海女取島への漂流者   作:粗茶Returnees

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15話 久瀬家 move

 

 国連も、それに関する組織も、一般人がそこの建物に入ることなど一切ない。本来訪れることがない場所に赴くのは、誰だって緊張するもの。セツナはシイナの手を握りながら、招かれた部屋へと入っていく。

 その部屋は、総督である八神はやてがいる部屋。中に入ると、先日対面した高町なのはと、画面越しに会ったフェイト・テスタロッサ・ハラオウン、加えて、極東支部の支局長を務めるルーク・アンダーソンもいる。

 

「ようこそ。久瀬シイナさん、久瀬セツナさん。それに……今は久瀬ゆうじさん、で合ってますね」

 

「合ってるぞ。行政の方の処理も済んでる」

 

「ご足労いただいてありがとうございます。お茶を淹れますから、おかけになってください」

 

「ありがとうございます」

 

 話の中心人物にあたるシイナが真ん中。そのシイナを挟む形で、セツナとユウジが座る。シイナの対面には総督であるはやてが、セツナの前には直接の面識があるなのはが座る。用意できたお茶をフェイトとルークが運び、配り終わるとフェイトがユウジの前に座った。ルークははやてたちの斜め後ろに控えるように立つ。

 

「ご足労いただいたのは、先日の件の続きです。書類に目を通してもらって、こちらの認識と久瀬さんたちの認識に齟齬がなければ、サインをいただきたいんです」

 

「疑問や意見があれば、遠慮なく言ってください」

 

「ユウジも見てくれる?」

 

「わかった。シイナが見たあとに目を通しておこう。セツナのほうがしっかりしてるから、セツナに見てもらうのもいいかもな」

 

「いやいや、そんなことないから。しーちゃんとゆーくんが大丈夫だと思ったら、大丈夫だと思うよ」

 

 そんなやり取りをしてからシイナは書類に目を通した。重要な箇所を中心に見ていき、読み終わった紙はユウジに渡す。ユウジは一言一句余さず読み込んだため時間がかかったが、契約内容に引っかかる部分が何もないことを把握。書類をシイナに返した。

 シイナとの契約には何もない。だが、エクシーズの仕事内容を改めて理解した。全体の脅威として、侵略種駆除を優先するのは真っ当な判断だろう。だが、見えているものを放置している面もある。

 

「魔人関連は放置か」

 

 耳の痛い話題にあえて触れた。ユウジのその反応に、はやてたちは苦笑した。記憶がなかろうと、ユウジはユウジだ。組織が見過ごさざるをえないことを、ユウジは見過ごせない。

 

「魔人関係に飛び込もうとしてる?」

 

「……フェイトだったか。よくわかったな」

 

「ゆうじはそういう人だから。やっぱり変わってないんだね」

 

「三つ子の魂なんとやらか」

 

「止めても無駄ですよね」

 

「そう言われるってことは、前例があるのか」

 

「はい」

 

 何をしたかさっぱり覚えていないが、それなりのことをやったのだろうと過去の自分のことを考える。3人の反応からして、あまり褒められたことはしてなさそうだ。

 魔人のことに首を突っ込むのは、シイナやセツナだって物申したい。横に座っているユウジへと視線を突き刺す。

 

「危ないことは極力しないでほしいんだけど。……あたしが言えた義理じゃないもんね」

 

「シイナは国連として侵略種を。俺はフリーな立場を利用して裏側を。役割分担にはなってる」

 

「ゆーくん……危ないことしちゃうんだね」

 

「そうでもないぞセツナ。俺はそんな精力的に動く気はない。目に入ったやつは処理するだけだ」

 

「本当? 犯人を調べて追いかけない?」

 

「……たぶん」

 

 その可能性は否定しきれない。ユウジが目をそらしたせいで、セツナが不満を顕にして頬を膨らませる。

 ここからは家庭内の話になるだろうと、ルークは書類を手に自席へと戻っていく。この極東は原種が多い分侵略種も多い。エクシーズの活動も最も活発。その分、やるべき事務処理が多いのだ。

 

「2人ともあとはよろしくね」

 

「はい。よろしくお願いします。久瀬さん」

 

「久瀬さんだと該当者が3人だぞ」

 

「あ、そうですね。シイナさんとセツナさん。こうお呼びしてもよろしいですか?」

 

 真面目かつ丁寧。フェイトと人の良さがこれでもかと伝わってくる。セツナに似たとこも少しあるが、2人はそれぞれタイプが違う。

 様子を見守り、親交を深めるのは良いことだと頷いていたはやては、ユウジを見て改めて思った。2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 前回は通信だったから、そのせいもあるかと思ったが、対面してみると確信に変わる。

 

「ゆうじさん。成長期は止まったんですか?」

 

「ん? どうだろうな。一般的には男子は中学生で成長期が終わるから、俺もそうなんじゃないか?」

 

「そうかもしれないですね」

 

 身長は止まって、これ以上の成長はないのかもしれない。そうだとしても、何もかもが変わらないままだ。

 フォルドはユウジを2年間仮死状態にしたと言っていた。その影響だろうか。ユウジの見た目は、2()()()()()()()()()()()

 

「仮死状態やったっていう2年間を、どうカウントしたらいいのやら。なのはちゃんはどっち派?」

 

「どっち派って、ゆうじさんが歳を重ねてるか重ねてないかってことですか?」

 

「そう。16歳か18歳か。高校入学か卒業かの大きな違い」

 

「うーん。ゆうじさん、書類上はどっちなんですか?」

 

「18歳の可能性に今気付かされたくらいだぞ。申請書類では16歳だ」

 

「じゃあ16歳ですね。個人的には18歳推しです。フェイトちゃんは?」

 

「えっ!? そんな急に言われても……」

 

 ぼーっとユウジを見てばかりいたフェイトに話を振ったら、案の定慌てた様子で目を泳がせる。そして緊急の脳内会議が開かれた。

 年の差は昔のままがいいと思う気持ちと、年齢差が縮まるのもいいと思う気持ちがせめぎ合っている。白熱する会議を行い、オーバーヒートを起こしたフェイトは、か細い声で結論を言う。

 

16歳がいい

 

「かわいい」

 

 その様子に思わずシイナは本音が漏れた。それがダメ押しになり、フェイトの顔が真っ赤に染まる。

 

「俺はどっちでもいい。好きなように捉えてくれ」

 

 ユウジにとっては大した問題じゃなかった。すでに書類上では16歳になっているのだから、生活していく中ではこの年齢だ。周りの捉え方まではいちいち反応しない。

 この流れを作ったはやてが、早々に話題を切り替えた。ユウジ相手だから雑に扱っている部分もあるが、デリカシーに欠けた話題だったと自己反省もしている。

 

「そうそう。新居の件も2人にお願いしてもらえれば、連れて行ってくれます。物件は可能な限り要望に沿った上で、ここからそう遠くないところを選んでますが、一応他の候補地もあります。気に入ったところに住んでもらって構いません」

 

「菜園も、ですか?」

 

「もちろん。島にあった庭ほどとはいきませんが、少しはできるようになってます」

 

「! ありがとうございます!」

 

「いえいえ。無理をお願いしているのはこちらですから、これくらいはしないと」

 

 はやても仕事のために席へと戻っていく。セツナは楽しみが待ちきれない様子で、そわそわしている。それならばこれ以上この場にいても仕方ないと、シイナはソファから立ち上がった。その意図がなのはたちにも伝わり、外へと案内される。

 移動は車だが、なのはたちは中学生。セツナはもちろん、シイナもユウジも運転免許がない。運転手として大人を1人捕まえ、6人でも乗れる大きめの車を出してもらった。

 

「シイナさん、再確認になるんですが、各種家電や家具のご用意はこちらでできます。ご実家から運び出したいものがあれば、遠慮なく言ってください。みんなで手伝いますから」

 

「ありがとう。ほんと助かるよ。一応、各々必要なものはケースに入れてるし、大丈夫だと思う」

 

「忘れ物があろうと、小物ぐらいなら人手もいらないな」

 

 その程度なら職員の助けもなく回収できる。自分たちでできることは、自分たちでする。他人に迷惑をかけないように生きていると、なんでも自力でやる癖もつく。その傾向を理解しているユウジが、先んじてラインを引いた。

 

「シイナさんは仕事の協力をしてもらいながら、学業はオンラインに変更。セツナさんは転校ですよね。ご用意している物件は、いずれも同一校の校区内です」

 

「ゆうじは、学校はどうするの?」

 

「通わないな。日中は侵略種の巣でも潰して稼ぐさ。エクシーズの仕事が順調に進むなら、一時的な収入にしかならないだろうな」

 

「巣ともなると、それなりにまとまった額にはなると思うけど。そもそも一般人が勝手に入っちゃうところに問題があるかな」

 

「それなら、許可証でも出してくれるとありがたい」

 

「八神総督にお願いしてみてください」

「許可証ならあるよ」

「フェイトちゃん?」

 

 なのはがユウジに手続きを踏めと言った矢先に、親友のフェイトがとんでもないことを言った。カバンから取り出されたものはたしかな許可証であり、制限区域への突入が認められるものだ。原種のいる特別区域には入れないようだが、それはシイナの仕事だとユウジも考えているため関係ない。

 

「ゆうじなら欲しがるかなって」

 

「そうかもしれない、というか実際そうだったけど……」

 

 再会できた喜びのあまり、フェイトがユウジを甘やかそうとしている。手続きを踏んではいるのだが、これはちょっとどうなのかと言いたくもなった。

 だが、本人に頼まれたらなのはも断りきれない。なんだかんだで、なし崩し的に手を貸す自信がある。自覚しているから、なのははそれ以上何も言わない。

 

「ありがとうハラオウン」

 

 お礼を言ったが、フェイトは不満そうに許可証を抱えて手放さない。頬を膨らませ、じーっとユウジを見つめている。その意図がユウジにはわからず、助けを求めようと周囲に視線を送った。だが、シイナもセツナもフェイトのことをよく知らないため、打開できるとしたらなのはのみ。

 

「……」

 

 そのなのはも、これには助け舟を出してくれないらしい。沈黙が答えだ。

 

(何かしたか? ……したからこの状況か)

 

 考えてみる。正解があるのかわからないが、最適が何かを考える。ユウジ視点では初対面だが、相手視点はそうじゃない。考えをよく理解しているのなら、相当仲もよかったのだろう。

 

「…………フェイト、って呼んでいいか?」

 

「っ!! うん!」

 

 花のような笑顔が咲いた。許可証を受け取り、ユウジは細く息を吐いた。どうやらこれでよかったらしい。フェイトからの呼ばれ方で考察したのが功を奏した。そう考えると、やはり関係は良好だったのだろう。

 

「フェイトさんとゆーくんは、どんな関係だったの?」

 

「え? 私とゆうじ?」

 

「うん。ただの知り合いじゃなさそうだから」

 

 多少気になるが、踏み込むほどではないなとユウジは思っていたが、セツナにとってはそうじゃなかった。踏み込むべきことだった。ユウジにはもちろん、姉のシイナにすら明かしていない淡くも熱い想い。それを抱えるセツナには見過ごせないことだ。

 

「えっと……どう言ったらいいんだろ」

 

「恋人?」

 

「こい!? ち、ちが……! ゆうじとはそういう関係じゃなかったよ? そういうのじゃなかったんだけど、でもただの友達でもなくて……」

 

 慌てふためいたかと思えば、ごにょごにょと言葉尻が小さくなっていく。そのまま有耶無耶に流れそうな雰囲気が生まれ、

 

「フェイトちゃんの思った通りに言えばいいんじゃないかな」

 

「なのは!?」

 

 親友のなのはによるアシスト(追撃)で引き戻される。これにはシイナも思わず「うわぁ」と声を漏らしていたが、セツナはなのはと目を合わせて小さくグーサインを送り合う。

 あの一件でユウジがいなくなったせいで、恋話じみた話をできなくなっていた。なのはだって思春期の女子中学生。こういう話には食いつきたくなる。

 

「友達じゃないけど……、でも、大切な人で……その……」

 

 逃れられないと悟ったフェイトは、消え入りそうな声で少しずつ話す。セツナは関係性を聞いているが、本音としては「ユウジのことをどう思っているのか」を聞きたい。なのはのアシストでそれに近づいたが、純粋な乙女であるフェイトでは核心をなかなか口にできない。

 

「まあ、なんだっていいだろ。また会えたんだから」

 

「ゆうじ……」

 

「それに、言い切らせてもらうが、今の俺は久瀬の人間だ。悪いが、家族のことを第一に置いてる」

 

「っ、うん。……ゆうじは、そういう人だもんね」

 

 追撃を終わらせた代償に、なんとも気まずい空気感が車内を覆う。

 

「みなさん、もうすぐ目的地に着きますよ」

 

 その空気感を運転手がはらってくれた。触れづらい空気感にあえて触れて場を整え直す。その役回りを遂行できるのは、大人の余裕の表れか。

 

「どんな場所か楽しみ!」

 

 それを無駄にせず繋いだのは、長女であるシイナだった。持ち前の明るさと会話力で完全に空気を一変させにいく。

 

「外を見てた限り、1軒ごとの土地は広くなさそうだな」

 

「あたしは3人で住めるなら十分だと思うなー。菜園もできるみたいだし」

 

「そうだね。育てたい野菜の種も持ってきたから楽しみ」

 

「どんな野菜の種を持ってきたの?」

 

 セツナの言葉になのはが反応し、新たな話題で会話が広がっていく。育てる予定の野菜のことだけでなく、どんなことに気をつけるのか、大切なことは何か。なのはに続いてフェイトも、少しずつ掘り下げていった。

 そうこうしている内に新たな家に到着。はやてが用意させた物件の中では大本命。1階建ての家だが、菜園が少しはできる庭もある。セツナは育てる野菜の配置を早速考え出しており、掴みは上々だ。

 

「中もご案内しますね」

 

「はーい。セツナー、中も見るよー」

 

「すぐ行くね!」

 

 シイナはぱたぱたと走ってきたセツナと手を繋いで中に入った。玄関があり、正面に廊下が伸びる。廊下にあるドアは私室、トイレ、洗面所のすぐ近くには浴場。廊下を抜ければリビングやキッチンのある大部屋。そこの間取りや物の配置に、シイナたちは既視感しかなかった。

 

「うちと似てる……」

 

 そう。台所の位置の違いはあれど、家具の配置が海女鳥島にある久瀬家にそっくりなのだ。

 

「可能な限り再現してみました。もちろん変更したい部分を言ってもらえれば、職員で変えますよ」

 

 これに大きく役立ったのがなのはの存在。家に訪問していたときに、家具の配置を頭に入れていた。もちろん愛機のレイジングハートも協力。1人と1機の監修により出来上がった空間だ。

 

「ありがとうなのちゃん! 超気に入った!」

 

「本当ですか? それならよかったです! セツナさんとゆうじさんはどうですか?」

 

「俺はどんな家でも住める。セツナは?」

 

「わたしもここがいい」

 

「一応他にも候補はあったんだよな?」

 

「ありましたが、私たちとしてもこの家が大本命でしたので。気に入っていただけたのなら決定ですね」

 

「うん! ここで決定! 後日直接言うけど、八神総督にもお礼を伝えといて!」

 

「わかりました!」

 

「それじゃあ、持ってきた荷物を整理しましょう。私たちも手伝いますよ」

 

「えっ、いいよいいよ。そこまではさすがに悪いというか……」

 

「手伝わせてください」

 

「手伝ってもらった方が早いし、本人の希望ならいいだろ」

 

 申し訳ないと感じているシイナをユウジが説得。なのはとフェイトは、車から荷物を運び出すところから手伝い始めた。

 海女鳥島の家を放棄するつもりはないため、運び出した荷物自体そう多くない。引っ越しとは思えないくらいだ。そこに協力の申し出もあったため、作業は早々に終わった。

 

「少し出かけてくる」

 

「今から? ゆーくんどこに行くの?」

 

「前、本土に来た時に世話になった人がいる。挨拶くらいはしないとな」

 

 

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