海女取島への漂流者   作:粗茶Returnees

7 / 15
7話 久瀬姉妹 The end of summer

 

 このご時世ということもあり、海女鳥島は人口減少も起きている島だ。最盛期と比べれば賑わいが減り、場所によってはかつて使われていたであろう建物が散見される。廃墟は度胸試しの場になりそうなものの、侵略種が存在する世界になってはそれもできない。

 この島の港周辺は、そういった廃墟があることを感じさせない活気がある。まとまった買い物となるとそういう場所に行くことになり、3人であれやこれやと買い物を済ませ、昼食も済ませたのがつい先程。

 大型を討伐したことで大きい臨時収入もあった。成長期の男子も驚くほどの食べってぷりをシイナは披露していた。

 

「しーちゃんたくさん食べれてよかったね」

 

「うん! 大満足!」

 

「どこにあの量が入るのやら」

 

《そりゃ胸だろうよ相棒。栄養という栄養が胸に行くタイプだ》

 

「このセクハラ野郎め!」

 

 相棒たるユウジにすら見放され、瞬時にシイナに手渡されたフォルドが遠くへ全力投球される。小型の飛行性侵略種を石で投げ落とせるシイナの全力だ。フォルドは瞬く間に見えなくなり、遠方でキラリと光るとブーメランの如く返ってくる。

 

「チッ!」

 

《遠投記録更新だぜ。スポーツ選手でも目指したらどうだ》

 

「アドバイスどうも。……意外とまともな提案のせいで文句を言いづらい」

 

「本土でそれが叶うなら、そういう道もいいんじゃないか?」

 

「うーん。体を動かすのは好きだけど、なんか今はイメージ湧かないや」

 

 祖父から受け継いだ銃とハンターの技術。それよりもスポーツ選手を優先するか。一度考えてみたものの、どうにもシイナの中ではしっくり来なかったようだ。

 

「ゆーくんはしーちゃんより少食なんだね」

 

「シイナは大食いファイター並みだ。比べものにならない」

 

 セツナが話を戻し、ユウジがそれに乗る。フォルドに起因する妙な流れは断ち切られた。

 

「あれだけ食べるなら、普段の食事は足りてないんじゃないか?」

 

「足りないことはないよ。食べようと思ったらいくらでも食べられるだけ。実はまだ食べる余裕もあるよ」

 

「底無しだな」

 

「わたしもたくさん食べたら、しーちゃんみたいに美人さんになれるかな」

 

「セツナは持ち上げ過ぎだって。それに、無理に食べるのはよくないし、セツナなら絶対あたしなんかより美人になるから。ね、ユウジ」

 

「絶妙に反応しづらい内容だな」

 

 将来、セツナが美人になるのは同意できる。その一方で、シイナが美人かどうかの内容には触れづらい。本人は否定するが、シイナは美人である。そう主張するセツナの意見にも同意だ。

 その上で、どちらの方が美人かは非常に決め難い話だ。どちらも美人、美少女であり、その方向性は重ならない。つまり、優劣つけられるものではない。

 

「シイナが美人なのは同意だし、セツナも将来美人になるのも同意だ。どっちの方が、とかは決められることじゃない」

 

「えへへ、ゆーくんにも言われると照れくさい」

 

「ほんとほんと。よくそんなことを恥じらいもなく言えるね」

 

「事実だし、褒められることは伝えられる時に伝えたい」

 

 恥ずかしがって、伝える機会を失うより断然いい。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。これみたいなものだとユウジは考えている。と言っても、言うときの気恥ずかしさがないわけじゃない。それを表に出さず、伝えることを優先しているということだ。

 その意味をうまく汲み取れなかったが、ユウジが大切にしている考え方であることは理解した。セツナはユウジの横顔を見上げてから、シイナの方を見る。ユウジにもセツナにも表情を見られないように顔を反らしていた。

 

「ゆーくんはどんな人が好き?」

 

 姉妹で少し話題に出していたことを、セツナは早速投下してみた。シイナがぴくりと反応したのを見逃さない。どうやら気にはなるらしい。

 

「どうした藪から棒に」

 

「着くまでコイバナしよう」

 

「コイバナね。ということは尊敬できるとか、そういう方向とは違うんだな」

 

「うん」

 

 曲解して回答を避ける道は塞がれた。こうされて、その上でまた誤魔化すこともできるが、真摯な対応とは程遠い。ユウジは海を見ながら数秒考え、セツナの質問に答える。

 

「わからない」

 

「……ゆーくん?」

 

「誤魔化そうとしてるんじゃない。本当にわからないだけだ」

 

 そもそも記憶喪失だ。島民との交流もほとんどない。ユウジにとって知り合いにあたる女子は、シイナとセツナの2人だけである。

 2人のことは好きだ。好きか嫌いかの二極論で言えば好きだ。しかし恋愛かと言われると首を傾げるしかない。

 さらにユウジを悩ませるのが、()()()()()()()()()()()()()という確信に似た不思議な感覚があることだ。誰なのか思い出せない。どこで知り合ったのか。どういう距離感だったのかも不明。自分がどう思っていたかも忘却の彼方。そのせいで、セツナの質問に答えられないでいる。

 

「どうやら大切に思える人はいたらしい。だが、それが恋愛の意味かはわからない。だから、どういうタイプが好きか、とかは答えられない」

 

「そうなんだ。……きっと、その人とまた会えるよ」

 

「ありがとう。本当にやさしいな」

 

 ユウジはこの世界の人間じゃない。その可能性が非常に高い。フォルドはこの世界にない技術の塊だ。ユウジもシイナの知らない力で戦っている。そういったことから、異世界人の可能性が高い。

 そのユウジの知り合い。記憶を失う前の大切な人。その人もまた異世界人であると考えるのが妥当だ。その人との再会方法は不明。そもそもどうやってユウジはこの世界に来て、この海女鳥島に流れ着いたのかも不明。わからないことだらけだ。

 しかし、セツナはまた会えると言った。慰めではなく本心。そのやさしさは本物であり、セツナの人となりがよく出ている。

 

(どうして……きゅってするんだろ)

 

 本心で話しているのに、胸が軽く締め付けられる感覚があった。その理由はわからなくて、セツナは静かにユウジの服の裾を掴む。

 

「ん?」

 

 セツナの行動理由に見当がつかない。ユウジは逡巡したあと、セツナに手を解かせてからやさしく包み込んだ。

 

「ユウジだけずるい」

 

「じゃあ荷物を持つから渡せ」

 

「そうなるか。じゃあ仕方ないね。はい、よろしく」

 

 持ってきた荷物と買い物で増えた荷物。それらをユウジが持とうとしていたのに、年長者だからとシイナが譲らなかった。結果的にシイナは両手が塞がることになり、セツナと手を繋げないでいた。それなのに目の前で仲良さそうに見せつけられると、一言申したくなる。

 自分が言い出したことを貫くか。それともセツナと手を繋ぐことを優先するか。迷うまでもない選択肢だ。

 シイナは荷物の半分をユウジに渡し、片手をあけた。姉の溺愛ぶりに頬を緩め、セツナはシイナとも手を繋いだ。両手で、それぞれ大切な家族と繋ぐ。セツナの中にあった苦い感覚はすぐに霧散していった。

 

「コイバナなら、2人はどうなんだ? 学校でもこの手の話はするんじゃないのか?」

 

「するけど、わたしはいないよ」

 

「小学生にはまだ早いかもな」

 

「というより、ゆーくんがいるから。ゆーくん以上の人がいない」

 

「……ありがとう?」

 

 反応に困り、ひとまず感謝した。にっこりと笑っているセツナを横目に、「すごいなぁ」と他人事のようにシイナは感想を抱いている。

 本心であろうとなかろうと、そういう言葉を素直に口にできる勇気。それが素直に尊敬できた。女友達にならシイナも言えるが、異性には言えない。その点では、シイナは思春期らしい感性をちゃんと持ち合わせているようだ。

 

「しーちゃんもそう思うよね?」

 

「ぅぇ!?」

 

 巻き込まれるとは思っておらず、変な声が出てしまった。

 

「ま、まぁ、この島は近い年代の人も少ないし、そうかもねー」

 

 動揺を隠すように話すも、セツナからはじっとりとした目で見つめられる。シイナはユウジからもセツナからも視線を逸し、気づかないふりをした。

 

 

 

 

「着いたー!」

 

「シートを敷いておく」

 

 目的の浜辺に着くと、ユウジは早速準備に取り掛かった。まずはスイカ割りをするための準備だ。荷物を置くためのシートとは別に、汚れてもいいブルーシートを持ってきている。それを敷き、風で飛ばないように四つ角を抑える。真ん中にスイカ。

 この準備をユウジが1人で行う間に、シイナとセツナは服装を水着へと変える。元の予定通り、服の下に水着を着てきたわけだが、服を脱ぐ様子を見るわけにもいかない。だからこうして、1人で作業をしているわけだ。

 

「ゆーくんどう?」

 

 スイカ割りの準備を終えた頃、水着姿になったセツナが駆け寄ってくる。質問に主語はなかったが、水着姿の感想を求めているのだろう。

 じっくり見るのは憚られるため、ユウジはさっと素早くセツナの姿を上から下まで見た。かわいらしいセツナのイメージに合うピンクの水着で、上下が別れているセパレートタイプ。上はタンクトップ状で、下はスカート状。

 

「かわいい水着だな。セツナによく似合ってる」

 

「えへへ。やったー!」

 

 バンザイして喜びを表す姿は、実に子どもらしく愛らしい。ユウジの言葉に満足したセツナは、今度はシイナの下へと走って戻っていく。それを見送りつつ、ユウジは周辺の状況を確認。フォルドに索敵させた。

 

《島内に侵略種の反応無し。海の方も安全だ。少なくとも、海水浴で遊ぶ範疇なら気兼ねなく遊べるぜ相棒》

 

「それなら安心だな」

 

 海の深い部分にはいるのだろうが、生身の人間はまずそこまで行かない。そういう意味での「海水浴で遊ぶ範疇」。とはいえ、フォルドの言う通り今から遊ぶ分には心配無用だ。仮に急接近されても、フォルドが必ず気づく。

 

「ほらしーちゃんも早く」

 

「わ、わかったから、引っ張らないでセツナ」

 

《お? 純情男児の性癖を破壊しそうなのが来たな》

 

「お前はなんでそんなセクハラ親父なんだ?」

 

《オレを生み出した奴に聞くんだな。とっくに寿命で死んでるけどよ!》

 

 フォルドは随分昔に作られたようだ。そんなモノがどうして自分の相棒になっているのか。その謎もまた忘却の彼方にあるものだった。

 考えてもわからないことは捨て置き、セツナに手を引かれて連れてこられたシイナを見る。セツナのようにセパレートタイプだが、布面積はセツナより少なめ。上は白のタンクトップではあるものの、セツナと違いへそがはっきりと晒されている。下は水着とショーパンの組み合わせだが、こちらもまた太ももが露出している。

 ライフセーバーの時は露出がほとんどない服装のようだが、このプロポーションの美少女が海での救助活動もするのだ。フォルドが言ったこともあながち過言ではないのかもしれない。

 

「無言はちょっと……」

 

 恥ずかしさを押さえ込み、気概で平静を保っているシイナも、無言が続けば恥ずかしさが表に出てくる。そんなシイナにユウジが発したのは一言だけだった。

 

「……きれいだな」

 

「〜っ、ぁ、ありがと……」

 

「ね。しーちゃん美人さんでしょ?」

 

「そうだな。セツナが推すのもわかる」

 

「ちょっ、あ、あたしの話はいいから! ほら遊ぼ遊ぼ! 時間は有限!」

 

「しーちゃん照れてる」

 

「言わなくていいから!」

 

 慣れないことをされテンパり気味なシイナは、スイカ割りを始めようと促す。強引に進行させようとして、少しずつ冷静さを取り戻してようやく気づく。スイカを何で割ろうかと。

 

「えーっと。何で割るんだっけ?」

 

「フォルドを棒にさせる。割れ方も制御できるから、綺麗に割れるはずだ」

 

「便利だね」

 

 割るのは誰が担当するか。それは特に話し合うこともなく、というよりもシイナとユウジの中では決まっていたために、セツナに任された。シイナが目隠し用の布をセツナに巻き、棒になったフォルドをユウジがセツナに渡す。

 

「それじゃあセツナ回って〜」

 

 フォルドを持ちながらその場でセツナがくるくると回る。それを見守る2人は回る回数を特に指定していない。判断をセツナに任せていたら、止まる様子がなかった。

 

「しーちゃん、あとなんかい?」

 

「ストップストップ! もういいよセツナ!」

 

「ふぁーい」

 

 両者ともに判断を相手に任せた結果。セツナはすっかり目が回っていた。ふらふらと足元もおぼつかないが、こける様子もない。そこはフォルドがさり気なく制御してサポートしていた。

 

「セツナまだまだ前に歩いてー。右にズレてきたからちょっと左。今度は左に行き過ぎ」

 

「あと5歩右に歩いて、体の向きを30度左方向に修正」

 

「ゆーくん角度はむずかしいかも」

 

 ふらふらと揺れるセツナを2人でなんとか誘導し、時間をかけながらもセツナにスイカを割ってもらう。無事に成功したことにセツナは大喜びし、その一連の様子を撮影できたシイナも大満足。喜びを分かち合ったらスイカを3人で分けて食べる。

 スイカを食べ終わったら今度はビーチバレーだ。ちゃんと足が届く浅瀬、深くても海水が腰に届かない程度の安全な位置で遊ぶ。

 

「しーちゃん行くよ」

 

「こーい!」

 

 セツナからシイナへ。シイナからユウジへ。ユウジからセツナへ。初めはこうして順に回して遊んでいたが、だんだんと順番はてきとうになる。海面に落とさずに続けようとすると、近い者が頑張って拾うしかないからだ。

 

「よっ、と。ユウジ」

 

「っ、あぶね」

 

 一度バランスが崩れると、立て直すのも一苦労だ。シイナが拾ったボールをユウジがなんとか食らいついて浮かせる。2人を気遣ってセツナがボールを高めに浮かせたところ、風に乗って流れてしまった。

 

「あ……。ごめんね」

 

「いいっていいって。取ってくるから、戻ったら2回目。目標は1回目より長く!」

 

「うん。ありがとうしーちゃん」

 

「さてと、取りに行くか」

 

「じゃああたしと競争ね」

 

「それならスタートの合図するね」

 

 セツナの合図を下に、シイナとユウジの競争が始まる。流されているボールを先に取ったほうが勝ち。シンプルな勝負だ。

 ユウジの身体能力は決して低くない。フォルドのサポートがなくとも高い。だが、泳ぎはシイナの方が得意だ。ライフセーバーは伊達じゃない。人を助け、2人で生還することが求められる資格を持っている。結果は火を見るよりも明らかだった。

 

「ふふん。あたしの勝ち!」

 

「さすがに泳ぎは勝てないか」

 

「ユウジも結構早かったね。びっくりしちゃった」

 

「自分でも驚いてる。意外と泳げるらしい」

 

「あはは、それじゃ戻ろっか」

 

「そうだな。ボールを手放すなよ」

 

「もちろん!」

 

 海面に浮かぶボールをビート板代わりにして、シイナはすいすいと泳いで岸に戻る。さすがに先程より速度は落ち、ユウジがシイナを気にかけながら並走する。

 

「セツナただいま。っわ!?」

 

「っ、……大丈夫か?」

 

 2人で難なく戻り、泳ぎから徒歩へと移ろうとした瞬間、シイナがバランスを崩して前のめりになる。咄嗟にユウジが支えたことで何事もなかったが、2人の距離はこれまでにないほど近くなっていた。触れ合う肌から体温が伝わり、耳をすませば呼吸すら聞こえそうな。そんな距離。

 

「シイナ? まさか足を痛めたのか?」

 

「……ぇ、ううん。それは大丈夫なんだけど。……近い、かな」

 

「ああ。悪い、すぐに離れる」

 

 そう言って離れるも、シイナがちゃんと1人で問題なく動けるのを側で確認する。

 2人が元の位置に戻れば、ボール遊びを再開。1回目よりも続けることが2回目の目標。その目標だったのだが、

 

(ユウジの……男の子の体ってあんなにがっしりしてるんだ)

 

 シイナの集中が欠けて達成することはできなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。