無冠転生〜もう一人のグレイラットも本気出す〜 作:omugut
俺が目を覚ました時、世界は揺れていた。
ガタッ。
ゴトッ。
ゴトリ……。
一定の間隔で身体が跳ね、そのたびに後頭部が鈍く痛む。
目を開ける。
見えたのは、幌を張った馬車の天井だった。
身体を起こそうとして、動かないことに気付く。
両手は後ろで縛られている。
足首にも縄。
口の中には土の味が残っていた。
首の横が熱い。
父様の木剣が当たった場所だ。
「起きたか」
低い女の声がした。
視線だけを動かす。
向かいには、褐色の肌をした獣族の女が座っていた。
眼帯。
筋肉のついた腕。
壁へ立て掛けられた、本人の身体ほどもある剣。
庭でゼディの木剣を、光と一緒に吹き飛ばした女だった。
名前を聞いた覚えがある。
父様が叫んでいた。
ギレーヌ。
「ゼディは」
自分でも驚くほど早く、言葉が出た。
シルフィでもない。
母様でもない。
ノルンとアイシャでもない。
まず、ゼディの名前が出た。
「生きている」
ギレーヌは短く答えた。
「お前と同じだ。パウロが眠らせた。私が剣を弾いた時、腕は痺れただろうが、骨は折っていない」
「……そうですか」
胸の奥から、息が抜けた。
安心した。
その次に、腹が立った。
父様へ。
ギレーヌへ。
縛られて何もできない自分へ。
……そして、弟が無事だと聞いただけで、ひとまず安心してしまった自分へ。
無事ならいいわけではない。
俺は家から連れ出された。
ゼディは、それを止めようとしていた。
最後に見た弟は、何も持っていなかった。
木剣を弾かれ、開いた手を俺へ伸ばしていた。
俺も手を伸ばそうとした。
だが、その前に父様の木剣が首へ落ちた。
届かなかった。
どちらの手も。
馬車の揺れに合わせ、頭の奥で記憶まで揺れる。
どうして、こうなった。
考えれば考えるほど、最後の一日だけを見ても答えは出なかった。
始まりは、もっと前にある。
ロキシーが家を出て、俺とゼディが初めて自分の足で門を越えた、その後から。
◇
ロキシーがいなくなって五日。
ゼディは一人で村へ出た。
俺は玄関の前から、その背中を見ていた。
あいつは門の前で一度だけ止まり、俺を振り返った。
手を上げる。
俺も少しだけ上げ返した。
それからゼディは、まるでずっと前からそうしていたように外へ出た。
羨ましかった。
同時に、腹が立った。
卒業試験で一度外へ出ただけだ。
どうして翌日から、あんなに普通に歩ける。
どうして俺は、同じことができない。
あいつが悪いわけではない。
分かっている。
分かっているから、余計に腹立たしい。
俺はその日、家の前の道を四十歩進んだ。
一歩ずつ数えた。
四十歩目で戻った。
翌日は、六十歩にするつもりだった。
ゼディがどこまで行ったかは、聞かなかった。
聞けば比べる。
比べれば、きっと勝手に落ち込む。
だから聞かない方がいい。
我ながら、随分と後ろ向きな自己防衛である。
だが、ゼディが予定より早く帰ってくると、聞かずにはいられなかった。
手袋が濡れていたからだ。
「水魔術を使ったんですか?」
「少し」
「何に?」
「道の泥を流した」
嘘だと思った。
ゼディは嘘をつく時、言葉が短くなる。
目を逸らすのではなく、反対にこちらを見すぎる。
この七年で分かるようになった、と今なら言えるが、当時でも何となく気付いた。
けれど、俺はそれ以上聞かなかった。
ゼディが話したい時になれば話すだろう。
あいつは、俺が扉を開けるまで何度も待ってくれた。
今度は俺が待つ番だと思った。
……もっとも、その判断が正しかったかと言われれば、難しい。
ゼディが何を隠しているのか、少しでも聞いていれば、シルフィが二度も虐められずに済んだかもしれない。
待つことと、見ないふりをすることは違う。
その違いを、俺たちはまだ知らなかった。
一週間ほど後。
俺は薬草を探しながら、村の林まで来ていた。
門から何歩だったかは覚えていない。
途中までは数えていた。
だが、紙に描いた葉を探しているうちに忘れた。
気付けば、家の屋根は木々の向こうに小さく見えるだけだった。
帰ろう……。
そう思った時、笑い声が聞こえた。
子供の声。
身体が固まった。
たったそれだけで、前世の記憶が喉まで上がってきた。
廊下。
教室。
校門。
こちらを見て笑う顔。
聞こえるように投げられる言葉。
この世界の林にいるはずなのに、足の裏だけが前世の床へ貼りついた。
帰ろうと思った。
俺には関係ない。
見なかったことにすればいい。
声のする方へ行かなければ、何が起きているか知らずに済む。
だが、木の間から見えた。
三人の子供。
囲まれている、緑色の髪の子。
泥を持った手。
あの子の方が怖い。
そう思った。
俺の足は半歩下がった。
それでも、もう半歩は下がらなかった。
卒業試験の日、ゼディは俺の手を引かなかった。
隣に立ち、俺が自分で進むのを待った。
もし今、あいつがいたら。
たぶん、飛び出す。
後のことを考えず、三人とあの子の間へ入る。
俺には、同じことはできない。
けれど、俺なりのやり方ならある。
泥を水球で砕く。
次に相手の手元、足元。
直接当てず、動きを止める。
最後に大きな水球を見せる。
怖くなかったわけではない。
声は震えていたと思う。
それでも三人が逃げた後、俺はそこに残った。
緑色の髪の子へ近づいた。
泥を落とした。
名前を聞いた。
風に遮られた言葉を「シルフ」と聞き違えた。
男の子だとも思い込んだ。
後から考えると、その日の俺は間違いだらけだった。
それでも一つだけ、間違えなかったことがある。
友達になってほしいと、自分から言ったことだ。
前世を含めても、俺が自分から誰かへそう言ったのは、あれが初めてだった。
シルフが手を握ってくれた時、俺は、魔術を初めて成功させた時より嬉しかった。
家へ帰ると、ゼディへ真っ先に報告した。
「ゼディ。友達ができました」
今思えば、随分と子供らしい自慢だった。
中身は三十四歳だった男が、弟へ友達ができたと報告して得意になる。
客観的に見ると、かなり痛々しい。
だが、あの時は本当に嬉しかったのだ。
ゼディは笑った。
いつもより少しだけ、固い笑い方だった。
林で何があったか話すと、何度か口を開きかけた。
何か言いたいのかと聞いた。
まだ上手く言えない、と答えた。
「言えるようになったら、ゼディから言うでしょう」
俺はそう言った。
信じて待つことが、兄らしいと思っていた。
ゼディは「言えるようになったら言う」と約束した。
その約束が、一年近く先になるとは思わなかった。
◇
シルフへ魔術を教える時間は楽しかった。
ロキシーが俺たちへ教えてくれたことを、今度は俺が誰かへ渡す。
詠唱を一節ずつ読む。
失敗した理由を考える。
できた時には褒める。
先生の真似から始めた。
だが、シルフと俺では、分かりやすい言葉が違った。
俺が「魔力を手のひらへ集める」と言っても伝わらない時、ゼディは「雨が落ちる前の空みたいに重くなる」と言った。
それで伝わることがあった。
逆もある。
ゼディが「ここで、こうして、すぐ動く」と説明し、シルフが首を傾げた時、俺が順番を三つに分けると分かってもらえた。
俺は形を作る。
ゼディは感覚を拾う。
シルフは、その両方から自分に合うものを選ぶ。
三人でいると、一人では届かなかった場所へ進めた。
それが嬉しかった。
同時に、怖かった。
シルフが俺の教えた魔術を覚えるたび、俺を必要とする理由が一つ減るような気がした。
矛盾している。
できるようになってほしくて教えているのに、できるようになれば困る。
先生としては失格である。
人間としても、あまり褒められたものではない。
シルフへ無詠唱を教えた日、その怖さは一番大きくなった。
俺は無詠唱を、誰かから習ったわけではない。
気付いた時にはできていた。
だから、教え方が分からなかった。
前日の夜、何枚も紙へ書いた。
魔力を集める。
完成した形を考える。
詠唱の代わりに、頭の中で順番を作る。
それでも駄目なら、別の方法を探す。
「ルディが落ち込んだら?」
ゼディに聞かれた。
「どうして僕が落ち込むんですか」
「教えられなかったって思うかもしれないから」
図星だった。
教えられなければ、先生ではなくなる。
先生でなければ、シルフが俺と一緒にいる理由も減る。
そう考えていた。
「その時は、ゼディが言ってください」
「何を?」
「最初から全部できる先生はいない、と」
ゼディは分かったと答えた。
結局、その言葉は必要にならなかった。
シルフは、三度目で無詠唱の水球を作った。
俺が何年もかけて無意識に掴んだものを、たった三度で。
すごい。
嬉しい。
俺の説明が通じた。
それなのに、胸の奥が冷えた。
無詠唱は俺だけのものだと、少し思っていた。
それまでゼディが使おうとしなかったから、なおさらだ。
俺にしかできない。
俺だから、教えられる。
俺だから、シルフに必要とされる。
そんな場所へ、シルフが一歩で入ってきた。
返事が遅れた。
良い子の仮面を被ろうとした。
その前に、ゼディが言った。
「ちょっとだけ、悔しかった?」
余計なことを──。
そう思った。
シルフは、自分ができない方がよかったのかと不安になった。
俺は否定した。
誤魔化すこともできた。
ゼディの勘違いだと言えば、シルフは信じただろう。
だが、ゼディにはもう見抜かれている。
自分の一番醜いところを、こいつは何度も見てきた。
それでも隣にいる。
なら、今さら綺麗なふりをしても仕方がない。
俺は、シルフへ話した。
自分だけができると思っていたこと。
必要とされる理由になると思っていたこと。
シルフができるようになることと、俺がいらなくなることは別だと、ようやく気付いたこと。
口にすると、怖さが消えたわけではない。
それでも、隠している時より息がしやすくなった。
ゼディは、俺の醜い気持ちを暴いた。
だが、笑わなかった。
責めもしなかった。
ただ、俺が本当のことを言うまで見ていた。
あの頃からだと思う。
俺は、ゼディに嫉妬を知られることを、以前ほど怖がらなくなった。
嫉妬しなくなったわけではない。
あいつなら、醜い俺を見ても、すぐにはいなくならない。
そう信じ始めたのだ。
その日の午後、雨が降った。
雨というより、空の底が抜けたような大雨だった。
シルフは初めて家へ入り、俺たちと一緒に風呂へ入ることになった。
そして俺は、人生でも上位に入るほど大きな間違いをした。
シルフは男の子ではなかった。
シルフィエットという、女の子だった。
嫌がる彼女の服を、俺は脱がそうとした。
男同士なら恥ずかしがることはない。
そんな勝手な思い込みで。
彼女が叫び、泣いてから、ようやく気付いた。
前世の俺なら、どうしていただろう。
冗談だった。
知らなかった。
悪気はなかった。
そうやって自分を守り、相手が怒りすぎだと心の中で責めたかもしれない。
父様は、許してもらうためだけに謝るなと言った。
許すかどうかは、シルフィが決める。
俺が決めるのは、何を悪かったと思い、どう謝るかだけだと。
俺は待った。
家まで追いかけることもしなかった。
門の外で、何日も待った。
待っている間、ゼディは隣へ座った。
慰めるでもなく、代わりに会いに行くでもなく。
ただ、いた。
そして最初の夜、ずっと言えずにいたことを話した。
「シルフィを最初に助けた水。あれ、ルディじゃない」
俺は身体を起こした。
あの日、濡れた手袋。
道の泥を流したという、短い答え。
──全部がつながった。
腹が立った。
ゼディが人へ魔術を使ったからではない。
シルフィまで濡らしたからだけでもない。
俺に嘘をついたこと。
シルフィが最初の水まで俺のものだと信じているのを知りながら、一年近く黙っていたこと。
そして何より、俺がゼディを信じて待っていたことを、裏切られた気がした。
俺は怒った。
少し声を荒らげたかもしれない。
ゼディは言い訳をしなかった。
あの日、怖くなって逃げたこと。
二度目も木の陰にいたこと。
俺が一人でシルフィを助けるところを見ていたこと。
全部話した。
聞くほど、怒りだけではいられなくなった。
ゼディも怖かったのだ。
外へ迷わず出る。
剣を振る。
知らないものへ手を伸ばす。
俺にはできないことを、何でもできるように見えた弟も、逃げることがある。
失敗を隠すこともある。
嫌われるのが怖くて、言えなくなることもある。
俺と同じだった。
だからといって、嘘が消えるわけではない。
すぐに許すとも言えなかった。
けれど、シルフィへ話す時は俺もいると伝えた。
ゼディだけなら、また最後の一歩で逃げるかもしれない。
今度は俺が、隣で待つ。
シルフィが戻ってきた日、俺は自分の間違いを謝った。
彼女は、女の子でも友達でいてくれるかと聞いた。
もちろんだと答えた。
シルフィは、また俺の手を握ってくれた。
その後で、ゼディも話した。
最初の水が自分だったこと。
助けようとして失敗したこと。
怖くなって逃げたこと。
シルフィは、既に魔術の違いから半分ほど気付いていたらしい。
ルディの水は丸く、必要な場所だけへ飛ぶ。
ゼディの水は広がり、風と一緒に来る。
そう言った。
少し誇らしくなった。
俺の魔術を見分けてくれていたから。
同時に、少し悔しかった。
ゼディの魔術まで、きちんと見ていたから。
本当に、俺の嫉妬は忙しい。
シルフィはゼディへ、黙っていたことには怒っていると言った。
それでも、次は逃げないでほしいと手を差し出した。
俺も、その手へ自分の手を重ねた。
「僕はまだ怒っています」
隠さずに言った。
ゼディは謝った。
シルフィが笑った。
俺も笑った。
許すことは、なかったことにすることではない。
怒ったままでも、隣に立つことはできる。
信じることは、相手が絶対に失敗しないと思うことではない。
失敗した時、話してくれると信じることだ。
ゼディが教えてくれた。
……いや、ゼディが失敗し、俺たち三人でやり直したから、分かった。
◇
その翌日。
ゼディは俺とシルフィを庭へ呼び止めた。
妙に真剣な顔で、頭を下げた。
「俺にも、無詠唱を教えてほしい」
驚いた。
心底、驚いた。
「ゼディ、無詠唱を使えなかったんですか?」
言ってから、少し失礼だったかもしれないと思った。
だが、本当に知らなかったのだ。
ゼディは先生の火魔術や治癒魔術を一度見て真似した。
剣も、父様の動きを見て覚える。
俺が何時間も考えて作った水球の飛ばし方を、別の属性と組み合わせて自分の形へ変える。
あいつは、見ればできる。
勘で分かる。
だから無詠唱も、使わないだけだと思っていた。
違った。
ゼディは試してすらいなかった。
俺が特別だからできる。
自分は詠唱で使えるのだから、それでいい。
いつの間にか、そう決めていたらしい。
俺と同じだと思った。
ゼディは俺を見て、自分にはできないと決めた。
俺はゼディを見て、自分には何も勝てないと決めていた。
お互い、随分と勝手である。
そんなこんなで、ゼディに無詠唱魔術を教えることになった。
最初は水で試した。
できなかった。
ゼディは、魔力を動かすところまでは早い。
だが、詠唱という合図がないと、魔力を術の形へ変えるところで止まる。
「いつも、どうやって魔術を使っているんですか?」
「出すと思ったら出る」
「それでは分かりません」
以前、俺がゼディに剣を教わった時と同じ会話だった。
あいつは剣のことになると、「見て」「感じて」「今」としか言わない。
俺は魔術を細かく分けられるが、無詠唱だけは当たり前すぎて説明できない。
先生が、俺たち二人を教える時に苦労した理由が少し分かった。
何度試しても、水は出なかった。
ゼディの顔が険しくなる。
シルフィは昨日できた。
俺はずっとできている。
自分だけが遅い。
そう言った。
ほんの一瞬だけ。
本当に、ほんの一瞬だけ。
安心した。
ゼディにも、できないことがある。
俺にしか教えられないことがある。
醜い喜びだった。
その直後、自己嫌悪が来た。
シルフィが成功した時に感じたものと、同じだ。
俺は弟に追いついてほしくないのか。
できないまま、自分を必要としてほしいのか。
以前なら、答えを誤魔化したかもしれない。
だが、ゼディは俺が悔しがっていることを、笑わずに見つけた。
今度は俺が、同じことをする番だった。
「僕やシルフィより遅いことが嫌なんですか?」
ゼディは、しばらく黙った後、頷いた。
自分は見ることや真似することは得意だ。
けれど、何もないところから形を作る感覚は、俺やシルフィほど鋭くない。
そう認めた。
なら、水にこだわる必要はない。
ゼディが一番作りやすいもの。
火。
熱。
剣を握る時のように、余計なことを考えず、一つだけを見る。
指先に、小さな火が生まれた。
ゼディより先に、シルフィが喜んだ。
俺も笑った。
さっき感じた安心は、もうなかった。
代わりに、自分の言葉が弟へ届いたことが嬉しかった。
ゼディは、それから毎日練習した。
できる日もあれば、できない日もある。
焦れば失敗する。
誰かへ見せようとすると、形が崩れる。
実戦なら、短い詠唱を使った方が早い。
それでも、やめなかった。
そして、できない日は俺へ聞いた。
教えれば、次の日にまた試した。
いつの間にか、俺はゼディが失敗しても安心しなくなった。
成功すれば、素直に嬉しかった。
あいつが無詠唱を使えるようになっても、俺の場所はなくならなかったからだ。
次は何を試すか、一緒に考えることができた。
必要とされるために、相手ができないままでいる必要はない。
シルフィへ言った言葉を、ゼディが証明してくれた。
◇
ゼニスの妊娠が分かった時、家中が明るくなった。
パウロは落ち着きをなくし、ゼニスが水桶へ触れただけで取り上げた。
ゼニスに怒られていた。
翌日は少し我慢した。
だが、ゼニスが椅子から立つと、やはり腰へ手を回そうとした。
また怒られていた。
パウロは剣術に関しては得意だが、こういう時には驚くほど学習が遅い。
ゼディはゼニスの腹へ手を当て、自分がお兄ちゃんだと名乗った。
「ゼディは、僕の弟でしょう」
「赤ちゃんから見たらお兄ちゃんだよ」
その通りだった。
俺も隣へ手を置いた。
まだ動きは分からない。
けれど、そこに新しい家族がいると言われると、手のひらが温かくなった気がした。
弟か。
妹か。
俺たちに似るのか。
魔術を使うのか。
俺が魔術を教え、ゼディが剣術を教える。
そんな先のことまで考えた。
……平和だった。
その数日後。
リーリャも妊娠していると分かった。
俺は、パウロの顔を見た瞬間に事情を察した。
前世で得た、ろくでもない方面の知識が役に立った。
できれば一生、役に立たなくてよかった知識である。
ゼニスがパウロの頬を打った。
リーリャが床へ膝をついた。
パウロは何も言えなくなった。
家が壊れる。
そう思った。
前世の俺は、自分の部屋へ逃げた。閉じ籠った。
閉じた扉の向こうで、誰かが何とかしてくれるのを待った。
今度はできなかった。
リーリャが追い出されれば、腹の子まで危険になる。
だが、ゼニスが傷ついていることも分かる。
正しい答えなど、どこにもなかった。
俺は考えた。
危険。
責任。
立場。
パウロが家の主人で、リーリャを雇う側で、結婚している大人だったこと。
赤ん坊には何の責任もないこと。
ゼニスが今すぐパウロやリーリャを許す必要はないこと。
一つずつ、順番に話した。
理屈なら組み立てられる。
前世三十四年分の言葉がある。
けれど、ゼニスの顔は動かなかった。
正しい言葉は、正しいだけでは人を救わない。
俺の理屈はゼニスの逃げ道を塞ぐ。
ゼニスを傷つけてしまっているかもしれない。
リーリャを追い出せば、赤ん坊を危険へ晒した人になる。
そう思わせる。
分かっていた。
それでも、他の方法を思いつかなかった。
その時、ゼディが口を開いた。
「母様の赤ちゃんも、リーリャの赤ちゃんも、俺の弟か妹でしょ?」
ただ、それだけだった。
俺とゼディのように、二人ともこの家で大きくなるのではないか。
リーリャがいなくなれば、その子もいなくなる。
それは嫌だ。
ゼディは、子供の言葉で言った。
俺には言えない言葉だった。
俺は見た目こそ六歳でも、中には前世の記憶がある。
純粋に分からないとは言えない。
大人の事情を知った上で、知らない子供のふりをすることはできる。
だが、それは嘘になる。
ゼディの言葉は違った。
本当に、まだ会ってもいない兄弟と離れたくなかった。
同時に、その言葉ならゼニスへ届くと分かっていた。
シルフィへ最初の水を告白した弟は、以前より自分の気持ちを見るようになっていた。
純粋さだけではない。
打算だけでもない。
二つが混ざっていた。
俺はそれを、少し怖いと思った。
人を助けるためなら、届く言葉を選ぶ。
それは必要なことだ。
けれど、正しさのために誰かの心を動かすことへ慣れすぎれば、パウロとは別の形で人を傷つけるかもしれない。
おそらく、俺も同じだった。
俺の理屈にも打算があった。
ゼディの言葉にもあった。
だから、その夜、俺たちはゼニスの部屋へ行った。
言葉を選んだこと。
ゼニスが反対しにくくなると分かっていたこと。
二人で告白した。
ゼニスは怒鳴らなかった。
子供だから何も分からないと思っていたわけではない、と言った。
それでも、正直に話したことは覚えておくとも。
それから、将来結婚することがあれば、今日のパウロのような真似だけはするなと念を押された。
俺は頷いた。
ゼディも頷いた。
あいつは何やら、やけに強い決意を顔へ浮かべていた。
誰を思い浮かべたのかは知らない。
俺の場合は、心当たりが多すぎた。
ロキシー。
シルフィ。
前世で画面越しに見た、数多の女性たち。
……最後のものは数に入れない方がいいだろう。
ともかく、パウロのようにはなるまいと誓った。
家族会議が終わっても、全てが元通りになったわけではない。
ゼニスはパウロを許していない。
リーリャも以前のようには笑わない。
パウロだけは居間で寝た。
だが、リーリャの靴は玄関に残った。
ゼニスの腹にも、リーリャの腹にも、新しい命が残った。
俺の理屈だけでは足りなかった。
ゼディの気持ちだけでも、届かなかったかもしれない。
二人で話したから、家族をその場へ残せた。
あの日から、俺はゼディを単に守るべき弟とは思わなくなった。
もちろん弟であることは変わらない。
危ないことをすれば止める。
泣けば気にかける。
褒められれば、自分より先に行かれた気がして悔しい。
だが、俺一人で答えを出せない時、隣にいてほしい相手になった。
俺の言葉が固すぎる時、あいつが人の顔を見る。
あいつが気持ちだけで飛び出す時、俺が順番を作る。
兄と弟。
それだけではない。
二人で一つ、という意味でもない。
一人ずつでは足りないところへ、別々のものを持ち寄れる相手。
そんな信頼が、少しずつできていた。
◇
ノルンとアイシャが生まれた日。
俺は、自分が何も知らないことを思い知った。
出産について、前世の知識はある。
赤ん坊が母親の腹から生まれること。
大変な痛みがあること。
時には母親や子供が亡くなること。
知識としては知っていた。
だが、閉じた扉の向こうからゼニスの声が聞こえることが、あれほど怖いとは知らなかった。
血のついた布を見た時。
ゼディの指先で火花が散った。
無詠唱を失敗したのだ。
冷静でなければ使えない。
あれほど練習しても、怖さ一つで順番が崩れる。
ゼディは、自分が失敗したことにも気付かない顔をしていた。
俺はあいつの前へ立った。
「まだ、何も決まっていません」
以前、あいつが俺へ言ったのと似た言葉だった。
分からないまま、最悪を決めない。
それでも、産婆が治癒魔術を使える者を求めた時、足が震えた。
俺たちの魔術が必要だ。
失敗すれば、ゼニスか赤ん坊が死ぬかもしれない。
魔術に関しては、俺の方が上手い。
そう思っていた。
思うことで、自分の場所を守ってきた。
なのに、治癒魔術だけは違った。
俺は治癒を無詠唱で使えない。
細かな加減も、ゼディの方が早い。
パウロがそれを口にした時、胸の奥で小さな棘が動いた。
……こんな時にまで。
ゼニスが苦しんでいる時にまで、俺は弟と比べるのか。
自分が嫌になった。
だが、嫌になっている時間すら惜しかった。
「治癒魔術は、僕よりゼディの方が早いし、制御が上手いです」
認めた。
声にすることで、棘が消えることはなかった。
それでも、役割は決まった。
俺は魔力量が多い。
詠唱し続け、ゼニスの痛みと消耗を抑える。
ゼディはゼニスの呼吸を見て、必要な瞬間に強さを変える。
俺が長く支える。
ゼディが細かく合わせる。
ゼニスの左手を、二人で握った。
震えているのが自分の手か、ゼディの手か分からなかった。
やがて、泣き声がした。
小さな声。
なのに、部屋のどんな音より大きく聞こえた。
ノルンが生まれた。
俺は泣かなかった。
少なくとも、自分ではそう思っている。
目の周りが濡れていたのは、汗だろう。
たぶん。
ゼディは明らかに泣いていた。
いつもなら指摘してやるところだが、俺も似たような顔だったのでやめた。
だが、その日には続きがあった。
ノルンが生まれて間もなく、リーリャの出産も始まった。
ゼディは、俺へゼニスのところに残ってもいいと言った。
ゼニスの娘は、俺とゼディの妹。
こちらはリーリャの娘。
あいつの言葉は、そこで止まった。
同じだと言いたい。
けれど本当に同じように感じているか、自信がなかったのだろう。
俺にも迷いはあった。
ゼニスを裏切った出来事から生まれる子。
ゼニスは、どう思うのか。
俺は、その子を同じ妹と思えるのか。
だが、リーリャは一人だった。
生まれようとしている子にも、俺たちしかいなかった。
「こっちも、僕たちの妹です」
俺は言った。
言葉にしてから、そう思おうと決めたのか。
最初からそう思っていたのか。
今でも分からない。
けれど、アイシャが生まれ、小さな身体へ治癒魔術を使った時。
そんな区別は消えた。
泣いてほしかった。
息をしてほしかった。
リーリャにも目を開けてほしかった。
それだけだった。
アイシャの弱い泣き声が聞こえた時。
ゼディの膝から力が抜けた。
俺は腕を掴んだ。
あいつは、何度も「妹」と呟いた。
後で二人を並べた。
ノルンはゼニスから生まれた。
アイシャはリーリャから生まれた。
同じ日に生まれた。
大きさも、泣き声も、顔も違う。
それでも、俺たちの妹だった。
夜。
ゼディが言った。
「俺、二人を守る」
続けて、俺のことも守ると言った。
正直に言えば、少し腹が立った。
兄である俺が、弟に守られる。
前世では、誰かに守られるどころか、世話を掛け続けた。
今世では、俺が守る側になりたかった。
ゼディにまで守られると言われれば、自分がまた何もできない人間へ戻るような気がした。
だから言った。
「ゼディだけが守る側のように言うのは、嫌です」
俺もゼディを守る。
俺が怖くて動けない時は、ゼディが隣にいる。
ゼディが考えずに飛び出す時は、俺が止める。
ノルンとアイシャは、二人で守る。
あいつは最初、納得しなかった。
自分は自分で守れると言った。
随分な自信である。
一年近く前、水を飛ばして逃げたことを忘れたのか。
そう言いかけたが、さすがに傷口へ塩を塗るのでやめた。
代わりに、一人で全部を背負いそうになった時は言えと約束させた。
ゼディは渋々頷いた。
ノルンを抱けば、アイシャは抱けない。
アイシャを抱けば、俺の手は握れない。
なら、一人ずつ抱けばいい。
交代すればいい。
ゼニスとリーリャもいる。
父様も、まあ、いる。
守る側と守られる側を最初から分ける必要はない。
二人で守る。
必要なら、家族全員で。
その約束を、俺は本気で守れると思っていた。
俺が家からいなくなるのは、それから一年も経たないうちだった。
◇
七歳になった。
ゼディは、父様から剣神流中級を名乗っていいと言われた。
あいつの木剣が父様の肩へ届き、父様の足が半歩下がった。
見ていた俺は、すぐに祝った。
「おめでとうございます、ゼディ」
本心だった。
同時に、木剣を握る手へ力が入った。
悔しかった。
俺も毎日剣を振っていた。
最初より速くなった。
父様に転ばされる回数も減った。
それでも中級とは認められない。
魔術なら俺が先にいる。
そう思えば耐えられたはずだった。
だが、その魔術も伸び悩んでいた。
水球は十個作れる。
形は揺れない。
初級魔術なら複数を同時に使える。
できることは多い。
それなのに、昨日と同じだった。
ロキシーがいない。
聖級より先の術式を教える者もいない。
魔力を増やそうとしても、以前ほど分かりやすく増えない。
シルフィは三つの水球を動かせるようになった。
ゼディは苦手だった無詠唱を少しずつ安定させ、剣では中級になった。
俺だけが、昨日できたことを綺麗に繰り返している。
前世の記憶が囁いた。
ここが限界なのではないか。
最初だけは上手くいく。
周囲より先に始めただけで、才能があると勘違いする。
やがて本当に才能のある者へ抜かれ、言い訳を始める。
前世の俺が、何度も歩いた道だった。
ゼディが中級になったことは嬉しい。
それでも、あいつが進んだ分だけ、自分が置いていかれたように感じる。
弟に失敗してほしいとは、もう思わなかった。
代わりに、隣へ追いつけないことが怖くなった。
嫉妬が消えたわけではない。
形が変わったのだ。
以前の俺は、ゼディに後ろへいてほしかった。
今の俺は、一緒に進みたい。
だから先へ行かれると、悔しい。
その日の稽古で、俺は父様へ何度も打ち込んだ。
全部受けられた。
最後には木剣を飛ばされた。
父様は、焦るなと言った。
ゼディはゼディだ、とも。
正しい。
ロキシーがいれば、きっと同じふうに言っただろう。
正しい言葉ほど、落ち込んでいる時には腹が立つ。
稽古が終わった後、ゼディが声を掛けてきた。
「ルディ。さっきの父様の足、見てた?」
「見ていました」
少し冷たい返事になった。
慰められると思ったからだ。
ゼディは気にせず、地面へ線を引いた。
父様が次へ動く直前、足先の向きが僅かに変わる。
肩より先に、腰が沈む。
自分はそこを見て振り方を変えた。
そう説明した。
「僕に教えて、いいんですか」
「どうして?」
「僕ができるようになれば、ゼディだけの強みではなくなります」
ゼディは首を傾げた。
「ルディも中級になりたいんでしょ?」
それだけだった。
余裕を見せたわけでもない。
兄を憐れんだわけでもない。
俺が進みたいから、自分が見つけたものを渡した。
以前の俺なら、それすら自慢に見えたかもしれない。
今は違った。
俺は地面へしゃがみ、詳しく聞いた。
ゼディは説明が下手だった。
足がこうなって、身体がああ動いて、ここで行く。
擬音が多い。
何度か実際に動いてもらい、俺が順番を言葉にした。
結局、その日だけでは身につかなかった。
それでも、昨日まで見えなかったものが一つ見えた。
ゼディが先へ進んだことは、俺の道が閉じたことではない。
あいつが見つけた道を教わることもできる。
俺が見つけたものを、あいつへ返すこともできる。
一人なら壁。
二人なら、片方が上から手を伸ばせる段差になる。
そう思い始めた頃、父様が学校の話をした。
ロアの学校。
さらに北にある、ラノア魔法大学。
世界中から魔術師が集まる場所。
知らない術を知る者がいる。
読んだことのない本がある。
胸が熱くなった。
同時に、シルフィの顔が浮かんだ。
俺が行けば、シルフィは一人になる。
シルフィへ学校の話をすると、彼女は服をつかんだ。
どこにも行かないで。
泣きながら言った。
俺は、勝手には行かないと約束した。
シルフィが安心した。
俺も安心した。
これで行かない理由ができた。
伸びなくても、シルフィのためだと言える。
新しい場所が怖くても、約束を守るためだと言える。
そう思ってしまうことへの重大さに俺は気付いていなかった。
ゼディは気付いていた。
何も言わなかったが、俺とシルフィを見る目が曇っていた。
その翌日、ロキシーから手紙が届いた。
ロキシーはシーローン王国で王子の家庭教師をしていた。
水王級魔術を修得した。
水聖級になった時、自分の限界はここまでかもしれないと思った。
それでも場所を変え、知らない人と本に出会えば、まだ先があった。
その言葉は、今の俺へ向けて書かれたようだった。
もっとも、手紙には感動だけでは済まない部分もあった。
俺がロキシーの着替えを覗き、下着を盗んだこと。
ゼディが卒業試験の前、ロキシーの胸へ触れたこと。
二年ぶりの手紙で、なぜそこを並べるのか。
ロキシーにも言いたいことはある。
だが、先にゼディが俺を見た。
「ルディ」
「何ですか?」
「先生のパンツ、盗んだの?」
「……ゼディは、先生の胸を触ったんですね」
「質問に答えて」
「ゼディも答えていません」
「俺のは事故だよ。馬の上で先生に寄りかかったら頭が当たっただけ」
「先生は『触れてきた』と書いています」
「先生も、分かっててからかってるだけだよ!ルディは自分から盗んだんでしょ?」
「魔族の衣服文化に関する、純粋な学術的好奇心です」
「返したの?」
「厳重に保管しています」
「返してないじゃん!」
「では、ゼディは触った胸を返したんですか?」
「胸は取れてないよ!」
「なら、どちらも現状維持ということで」
「一緒にするな!」
二人で黙った。
ロキシーは遠い国から、俺たちを同時に叱ることへ成功した。
水王級魔術より高度な技かもしれない。
それはともかく……。
手紙を読み終えた夜、俺はゼディへ相談した。
ラノア魔法大学へ行きたい。
シルフィも連れていきたい。
ゼディなら賛成してくれる。
そう思っていた。
あいつは俺が魔術を学びたいと言えば、止めない。
シルフィと離れたくない気持ちも分かってくれる。
つまり俺は、相談と言いながら、賛成を求めていた。
ゼディは、すぐに頷かなかった。
「シルフィも行きたいって言ったの?」
聞かれた。
「一人にしないと約束しました」
「シルフィは、ルディに行かないでって言った。でも、魔法大学へ行きたいとは言ってない」
腹が立った。
俺がシルフィを助けなければ、彼女はまた虐められるかもしれない。
学費だって出せない。
俺が考えなければならない。
そう言おうとした。
ゼディは遮った。
シルフィは魔術を使える。
文字も読める。
以前より人と話せる。
俺が教えたからこそ、もう最初に出会った時のままではない。
それを決めるのは俺ではない、と。
正しかった。
また、正しい言葉だった。
そして、正しいから腹が立った。
俺はシルフィを守りたい。
それは本当だ。
だが、守ることを理由に、彼女の選ぶ権利まで自分のものにしようとしていた。
シルフィが俺を必要としなくなることを怖がっていた時と、何も変わっていない。
必要とされたい。
だから、必要とされる状況を自分で作ろうとする。
ゼディは、俺が見たくなかったところを見つけた。
俺は、シルフィに自分で選んでもらうと約束した。
そこで話が終わっていれば、パウロがしたことも少しは変わっただろうか。
ゼディは続けた。
「俺も、ラノアで魔術を勉強してみたい」
剣術の修行もしたい。
父様より強い者がいる場所へ行ってみたい。
そう言った。
胸が軽くなった。
ゼディも一緒なら大丈夫だ。
シルフィが自分で望み、ゼディも来るなら、俺は間違っていない。
俺は都合よく受け取った。
最初に向けられた疑問より、最後にもらった賛成だけを大切にした。
それが、信頼だったのか。
今になって思う。
半分はそうだった。
残りの半分は、甘えだった。
ゼディなら最後には俺の味方をする。
俺が間違っていても、一人にはしない。
その信頼を、俺は自分の考えを正しいことにするため使った。
パウロは、それを見ていた。
学費を頼んだ時。
仕事を紹介してほしいと言った時。
パウロはゼディへ、俺が危険な仕事を選んでも手伝うのか、間違っていても味方をするのかと聞いた。
ゼディは迷った。
それでも、俺の隣にいると答えた。
俺は嬉しかった。
パウロがなぜ苦い顔をしたのか、その時は分からなかった。
◇
仕事が見つかったと知らされた日。
俺は、パウロと話し合うつもりだった。
条件を聞く。
遠すぎるなら別の仕事を探す。
シルフィへ会えないなら、手紙を送れる場所にする。
こちらにも希望がある。
パウロも、最終的には理解する。
そう思っていた。
パウロは言った。
説明すれば、俺は断る。
俺やゼディは口で相手を言いくるめる。
話し合うことを言いくるめるとは言わない。
そう返した。
パウロは困ったように笑った。
「悪いな。俺は、お前たちほど口が上手くねえ」
その直後だった。
ゼディが、俺の名前を叫んだ。
パウロの木剣が首へ迫っていた。
考えるより先に、魔術を使った。
水。
風。
二つを同時に強めの威力で弾けさせる。
爆風でパウロを止めるつもりだった。
近すぎた。
俺の身体まで後ろへ飛んだ。
地面へ背中を打つ。
息が詰まる。
それでもパウロは止まらない。
舞い上がった土と水……泥と言った方が近いものの間から、真っすぐ俺へ来る。
だが、横から木剣が入った。
ゼディだった。
パウロの剣を受ける。
腕ごと弾かれる。
脇を蹴られ、地面へ転がる。
「ゼディ!」
手を向けた。
パウロの次の足元を、小さく沈める。
俺へ来るはずだった身体が、僅かに傾いた。
その先へゼディが走った。
あいつはパウロの足を見る。
俺は地面を見る。
次にどこへ足を置くか。
ゼディが教えてくれたばかりの動きだった。
俺は、その場所へ土壁を作った。
パウロの視界が切れる。
ゼディは壁の横へ回る。
パウロが壁を蹴り壊す。
砕けた土の向こうから、ゼディの木剣が出る。
「だから二人にしたくなかったんだよ!」
パウロが叫んだ。
俺は、その言葉の意味を考える余裕がなかった。
ゼディの剣が流される。
前へ崩れた身体の下を泥へ変える。
あいつは倒れず、片手をついて滑った。
そのままパウロの横を抜ける。
空いた場所へ、水球を飛ばす。
一つ目は避けられた。
二つ目を、避けた先へ置く。
パウロの頬を掠めた。
「ゼディ、右です!」
「分かった!」
それだけで通じた。
俺が距離を取る。
ゼディが近づく。
パウロが俺を追えば、ゼディが背後へ入る。
ゼディの剣を受ければ、俺が足元を変える。
相談して決めたわけではない。
合図もほとんどない。
七年間。
同じ庭で、同じ相手と、何度も倒された。
俺が何をしようとしているか、ゼディは分かっていた。
ゼディがどこへ行きたいか、俺にも分かった。
それまでの俺は、弟に追いつかれることを恐れていた。
追い越されれば悔しかった。
自分だけができることを、取られたくなかった。
だが、あの時ーー、ゼディが俺の魔術を利用して前へ出るたび、嬉しかった。
俺の作った一瞬が、あいつの剣へつながる。
あいつがパウロを振り向かせた一瞬で、次の術を作れる。
競うことと、並んで戦うことは別ではなかった。
互いに強いほど、二人で選べる手が増える。
初めて、そう実感した。
パウロが間へ入った。
近い。
大きな魔術は使えない。
俺は肩で突き飛ばされた。
ゼディが割り込み、パウロの木剣を受ける。
膝が地面へ落ちた。
「ルディ、逃げて!」
「ゼディを置いていけません!」
本気だった。
あいつが俺を置いて逃げないように、俺も逃げたくなかった。
パウロの顔が歪んだ。
「ほらな!お前らは、そう言うんだよ!」
木剣が弾かれる。
パウロが俺へ踏み込む。
今度こそ間に合わない。
そう思った。
ゼディの身体から、何かが広がった。
魔力とは違う。
目では見えないはずなのに、輪郭だけが濃くなったように感じた。
地面が砕ける。
いつもなら三歩かかる距離を、ゼディは一歩で進んだ。
パウロの剣と俺の間へ木剣を差し込む。
受け止めた。
今まで何度も押し負けた剣を。
反対に押し返した。
パウロが一歩下がる。
俺は息を忘れた。
ゼディの剣が速くなる。
肩。
脇。
手首。
パウロが受ける。
下がる。
三撃目が袖を裂いた。
「ルディ、今!」
我に返った。
風を集める。
パウロの背後。
強く押せば、さっき作った泥へ落とせる。
転んだところを土で固める。
それで動きを止められる。
勝てるとは思わなかった。
だが、止められると思った。
逃げる時間を作れる。
二人なら。
俺の魔術と、ゼディの剣なら。
これから先、もっと強くなれる。
パウロより。
いつか、ロキシーが話してくれた魔物より。
知らない場所で待つ、どんな相手より。
俺が考え、ゼディが走る。
ゼディが見つけ、俺が形にする。
二人なら、どこへでも行けるのではないか。
ほんの一瞬……そんな未来が見えた。
パウロが門を見た。
「まずい!ギレーヌ!」
馬車の扉が開いた。
見知らぬ褐色の女が、庭へ入ってくる。
女の手が大剣の柄へ触れた。
光が走った。
次の瞬間。
ゼディの手から木剣が消えていた。
遅れて、庭の端で何かが砕ける音がした。
「ゼディ!」
俺は叫んだ。
集めていた風が崩れる。
パウロが横を抜けた。
ゼディは空になった手を伸ばす。
俺も魔術を放とうとした。
しかし、首へ衝撃。
視界が傾く。
最後に見えたのは、こちらへ来ようとするゼディだった。
二人なら強くなれる。
たった今、生まれたばかりの未来は、そこで途切れた。
◇
馬車が大きく揺れた。
俺の意識は、過去から幌の中へ戻る。
向かいにはギレーヌ。
俺の手足には縄。
ゼディはいない。
「戻してください」
言った。
「できない」
ギレーヌは即答した。
「これは誘拐です」
「パウロは父親だ」
「父親なら、何をしてもいいわけではありません」
「それは私もそう思う」
意外な返事だった。
ギレーヌは腕を組んだまま続ける。
「だが、私は仕事を受けた。お前をロアまで連れていく」
「僕が逃げようとしたら?」
「止める」
「魔術を使っても?」
「止める」
大剣へ視線を向ける。
ゼディの剣を弾いた一撃。
俺には、抜いたところすら見えなかった。
今の俺では勝てない。
馬車ごと壊すことはできるかもしれない。
だが、御者も馬もいる。
横転すれば、自分も無事では済まない。
ゼディならどうする。
そう考えて、苦くなった。
また弟を答えに使おうとしている。
俺が決めなければならない。
ギレーヌが懐へ手を入れた。
折り畳まれた紙を取り出す。
「パウロからだ」
「父様から?」
「声に出して読め」
「僕への手紙ですよね」
「私は字が読めん。私にも関係があると聞いた」
俺は手を動かそうとした。
縛られていた。
「このままでは読めません」
ギレーヌは少し考え、俺の身体を起こした。
縄は解かず、紙を目の前へ広げる。
何とも間抜けな読み方である。
パウロの字は、ところどころ大きさが違った。
書き直した跡もある。
俺は息を吸った。
「『ルディへ』」
声に出す。
「『これを読んでいる頃、お前は俺を相当恨んでいるだろう。殴ったことについては先に謝る。悪かった』」
謝れば済むと思っているのか。
思わず読むのをやめそうになった。
だが、ギレーヌが、続けろという顔をする。
「『仕事は、フィットア領の城塞都市ロアにあるボレアス家での家庭教師だ。教える相手はエリス・ボレアス・グレイラット。お前より二つ年上の娘で、読み書き、算術、魔術を教えてほしい』」
エリス。
知らない名前だった。
「『ギレーヌは剣王だ。俺より強い。道中とロアで、お前の護衛と剣術の先生をする。その代わり、お前はギレーヌへ読み書きと算術と魔術を教えろ』」
俺は紙越しにギレーヌを見た。
ギレーヌは真剣に頷く。
……どうやら冗談ではないらしい。
「『期間は五年。途中でブエナ村へ帰ることは認めない。シルフィとの手紙のやり取りもさせない』」
声が止まった。
「続けろ」
ギレーヌが言う。
「……『五年勤め上げれば、報酬はお前とシルフィがラノア魔法大学へ通う学費になる。毎月の給料も別に出る。使い道は自分で考えろ』」
俺が求めたものだった。
仕事。
学費。
剣術の先生。
知らない場所で魔術を教える経験。
条件だけを見れば、断る理由はない。
……五年、家へ帰れないことを除けば。
シルフィと連絡も取れないことを除けば。
ゼディや、ノルンやアイシャの成長を見られないことを除けば。
紙の続きへ目を向けた。
「『ここからが、お前を殴ってまで送った理由だ』」
文字が少し濃くなっていた。
何度も筆へ力を入れたのだろう。
「『お前とシルフィは、互いを大切にしている。それ自体を悪いとは思わない。だが今のお前は、シルフィを守ると言いながら、あの子が自分で立てるようになるほど不安になる。シルフィも、お前がいなくなることを怖がり、自分の行き先をお前へ預け始めている』」
胸が痛んだ。
ゼディに言われたことと同じだった。
「『ゼディは、そのことへ最初に気付いた。お前へシルフィ自身に選ばせろと言ったそうだな。そこまではよかった』」
次の一行が見えた。
読みたくなかった。
「『だが、最後には自分も一緒に行くと言った。お前が間違っていても、一人にはしないと言った。あいつは家族を大事にしすぎて、家族が望むことを全部自分の荷物にしようとする。お前は、そんなゼディが最後には味方をすることへ甘え始めている』」
反論が浮かんだ。
ゼディは自分で決めた。
魔術も剣術も学びたいと言った。
俺が強制したわけではない。
それは本当だ。
だが、その前。
俺は最初から、ゼディなら賛成すると決めて相談した。
反対されれば苛立った。
最後に賛成されると、それまでの疑問を忘れた。
パウロの字が滲んだように見えた。
馬車の揺れのせいだ。
「『三人まとめてラノアへ送れば、今の関係を別の場所へ運ぶだけになる。お前には、シルフィを理由にせず、自分で選び、自分の力で五年を過ごしてほしい。シルフィにも、お前のいない場所で自分の望みを見つけてほしい。ゼディにも、家族の手を取ることと、何でも一緒に背負うことは違うと学んでほしい』」
紙の端が震えた。
俺の息で動いているのか、ギレーヌの手が揺れているのか、分からない。
「『話し合わなかったのは、お前が言葉を重ねれば、俺が迷うと思ったからだ。シルフィを泣かせたくないと言われ、ゼディまで横からお前を支えれば、最後には折れる。父親として必要だと思ったことを、上手く説明し切る自信がなかった』」
そこで一度、文章が途切れた。
次は少し小さな字だった。
「『だから力を使った。これは判断ではあるが、正しいやり方だったとは思っていない。お前たちと話すことから、俺が逃げた。悪かった』」
パウロが、自分から逃げたと書いている。
珍しい。
だからといって、怒りが消えるわけではない。
俺は縛られ、家から離れている。
話し合いの機会を奪われた。
シルフィへ自分で別れを伝えることもできなかった。
ゼディとの約束も、パウロの都合で破らされた。
正しい理由があれば、間違った方法まで正しくなるわけではない。
その考えが浮かんだ時、ゼディなら、同じことを言う気がした。
手紙は、もう少し続いていた。
「『お前は俺より頭がいい。魔術も、七歳の俺では比べものにならない。だが、頭がいいことと、自分の弱いところを正当化しないことは別だ。五年で全部直せとは言わない。俺にもできていない。ただ、知らない場所で、自分が何を選ぶのか考えろ』」
最後。
「『仕事をやり遂げて、自分の金で魔法大学へ行け。五年後、お前がそれでもシルフィと一緒に行きたいなら、その時は胸を張って誘えばいい。ゼディの隣に立ちたいなら、あいつが手を差し出す前に、自分の足で帰ってこい。父、パウロ・グレイラット』」
読み終えた。
馬車の車輪が土を踏む音だけになる。
ギレーヌは黙っていた。
俺も何も言えなかった。
しばらくして、ギレーヌがもう一枚の小さな紙を出した。
「出る直前に渡された」
先ほどより、さらに乱れた字だった。
ゼディとの戦いの後、急いで書いたのだろう。
「『追伸。ゼディは無事だ。お前を止めようとして、初めて闘気を纏った。俺の袖を斬ったぞ。とんでもない奴だ』」
あの力は、闘気というらしい。
剣士が身体を強くする力。
ゼディは、俺へ届くために初めて使った。
胸が熱くなる。
嬉しいと言っていいのか分からなかった。
あいつが強くなったことは嬉しい。
そのきっかけが、俺を奪われる恐怖だったことは嬉しくない。
「『俺がしたことを正しいと言い張るつもりはない。目を覚ましたゼディには、俺から全部話して謝る。シルフィにも、お前が自分から約束を破ったわけではないと伝える』」
パウロの言い分を理解することと、許すことは別だ。
腹を立てたままでも、考えることはできる。
ゼディも、きっと簡単には許さない。
理由に分かるところがあっても、今日のことまで綺麗にはしない。
そういう弟だ。
「『ノルンとアイシャにも、お前のことを忘れさせるつもりはない。ゼディはたぶん、お前の分まで兄をやろうとする。帰った時には、まず一人で二人分になるなと叱ってやれ』」
声が掠れた。
ノルンとアイシャ。
まだ俺の名前を呼べない。
立つこともできない。
五年後には、走っているだろう。
言葉も話すだろう。
俺を、手紙や家族の話でしか知らないかもしれない。
ゼディは、二人を抱く。
俺がいない分まで。
あの日、一人で全部を守らないと、約束した。
俺は自分の意思で破ったわけではない。
それでも、あいつを一人残したことは変わらない。
申し訳なかった。
寂しかった。
そして、少しだけ安心もした。
ゼディがいる。
ゼニスもリーリャもいる。
パウロも、今は腹が立つが、妹たちを大事にするだろう。
俺がいなくても、家族はすぐには壊れない。
そう考えた自分へ、また胸が痛んだ。
必要とされなくなるのが怖かったはずなのに。
自分がいなくても大丈夫だと思えることは、こんなにも寂しく、同時に救いになる。
「続きは?」
ギレーヌが聞いた。
「これで終わりです」
「そうか」
紙が畳まれる。
俺は目を閉じた。
パウロは正しい。
そんな簡単な話ではない。
パウロは間違っている。
それだけでもない。
俺とシルフィが互いへ寄りかかり始めていたこと。
ゼディが俺の考えへ疑問を持ちながら、最後には一緒に背負おうとしたこと。
俺がその優しさへ甘えたこと。
そこは認めなければならない。
俺はまた、知らない場所へ進む理由より、今の場所へ残る理由を探していた。
前世と同じように。
違うのは、今度は綺麗な名前をつけていたことだ。
シルフィを守るため。
約束を守るため。
ゼディと一緒にいるため。
全部、本当の気持ちだ。
だが、本当の気持ちなら逃げる理由に使ってもいいわけではない。
ゼディは、最初に止めようとしてくれた。
その後で、一緒に行きたいと言った。
俺が信じるべきだったのは、都合のいい後半だけではなかった。
「ギレーヌさん」
「ギレーヌでいい。さんはいらん」
「そうですか……。ギレーヌ、僕は、逃げれば家へ戻れますか」
「無理だ」
「少しくらい迷ってください」
「私は嘘が下手だ」
パウロと同じことを言う。
嫌な仲間である。
「では、縄を解いてください」
「逃げるのか」
「逃げません」
ギレーヌの片眉が動いた。
「すぐに父様を許すつもりはありません。やり方は間違っていると思います」
「そうか」
「でも、仕事はします」
言葉にすると、胸の奥が痛んだ。
これで本当に、しばらく帰れない。
シルフィへ会えない。
ゼディの隣へも戻れない。
自分で選んだ。
パウロに奪われた選択の中で、残ったものを選んだ。
「五年、家庭教師をします。エリスという子へ文字と算術と魔術を教えます。あなたにも教えます」
「うむ」
「その代わり、僕へ剣術を教えてください」
「約束する」
「五年分、きっちり」
「任せろ」
ギレーヌは俺の後ろへ回った。
縄へ手を掛ける。
「パウロは、お前たちは二人だと厄介だと言っていた」
「褒め言葉として受け取ります」
「私もそう思う」
縄が解けた。
痺れた手を前へ出す。
指を開く。
閉じる。
庭で、ゼディへ伸ばせなかった手だった。
今は、何もつかんでいない。
けれど動く。
……日が落ちれば、俺はこの馬車で眠るのだろう。
ロキシーが家へ来てから、俺とゼディはずっと同じ部屋で眠っていた。
灯りを消した後に話す。
どちらかが眠れなければ、もう片方が起きている。
朝になれば、隣の寝台にいる。
それが四年間続いていた。
今夜、初めて隣にいない。
家では俺の寝台が空になり、ここにはゼディの寝息がない。
五年という時間より先に、最初の一晩が途方もなく長く思えた。
俺はずっと、ゼディを見ていた。
俺より先に歩く弟。
俺の魔術へ追いついてくる弟。
家族から自然に愛される弟。
だから妬んだ。
負けてほしいと思った時もある。
自分の場所を取られると怖がった。
その後、あいつが失敗するところを見た。
嘘をつくところも。
逃げるところも。
できないことへ悔しがるところも。
それでも、もう以前のようには安心しなかった。
俺はゼディに、後ろへいてほしいのではない。
前で俺を引いてほしいだけでもない。
隣にいてほしかった。
嫉妬は消えていない。
これからも、あいつが先に進めば悔しいだろう。
剣で褒められれば、俺も追いつきたいと思う。
俺より上手く治癒魔術を使えば、面白くない日もある。
だが、負けてほしいとは思わない。
俺も強くなりたい。
強くなったあいつの隣に、自分で立ちたい。
家族で話し合った日には、俺の理屈にゼディの言葉が必要だった。
出産では、俺の魔力量にゼディの細かな制御が必要だった。
パウロとの戦いでは、俺の魔術とゼディの剣がつながった。
二人なら強くなれる。
あの一瞬に思ったことは、間違いではない。
ただ、その前に、一人ずつでも立てるようにならなければならない。
ゼディがいなければ何も選べない兄では、あいつの隣に立ったとは言えない。
五年。
長い。
俺たちが生まれてから、今までに近い時間だ。
シルフィの髪は伸びるだろう。
ノルンとアイシャは俺の名前を覚える。呼べる。
ゼディは、きっと剣を振り続ける。
闘気を自分のものにする。
無詠唱も、もっと安定させる。
また先へ行かれる。
悔しい。
なら、俺も進む。
エリスという子へ教える。
ギレーヌから学ぶ。
知らない街で、知らない人と話す。
逃げたくなっても、自分で残る。
五年後、俺は自分の足で家へ帰る。
シルフィへ、勝手にいなくなったのではないと自分で話す。
ノルンとアイシャへ、遅くなったと謝る。
パウロとは、もう一度きちんと喧嘩する。
そしてゼディへ言う。
一人で二人分になろうとするな。
俺の分を勝手に背負うな。
次は、俺にも選ばせろ。
その上で……必要な時は、また一緒に戦おう。
弟で、友達で、競争相手で。
俺が背中を預けたいと思った、初めての相手。
ゼディウス・グレイラット。
兄から見た弟は、もう、嫉妬するだけの相手ではなかった。
俺は初めて、ゼディのいない場所で頑張ることを決めた。