海女鳥島から本土へ行くためには、定期船に乗るしかない。海女鳥島には空港がなく、空路という選択肢が存在しない。海路しかなく、時間もかかるが贅沢は言えない。
ユウジは書類を手に、本土の役所に行くために港に来ていた。シイナとセツナも見送りのために来ている。
「ゆーくん明日には帰ってくる?」
「明日は難しいな。船で半日かかるから、帰ってくるのは明後日だ」
「そう、だよね」
「お土産でも買ってくる。何か欲しいものはあるか?」
「ううん。ゆーくんが早く帰ってきてくれたらいい」
「だってさ。道草食わずに帰ってきてね」
「手続きに手間取らなかったら、予定通り戻ってこられるはずだ」
セツナは甘えるようになったが、欲張りになったわけじゃない。心惹かれるものがあっても、買い求めようとはしない。買い求めるものがあるとすれば、実用性のあるものだけ。
お土産の代わりに求められたのは、早い帰宅だった。船は定期便。セツナの要望を叶えるためには、予定の船に乗り遅れないようにしないといけない。一番の難所は迷子にならないかどうか。
「もう船が出そうだな。それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいユウジ。あたしは美味しいお菓子が欲しいな」
「食いしん坊だな。時間があったら探してみる」
「よろしく!」
「もう、しーちゃん。無理に買わなくていいからね。行ってらっしゃい、ゆーくん」
2人に見送られ、定期船に乗り込む。船は汽笛を鳴らして出港。姿が小さくなるまで見送り続けてくれた2人と手を振って別れ、ユウジは船内を探索する。大きな船だが、この船の主目的はモノの輸送だ。大きくても豪華客船とはかけ離れている。
「半日か。……さすがに暇だな」
乗った船は午後便。翌日の早朝には本土に着く予定の船だ。暇な時間の大部分も、睡眠時間で消化できる。
海女鳥島で目覚めてから、長時間を1人で過ごすのは今回が初になる。新鮮さと違和感を抱きながら、ユウジは船旅を過ごした。
□
早朝ともなれば活動している人も少ない。島国である瑞穂の本土と言えど、そこは変わらない。港から町中へ行く連絡バスはあったが、町についてからが問題だ。
ユウジはわからないなりに町中を歩き、ベンチを見つけると一度そこに座った。周りを見ても誰もいない。海女鳥島とは違い、自然が少なく代わりに人工物が多い町。これが発展なのだろうが、軽い寂しさもある。
「フォルド。マッピングはできるのか?」
《やってもいいが、広範囲になると侵入の必要がある。若干のリスクはあるぜ》
「若干なんだな」
《尻尾を掴まれるような痕跡は残さねーよ。だが、リアルタイムで鉢合わせないこともない。そこは運ゲーだ》
「なるほどな。……侵入以外のやり方もあるんじゃないのか?」
《さすがに気づくか。可能だぜ》
「はあ。……道は人に聞けば何とかなるか」
バスを降りる際に、港への行き方を運転手に聞いておいた。バス乗り場の場所を教わり、時刻表を貰っている。そこはなにも心配いらない。
(たしか役所は9時からだったな)
9時まであと3時間近くある。町中を歩いて時間を潰そうにも、開いている店も全然ない。だが、3時間もこのベンチにいるつもりもない。
「ひとまず、いろいろと見ていくか」
店が開いていないとしても、時間は有限だ。今回は本土のことを下見する目的もある。どこに何があるのか。大まかなことは把握していきたい。
そんなわけで1時間以上散策していたユウジは、自販機で買った飲み物を片手に休憩していた。まばらながらも人通りが増えてきたことで、フォルドは沈黙するようになっている。話し相手もいなくなり、端的に言うと暇になっていた。
そろそろお腹も空いてきたが、この時間に食べられるお店がどこにあるか知らない。便利なデジタルに頼れないのなら、アナログな手法を取るしかない。道行く人に声をかけ、店の場所を教えてもらうしかない。
(誰かいるか…………いた)
辺りを見回してみると、1人だけ目が合った。気まずさもあるが、目が合ったのも何かの縁。ユウジはその人に声をかけながら近づいた。相手は少し警戒を見せているが、話は聞いてくれそうな様子。ユウジはすぐさま本題に入る。
「この時間で開いてる飲食店ってどこかある?」
「……飲食店?」
「そう。離島から船で来たんだが、時間も時間でな。初めて来たから土地勘もなくて困ってたところだ」
「そうなんだ。この時間だとたしかに少ないよね。そういうことなら案内してあげる」
「案内? そこまでしなくても、道を教えてくれたら十分だぞ?」
「初めて来たんだしょ? 途中でわからなくなると大変だから。それに、私も朝ご飯を食べようと思ってたから」
「すごい優しいんだな。ありがとう」
ストレートの黒く長い髪をしていて、大人しめの雰囲気がある少女だ。シイナと同じくらいの年だろうか。店の位置を教えるだけでなく、道案内までしてくれる。ユウジはその言葉に甘えて、案内してもらうことにした。
「こっちにはどうして?」
「役所に届け出を出すためだ。島から書類だけ送ることもできるが、せっかくだからこの機会に来てみようって思ってな」
「そうなんだ。早朝に着いたってことは、夜行便だよね?」
「夜行便、ではあるか。片道で半日かかるから、夕方着か早朝着になる」
「半日……。すごい遠いね」
「遠いし時間もかかる。早朝着だと寝てる間に着くからいいが、1人で夕方着の便だと暇を持て余す」
沈黙が続かないように、少女側が話題を振ってくれる。そこに素直に乗っかることで、ユウジも話題を広げた。質問の仕方もよく、答えやすい内容であり、プライバシーに踏み込みすぎない絶妙なライン。そこの気遣いも彼女の優しさの表れだろう。
「今向かってるお店、牛丼屋さんだけどいい?」
「好き嫌いはないから大丈夫だ。むしろ意外だな。その手のものを食べそうにない雰囲気があるのに」
「どんな雰囲気?」
「育ちのいいお嬢様」
「……そう言われるなんて思ってなかった」
「あ、気を悪くしたか?」
「え、ううん。そうじゃないよ」
神妙な面持ちで反応したため、地雷を踏んだのかとユウジは思った。しかし、どうやらそうではないらしい。初めて言われたために、反応が遅れただけのようだ。
「全然お嬢様とかじゃないよ。たくさん食べるのが好きで、大盛りを頼めるお店にもよく行ってるんだ」
「へー。牛丼屋の他だと例えば?」
「うーん。定食屋さんも行くし、ラーメンとか、バーガー屋さんでたくさん買ったりもする」
「フードファイター?」
「ふふっ。全然違うよ」
「……というか、細そうなのに大食いできるのか。どこに収まってるんだ」
「私太らないタイプみたい」
「限度があるだろ限度が」
沈黙しているが、《シイナと違って育ってないしな》とフォルドは思っていた。それを言語化しなかったのは賢明な判断である。
一方でユウジは、フォルドとは違う感想を抱いていた。はたしてシイナとこの少女、どちらのほうが多く食べられるのだろうかと。あるいは店の限界が先か。気にはなるが、店の嬉しい悲鳴は一種の迷惑行為。2人を引き合わせたとしても、大食い勝負を提案する気はない。
「見えてきた。あそこ」
前方に見える看板。そこで今日の朝食を食べることができる。2人で入店し、テーブル席に案内された。店内の客のほとんどは出勤前のサラリーマンたち。落ち着いてゆっくり食べているのは、退職して余生を過ごす老人。ユウジたちに年が近い客はいない。
「おすすめはあるか?」
「私が決めていいの?」
「……常人1人前でな」
初めて来た店だ。じっくり考えて決めるのも悪くないが、今日は平日で少女は制服姿。登校前なのだろう。あまりいたずらに時間を使わせたくない。
そう懸念しての提案だったが、現実はユウジの想定を超える。少女の注文量が多い。本人は「抑えた」と言っているが、周りの大人も一瞬固まる量を注文していた。
「このあとは役所に行くんだよね?」
「そうだが、さすがに同行まではしなくていいからな。学校あるだろ」
「……うん。じゃあメモを渡そうかな。携帯はないんだよね?」
「なくは……ない。ポンコツが一応ある」
シイナの携帯を見て、フォルドが外見を再現しただけのものだ。子供携帯のように、あるいはそれ以下の性能を装っている。できることは連絡を取り合うことだけ、ということになっていた。
「メッセージで貰ってもいいか? 今日の放課後、予定がないならお礼がしたい」
「お礼はいいよ」
「お礼はしたい」
「……頑固だったりする?」
「受けた恩は返さないといけないだろ」
「……わかった。今日は予定もないし、お礼を受け取るだけ」
「ありがとう」
放課後に連絡を取り合うため、ユウジは少女と連絡先を交換した。ユウジもユウジだが、少女も少女で登録の仕方がシンプルだ。
「よる、うみ……やうみ、やかい?」
「
「よるみか。きれいな名前だな」
「ありがとう。私も好きなんだ」
生まれ持った名前を好きだと言える。素晴らしいことだと頷いていたら、注文していた朝食が順次運ばれてくる。テーブルはすぐにトワの朝食で埋まった。
「改めて見るとすごい量だな」
「いただきます。食べたかったら摘んでもいいよ」
「自分のを食べて足りなかったら、少しだけ分けてもらうとする。いただきます」
ファストフードだろうと、一定数の客が毎日来る店だ。味も整っている。栄養も考えられて作られるセツナの料理とは味付けも違う。もちろんそちらも好きだが、ボリュームと満足感を優先したこの手の料理も良い。ユウジは次々と箸を口に運んでいく。
「っと、そうだ。名前を言ってなかった。俺はユウジ。名字はまだない。よろしくな」
「……じゃあ、ユウジって呼べばいい?」
「それ以外ないな」
「そうだね」
自己紹介も済んだところで食事を再開。大量の朝食をしっかり完食したトワは、やはりシイナを連想させた。シイナの性格を考えると、2人は仲のいい友達になれそうだ。
食べ終わるとこの店から役所への行き方。おおよその所要時間を教えてもらう。同じことをメッセージでも送ってもらい、ユウジはトワと別れる。トワは学校へ行き、ユウジは役所へと行く。放課後、つまり夕方には連絡を取り合って再合流する予定だ。
(役所への道はわかったが……、まだ時間があるな)
自身の予定を行うためには、まだ時間を消費しなければならないようだ。
役所での用事は、思いの外早く済んだ。待ち時間はそれなりにあったものの、ユウジが行う手続き自体は少なかった。あとは行政での処理が終われば、その通知が届くらしい。
予想よりも多くなった自由時間。店も開いているお昼どき。ならばすることは観光しかない。繁華街を歩き、食欲のそそられる店で食べる。土産にできそうなものを見繕っては、シイナから渡されたお小遣いと相談。
(セツナはこういうぬいぐるみも好きなのか?)
かわいらしいぬいぐるみを見つけては悩み、小声でフォルドと話し合い。
(シイナはお菓子って言ってたよな)
美味しそうなお菓子を見つけ、どの程度日持ちするのか確認。シイナの場合、質より量なのかもしれないが、ここはあえて質を選ぶ。荷物が多くなると持って帰るのが大変だ。
こんな調子で時間をかけて土産を選んでいたら、トワから連絡が入った。時間を見てみると、いつの間にか高校の下校時間になっていたようだ。ユウジは会計も済ませ、決められた集合場所に向かう。
《……相棒。悪い知らせが1つあるぜ》
向かっている途中で、フォルドがそう言った。人通りも多くなっているのに話しかけてきたということは、よっぽど大事な知らせである。ユウジは人目を気にしながら話を促す。
「内容は?」
《帰りの便が欠航だ。港で何かあったのか、船に何かあったのか。ネットサーフィンじゃ詳細までは掴めねぇな》
「……1泊するしかないか。シイナとセツナに連絡も入れておこう」
欠航が決まっているのは、今日の夕方の便だ。翌朝の便は今のところ平常運航の予定である。そこが変わらないことを願いつつ、ユウジはフォルドに2人への連絡を任せる。
「早いな夜海。待たせたよな」
「ううん。大丈夫だよユウジ。学校からそんなに離れてないから、私の方がちょっと早かっただけ」
「買い食いとか学校側にバレたら指導されないのか?」
「昔はあったみたい。今はこのご時世だし、そこまで厳しくないよ」
「喜べたことじゃないが、なら最大に利用させてもらおう」
「だね」
ユウジなりに町中を見て回ったが、現地民のほうが詳しく知っている。現役女子高生であるトワは、人気のある喫茶店やスイーツ店なども把握していた。
「買い食いしてて親に何か言われないか? 晩御飯食べられなく、はならないか」
「ふふふ。うん。私はちゃんと晩御飯も食べられるよ。それに……」
「それに?」
「ううん。なんでもない」
何かあるのは明らかだが、本人が伏せた。無理に聞き出すことじゃない。ユウジは追及せず、トワも話を流す。
「うちは、食べられなかったら叱られるな」
「あ、ご両親いるんだ。名字がどうこうって言ってたからつい」
「両親はいない。記憶がなくて、親の顔も名前も知らない」
「っ、ごめんなさい」
「気にしなくていいぞ。俺を引き取ってくれた人がいてな。一応、姉と妹にあたることになる」
「……えっと」
「気になることは聞いてくれていいぞ。2人のプライバシーは明かせないが、それ以外ならたいてい話せる」
デリケートな話だと判断し、反応にこまっていたトワに告げた。踏み込まずにいるトワの優しさ、人となり。どれだけ良い人なのか、これだけでも高く評価できる。
「ユウジはじゃあ、その2人のためにちゃんと早く帰らないとだね」
「そのつもりだったんだけどな。何かのトラブルで欠航になった」
「えっ?」
「そのせいで1泊しないといけなくなったし、晩飯もどうしたものか」
「……一応、宿とかはある。晩御飯の希望があったら、お店の紹介もできるよ」
「はは、飲食店はさすがに詳しいか」
このご時世である。観光業は廃れに廃れた。もはやその業界はないに等しい。だが、一定の需要はあるため、ホテルはちらほらと数件ある。満室になることはないため、急がなくても確保できる。
「何から何まで世話になってるな。お礼をしたいのに仕切れない」
「全然気にしないで。ユウジはいい人だし、話すの楽しいよ」
「それは光栄だ。夜海みたいな綺麗な人に言われると素直に嬉しい」
「っ、綺麗だなんて大げさな」
「正直な感想だ。少なくとも俺はそう思ってる」
「……ぁ、ありがとう」
ほんのりと頬を染め、トワは横に顔をそらした。冷ますために口に入れたスイーツも、心なしか冷たくない。
しばらくの間、どうにもぎこちなくなっていたトワだったが、店を出る頃には元の調子に戻った。お礼として付き合ってもらっていたため、支払いはユウジがする。トワも気を遣っていたからか、ユウジが覚悟していたほどの料金にはならなかった。
「俺の都合に付き合ってくれてありがとう」
「ううん。私も楽しかった。……明日の朝には帰るんだよね?」
「船が予定通り出港してくれたら。また来ることもあるだろうから、よかったらその時にまた会おう」
押し切る形でこの時間を作ってもらった。これ以上付き合わせるのも悪い。ここらで終わるべきだろうと思っていたユウジに、予想外のことをトワが言った。
「晩御飯も、一緒にどうかな」
「……俺はいいが、むしろそっちはいいのか?」
「大丈夫。もう少しだけ、どうかな」
断る理由もない。トワの方が町に詳しい。誘ってくれるなら、それに甘えておすすめの店に連れて行ってもらう。打算的な面もあるが、遊べるなら遊びたい年頃でもあった。
店はユウジの要望から決められた。トワがユウジの希望を聞き出し、ガッツリ食べたいという意見に合わせてお手頃なステーキの店へ。
その店の中で食事を堪能したあと、ユウジは少し切り込んだ。どうして夕飯まで同行してくれたのか。
「……少しフェアじゃないと思ったから」
「え。お礼の気持ちが小さくてごめん」
「ちがっ! そうじゃない! そんなわけないから」
「違うのか。よかったよかった」
もちろん冗談で言ったことだが、その可能性がゼロとは言えない。ラインすれすれというか、意地悪な冗談だったなとユウジは内心で反省した。
「家族の話。デリケートなことなのにユウジは話してて、私は話してない」
「それこそフェアとか気にしなくていいだろ。夜海の言う通りデリケートなことだ」
「私が話したい。今日会ったばかりだけど、ユウジが誠実な人なのはわかったつもり。それに応えたい」
「自分ではそう思わないんだが……。夜海が決めたことなら、聞かせてくれ」
「ありがとう。……私もね、両親はいないんだ」
そうして語られたのは、細部こそ伏せられたが夜海の家族の話。拾ってくれた2人がいたこと。その人たちが両親となり、夜海に迎え入れてくれたこと。そして、その両親が命を落としたこと。
「私は、私みたいな想いをする人が増えてほしくない。だから、余計なお世話かもしれないけど、ユウジも迎え入れてくれた家族のことを大切にしてほしい」
「夜海は本当に優しいな。余計なお世話なんかじゃない。2人のことはもちろん大切に思ってる。これまでも、これからもな」
「うん」
「もしみんなでこっちに来ることがあれば、夜海にも会ってほしいな。きっと仲のいい友達になれる」
「そうなんだ。じゃあ、楽しみにしてるね」
ふわりと微笑むトワの顔を見て、やっぱり綺麗な人だとユウジは思った。シイナやセツナとはまた違うタイプ。こういうご時世だと、美人や美女が増えるのだろうか。
どうでもいいことから思考を逸らすため、店内にあるテレビを見る。そこでは国連のことでニュースが流れていた。
「国連の災害対策本部……調査機関を設立? え、こういうのって今までなかった?」
「なかったわけじゃないと思う。あまり効果的なこともできてなかったけどね」
「辛口だな」
「物心ついた時から何も好転してないからね。たぶん、国民の誰もが思ってることだと思う」
「そういうものか。……有識者による調査機関。……八神総督……やがみ?」
「知ってる人?」
引っ掛かりを覚えるユウジに聞き、その直後に今度はトワが引っかかる。「ユウジは記憶がないのではなかったか」と。
そしてそれは正解だ。
「全然知らない」
「だよね。じゃあどうしたの?」
「やがみって名前の響きがずるい。かっこよすぎる」
「……気持ちはわからなくもない、かな」
無理に合わせている疑惑が発生する反応だ。本当だろうかとユウジが疑いの目を向けると、トワはすっと視線を反らした。
そんなことをしていたら、フォルドがわざとらしく音を立てながら震えた。トワはもちろん、ユウジも驚いたほどだ。緊急なのはすぐさま察し、携帯型になっているフォルドを手に持って画面を見る。
そこにあるのは一言のメッセージ。
送信者はセツナ。
『タスケテ』
たった4文字。
されど見逃せない4文字。
「悪い夜海。急用ができた!」
「えっ?」
「これで会計よろしく!」
「まって、財布ごと……!? って荷物は!?」
事情を説明している暇はない。いや、事情はユウジも把握していない。だが、セツナから送られてきたその言葉だけで十分だ。
金も荷物もお土産も優先することじゃない。何よりも優先すべきは、シイナとセツナの安全だ。
「ユウジ! ……ぇ、あれ?」
遅れながらも追いかけて店の外へ出るも、トワが外に出た時にはすでにユウジの姿はどこにもなかった。