しかし、その安心は長く続かなかった。

 

『マギハーブ配合ガム』

『集中力サポート!』

『魔力回復ゼリー』

『探索者応援チョコ』

『ダンジョン産はちみつ使用』

 

 見慣れない文字が次々と飛び込んでくる。

 

「探索者専用のお菓子まであるんですね」

 

「長時間探索用だね」

 

 奏が一箱手に取る。

 

「味も結構美味しいよ」

 

 悠斗は棚を見渡す。

 

 知っているお菓子。知らないお菓子。似ているようで違う世界。その光景に、不思議と胸が躍っていた。

 

「……なんだか」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 

「買い物って、こんなに楽しかったかな?」

 

 その一言に、奏も嬉しそうに微笑んだ。

 

「せっかくだし。今日は悠斗さんの好きなお菓子も見ていこうか」

 

 奏の言葉に、悠斗は少し照れくさそうに笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 そう返事をしながら、お菓子売り場をゆっくり見渡す。色鮮やかなパッケージが並ぶ棚。

 

 見覚えのあるチョコレート。

 クッキー。

 ビスケット。

 その間へ、ごく自然に魔力回復ゼリーや探索者向けの栄養菓子が並んでいる。

 

(……そうだ)

 

 ふと、悠斗の表情が曇る。

 

(今、俺が使えるのはヴァレンだけなんだよな……)

 

 カバンの中身を思い出す。

 

 変身ベルトガヴ。

 

 間違いなく、本物になっている。だからこそ、悠斗は一つ気になっていた。

 

(ガヴ用のゴチゾウがない)

 

 本来ならチョコドンだけではない。

 

 ポッピングミ。

 ザクザクチップス。

 フワマロ等。

 

 他にもいくつかゴチゾウを買っていたはずだ。

 

 あの日の会社帰り。家電量販店のおもちゃ売り場で、ガヴとヴァレンバスターと一緒にいくつか手に取った記憶がある。

 

(確か……ゴチゾウもいくつか買ってたよな?)

 

 遊びの幅が広がると思って、つい一緒にレジへ持って行った。そこまでは、はっきり覚えている。

 

 だが。

 

 目が覚めた時。洞窟にいた自分の傍には、チョコドンしかいなかった。

 

 事情聴取の際、財布や鞄の中身も協会職員へ確認された。

 

 書類。財布。スマートフォン。社員証。その他、細々した私物。

 

 だが。

 

 ゴチゾウセットも。

 他のパッケージも。

 

 それらしい物は、一つも見当たらなかった。

 

(どこへ行ったんだ……)

 

 偶々なのか? ガヴとヴァレンバスターだけがあり、チョコドンだけが残っている。

 

 まるで、最初からそうなるように選ばれたかのようだった。

 

「……」

 

 悠斗は無意識に肩のチョコドンゴチゾウを見る。

 

「チョコ?」

 

 不思議そうに首を傾げる小さな姿。

 

「いや」

 

 小さく笑って頭を撫でる。

 

「何でもない」

 

「チョコ♪」

 

 嬉しそうに目を細めるチョコドンゴチゾウ。

 

(この先も、使うとしたらヴァレンだけで戦うことになるのか)

 

 そこで自然とライダーの力を使って戦うことを考えている自分に気がついた。

 

(……そこも後で相談しよう。保護されている身だから勝手は許されないかも)

 

 一人で考え込んでいると、不意に奏が振り返った。

 

「悠斗さん? 何か気になるお菓子あった?」

 

「え?」

 

 悠斗は我に返る。

 

「あ、すみません。ちょっと考え事をしてました」

 

「そう?」

 

 奏は無理に聞き出そうとはせず、小さく微笑んだ。

 

「せっかくだから、遠慮しないで選んでね。今日くらいは歓迎会なんだから」

 

「……ありがとうございます」

 

 悠斗は改めて棚へ目を向ける。

 

 チョコレート。

 クッキー。

 キャンディ。

 スナック菓子。

 

 初めて見る商品も多い。

 

 だが、その中で一つだけ見覚えのあるものが目に留まった。透明な袋へ何種類もの色と形をしたグミが詰め合わされている。

 

 果物味。

 ソーダ味。

 コーラ味。

 

 いろいろな味が楽しめる、ごく普通のグミの詰め合わせだった。

 

「……」

 

 悠斗はそれを手に取る。少しだけ懐かしい気持ちになる。

 

「じゃあ、これで……」

 

 控えめにそう言って、買い物かごへそっと入れる。

 

「グミ好きなんだ?」

 

 陽奈が興味津々で覗き込む。

 

「はい」

 

 悠斗は少し照れくさそうに笑った。陽奈は嬉しそうに頷く。

 

「私も好き! グミって気付いたら一袋なくなってるよね!」

 

「陽奈は食べ過ぎです」

 

 詩織がすかさず突っ込む。

 

「この前も一日で三袋食べて、奏さんに怒られていましたよね」

 

「うっ」

 

 陽奈の肩がびくりと跳ねる。

 

「だ、だって期間限定だったし……」

 

「期間限定でも、一日三袋は駄目」

 

 奏が苦笑しながら言う。

 

「ちゃんとご飯も食べないと」

 

「はーい……」

 

 しょんぼりする陽奈を見て、悠斗は思わず笑ってしまう。

 

「あははっ」

 

 その笑い声につられるように、奏も詩織も笑みを浮かべた。

 

 悠斗はグミを一袋掴むと、それを見つめながらポツリと語る。

 

「……まぁ、好きとは言っても子どもの頃は、ほとんど食べられなかったんですけどね」

 

「え?」

 

 陽奈が首を傾げる。悠斗は苦笑しながら続ける。

 

「うち、親が結構厳しくて。お菓子は贅沢だからって、ほとんど買ってもらえなかったんですよ。誕生日とか、特別な日くらいしか食べられなくて……だからスーパーのお菓子売り場に来ても、見るだけでした」

 

 その口調はどこまでも穏やかだった。恨み言を言うでもなく、悲壮感を漂わせるでもない。ただ昔の出来事を思い出しているような声音。

 

「社会人になって、一人暮らしを始めてからですね……帰り道にコンビニへ寄って、お菓子を一つだけ買うようになったの。今日も一日頑張ったなって、自分へのご褒美みたいな感じで」

 

 悠斗はかごの中のグミへ目を向け、小さく笑う。

 

「だから今でも、お菓子売り場へ来ると少し楽しくなるんです。子どもの頃に味わえなかった分を、今になって取り戻してるみたいで」

 

「……」

 

 三人は思わず顔を見合わせた。陽奈が最初に口を開く。

 

「そ、それはぁ……」

 

 何と言えばいいのか分からない。そんな表情だった。奏は悠斗の横顔を静かに見つめる。その笑顔には無理をしている様子はない。けれど、その「当たり前」の基準が、自分たちとは少し違っていたことだけは伝わってきた。

 

「……じゃあ」

 

 奏は優しく微笑む。

 

「これからは、うちでいっぱい食べよう! 新作のお菓子が出たら、一緒に買って……私がお菓子作った時も、遠慮しないで食べて。せっかく四人になるんだから、みんなで美味しいもの食べた方が楽しいでしょ?」

 

 悠斗は目を丸くする。

 

 その言葉はあまりにも自然で、気負いがなかった。だからこそ胸に沁みた。

 

「……はい」

 

 少しだけ目尻を緩めながら頷く。

 

「ありがとうございます」

 

 肩の上ではチョコドンゴチゾウも「チョコ♪」と嬉しそうに鳴き、まるで「それがいい」と言うように小さく飛び跳ねた後、かごの中のグミをじっと見つめていた。

 

「チョコ……」

 

「ん?」

 

 悠斗が視線を向けると、チョコドンゴチゾウは興味津々といった様子で袋へ身を乗り出している。

 

「グミが気になるのか?」

 

「チョワヨ!」

 

 元気よく頷くように鳴く姿に、陽奈が思わず吹き出した。

 

「かわいい~! グミ見てる!」

 

 奏も口元へ手を添えながら微笑む。

 

「お菓子みたいな見た目だからなのかな? お菓子が気になるんだね」

 

 チョコドンゴチゾウは嬉しそうに「チョコ♪」と鳴き、悠斗の肩の上で小さく飛び跳ねた。

 

 

 

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