ケロロ軍曹 転生して早々記憶喪失!? であります! 作:リボーン2期待ってます
放課後、下校中に商店街の福引で四季はあるものを当てた。カランカランとベルが鳴る。
「大当たり〜!」
「これって…」
「遊園地の団体券?」
手渡されたチケットを両隣にいた夏美と小雪が覗き込んで来る。
スーパーで買い物して福引券を貰ったので折角だからやってみたら、二等で遊園地の団体券が当たったのだ。
(今考える事じゃないけど、東谷さんが学校戻って来てから日向と一緒にいる機会格段に増えたな……)
恐らく記憶喪失前もこんな感じだったのだろう。夏美だけでなく四季にも妙にグイグイと距離を詰めて来る小雪を介して三人で行動する事も多かったのかもしれないと四季は考えつつ、チケットの裏面を読んで詳細を確認する。
「西澤グループの経営する遊園地か。しかもプレオープン。人数は六人分」
遊園地のプレオープンならばグランドオープンされてからよりも多く遊ぶ事ができる。しかしその遊園地を経営するのが西澤グループと知って一つの可能性が四季の頭に過ぎる。
(これ、冬樹君が
本当は冬樹に当てさせるつもりで西澤桃華が仕組んだものではないかと思ったのだ。また予算無駄遣いの回りくどい作戦の一環なのに何らかの手違いで自分が当てる結果になったのではないかと。
しかしその推測は半分外れていた。物陰からケロロ軍曹、タママ二等兵、ポール森山、西澤桃華が四季達の様子を伺っていた。
「ケロロ殿、何故冬樹殿以外に当てさせるので?」
「ゲロゲロ。四季殿は自分の事以外の他人の恋愛には案外気付くんであります!桃華殿は自分で冬樹殿を誘えない。かと言って冬樹殿から自主的に桃華殿を誘うのかはギャンブルであります。それにこれまでの傾向上、あまり見込めないであります。温泉の件とか」
そう。これはケロロの発案により、冬樹ではなく四季を狙ったもの。冬樹がこちらの狙い通りの行動を取る事は少ない為、こちらの思惑を察した上で乗ってくれる人物が必要だった。それ故の団体券。
「そこで四季殿ならば西澤グループの遊園地という情報があればこれが桃華殿の作戦だと気付き、気を利かせて冬樹殿と桃華殿が一緒に遊園地に行く建前をセッティングしてくれるのであります!今一緒に夏美殿がいれば尚更色々スルーできないでありますからなぁ!」
悪どい笑みを浮かべながら四季を利用する事にした理由を述べる。
「でもそれなら家族のナッチーの方が自然な流れでやってくれるんじゃ?」
「夏美殿は意図を読み取らず、自分の友達を優先するでありましょー?それじゃー駄目なのよねー。温泉の時とか桃華殿が仕組んだのを小雪殿に枠使おうとしたし」
ケロロ軍曹は以前自分だけ温泉に連れて行って貰えなかった事を根に持っていた。
(六人の団体券ね……冬樹君とのデート狙いならカップル用チケットとかにしそうだけど……。案外関係無かったり?)
当たったチケットに纏わりつく違和感について考えていると、横から何やら物言いたげな視線を感じたのでチラリと横に視線を向けたら少し顔を赤くしている夏美が目に入る。
(……期待されてる?)
一緒に遊園地に行く。男女のデートの定番の一つだ。それ故に西澤桃華による冬樹狙いの一環として疑ったのだから。そしてそれを夏美が四季に期待しているのは明らかだった。
……事故でキスをしてしまって以来、ドキッとする事があるのは認める。しかし四季としてはやはり夏美相手にその気はない。……ないのだが、こんな状況で夏美を無視できる程、四季は人に冷たくする事はできなかった。
「……一緒に行く?勿論東谷さんも」
結局、自分から誘ってしまう。ここで夏美をスルーしてしまえば罪悪感が凄い事になるからだ。団体券である事から同じく居合わせた小雪も誘って一応の境界線とする。あくまで友達みんなで遊ぶのだと。
「っ!良いの!?行く行くっ!」
「私、遊園地初めてです!」
「メンバーは僕と日向、東谷さん。冬樹君も誘おうか。サブロー先輩もかな。後は……」
そうして四季が挙げたメンバーはケロロの予想通り。四季本人は当然としてその場に一緒にいた夏美と小雪。夏美の存在から芋蔓式に冬樹も呼ばれる。サブローが入るのも予想内。後は先程の理屈から桃華が選ばれるという寸法だ。
(これで第一段階はクリア!次は当日、冬樹殿と桃華殿が二人っきりになる状況を作って吾輩達が設置したトラップで事故キスを誘発するだけであります!!)
だが最後の一人の名前を出す前に小雪が挙手してある人物の参加を提案した。
「四季くん、ドロロも一緒に良いですか!?」
「ん。じゃドロロで決定」
「何でここでドロロォ!?」
存在を忘れていた男がここでメンバーに捩じ込まれ、桃華の枠がなくなった。当然、桃華はキレてケロロに掴み掛かり、その手でケロロを左右同時に引っ張る。
「おいこらふざけんな!!どういう事だこれは!!オレがメンバーに入ってねぇじゃねえか!!」
「ヤメテェー!!縦に引き裂かないでぇーーー!!」
ケロロとしてもこの横槍は予想外だ。小雪がここでドロロを捩じ込んでしまうとは。これでは四季がどう思っていようと、拒否できるはずがない。
(西澤桃華とは記憶失くしてからまだ会ってないし、会う事自体リスクだから避けた方が良いからね。悪いけど今回はこの六人で楽しもう)
けど記憶喪失の四季としては不用意にまだ顔を合わせていない記憶喪失前の知り合いと接触する気は無かったので、意図的に桃華を除外していた。小雪がドロロを捩じ込まなくても四季は桃華を入れはしなかったのである。
四季と夏美がそれぞれスマホでサブローと冬樹に確認を取る。
「サブロー先輩も二つ返事で参加するって」
「冬樹もOKだって」
「じゃ、今度の土曜日決定ですね!ドロロも最近アルバイトしてたっくさん頑張って働いてますから、偶には楽しく一緒に遊びたいなって思ってたんです!」
(何だよそれ!そんな理由でドロロ呼ぶくらいなら吾輩誘ってくれたって良いじゃん!……じゃなくて!桃華殿誘わなきゃ意味ないじゃん!!)
小雪がドロロを捩じ込んだ理由は分かったが、今回は小隊の基地を取り戻す為にも何としてもドロロを辞退させ、その枠に桃華を捩じ込まねばならない。
「ケロロ殿、如何するおつもりで?」
「こうなったらドロロのトラウマスイッチを押すであります!吾輩が昔借りパクしたゲームを使って!」
「うわぁ……」
****
「酷いよケロロ君……酷いよ酷いよ」
「元気出してドロロ」
「そうよ。ボケガエルの事なんて忘れて、今日はみんなでパーッと遊びましょ」
当日。四季、夏美、小雪、冬樹、サブロー、ドロロの六名は電車に乗って件の遊園地へ到着。しかしドロロは
これはもうドロロを慰める会と言っても良いくらいだ。
(結局、枠に空きが出なかったであります……)
ドロロのトラウマスイッチを押した結果、夏美にしばかれたケロロは満身創痍で物陰から遊園地への入場手続きをする彼らを監視していた。
ドロロのトラウマを呼び起こしても結局小雪が引っ張って連れて来てしまったので、急遽考えたプランBをここで挟み込む。
「色々あるね。何コレお化け屋敷カフェだってさ!昼飯ん時行ってみようよ!」
「何で合体させた。お化け見ながらお茶したくないよ」
プレオープンチケットで入場した四季達は早速遊ぼうとアトラクションをパンフレットで確認していると冬樹は前方に見覚えのある後ろ姿を発見した。
「あれ?西澤さん!どうしてここに!?」
「あら冬樹君!奇遇ですね!実はこの遊園地、西澤グループが経営するので、オープン前の視察に来たんです!」
(嘘だ!絶対冬樹君来るから無理矢理来たんだ!)
言うまでもなく西澤桃華。尤もらしい理由を付けて冬樹と行動を共にしようという魂胆である。一応傍には執事のポール森山もいる。
(こんな回りくどいやり方するくらいなら普通に告白した方が冬樹君には効果あると思うけどね……まぁ、できないか)
その点で言えば恋愛事に積極性がなさそうな夏美が四季に告白してきた事には今更ながら驚きだ。呼び出しても結局告白できませんでしたオチになりそうだが。その場合は自分は何一つ気付かなかっただろうし。
「そっか。僕達はプレオープンのチケットが当たったんだ。ねぇ、どうせなら西澤さんも一緒に遊ぼうよ!多い方がきっと楽しいよ!」
「良いんですか?」
「勿論!」
冬樹の提案はできれば四季としては遠慮願いたかった。前述したが記憶喪失前の知り合いとは接触しないならしないままの方が都合は良いからだ。とはいえ、もう桃華同行が決定したような流れだし、ここで拒否すれば桃華が傷付くのは当然の事。なのにとやかく言う事はできなかった。
(いやまぁ、結局この面子とつるんでるから今更ではあるんだけどさ)
桃華が無理矢理合流した事でケロロ達は今回の作戦の仕上げに取り掛かる事にした。後はどんな形であれ、冬樹と桃華を結果的にキスさせてしまえば良いのだ。それだけで借金全額返済という破格の報酬が得られるのだから。
「ゲーロゲロゲロ!この遊園地には冬樹殿と桃華殿の事故チューを誘発させる仕掛けをいくつも仕込んでるのであります!なんなら連続で二人をキスさせてやるであります!そしたら借金肩代わりどころか追加報酬で侵略予算もガッポガポ!夏美殿に借金返済中と思わせてる隙を突いての侵略だって夢ではないわぁーーー!!」
「もうこうなったら僕も腹を括るです!モモッチをフッキーとチューさせてあげるですぅー!」
「な、夏美……!夏美がこんなに近くにいるというのに、俺はこんな事を……!」
「さぁて、始めるぜぇ」
所でコレほとんど冬樹を売ったも同然の企みなのだが、ケロロにその自覚はあるのだろうか。ないんだろうな。
桃華を追加した七人で遊園地内の散策をして、一番近くのアトラクションに辿り着く。そこで早速桃華は勝負に出る。
「み、皆さん!まずはこちらのメリーゴーランドなんてどうでしょう!?乗っている時の写真も撮影して貰えるんです!」
「へぇ、メリーゴーランドか。定番って感じで良いね」
(このメリーゴーランドは馬車タイプがいくつも用意されてんだ!当然カップル用!キスだけじゃなくカップルとしての写真もゲットだぜ!)
まずはカップル写真を手に入れるべく桃華は一行をメリーゴーランドに誘った。キスする前の心の準備も兼ねているのかもしれない。
「……あ」
ふと冬樹が姉の方に目を向けると夏美はカップル用の馬車タイプの乗り物と四季を交互にチラ見していた。四季をあのシートに誘いたいのだろう。
(姉ちゃん、頑張って!)
「四季くん、夏美さん!乗りましょーー!!」
「へ!?」
「こ、小雪ちゃん!?」
いっそ夏美の背中を押そうかと思った冬樹の見守る視線も虚しく、小雪が四季と夏美両人の手を握り、そのまま引っ張って三人で馬車タイプに搭乗してしまった。四季と夏美に挟まれる形で両方と腕を絡ませてご満悦の表情だった。
「ありゃりゃ」
「小雪殿…ファイトでござる!」
苦笑するサブローと両方を手に入れようと目論む小雪を応援するドロロ。二人は三人の様子を見守るべくすぐ後ろの馬タイプへと跨る。
これで完全にフリーになった冬樹を狙うべく、桃華も行動に出ようとする。
「そ、その……冬樹君、良かったら二人で……」
「あ!もう動いちゃう!」
桃華のか細い声に気付かず、姉の恋路を見守る方向にシフトしていた冬樹は急いですぐ近くの馬タイプに跨った。桃華は一人ポツンと残されてメリーゴーランドは動き出してしまった。
「……」
物陰から様子を見ていたケロロ小隊も流石にこの有様には呆れるしかない。
「あ〜あ、モモッチもうちょっと声大きくしないと」
「う〜む、夏美殿と四季殿が揃っていると冬樹殿の思考はそっちにシフトしちゃうでありますか。これは誤算でありました。冬樹殿の視界に入らない程度には分断する必要があるでありますな」
「あいつら……二人揃って夏美を誑かしやがって……!!」
「おいオッサン、作戦中だぜ?アンタ良い加減にしとけよ」
「ところでクルル、このメリーゴーランドにもキスさせる為の仕掛けってあったよね?」
「あるけどよ、馬車のカップルシートに仕込んでるから今やっても東谷小雪の両頬にあの二人がキスするだけだぜ。得すんのアイツだけだ」
「な、何だとぉぉぉぉっ!?」
「ホント黙ってて貰えませんかね三等兵」
メリーゴーランドが終わって写真を受け取り、次から次へと遊園地のアトラクションを楽しんでいる様は年相応の中学生そのもの。地球防衛最終ラインとか宇宙外交官とか忍者とか電波野郎とか色々言われてはいるものの、決して地球の命運を少人数で背負えるようなヒーローではない。
純粋に楽しんでいる彼らを見て、四季はそう思った。
(そうだよな……。アニメでどうだったとか、そんなフィルター込みで見てはいたけど、前世があるってだけの僕と同じでみんな普通の中学生なんだよな……)
「見てよゲロロ艦長のコラボイベントアトラクションだって!」
「これは見事でござるな。ケロロ君達へのお土産も買えそうでござる」
「これ軍曹喜びそうだね、姉ちゃん!」
「今月そんなにお小遣い残ってないんだから、ボケガエル達にお土産なんて買えないわよ?」
記憶を失う前の自分は何処まで彼らの事をちゃんと理解していたのだろうか。彼らの目には記憶を失う前の自分や今の何も覚えていない自分はどう映っているのだろうか。
(……記憶喪失黙っておいて、こんな事考えるのも図々しいか)
楽しそうに笑っている彼らを眺めて四季は言葉にできない疎外感を感じていた。彼らの事を何も覚えていない自分が異物にしか思えなくて……
「四季くんも見ましょう!お揃いで何か買いましょー!!」
自分の手を取って引っ張ってくれる小雪をまっすぐ見る事ができなかった。
****
(遂に来たぜ!本命のお化け屋敷!!)
お次にやって来たのはお化け屋敷。この施設の前に立つ桃華は裏人格が表に出て来ており、気合いが入っている。恐らくは冬樹が最も興味を示すであろう事から、冬樹を誘き寄せてキスする為の仕掛けを念入りに仕組んであるのだろう。
「ゲロゲロリ。遂に来ましたなぁ冬樹殿!ここが今回の作戦の大本命!大人しく桃華殿に唇を捧げるであります!」
お化け屋敷内部ではモニター越しにケロロ達が冬樹達を監視していた。監視カメラでタイミングを図り、冬樹と桃華がキスをする事故を誘発させるつもりなのだ。
「お化け屋敷ですか……」
「パンフレットにあったお化け屋敷カフェも面白そうだったし、こっちも楽しそうだね!」
「私、こういうの苦手なんだけどなぁ」
ボヤく夏美だが、お化け屋敷を見上げる四季を見てハッとする。これは一つのチャンスだと。
(お化けを怖がる時に夜早くんに抱き着いたりすれば……もっと意識して貰えるかも……!)
お化けが苦手だからこそ、普段なら恥ずかしくなってヘタレてしまう所を本当に怖くて思わず…という形でできるかもしれない。
四季は何とも言えない悪寒を感じた。
「きゃああああっ!?」
お化け屋敷に入ってすぐいきなり目の前に現れたベタな幽霊風の仕掛けに涙目になって驚く夏美。ほとんど無意識に四季にしがみついてしまい、目論見は果たせていたが、自分で気付いていない。
「姉ちゃんビビり過ぎだよ……」
「まだ序盤も序盤なんだけどね」
「夏美さん、私達がついてますよ!」
「お化け屋敷……昔ケロロ君が肝試しの途中で僕一人だけ、置いてみんなで帰っちゃったんだよな……僕本当にケロロ君から友達って思われてるのかなぁ」
「こっちはまーたトラウマスイッチ入ってるし……」
(ちくしょー、あんだけビビられると冬樹君に同じ事しづれーだろうが!早く分断しやがれってんだあのロクデナシ共!!)
それからもお化け屋敷を進んで行くが、事ある毎に出て来た仕掛けに真っ先に驚いてビビるのは夏美であり、桃華は自分は冬樹と密着できないのに夏美は四季相手にそれができるという状況に苛立っていた。
だがここでケロロ達が仕組んだ罠のポイントに差し掛かる。
「今だっ!分断するであります!冬樹殿と桃華殿を二人きりに!!」
モニタールームでのケロロの合図と共にクルルが仕掛けを作動させた。四季達の足元の床が突然開き、全員が落下する。
「落とし穴!?」
「これってアトラクションなの!?」
些か乱暴とも思える仕掛けに驚く面々。それぞれが別々の落とし穴に落ちてしまい、無理矢理分断させられた。
「よぉし!!これで桃華殿は冬樹殿に抱き着き放題!それに合わせてあの仕掛けを使えば事故ってチューするのは必然!基地を取り戻せるであります!!!」
モニターで確認するとそれぞれ暗い道の中で四季と夏美、小雪とドロロ、そしてサブローと冬樹の三組に分かれていた。
「アレ!?桃華殿は!?」
「タイミング悪くフッキーとは別の落とし穴に落ちちゃったです……早いとこ見つけてフッキーと合流させないと……」
「でもサブローがいるから邪魔になっちまってるなぁ」
「な、な……夏美がアイツと二人きりだとぉぉぉぉっ!!?」
「赤ダルマさん、アンタ本当良い加減にしなさいよ。んな事言ってる場合じゃないでしょうが」
思惑から大きく外れて冬樹と桃華を分断してしまった。タママは急いで監視カメラを総動員して桃華を探すが、丁度カメラに映らない箇所にいるのか中々見つからない。
そんな中、逸れた三組は他の面子を探しながらもお化け屋敷のアトラクションの中を進んで行く。
その中の一つ、夏美と四季の進むルートで吊るされたこんにゃくが首筋に付けられるというベタな罠が二人を襲う。
「ひゃあっ!?」
「うわっ!?」
恐怖云々を抜きにしてもあまり気分の良いものではない。ハンカチで首筋に付着したこんにゃくの液体を拭き取りながら進んでいると、またもや不意打ちで蝙蝠のような仕掛けが夏美の目の前を通過した。
「きゃあああああーーっ!?」
何度目になるか分からないが、四季にしがみ付く夏美。その瞬間、何処からか伸びて来た機械の掌が二人を突き飛ばして棺桶に二人纏めて閉じ込めてしまった。
冬樹と桃華をキスさせる為の仕掛けの一つに四季と夏美がかかってしまったのだ。
「おっと、四季に抱き着いた事で罠が作動したようだな」
「何だと!?何故夏美と四季の所で罠が作動する!?」
「そりゃあ日向冬樹と西澤桃華がどの落とし穴のルートに落ちるかは読めねえからなぁ。全てのルートに仕掛けを設置しておくのは当然だぜぇ」
二人を閉じ込めた棺桶が天井に吊るされて、棺桶が一部分……頭部のみ開いて二人は背中合わせになって顔を出す。
「もう!何なのよこれ!?」
「お化け屋敷でやる事じゃなくね!?」
愚痴を溢す二人だが当然これだけでは終わらない。棺桶を吊るす鎖が徐々に揺れ始めて、その動きは大きくなっていく。そして少しずつ遠心力をつけ始め、棺桶ごと二人を振り回す大回転を始めた。
「ひゃあああああっ!?」
「うおおおおっ!?」
当然こんな意味不明のトラップの意図は見ているギロロ達にも分からない。
「おいケロロ!何だこの仕掛けは!?」
「いやその……ブンブン振り回されての恐怖から吊り橋効果を狙いまして……」
「お化け屋敷なんだからそれいらないですぅ」
暫く大回転で振り回された二人は棺桶ごと下ろされてから解放されたものの、当然目がグルグル状態の千鳥足だった。
「目が回る〜」
「何なのよこれ〜」
フラフラと覚束ない足取りで前に進もうとしても変な方向にばかり行く二人に先程二人を突き飛ばした機械の腕が再び迫る。まるで何かを待っているかのように。
そしてその瞬間は訪れた。目を回す四季と夏美が偶然にもお互いに正面を向いた瞬間、機械の腕は容赦なくそれぞれの背中を強く押し出した。
そこで漸くギロロは理解する。そして激しく後悔した。そもそもこれは冬樹と桃華を事故に見せかけてキスさせる為の仕掛け。何故そこに最初に気付かなかったのか。
この先に待つ未来は………
チュッ…と瑞々しい音を
時間が止まったかのような感覚だった。永遠に等しいような一瞬。だがその一瞬で叩き込まれた衝撃は散々に振り回された三半規管の酔いを容易く吹き飛ばした。
一匹の赤ダルマが泣き叫ぶ声は……二人には届かなかった。
(また……しちゃった……!!)
(……二回目だけど、やっぱ滅茶苦茶柔らかかった)
別室からモニター越しに一部始終を見ていたケロロは身を乗り出して文句を垂れる。
「ちょっと!?さっきから見てれば……ここで夏美殿と四季殿がまた事故でキスしたって意味ないでしょ!?冬樹殿は何してんの!!……はっ!?」
ふとケロロは背後に凄まじい怒気と殺気を感じた。恐る恐る首をゆっくり回して振り向けばそこには仁王立ちする桃華が物凄い剣幕でケロロを見下ろしていた。頭にはタライが乗っており、身体には糸こんにゃくが大量に巻き付いている。単独で放り出されて色々あった挙句、ここに辿り着いたらしい。
「おいこらボケガエル……話が全然違うじゃねえか。オレと冬樹君がキスできなきゃ何の意味もねぇだろうがぁーーーー!!」
「ゲロォーーーーーッ!?」
豹変した裏桃華の右ストレートを顔面にモロに喰らったケロロは窓からガラスを突き破り、尚もぶっ飛んで遊園地の鐘に叩き付けられた。
ゴーン、ゴーン……
「「っ!?」」
赤面して見つめ合う四季と夏美の耳に鐘の音が届く。本来ならばお化け屋敷という場所からして不吉なものに聞こえただろうが、キスした直後の鐘の音は例え音の種類が違おうとも
「「……」」
四季も夏美も暫く赤い顔を俯かせながら正座してお互いに向き合う状態から動けなかった。
「あ〜あ、ギロロ先輩、干からびちゃったです。まるでニョロロに吸われたみたいに」
「クククー♪二回目だからなぁ。しかも鐘の音からマジで結婚式までイメージできちまったんだなぁ。ま、二度ある事は三度あるって言うし、また同じ事繰り返すんじゃねぇの?」
ギロロにとって不吉な未来を暗示しつつ、クルルは監視カメラ越しに合流した一行が次のアトラクションに向かうのを確認する。
「で、どうする隊長?いっそ予備プラン全部動員すっか?」
「いや……もう良いであります。多分コレ全部四季殿と夏美殿が引っかかるパターンであります……。今日だけで何回もあの二人がキスしたらギロロホントに死んじゃうよ」
ついでに言えばその数だけ桃華に殴られる気がしてならないケロロは身を守る為今回の作戦を中断する事にした。
「そうだな。地獄を味合わせんのはこっからだもんな」
「……ねぇクルル。もしかして今回の失敗わざと?わざと四季殿と夏美殿がキスするよう仕向けた?原因のギロロにキレてたの?バイトの肉体労働そんなに辛かった?作戦中なのに騒いでたギロロにイライラしてた?」
今すぐにでもその生活から脱却できるチャンスを逃してでも報復を選んだ辺り、怨みの深さをケロロは感じていた。
尚、今回の四季と夏美の二回目のキスもクルルがバッチリ写真を撮っていたので、それを宇宙に配布してまた10億ほどの利益を出して結果的に何億か借金を削る事ができたのは余談である。
ケロロ小隊、冬樹×桃華・ラブラブチュッチュ作戦、失敗。
****
あの後、ただひたすらに気不味い中、お化け屋敷を出ると冬樹君達と合流して、どうにか気を取り直して他のアトラクションを遊んだりしたけど、日向と目が合う度に顔が滅茶苦茶熱くなった。てゆーか西澤桃華の髪に糸こんにゃく混入してたけどどういう事?
「……もう本当に、日向の顔まともに見れないよ」
解散した後も心臓が破裂するんじゃないかってくらい、バクバク鳴ってる。多分また暫くは日向と顔を合わせる度にこうなるんだろうな。
事故とはいえ、二回目だ。日向とキスするのは。ここまで来たらなんか無理矢理仕組まれているような気さえしてくる。これ日向を振ったら天罰下ったりする?
「……ん?」
今後の事を考えているとスマホの着信音が鳴る。遊園地でも鳴ってたけどみんなの前だから敢えて消音モードにしてスルーしたんだよな。記憶喪失だからこそボロを出さない為にも。
電話に出たら早速文句を言われた。
『おっそい!さっきも電話したよね!?可愛い妹からの電話なんだからすぐ出てよね!!』
「無茶言わないでよ。友達と遊んでたんだし、前にもラジオの収録中にかけてきたけど流石に出れないって」
『む〜』
電話越しでも膨れっ面になっているのが分かるのに、肝心のその顔は写真でしか知らない。
『そうだ!そろそろ一旦帰れそうだから!本当はお兄が入院した時にもすぐに帰りたかったんだけど……』
「……そっか」
事情は知っているので、入院生活の時に来れなかった事を責めるつもりはない。だからこそ、黙っているという選択肢が取れたんだから。
『あ!そうだお兄!アレ買っといてね!アレ食べないと日本に帰って来た気がしないからさ!』
「アレ?…ってどれ?」
『……お兄、
その質問に日向の時の比ではないくらいに心臓が跳ねた。でも取り繕う事だけはラジオDJでの経験が活きたのか、平静を装って茶化すように言葉を返せる。
「……指示語じゃなくてちゃんとした名称言えって事。じゃないと分かんないよ〜」
『絶対分かってんじゃん!買っといてね!絶対だよ!来週だから会えるの楽しみにしてるからね!』
飛行機の予定など諸々の詳細を説明され、帰国する妹を空港まで迎えに行く約束をした。電話を切ってから僕は落ち着いてゆっくりと息を吸って小刻みになりかけていた呼吸を整える。遂にこの時が来たんだ……。
「……アレってなんだろう。特定しないとなぁ」
現実逃避に近い発言だったが実際にはバレない為に欠かせない、やらなきゃいけない事を再定義する。そうだ。僕はあの子の知ってる“夜早四季”でなきゃいけない。
絶対に記憶喪失がバレちゃいけない。
四季と桃華がまともに話すシーンがないっていうか、多分会話してない。四季は意図的に話してないんだろうし、桃華は冬樹しか見てないから当然っちゃ当然だけども。