大賢者ホモ・サピエンスの暇潰し 作:普通ではないホモ・サピエンス
剣と魔法の不思議な世界
惑星アケロイト
大陸パンゲアを始めとする幾つかの大陸と広大な海洋を有する惑星。主人公達が暮らす星。周囲には衛星デトロがグルグル回っている。
パンゲア大陸
惑星アケロイト最大の大陸
ヒト族が数多の国を作って日夜覇権を巡って争っている。偶に統一を果たして纏まる事もある
「ネアンデル君。君、私の教えを受けないかい?」
これは、後に大陸を統一した皇帝が皇子だった頃に出会った大賢者。ホモ・サピエンスが開口一番で口にした言葉である。
晩年、皇帝は自身の伝記で当時の事をこう綴っている。
――彼の賢者の教えで祖国は救われた。だが、彼の者は世界に大きな爪痕を残した――
時は蛮暦514年。世界最大の大陸パンゲアは、幾つもの国が乱立する群雄割拠の時代を迎えていた。十数年続く戦争は幾つもの国を滅ぼし、それと同じだけ新興国を生み出している。大陸西部を支配するタール帝国は開戦当初から残る大国ではあったが、隣国との戦争が続いた事で、国力は衰退の一途を辿っていた。皇帝の元には幾つかの領主が敵国に鞍替えしたと言う報告が届き、民草の間では国が滅ぶのではないかと囁かれる程である。そんな最中に第一皇子として生を受けた少年ネアンデルは、運命の出会いを果たす。
色彩豊かな花々が生い茂る宮殿の中庭で魔術書を読みながら魔法の練習をするネアンデルは、視線を感じて振り向いた。
「・・・」
彼は言葉を失った。彼の目の前にいたのは、此方を値踏みする様に見下ろす性別不詳の存在だった。男性とも女性とも取れる中性的な顔にローブを纏う姿は彼の知る宮廷魔術師を思わせるが、彼の知る魔術師よりも遥かに若く見える。しかし、その身に纏うオーラはこれまで見てきた騎士や魔術師と一線を画していた。こちらが言葉に詰まる中、相手は目線を合わせるように腰を下ろすと言葉をかけられた。
自らの教えを受けないか、と。
「いきなり現れて何を言うんですか?それよりもあなたは何処の誰です」
対するネアンデルは、我に返って言葉を返した。不審者を相手に何故ここまで冷静なのか彼自身、理解出来ていなかった。
「おっと!これは失敬。何分、ヒトと話すのは久しぶりでね。まずは自己紹介といこうか。私はホモ・サピエンス。君達ヒトからは賢者と呼ばれている」
「・・・タール帝国第一皇子、ネアンデル・ユリウス・タールです」
ネアンデルは内心、あり得ないと思っていた。
ホモ・サピエンスとは、帝国の歴史を始めとする数多の書物に記されている伝説上の人物の名だからである。遡ること数百年、初代皇帝サヘランの時代の記述に出てきている。また、魔術の歴史の中でも魔術の祖して名前が出て来ている。少なくともこの時代に生きている人間ではない。世襲か、憧れで名乗っているのかの何れだと考えるのが妥当である。が、彼の直感はそのどちらも否定していた。邂逅してからずっと感じている圧倒的な存在感に未熟ながらも感じ取れる魔力。全てが目の前の存在が本物であると認めさせにきている。
「本物・・・で、良いんですよね?魔術の祖にして、サヘラン帝へ助言をしたという伝説の賢者様」
「う~ん、サヘラン君か・・・懐かしいね。彼も君とは違う意味で優秀なヒトだったよ。当時のヒトの倫理観の無さを考えるとその高潔さも含めてね」
初代皇帝の事を君付けで呼び、昨日の事の様に懐かしむ仕草。本物で間違いは無さそうである。
「何故、私なのですか?率直に言って、現在の我が国の置かれている情勢では・・・」
「はい、ストップ。そこまで理解できるのだから君は優秀だよ」
ネアンデルの言葉を指で遮る賢者ホモ・サピエンス。ローブの中から先端に青い水晶のついた杖を取り出すと、そのまま彼の手に握らせる。
「今日はこれにて退散しよう。今渡した杖は常に身につけていなさい。君の助けになる筈さ」
「待ってください。まだ聞きたいことが・・・」
ネアンデルの言葉は最後まで続かなかった。先程まで目の前にいた賢者は、瞬きをする一瞬の内に忽然と姿を消していたからだ。名残として七色に輝く魔力光が、キラキラと漂っていた。
やがて、慌ただしく此方に向かって来る数人の足音が聞こえてきた。宮殿内の守兵と宮廷魔術師達である。特に魔術師は、掛けている眼鏡がズレて落ちそうになっている。
「皇子!ご無事ですか!?」
「先程、未知の魔力反応を感知しました。何か変わった事はありませんでしたか!?」
どうやら賢者は、わざと痕跡を残した様だった。普段、中々見ることない光景を見て、ネアンデルは思わず笑みをこぼした。
「えぇ。愉快な客人が居ましたよ」
後にネアンデル皇子は、ホモ・サピエンスと再会。魔術を始め、様々な事を学ぶ。成人後、彼は自ら戦場に立った。多くの出会いと別れを経験して成長した彼は、齢50歳でパンゲア大陸を統一した。
暦は蛮暦から統一暦に一新された新たな時代の幕を上げた。
その後、ネアンデル帝は統一暦34年に病没し、その子、孫の三代を合わせて黄金の繁栄と呼ばれる事になる。しかし、時が経てば綻びが生じ、統一帝国は幾度かの政変が起こった後、統一暦328年に崩壊した。
我が名はホモ・サピエンス。
ホモが名前で、サピエンスが姓である。
名付け親は見たことがない。
近くにある石にそう掘ってあったので、その通りに名乗っている。
巷のヒトビトからは賢者と呼ばれている。
年齢は良く知らない。自意識を認識してから少なくとも太陽は一億回は昇ったが、それ以降は数えていない。
ある時、やる事がないので色んな事を試していたら、急に手の平から火が吹き出て火傷をした。
ふざけやがって。
お陰で数日は断食をする羽目になった。
まぁ、死なないけど。
またある時は、手から水が出て身に纏っていた服がびしょ濡れになった。その後に手から火を出して濡れた衣類を乾かしたが、加減を間違えて服が焼けた。
ふざけやがって。
お陰で一張羅が無くなって葉っぱ生活を送った。
またまたある時、山岳地帯を飛び跳ねていたら空を飛べるようになった。大空から眺める世界は爽快の一言ですね。それからこの世界は今居る陸地の他に幾つかの小さな島と海洋で構成されている事が分かった。でも空の上は寒すぎて風邪を引いた。
ふざけやがって。
お陰で数日は鼻水が止まらなかった。
あまりにも暇なので暇潰しに各地を放浪する事にした。融通の利かない頭でっかちや紳士な行動を是とする多様性に満ちた者達と出会った。そこで素質のある者達にこれまで学んできた知恵、とりわけ戦いに関する事をを教えてやる事にした。得意不得意が有りながらも皆、飲み込みが早くてビックリした。
まるで私がマヌケみたいに感じて涙が出た。
彼等基弟子達からは感謝され、「賢き者」、賢者と呼ばれる様になった。響きがカッコいいのでこれからは大賢者ホモ・サピエンスと名乗る事にした。
それから更に幾年月もの時が流れた。数百、数千の国の起こりと滅亡を見てきた。中には見所を感じて手を貸すこともあった。時には大陸規模での衰退も起こり、昔の私の様な原始的な生活に戻る事もあった。そんな時期でも私は暇潰しで様々な生物を鍛えた。
親を亡くした雛鳥は立派に巣立って、蛮鶏コカトリス(存命)と呼ばれ、空を舞って威張り散らしていた蜥蜴は再教育して竜神ユグドラシル(存命)と呼ばれる様になった。
群れを追い出された言葉を理解する蝙蝠は後にデーモン(魔王)と恐れられ、叱りつけたら地底(魔界)を開拓して引き篭もった。
暫くは疎遠だったが謝りに行った後は和解した。
そんな事をしていればヒトビトもまた発展してくる訳でして、久々に発展して来た時に見かけた若者にビビッと来まして、少し手解きをした。弟子の頑張りにご褒美をと張り切って戦争に介入し、大陸に運河を作ってしまった時は流石に焦ったが結果として北部と南部の交易が盛んになったので良しとする。
ごめんよ。ネアンデル・タール君。お詫びに期間限定だけど加護をあげるからさ。
登場人物
大賢者ホモ・サピエンス
倫理観がバグってるクズ野郎。偶にまともな事を言うが基本はクズ。星と同等の長さを生きているらしい?
タール帝国
初代皇帝サヘラン
帝国を作った偉い人
統一帝国皇帝ネアンデル・ユリウス・タール
クズ野郎に見つかった少年。後に大成した。
コカトリス
クズ野郎が拾ったヒヨコ。鍛えたら魔物になっちまった。絶賛存命中。
ユグドラシル
クズ野郎に教育(理不尽)された哀れな蜥蜴。でも、竜神として信仰されている
デーモン
クズ野郎に叱られて安寿の地を求めて地底を開拓した。後に和解?