海女取島への漂流者   作:粗茶Returnees

24 / 24
 定期更新はできなくなりそうですが、更新自体は続けていきます。


24話 久瀬セツナ consultation

 

 変化は簡単に感じ取ることができた。生活はいつもと同じ。朝起きて、3人で朝食を取って、家を出る。本土での生活はこれがルーティーンだ。

 シイナが家を出る時間は固定されていない。侵略種への対応がメインであるため、出撃時間も固定じゃない。緊急対応もある。

 通常は訓練を行っている。エクシーズから支給されている装備。それらを扱った戦い方の練度を上げるのが日々の課題であり、他の時間は通信制の学校の時間だったり、事務作業があったりする。

 セツナは家を出る時間が決まっている。変動するシイナより早く出ることもあれば、遅くできることもある。時折一緒に出ることもある。

 

 そのいつもの生活に生まれた新たな変化。その中心にいるのはシイナだ。

 

(しーちゃんも、やっぱりゆーくんのことが好きなんだ)

 

 セツナと接する時は何も変わらない。今まで通りだ。だが、シイナがユウジと接する時の雰囲気は変わった。以前よりも柔らかくなった。言葉を選ばずに言えば、女の子らしさが増した。

 頼りになるかっこよくて美人な姉でありながら、今までにない乙女な一面も見せるようになった。

 

(しーちゃんのことが好き。でも、ゆーくんのことも好き)

 

 シイナの幸せがセツナの幸せであるように。セツナの幸せもシイナの幸せだ。

 シイナがシイナらしく生きられる。何にも制限されず、のびのびと、生き生きと。それがセツナの願うシイナの幸せだ。

 この場合どうすればいいのか。セツナは答えを見い出せない。

 

「なにかお困りごとですか?」

 

「ぇ?」

 

 悩んでいたら、突如見知らなぬ女性に声をかけられた。警戒しながらその人を見ると、柔らかな雰囲気を持つ長い茶髪の女性がそこにいた。その目は本当に心配してそうな目で、セツナに刺激を与えないようにと少し距離も取っている。

 

「突然すみません。買い物帰りなのですが、さっきも見かけたのでつい」

 

 その人は買い物に向かっていた。その道中で、セツナが1人でいるところを見かけたのだと言う。場所が憩いの場でもあったため、友達と待ち合わせしていると思っていたらしい。

 しかし、買い物を済ませて帰っていると、同じ場所で同じ構図のまま佇んでいるセツナがいた。日も沈み始めており、小学生の女の子が1人でいるのは気になって仕方がない。世話焼きな性格もあり、声をかけたのだと言う。

 

「申し遅れました。私は相沢シオリと言います。こっちは同(・)じ(・)サ(・)ー(・)ク(・)ル(・)の後輩の古寺ユズです」

 

「ど、どうも。初めまして。古寺ユズです」

 

「えっと、初めまして」

 

 シオリの陰から出てきたのは、サ(・)ー(・)ク(・)ル(・)内最年少の古寺ユズ。セツナの歳に近い13歳の少女だ。前髪で片目が隠れ、ベレー帽を被っている。

 ユズは過去の経歴とその後遺症から、いつもはアジト内から出てこない。だが、ずっと外に出ないのは良くないとして、比較的危険の少ない買い出しに今回は同行している。

 

「日が暮れますし、このままですとご両親も心配されますよ」

 

「あ、いえ。親は、いなくて」

 

「……失礼しました。保護者の方は?」

 

「姉と兄がいます」

 

「そうでしたか。お二人と待ち合わせをされているとか?」

 

「してないです。……そうですよね。遅いと心配させちゃいますよね」

 

 頭はわかっている。だが、悩みがあるのも事実。

 セツナがしっかりしている子供であることは、言動から多少は感じ取れた。それでも長時間ここにいたと言うなら、やはり何かあるのだろう。

 

「もし、そのお二人に相談しづらいことでしたら、お話してくれませんか?」

 

「え?」

 

「シオリさん?」

 

「困っている人を放ってはおけませんよね?」

 

「そうですけど……。私たちも初対面ですし……」

 

 身内に話しづらいなら、外部に話してみたらいい。それは筋が1つ通っている話だが、たった今知り合ったばかりの見ず知らずの他人なのも事実。信頼関係はまったくの0だ。思い悩んでいることを打ち明けるに足る人物でもない。

 それはシオリも重々承知だ。わかっている上での提案。シオリの人となりから出た判断。

 ちょっとした助けになれればいい。抱えるよりは話せた方が楽になる。それは実感としてシオリの中にあり、壁打ち程度の感覚で話してもらえればいいと思っている。初対面だからこそ、無闇に踏み込むつもりは毛頭ない。

 

「私の連絡先をお教えします。こちらから詮索はしませんし、なんでしたら一方的にメッセージを送ってくるだけでもいいですよ。あなたが悩みや気持ちを出す場として、ご活用ください」

 

「そこまでしていただかなくても……。それなら、少しだけ聞いてもらってもいいですか?」

 

「わかりました。話したいことだけを話していただいたら結構ですので」

 

「それでも助かります」

 

 憩いの場にある長ベンチ。シオリが真ん中に座り、左右にセツナとユズが座る。セツナが真ん中じゃないのは、初対面の2人に挟まれるのは落ち着かないだろうというシオリの配慮だ。

 

「ある意味、恋愛相談みたいになっちゃうんですけど」

 

「恋愛相談……!」

 

 13歳。年頃のユズが目を大きく開けて食いつく。シオリは落ち着いてそれをなだめながら、セツナに話を促した。

 

「2ヶ月くらい前から好きな人がいるんです。本当に好きで、一緒にいて、話せるだけでも胸がいっぱいになって」

 

「……!」

 

「今の時間でもう幸せだなぁって感じてます。これ以上は欲張りかもしれない。でも、なくしたくない。お付き合いとかできたら、幸せで死んじゃうかも」

 

 穏やかな声で、言葉すら慈しむように、大切に紡いでいく。

 小学生の恋愛とは思えないその様子に、ユズの方が緊張して顔を赤くしていた。ドキドキと胸を高鳴らせ、静かに興奮気味。ユズの様子を見たシオリは、ユズが暴走しないように気をつけようと認識を改める。

 

「そんな人がいるんですけど、わたしはもう1人大切な人がいるんです。同性ですけど、わたしを受け入れて、迎え入れてくれた人。その人のことも大切で、幸せになってほしい」

 

 幸せになってほしいからこそ、抱えている問題の解決法が見つからない。

 

「わたしの好きな人と、大切な人が好きになった人が同じなんです。関係を壊したくない。でも、好きな気持ちに嘘はつけないんです。……シオリさんたちだったら、どうしますか?」

 

((想像の倍以上に重い……!))

 

 大人びている子だとは思っていた。それでも、子供は子供。恋愛相談だと聞いた時、シオリは自身が小学生の時はどうだったかなと思い返し、照らし合わせるつもりだった。

 だが、蓋を開けてみたら全然子供の恋愛相談らしくないヘビーさ。ジャブを読んでいたらボディブローが来た。

 

「……難しい話ですね」

 

 話を聞くと言った手前。想像を遥かに超える話だろうと、意見を仰がれたのだから何かしら答えないといけない。

 なんとか反応を示して、シオリは急ピッチで頭の回転を加速させる。

 

「私はその経験がありませんから、的確な話ができるかはわかりませんが」

 

 己と己の大切な人。両者の好きな異性が同じ人。そんな経験は誰もがなかなかしないものだ。

 シオリやユズの今の環境に置き換えたら、”恋している相手がトワの相手と同じだった”ことに悩んでいるパターン。

 

「もし私がその立場でしたら、先にその大切な人と話します」

 

「それは……どうしてですか?」

 

「その方が互いに気持ちをぶつけられるからです。ケンカではなく、どちらかが折れるでもなく。互いに本気なのだと確かめ合う。そうしたら、遠慮せず正々堂々と自分の気持ちに向き合えると思うんです」

 

 自身の環境に置き換えて考える。トワの幸せを願いつつ、己の幸せも考える。そう仮定して、どうするのが互いに納得できる形になるのか。

 シオリが出した答えは、後腐れのないように場を整えることだった。

 だが、これが最適なのかはわからない。このやり方の前提として、両者が譲れない気持ちを持っていないといけない。

 トワなら、シオリの幸せを願って折れてしまうかもしれない。その想像ができてしまう。

 

「私のこのやり方の場合。相手方に遠慮の気持ちがあったら成立しません。だからこその話し合いではあるのですが、保障が効くものでもないです。……ユズならどうしますか?」

 

「え? あ……えっと」

 

 大人だなあと思って感心していたら話を振られた。ユズは困ったように視線を動かし、見つめてくるセツナと目が合った。答えないといけないと悟ったユズは、シオリの意見も踏まえて自分の意見を固めていく。

 トワと好きな人が被った場合。ユズならどうするか。

 

「私は……。…………私だと、諦めちゃうかもしれません」

 

 魔人化薬の実験動物として扱われ、あらゆる薬を投入された。まともな生活を送られず、まともに死ぬこともできないであろう暗闇の中。

 そんな場所から、魔人狩りのメンバーが救ってくれた。半分、人から外れたような状態だったのに、トワができる限り一般人に近づけてくれた。

 大恩のあるトワに幸せになってほしい。笑っていてほしい。そう願うのなら、ユズが出せる答えは自分の恋をひっそりと終わらせることだった。

 

「私が諦めることで、その人が幸せになるなら。それが、私にできる私なりの恩返しの1つだと思うので……」

 

「恩返し……」

 

「あっ、すみません! 私ならってだけですよ……! 全然、私よりシオリさんの意見を参考にしてもらったほうが……!」

 

「いえ、ユズさんの考えを教えていただいて、ありがとうございます」

 

(この子ほんとうに私より年下なのかな!? こんなに丁寧な子っているんだ……!)

 

 セツナの応対にユズは驚愕しているが、実はそうじゃない。誰かに話したことで気持ちが楽になったことと、同じ問題でも人によって考えが変わるという事実を知ったこと。これらのおかげで、セツナの中で余裕ができただけだ。

 正解は1つじゃない。あるいは、正解があるかもわからない。正反対のことだが、共通しているのは明確な1つの答えがないということ。これを知れたことが、今のセツナにとって何よりの助けとなっている。

 

「お二人とも、今日はありがとうございました」

 

「もうよろしいのですか?」

 

「はい。話を聞いていただけただけでも、とても助かりました」

 

「それはなによりです。あなたとその大切な方、双方にとっても良い結果になれることを願ってます」

 

「……ありがとうございます。もしよかったら、連絡先を交換しませんか?」

 

「……いいんですか?」

 

「はい! なにかあったら、また相談させてください」

 

「そういうことでしたら。いつでもご連絡ください」

 

「私も、いつでも大丈夫ですよ」

 

「あ。わたしだけ名前を言っていませんでした。久瀬セツナと言います。よろしくお願いします」

 

「セツナさん。いいお名前ですね」

 

「ありがとうございます。さんは無くていいですよ。シオリさんの方が年上ですし」

 

「私のこれは癖ですので……」

 

「そうなんですね」

 

「あの。セツナちゃん、って呼んでもいいですか?」

 

「! はい! わたしもユズちゃんって呼んでいいですか?」

 

「もちろんです。えへへ、お友達ができて嬉しいです」

 

「わたしもです」

 

 連絡先を交換し、友人関係も築けた。交友関係の広がりは世界の広がり。セツナもユズも、自分の世界観が広がったことを喜んだ。

 

「セツナさん、お帰りはどうされますか? 車があるので、送っていくこともできますよ」

 

「兄が迎えに来てくれるみたいなので、送っていただかなくて大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 

「そうですか。でしたら私達はこれで」

 

「セツナちゃんまたね」

 

「うん! ユズちゃん、シオリさん。今日はありがとうございました!」

 

 互いに笑顔で手を振って別れる。シオリの運転する車にユズが乗り、日が沈んだ街を走っていく。セツナはそれを見送り、ゆっくりと息を吐いた。

 セツナの悩みは解決していない。答えは出なかった。だが、今日はそれで十分だ。正解はわからなくていい。自分で、自分たちで見つけるしかない。他の誰でもない。シイナとセツナ。姉妹二人で。

 それが二人にとっての正解になるのだから。

 

「セツナ」

 

「ゆーくん! すっごい早かったね。近くにいたの?」

 

 好きな人に名前を呼ばれた。いつものことなのに、いつもより嬉しい。

 セツナはユウジの傍に駆け寄ると、嬉しそうに目を細めた。

 

「そこの店にいた。帰りが遅かったから、何かあるんだろうと思ってな」

 

「ごめんね。ケータイで連絡してたらよかったね」

 

「いや。それも込みで、何(・)か(・)あ(・)る(・)ん(・)だ(・)と思ってたから気にしなくていいぞ」

 

「……ゆーくんに、隠し事をしたいわけじゃないよ? でも、まだ言えなくて」

 

「それも気にしなくていいぞ。セツナの好きにしたらいい。危険があれば俺が排除する」

 

「危ないことじゃないんだけど……」

 

 勘違いもされているが、自分を思っての発言だと分かれば喜ばしいことこの上ない。セツナはくすりと笑うと、ユウジの手を取って指を絡める。

 

「ゆーくんの手。おっきい」

 

「? 前と変わってないぞ」

 

「うん」

 

 変わっていない。島で繋いだ手の大きさと、もちろん同じだ。変わったのはセツナの心の方。ユウジのひとつひとつのことを、以前よりも意識している。

 

「あのお店はなんのお店?」

 

「分類で言うと喫茶店だな。スムージーとかジュースとか、ラインナップは若者向け」

 

「ゆーくんの手にあるそれは?」

 

「マンゴースムージー。結構美味しいぞ。飲むか?」

 

「いいの? それならもらっちゃうね」

 

 まだ半分は残っているカップを受け取り、セツナは少し躊躇ってからストローに口をつけた。口の中に広がるマンゴー味のスムージー。たしかに美味しいと感じているが、セツナの脳内はそれよりも自分がしたことに支配されている。

 ユウジは何も思っていないだろう。だが、恋する11歳の乙女に、好きな人との間接キスは刺激が強い。

 

「シイナは今日早めに退勤できたらしい。家で晩飯を作って待ってる」

 

「……うん」

 

「結構心配してたから、帰ったら何か話してやってくれ」

 

「ん」

 

 大事なことを言われている。それはわかっている。

 それでも。強い刺激が。高まる鼓動が。火照る体が治まらない。

 どうすれば落ち着けるかはわかっている。離れたらいいだけ。

 でも、セツナは自分の気持ちに従い、家に着くまでユウジの手を離さなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

夜海家長男はフラグをへし折り続ける(作者:吉田正鷹)(原作:魔法少女リリカルなのは)

「リリカルなのはの世界に転生したい!」典型的な神様転生としてそう願った男が転生させられたのは間違いなく『リリカルなのはの世界』であった。▼ だがそこは……男が唯一知らない『新アニメ』の世界線だった!?▼「唯一知らないとこじゃねえかここ!?」▼ EXCEEDS世界線の情報は予告編のみ!それでも男、テンマは立ち上がる!▼「フラグなんてへし折ってみせるぜ!」▼ こ…


総合評価:174/評価:-.--/連載:35話/更新日時:2026年09月11日(金) 18:00 小説情報

久瀬家の居候(作者:セツナは幸せになるべきである)(原作:魔法少女リリカルなのは)

▼久瀬家に一人、居候あり。▼


総合評価:54/評価:-.--/連載:8話/更新日時:2026年10月15日(木) 12:00 小説情報

無能力転生者はリリカルなのは世界で生き延びたい(令和版)(作者:百男合)(原作:魔法少女リリカルなのは)

「だって、なのフェイは最高だから…」▼「聞こえないな。もっと大きな声で言いなさい」▼「なのフェイは最高です!」▼ 大体こういうノリにしたいやつが主人公の小説です。▼ ミッドチルダから現代日本に渡界してきた家族の第一子として生を受けた主人公。▼ しかしそこはモブにも主人公にも厳しいリリカルなのはの世界。▼ 戦闘能力なし、レアスキルなし。▼ 生き残るためにやって…


総合評価:1557/評価:7.9/連載:64話/更新日時:2026年10月18日(日) 19:00 小説情報

リリカルヤンデル短編集(作者:コミュニ爺)(原作:魔法少女リリカルなのは)

どうも皆さんこんにちは。コミュニ爺と申します。▼遅ればせながら、最近リリカルなのはにハマってしまいまして……。衝動の赴くままに書いてみました。▼現在アニメを履修中ですので、設定ミスや解釈違い等頻発すると思われます。その際は感想欄などでご指摘いただけると幸いです。▼リリなのの女の子はヤンデレが似合う(確信)▼※2026.05.07追記:必須タグに「R-15」、…


総合評価:406/評価:8.11/短編:16話/更新日時:2026年08月16日(日) 22:28 小説情報

リリカルAnswer(作者:四脚好き)(原作:魔法少女リリカルなのは)

突然の転生。幸福だった人生、好きな物語、好きな家族、そのすべてがない世界に放り出された少年。少年はわずかな前世の思い出を胸に飛翔する。


総合評価:1453/評価:8.47/連載:27話/更新日時:2026年10月18日(日) 13:10 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>